fall ・・・into a snare? ・・・in love?
ある程度は予想出来ていた事実、そして全く以って想像だにしていなかった事実。
立て続けに知らされたそれらが、ガレオンから冷静な判断力を奪った・・・のかもしれない。
「失礼しまーす。ガレオン殿、いますかー?」
軽いノック音に続いて、ドアの開く音と明るい声がガレオンの耳に届く。
勝手に入ってくるカイルを、勤めを終え戻ってきたばかりだったガレオンは、仕方なく飾りタスキを外そうとした手をとめて迎えた。
「・・・カイル殿、何用か?」
「はい、ちょっとお話があるんですけどー・・・今いいですかー?」
いつもの朗らかな声が、緊張を含んでか僅かにぎこちない。
ガレオンはカイルの話に見当が付いてしまうが、気付かない振りをした。本人の口から決定的な言葉が出てくるまでは、なるべく考えたくなかったのだ。
「・・・構わぬが」
気付いていない振りをする以上、無下に追い返すわけにもいかない。ガレオンが部屋に通すと、カイルは室内を物めずしそうにキョロキョロ眺め、それからガレオンに真っ直ぐ視線を向けた。
「・・・突然すいません。オレも言おうかどうしようか、ずっと迷ってたんですけど。でも、悩むのに疲れたっていうか、そもそも性に合わないっていうかー、もう言っちゃおうと思って」
「・・・・・・・・・」
すぐに本題に切り込んでくるカイルを、つい次のセリフを頭に思い浮かべながらガレオンも見返す。
そしてカイルの口から出た言葉は、ガレオンの予想と、一字一句違わなかった。
「オレ、ガレオン殿のこと、好きなんですよー」
「・・・・・・・・・」
ついに、言われてしまった。ガレオンはそう思う。
ガレオンはカイルの思いに、薄々気付いていた。自分が恋愛事に疎いほうだという自覚はあるが、それでも年相応の経験を積んできてもいる。
たまにカイルから向けられる、熱の篭った視線。それが意味するものが何か、それくらいはガレオンにもわかったのだ。
ただ、カイルは自分の気持ちをガレオンに伝えようとはしていないようだった。あからさまに隠そうとはしていなかったが、それでも具体的な行動は何一つ取っていない。
自他共に認める女好きなカイルだから、ガレオンに向ける自分の感情を受け入れられてはいないのかもしれないし、叶うはずもないから告げずにおくつもりなのかもしれない。理由はわからないが、ガレオンはカイルが自分に思いを告げてくることは、きっとないのだろうと思っていた。
だからガレオンも、カイルに好意を向けられている、それを知った上で自分はどうするのか、といったことは考えずにきたのだ。
だが、カイルはガレオンに、好きだと告げた。告げて、それで終わりでは、ないだろう。
「・・・まぁ、そういうことなんでー」
カイルは相変わらずガレオンを真っ直ぐ見て、言った。
「だからガレオン殿、オレと付き合って下さいー!」
「・・・・・・」
笑顔で言い放ったのは、そのお願いが受け入れられると思い込んでいるからか、それとも正反対の可能性をわざと考えないようにしているせいか。
告げられなければ、答えを考えなくてもいい。だが、こうやって告げられてしまえば、それに対する返答を考えなければならない。
「・・・・・・・・・」
いや、考える必要はないではないか。ガレオンは一瞬遅れで気付いた。
「・・・男同士で、付き合うも何も、なかろう」
ガレオン自身は、同性の恋愛に嫌悪感などは特には覚えない。そういったものは個人の自由だと思うし、さらに実際カイルに好意を向けられても、拒否感は浮かばなかった。
「えー、別に男同士でもいいじゃないですかー」
「・・・我輩は、そのようなもの、好かぬ」
だが、実際がどうであろうと、男同士だから、というのは体のいい断り文句になる。性別は変えようがない。カイルも自分と同じ男である以上、受け入れることは出来ない、そうガレオンが言えば、カイルは諦めるより他ないだろう。
「・・・男のオレじゃ、ダメってことですかー・・・?」
「・・・・・・・・・うむ」
考えもせずに撥ね付けるなんて、ちょっとかわいそうな気もするが、ガレオンははっきりと断言した。
するとカイルは・・・何故かガレオンの予想に反して、嬉しそうに笑ったのだ。
「じゃー問題ないですねー! ガレオン殿、オレと付き合ってくれるんですね!!」
「・・・・・・・・・」
ガレオンの眉間の皺がいつもより少々深くなった。何が問題ないのか、ちっともわからない。
