take a step forward




 ガレオンは自室のベッドに腰掛けていた。
 そしてその隣に、まるで寄り添うように座っているのが、カイルだ。
「・・・・・・もう少し離れてもらえぬか?」
「イヤでーす」
「・・・・・・」
 即座に拒否され、ガレオンはどうしていいかわからず視線を反対側に落とす。
 そもそも何故こんな状況になったかというと、カイルがガレオンの部屋を訪ねてきたのが始まりだった。
 ちょっと話いいですかー?と言われ、ガレオンはカイルを部屋に一つしかない椅子に促し、自分はベッドに腰を下ろした。が、カイルは椅子にはつかず、どうしてだかガレオンの隣に座ったのだ。しかも、ひどく近い距離に。
 ガレオンはそおっとカイルの様子を窺った。やはりカイルはすぐ隣にいて、ガレオンに視線を向けている。
「・・・・・・やはり、もう少し離れて」
「イヤですってー」
 やはりカイルは即座に拒否し、逆に食い入るようにガレオンを見つめる。こんなに近くで目を合わせる機会など日常生活であるはずもなく、従って初めてだった。
 その距離、30センチもないくらいで、ガレオンは内心動揺する。
 ガレオンは気付いていた。自分が、この青年にどうやら惹かれているようだと。
 間近で覗き込まれたら、その思いがばれてしまうかもしれない。そして、それ以上にこの状況では、情けないことだが、疚しい気分にならないとは限らなかった。
 何が間違っているって、狭いわけではない部屋で何故か至近距離で見つめ合っていることだ。そう思いガレオンはカイルが離れないのなら自分から離れようとした。
 が、カイルが先手を取って、ガレオンに腕を伸ばす。ガレオンの肩から首に手を回して、距離を更に近付けた。
「・・・・・・だから、離れ」
「イヤですってばー」
 カイルはやはり即座に拒否する。
「離れると、効き目が弱くなるじゃないですかー」
「・・・・・・なんのだ?」
 ガレオンは気が進まないながらも、聞かなければこの状況が変わることはないだろうと、問いにした。
 するとカイルは、よくぞ聞いてくれた、というふうに答える。
「あのですねー、今日は、お色気でガレオン殿に迫ろうって決めたんですよー!」
「・・・・・・」
 朗らかにそんなことを言っている時点で失敗なのではないかとガレオンは思った。
 が、ガレオンはすぐに思い違いをしていると気付かされる。
「ね、どうですー? オレ、色っぽさには結構自信があるんだけどなー」
「・・・・・・・・・」
 意外にも、確かに本人の言う通りだった。
 普段はサッパリしているカイルだが、今は普段とは違って・・・そう、色っぽいと言っていい。自分の容姿、見せ方をちゃんとわかっているのだろう。
 向けられるいつもよりも幾分熱っぽい視線、きれいなカーブを描く唇、肩に添えられた手。それら全てをどうしても意識してしまい、ガレオンは自らの温度が上がっていくのを感じた。
 だが、ガレオンを熱くしているのは、それだけではないようなのだ。
 カイルがいつもこんなふうに男や女を誘ってきたのかと思うと、ガレオンはなんだかとてつもなく嫌な気分になった。
 そしてそれは、カイルの次の言葉によって、一気に強まる。
「オレ、具合いいってよく言われるんですよねー。試してみたくないです?」
「・・・・・・・・・」
 ガレオンの腹がグッと熱くなった。
 そんなセリフ、もし自分に好意を持っている相手が聞いたら、興味を引かれるよりむしろ不愉快になると気付かないのだろうか。そんなつっこみも、ガレオンには浮かばなかった。
 喉元をせり上がっていく熱に従って、ガレオンは動いた。
 カイルのうしろ髪を思い切り掴む。そして、引かれ自然と顔が上向いたカイルの唇に、ガレオンは勢いよく噛み付いた。
「・・・!!」
 カイルは驚いたようで、目を見開いたまま身動きもとれずにいる。
 構わずガレオンはさらに深く口付けながら、そのままカイルの体をうしろへと押し倒した。
「・・・・・・つまり、おぬしを抱いても構わぬ、そう言っているのだな?」
「え・・・、あ・・・う・・・」
 はっきりと答えないカイルに構わず、ガレオンは再び口付ける。カイルのほうから誘ってきた、だからだ、ガレオンは知らずそう自分に言い訳をした。
「・・・ん・・・ガ、ガレオン殿」
