Do you believe the destiny?
ガレオンが食堂に入ると、聞き馴染んだ声が耳に入ってきた。
その方向を見れば、カイルとミアキスが楽しそうに会話している。
女王宮にいるときはあまり見なかった組み合わせだが、確かに気が合いそうな二人ではあるなと思いながら、ガレオンはわざわざ声を掛ける必要もないだろうと手近な席に座ろうとした。
楽しそうな二人の話の腰を折るのも悪いし、何よりガレオンはご飯は一人で静かに食べたいタイプの人間だったのだ。
が、そんなガレオンに、目敏くカイルが気付いてしまった。そして気付いただけでカイルが終わらせるわけはない。
ガレオンは結局ろくな抵抗も出来ず、カイルに引っ張られるように連れていかれ隣に座らせられ、二人と同席することになってしまった。カイルに対しては諦めのような境地で溜め息一つついて自分のほうが折れることが多くなってしまったガレオンだ。
そして、やはり楽しそうに会話を再開したカイルとミアキスを横目に、ガレオンは当初の予定通り静かに昼食を取ろうと思った。
しばらくして頼んだ和風定食が届き、ガレオンは手を合わせてから箸を付け始める。
そんなガレオンを、話に巻き込んできたのは、しかしいつものカイルではなくミアキスだった。
「そういえば、ガレオン殿ぉ」
そしてミアキスは、笑顔で天然爆弾を投下する。
「あのシルヴァって人と昔結婚してたって聞きましたよぉ!」
「・・・・・・えっ!?」
カイルはまずは向かいのミアキスに、それから隣に座るガレオンに見開いた目を向けた。
そんなの聞いてない!!と言いたげなその視線に、ガレオンはまた面倒なことになりそうだと、内心溜め息をつく。
そして返事を返さなかったガレオンに構わず、ミアキスは話を続けた。
「意外ですねぇ。でも、こうしてまた巡り合ったのも運命かもしれないですね!」
「運命かー・・・」
そんなミアキスに、表面上は驚きから立ち直ったカイルが茶々を入れる。
「女の子はそういうのが好きだよねー」
「あら、そういうの嫌いですかぁ?」
「ううん、かわいいと思うよー?」
カイルはミアキスに、おそらく女を口説くとき用であろう笑顔を向けた。
ミアキスの人となりを知っていてなのだから、本人の言う通りもう染み付いてしまった習性なのだろう。
そんなカイルに、ミアキスもニッコリ笑い掛けた。
「私は信じてないですけどぉ」
「あら・・・」
やはりミアキスのほうが一枚上手だったようだ。
「で、再婚しないんですかぁ?」
ミアキスがカイルからガレオンに向き直って問うと、隣から痛いほどの視線がガレオンに向けられる。
「・・・・・・・・・」
ガレオンはその視線に気付かない振りしながら、溜め息をつくことでその意思がないと教えた。
「どうしてですかぁ? お似合いだと思いますけどぉ」
さっさとこの話題を終わらせたいガレオンなのだが、ミアキスがそれを許してくれない。
するとカイルが、そんなミアキスに言い返した。
「こらこらミアキスちゃん、あんまり人のプライベートに立ち入るもんじゃないよー」
めずらしく真っ当なことを言ったカイルは、しかしガレオンの助けには、ちっともならなかったのだ。
「で、離婚の原因はなんなんですかー? もしかして性の不一致とか!?」
「・・・・・・・・・」
明らかに興味津々そうなカイルの視線から、ガレオンは呆れつつ目を逸らした。
「あ、無視しないで下さいよー、オレとしてはそこんところが聞きたいわけですー」
「いいじゃないですかぁ。過去よりも現在、未来ですよぉ、大切なのは」
今度はミアキスが尤もらしいことを言いながらガレオンを見る。
「で、よりを戻す気は本当にないんですかぁ? ずっと独り身でいるのも寂しいと思いますけどぉ」
「ミアキスちゃん、それは余計なお世話ってやつだよー」
「カイル殿のこそ、余計な詮索ですよぉ」
カイルとミアキスは、ガレオンの話題で、ガレオンを置いて何やら盛り上がっていく。
ガレオンはこれ幸いと、耳を塞いだつもりになって、さっさと昼食を片付けにかかった。
「で、本当のところ、離婚しちゃった理由はなんなんですかー?」
「・・・・・・」
またその問いかとガレオンはうんざりする。
昼食を食べ終わり食堂を出たガレオンに、カイルはミアキスと別れてついてきて、どうして離婚したのかとしつこく聞いてきた。嫉妬にしては何故かそこだけにこだわるカイルを少々訝しく思ったが、しかしなんにせよ教えるつもりはなくガレオンは無言を貫いたのだ。
だが次の日になっても同じ問いを繰り返され、ガレオンはいい加減にしないかと、怒鳴りたくすらなってカイルを振り返った。
が、ガレオンの予想に反して、カイルは意外にも真剣そうな顔をしている。単なる下世話な好奇心などではないような気がした。
「・・・・・・聞いてどうするのだ?」
「え、そ・・・それは」
そう返されると思っていなかったのかカイルは驚いたように、それでも正直に答えを返す。