「・・・カイル殿、話を聞いておるのか?」
思わずガレオンが訝しむように確かめれば、カイルはやっぱり笑顔で繰り返した。
「聞いてますよー。だから、オレが男だからダメなんでしょー?」
「・・・・・・そうであるが」
カイルはさっきから性別を妙に強調する。だがガレオンは、まさか、などと考えなかった。そのまさかが、現実になるだなんて、勿論考えもしないガレオンだ。
「そこでガレオン殿に、見てもらいたいものがあるんですよー!」
そう言ってカイルは、おもむろに女王騎士服の上着を脱ぎ始めた。
「・・・・・・カイル殿・・・?」
当然怪訝そうな顔になるガレオンだが、カイルは構わず脱いだ上着を放り投げ、今度は飾りタスキを解いていく。
突然服を脱ぎ始めたカイルが何を考えているのか、ガレオンにはちっともわからなかった。だがとめたいと思っても、目的を果たすまでカイルはとまらないだろう。だからガレオンは、それでカイルの気がすむなら、と放っておくことにした。もしカイルが強引に迫ってきたとしても、力ではガレオンのほうが勝っているので、問題はない。それにどうせ、カイルの気持ちを受け入れない、その口実となる事実は崩れようがないだろう。
その判断を、ガレオンはのちのち後悔することになるのだが。
それはともかく、カイルは順調に脱いでいく。飾りタスキを解いて、革鎧を外しに掛かった。その途中で、不意にカイルが、訝しげに見つめるガレオンの視線が気になったのか、頬を少々赤くしつつ背を向ける。
その仕草に途端に居心地悪さを感じて、ガレオンは革鎧を外していくカイルの背から視線を逸らした。ガレオンの耳に何やらしゅるしゅると布が解けるような音が届いて、気にはなったが、やはり視線は向けない。
おかげでガレオンは、内着だけになったカイルの背が、外側から想像されるよりも小さいことにも、気付かなかった。
「よし。じゃあガレオン殿ー、目を瞑ってくれませんかー?」
どうやら何かの準備が整ったらしく、カイルが何故かそんなことを言う。
「あ、オレが変なことしないか、心配してますー? 大丈夫、しませんってー! ガレオン殿なら気配でわかるでしょー? お願いしますよー」
「・・・・・・・・・」
自分から1メートルは離れているカイルのブーツを視界の隅に収めつつ、ガレオンは溜め息ひとつついてから、カイルの望み通り目を閉じてやった。自分は何をやってるのだろう、と疑問に思わないでもないが、カイルがすっかり諦めるまであと少しの辛抱だと納得させる。
「ありがとうございますー! ガレオン殿、あと、右手も貸してもらえませんかー?」
「・・・・・・」
その要求にも意を挟まず、ガレオンは右腕を上げた。その手にカイルの手が触れ、少々引っ張られる。
「ガレオン殿、クイズですー。これ、なんでしょうー!」
そして、カイルの楽しげな声に続いて、カイルに導かれるままガレオンの手が何かに触れた。
ゴムボールのように弾力があるが、それよりももっとやわらかい。それに、手に触れる感触は、おそらく布だろう。
「・・・・・・」
何かわからず、ガレオンはつい手を、その形を質感を確かめる為、揉むように動かした。と同時に、カイルの声。
「いやん、ガレオン殿のエッチー!」
「・・・・・・!」
ガレオンは思わず目を開け、そして眼前の光景にさらに目を見開いた。
自分の手が、まるで鷲掴みする形になっているその物体、カイルのちょうど心臓の上辺りにある、こんもりと盛り上がった膨らみ。
それが何か、何より手に伝わる感触がガレオンに教える。・・・女性の、乳房、というやつではないだろうか。
「・・・・・・・・・!!」
ガレオンは自分の目が、手に伝わる感触が信じられなくて、手を引こうとした。だが、カイルの手でしっかりと押さえ込まれ、動かせない。
「ガレオン殿、答え、わかりましたー?」
カイルが首を傾げ、笑いながらガレオンを見上げた。その青い瞳、目元に色を添える朱が、妙にガレオンの目を引く。今までは気にも留めなかったのに。
「・・・・・・カイル・・・殿、き、貴殿は・・・?」
ガレオンはめずらしく口調に動揺をそのまま滲ませながら、おそるおそる確認した。ガレオンの指に伝わる感触、さらに内着だけになったカイルの男にしては狭い肩幅だけでも、もうわかりきっている事実ではあるが。
「あ、もしかしてこれが作り物だとか疑ってませんー? 失礼ですねー、ちゃんと本物ですよー。なんだったら直接触りますかー?」
ちょっと拗ねた表情をしてから、カイルがガレオンの手を一旦胸から離して、さらに自分の内着の襟をぐいっと引こうとするので、意図を悟ったガレオンは慌てて手を逃がした。が、カイルが寛げた内着から覗く、白い胸元に、確かに作り物ではないとはっきりわかるものが見えてしまう。
「・・・・・・・・・」
ガレオンは驚愕を隠せない表情で、視線をカイルの顔に戻した。見慣れたはずのカイルの顔が、何故か違って見える。カイルの睫毛はこんなに長かっただろうか、唇はこんなに赤かっただろうか。
「・・・ガレオン殿、オレが男だから付き合えない、そう言いましたよねー?」
「・・・・・・・・・」
「じゃあ裏を返せば、オレが女だったら付き合う、そういうことですよね。ということで、よろしくお願いしますー!」
にっこり笑ってカイルは言った。ガレオンは、まだ動揺から立ち直れない。
カイルが、まさか女だったとは。ガレオンは疑ったこともなかったのだ。俄かには信じられない・・・それでも、厳然たる事実としてガレオンの目の前に存在している。
だがやはり、ガレオンはすぐには受け入れられなかった。
「・・・ガレオン殿、聞いてますー?」
そんなガレオンに、眉をしかめてから、カイルは近付いてくる。
「でも、ガレオン殿とお付き合い出来るなんて、嬉しー!」
頬を赤くしながら、カイルはガレオンの腕に自分の腕を絡め、ぴたっとくっついてきた。同時に、ぎゅむっとガレオンの腕に押し付けられる、カイルが女である証。
「・・・や、やめぬか・・・!」
ガレオンは慌てて腕を振り解きカイルから体を離した。
「どうしてですかー? もう恋人同士になったんだから、いいじゃないですかー」
「・・・こ、恋人になった覚えなどない・・・!」
カイルのペースにこれ以上乗せられてはならないと、ガレオンは動揺を押し込めて強い口調で言った。ともかく一先ずは、カイルの告白を撥ね付ける、それに全力を注ごうと思う。
「えー、ガレオン殿、オレが女ならいいって言ったじゃないですかー」
「そうは言っておらぬ」
「言ったも同然ですよー。それに、男だから、が理由じゃなくなったら、じゃあ一体なんで嫌なんですー?」
「それ・・・は・・・」
きっぱり断ろう、と思うガレオンの口がもたつく。
ガレオンは、カイルが男だから、という理由以外、考えたことがなかった。自分に恋愛など不要で、だからガレオンは相手が誰であろうと断るつもりだった。カイルなら、性別を理由にすれば、他の理由を探す必要はない。だから、カイルの他にどの部分が嫌か、など考えなかったのだ。
だが、もう性別は理由には出来ない。ならば別の理由を探さなければならないのだが。
「・・・・・・・・・」
ガレオンの口からは、なかなか理由が出てこない。思い付かないのだ。
勤務態度が少々不真面目だから、というのも考えたが、しかしガレオンはカイルがちゃんとやるべきことはやっていると知っている。だからカイルを女王騎士として認めているのであり、そうである以上勤務に関することを理由には出来ないとガレオンは思った。
それから、カイルは整った顔立ちの美男子・・・ではなく美女、といっても過言ではなく、しかも二十歳そこらと若い。そんな相手から好意を向けられれば、ガレオンとて悪い気はしない。
さらにガレオンは、適当な理由を適当にでっち上げる、なんてことが出来る人でもない。
素直に恋人などいらないと言ったところで、カイルが納得しそうな気もしない。
「・・・・・・・・・」
困りきってしまうガレオンに、カイルが救いの手を差し伸べた。
「仕方ないですねー。返事はもうちょっと待ちますー」
問題がちょっと先延ばしになっただけとも言うが。それでもガレオンは内心ほっとした。
「・・・そういうわけで、じゃあ」
そしてカイルが、そう言って、部屋を出て行くかと思えば。ガレオンが想像もしない言葉を、カイルは吐いた。
「ガレオン殿、取り敢えず、エッチしましょー?」
「・・・・・・・・・・・・む?」
ガレオンは耳を疑う。予想出来る言葉からあまりにもかけ離れていて、ガレオンはカイルが何を言ったのか即座に理解出来なかった。
そんなガレオンに、カイルが言い直してくれる。
「だからー、オレのこと、抱いて下さい?」