「・・・参考にするんです」
「・・・・・・む?」
どういうことかと眉をしかめたガレオンに、カイルは今度は明確な答えを教えた。
「だって、ガレオン殿はあの女医さんのことが好きだったんですよね? 結婚しようと思うほど」
「・・・・・・」
「でもそれなのに別れることになった、その理由をオレが知っときたいと思うのって、変なことですか?」
言い終わってから、自分で思ったよりも口調が真剣になったことに照れるように、カイルは口調を軽くする。
「ほら、もし理由が性の不一致だったら、問題ないじゃないですかー。オレたちって、そっちの相性は抜群だしー!」
冗談めかしてカイルは笑った。それから、しかしカイルはガレオンを窺うように見つめる。
「・・・・・・・・・」
シルヴァとのことは話すつもりはない。だが、ただ黙して何も語らずに終わらせる気にも、ガレオンはなれなかった。
カイルの軽く見せ掛けた真摯な思いを、ただ一方的に受け入れ、自分からは何も返さない。最初は当たり前だったことが、今のガレオンにはそうは思えなくなっていたのだ。
「・・・どんな理由だったにせよ、そうなるつもりはないのであろう?」
「当たり前ですよー。何があったってオレは、乗り越えてみせます!!」
オレは、を強調してカイルはキッパリと言い切った。
「・・・ならば、それでよいであろう」
「え?」
「心配はいらぬ」
「ええっ!?」
驚いたように声を上げるカイルに、ガレオンは少し照れくさくて背を向ける。
こんなふうに遠回しにでも思いを伝えることを、あの頃のガレオンは全くしなかった。そして似たもの同士だとよく言われたシルヴァも、やはり同じように気持ちを素直に言葉にするのが苦手だった。
口を開けば辛辣な言葉になるシルヴァと何も言わない寡黙なガレオンは、そんなところを含めて好き合い一緒になったはずなのに、いつのまにか噛み合わなくなっていったのだ。そして気付けば、二人の間には埋められない溝が出来ていた。
だが、カイルはシルヴァではない。そしてガレオンもまた、二十年前のガレオンではなかった。
「それって・・・つまり・・・」
カイルはガレオンの言葉を反芻し、その意味するところを察し、ぱぁーっと顔を明るくする。
「あれ、これって、喜ぶところですよね? オレ、喜んでいいんですよね!?」
カイルはきっと、顔一杯で喜びを表現して笑っているだろう。ガレオンからその表情は見えないが、そう容易く想像出来た。
そして軽い足取りでガレオンの隣にやってきたカイルは、やはり幸せを噛み締めるように、目を細めて笑っている。
「でも、ミアキスちゃんじゃないですけど、運命感じますねー」
カイルは楽しそうに、ガレオンを覗き込んだ。
「だって、離婚しちゃったのって、二十年くらい前なんでしょ? それってちょうどオレが生まれた頃じゃないですか! 神様が、やっぱりガレオン殿の相手はオレだって、考え直したのかもしれないですよー?」
「・・・・・・・・・」
それを言うなら、むしろカイルが生まれた頃にガレオンはシルヴァと出会いそして結婚したのだ。
だがガレオンは、わざわざそれを知らせることもないだろうと思った。
すごいことを発見した!とばかりにカイルが笑っているのだから。だからいいかと思った。
「・・・運命を、信じておるのか?」
「え、うーん、そーですねー」
カイルは少し考える素振りをし、それからガレオンに笑い掛ける。
「オレとガレオン殿が上手くいかないのが運命だって言われても信じないですけど、オレとガレオン殿は出会う運命だったって言われたら信じちゃいます。オレ、調子いいですからー!」
明るく言ってから、カイルはガレオンに問いを返した。
「ガレオン殿は? 信じてます?」
「我輩は・・・」
「そのようなちゃらちゃらしたものは好かん、ですか?」
「・・・言っておらん」
「じゃあ信じてるんだ! 嬉しーなあ!」
「・・・・・・」
カイルは勝手に決め付け勝手に解釈し勝手に喜びだす。
そんなカイルに、ガレオンは思わず溜め息をついた。
そしてガレオンは、その溜め息が諦めや呆れと似て、しかしその実違うのではないかと気付く。
カイルに対して諦めの境地で折れているのだと思っていたが、本当はそうガレオン自身が望んでいるから、だからそうするだけなのではないのだろうかと。
相変わらず嬉しそうに笑っているカイルを見て、ガレオンは思ってしまうのだ。
カイルが幸せそうに笑っているのならまぁいいか、と。
END
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シリアスに考えてるように見せ掛けてただ単にノロケてるだけじゃねえのかジジィぃぃ!!!
「感情をめったに出さない」とかいう設定はどこかに行ったようですジジィ。
愛情だだ漏れですジジィ。
恥 ず か し い ! !
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