小首を傾げて、上目遣いでガレオンを見つめながら、そんなことを言うカイルは、かなり魅力的なのではないか。うっかりそう思ってから、ガレオンは慌てて打ち消した。女だとわかったとたん心が揺れるなどカイルにも失礼だと、カイルに言えば、それこそ思うツボですー!とでも返してきそうなことをガレオンは考える。
「・・・そ、そのようなこと、出来るわけなかろう」
「どうしてですー? ・・・あ、ガレオン殿、しかもですねー」
当然断るガレオンに、不服そうに唇を尖らせてから、カイルはぱっと笑顔になって報告した。
「聞いて下さい、オレ、処女なんですよー!」
「・・・・・・!」
恥ずかしげもなく言い放ったカイルは、ぎょっとしたガレオンに構わず、擦り寄ってくる。
「だから、ガレオン殿・・・オレの初めての人になって下さーい!!」
そして、カイルはまたガレオンの右腕に腕を巻き付け、体を絡めてきた。カイルの内着越しのやわらかい体が、騎士服越しにガレオンに伝わってくる。
だが相手が女だとわかれば、乱暴に振りほどくことも出来ない。そこから気を逸らしながら、ガレオンは渋い声で言った。
「・・・そのようなこと、軽々しく言うてはならぬ」
「軽々しくないです、オレは真剣ですよー」
とても真剣とは思えない口調でカイルは言う。自分を安売りするようなことが嫌いなガレオンは、つい口調を荒げた。
「そのような冗談は好かぬ・・・!」
「・・・だから、オレは本気だって、言ってるじゃないですか!」
するとカイルも強い口調で言い返してくる。ガレオンを見上げるその表情は、いつの間にか真剣そのものだった。
「オレはガレオン殿が好きなんです。だから、ガレオン殿に抱いてもらいたいんです」
「・・・しかし、我輩は」
ガレオンはカイルの告白にまだ答えを返していない。それなのに何故そんなことを言うのか、ガレオンにはわからなかった。
「だって、もしガレオン殿がオレと付き合ってくれるなら、そのうちするんだから、今でもいいじゃないですかー」
「・・・・・・・・・」
「それに、もしガレオン殿が、どうしてもオレと付き合えないって思ったとしても・・・」
そこでカイルは顔を伏せ、ガレオンの腕に頬を寄せる。
「オレは、初めては好きな人が・・・ガレオン殿がいいんです。だから・・・抱いて下さいよ」
「・・・カイル殿」
今まで聞いたこともない、カイルの弱々しい声。自分に縋り付くようにしているカイルの、細い肩を抱きしめたい衝動に駆られて、しかしガレオンはぐっと堪える。
「それは・・・出来ぬ」
カイルの思いがどんなに切実であろうと、恋人でもない女を抱くことはガレオンには出来ない。それに。
「・・・もし仮に、付き合うようなことがあろうと・・・すぐには抱かぬ」
「・・・・・・・・・」
付き合うことになったその日に、などガレオンには考えられない。ガレオンが正直に言うと、カイルがぴくりと体を揺らした。ショックを受けたのかと、ガレオンは思ったのだが。
「・・・やっぱり、手順が大事ですか?」
「・・・・・・うむ」
何故そこを確認するのだろうと思いながらも、確かにそうなのでガレオンは肯定する。するとカイルは、ゆっくり顔を上げた。
「・・・つまり、告白して付き合うことになって、それからデートして手を繋いで、キスして抱き合って・・・それからエッチして、結婚して子供作って、それで末永く仲良く暮らす・・・ってかんじですか?」
「・・・・・・う、うむ」
指折り数えながら言うカイルを訝しく思いつつも、もしかして泣いていたりしないだろうかとも心配していたガレオンは、カイルの普通そうな顔にほっとする。そして、やっぱり確かにそう思っているので、ガレオンは頷いた。恋愛はしかるべき手順を踏みつつ進めていくべきで、古風だと言われようが、ガレオンはこの考え方を変えるつもりはない。
やっとそれをわかってくれたのだろうか、と安堵しかけたガレオンだったが。
「わかりましたー、手順は大事ですよね、そうですよねー!」
そう言いつつ、カイルは何故かガレオンの肩に手を掛ける。ガレオンを正面から見上げ見つめるカイルの瞳に、ガレオンが一瞬どきりとしてしまった、その隙に。
ガレオンの唇に、触れた、やわらかい何か。少しの間ののち、離れていく、カイルの唇。
「・・・・・・・・・!」
ぎょろっと目を見開いたガレオンとは対照的に、カイルは嬉しそうに笑った。それから、わざとらしく驚いた表情を作る。
「あー、ガレオン殿、手順間違っちゃいましたねー!!」
自分でやっておいてその言い草に、ガレオンは唖然としてしまった。呆気に取られて口を挟めないガレオンに構わずカイルは続ける。
「先にキスしちゃいましたねー! こりゃいけませんよーガレオン殿!!」
そしてカイルは、一片の曇りもない笑顔で、言い放った。
「そういうわけで速やかに、付き合ってデートして手を繋ぎましょう!! 手順通りに、ね!!!」
「・・・・・・・・・」
カイルは再び、ガレオンの腕に自らの腕を絡め、肩に頬を摺り寄せてくる。この、したたかで一途で真っ直ぐで巧妙な、あの手この手でガレオンを搦め取ろうとしてくるカイルから、果たして逃れる手があるのだろうか。
あるはずだ、とはガレオンは思えなかった。ただそれは、悲観的な結論、というわけでもない気もする。よくわからないが。
はぁーと、呆れとも諦めともつかない長めの溜め息をついたあと、ガレオンは口を開いた。
「・・・腕を組むのは、手を繋いだあと、である」
「・・・・・・・・・っあ、はい!」
ガレオンが何を言いたいのかに気付いて、カイルは慌てたようにガレオンの腕からぱっと離れた。それから、ガレオンの言葉をさらに深く解釈して、少し目を丸くする。
「・・・あの、ガレオン殿ー?」
「・・・・・・はよう、服を着ぬか」
「あ、はい!」
カイルは素直に足元に放ってある上着やら革鎧やらを拾って、それから眉をしかめた。
「あ、でもさらし巻かないと、これ着れないんですけどー。ガレオン殿の目の前で巻くのは、ちょっと恥ずかしいですけど、ガレオン殿が望むなら・・・ていうかオレの胸が見たいならそう言ってくれれば、いつだって見せてあげるし触らせて・・・・・・・・って、そうじゃなくって!!」
頬を赤くしつつもごもご言っていたカイルが、途中ではっと我に返る。さっき自分が覚えた疑問を思い出したようだ。
「あの、それって・・・手を繋いだら腕組んでいいってことで・・・デートしてくれるってことで・・・付き合ってくれるって・・・そう取っていいんですかー? オレと付き合って・・・くれるんですかー?」
「・・・・・・・・・」
さっきまでの強引な態度はどこへいったのか、カイルは不安そうな眼差しをガレオンに向ける。もしかしたらそれも作戦のうち、なのかもしれないが。そんなこと、もう別にどっちでもいいか、ガレオンはそう思ってしまう。
もう一度、長めの溜め息ひとつ。そしてガレオンは、言った。
「・・・・・・よかろう」
「・・・・・・・・・っ!!」
ぽかんと目と口を開いたカイルが、一瞬ののち、パァーっと花が綻ぶように笑顔になる。
「ホントですかー!? ありがとうございますー!!」
カイルは嬉しさの余りだろう、ガレオンのほうに踏み出そうとした。おそらく、感激した勢いでガレオンに抱き付きたかったのだ。
だがカイルは、そうはせず、代わりにか上着や革鎧を抱える腕にぎゅっと力を込めた。付き合ってもらえることになったからには、手順をちゃんと守るつもりなのだろう。
「ガレオン殿ー! 早くデートして、手を繋ぎましょうね!!」
その手順は、そもそもはカイルが設定したものなのだが。覚えていないのか、それともそんなこと気にならないのか。
「それで、今度はガレオン殿からキスして欲しいなぁ。それから、抱きしめ合って・・・早く、オレのこと抱いて下さいね・・・!」
頬を赤くしながら言ったカイルの笑顔は、はにかむようでもあり、同時にあだっぽくもあり。
このままでいくと、そう遠くないうちにその日が来てしまう気がすると、ガレオンは思った。それが半分以上わかりきっていて、それなのに首を縦に振ったのも、ガレオンなのだが。
何故カイルの告白を受け入れてしまったのか、あとから考えてもガレオンにはよくわからなかった。カイルに振り回されるうちに、頭の回路がどこかずれたのかもしれない。カイルの熱意に負けた、のかもしれないが、正確な理由はわからなかった。
それでも、それでよかったのだと、このときの選択を振り返ることが出来るようになるのは、もう少し遠い未来のことになる。
END
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カイルはこれからも、女の武器と思い込みと純情でガレオンにぐいぐい迫るんですよ。
いかんいかん、と思いつつもガレオンは、結構簡単に完璧にカイルに落ちちゃうんですよ。
た ぶ ん 。(考えてない)
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