 カイルはガレオンの突然の行動に、しばらくは呆然とした様子だったが、そのうちにゆっくりと腕を上げる。
「・・・・・・オレ」
 その手を、ガレオンの背後に回し、そのまま背中に回すのかと思えば。やり返したわけではないのだろうが、カイルはガレオンのうしろ髪を、思い切り引っ張った。
「・・・!?」
 そして、思わず体を少し起こしたガレオンの下から、カイルは素早く脱出し、ベッドの上をじりじり後退していってしまう。
「や、やっぱりイヤです!!」
「・・・・・・・・・おぬし」
 あんな行動を取っておいて、とガレオンは信じ難くカイルを見た。
 カイルは、ガレオンが少しでも近付けば脱兎のごとく逃げ去ってしまうのだろうと予想させる様子で、ベッドの端の壁に張り付いている。
「あ、イヤじゃないですよ!! でも、イヤです!!」
「・・・意味がわからぬ」
 ガレオンはどういうことかと思い切り問い詰めたい気分だったが、逃げられたら困るので近寄ることも出来ず、そのままの距離を保って苦々しく口を開く。あの状況で突っぱねられるというのは、男としてやはり面白くないし決まりも悪い。
「・・・そ、それは」
 カイルは同じ男だからそんなガレオンの気持ちがわかるらしく、少し済まなそうに、正直にその理由を教えた。
「そりゃあ・・・オレはガレオン殿のこと好きだから、イヤじゃないです。でも、ガレオン殿のこと好きだから、オレのことなんとも思ってないのにされるのはイヤですよー」
「・・・・・・」
 確かに一理あるとガレオンは思う。
 だが、そもそもそう仕向けたのはカイルのほうではないのかとガレオンは思った。
「ならば、何故あのような行動を取った? 誰でも、誤解するだろう」
「そうですかー? オレはただ、オレの魅力をわかってもらって、それでオレのこと好きになってもらえたらなーって思っただけなんですけどー・・・」
「・・・・・・」
 確かに言われてみると、今回のことも、いつもの意味不明な行動とそう変わらなかった気がする。それなのに今回に限って引っかかってしまった自分が、ガレオンは少し情けなく思えた。こんな年にもなって、理性を失いかけてどうする、と。
「・・・つまり、その気はなかったのだな?」
 カイルのよくわからない理論と計算に基づいた行動にこれ以上振り回されてはならないと、ガレオンは頭を切り替えようとした。
 しかし、カイルはケロッと答える。
「そんなわけないですよー。オレはガレオン殿のこと好きなんだから、その気はいつだってありますよー!!」
「・・・・・・・・・」
 この男はわけがわからん、ガレオンはそう思った。自然とその思いが視線に表れるガレオンに、カイルが更に言い募る。
「言ったでしょー、オレはイヤじゃないって」
 ガレオンの気が治まっているのを察したのか、カイルは壁から離れゆっくりとガレオンとの距離を戻してきた。
「それどころか、嬉しいですよー? ガレオン殿が、ちょっとでもオレのこと好きだと思ってくれてるんだったら」
 カイルはガレオンの心の中における自らの位置づけを探るように、ガレオンを見つめる。その瞳には、期待と不安が僅かに覗いていた。
「・・・少しでよいのか?」
「はい。初めは、ですけど」
「・・・・・・・・・」
 ガレオンは、今まで自分がカイルに翻弄され続けているように思えていた。勿論今でもその感覚は消えないが。
 しかしそれ以上に、カイルがガレオンになのだと、思い出した。
 ガレオンの言葉、行動に、カイルはときにわざとらしい大げさなほどの反応を見せる。頬を赤らめたり言葉に詰まったり、カイルをそんなふうに出来るのは、ガレオンだけなのだ。
 選択権は、ガレオンにある。この青年を、どうするにも。
 ほんのちょっとの好意で以って、この青年は自分のものになるというのだ。
 そう気付いたガレオンは、手をカイルに伸ばした。頬をゆっくりと親指の腹で撫でると、カイルは途端に眉と口を曲げる。一見困ったように見えるその表情は、しかし形容するなら、驚きと困惑と、そして喜びだ。
「・・・ガレオン殿からこんなふうに触ってくれるの、初めてですねー」
 軽い調子で言おうとしているカイルの声は、しかし上擦っている。ガレオンからの接触に、跳ね上がりそうになる心臓を、必死で抑えようとしているように見えた。そしてそんな努力もむなしく、カイルの狼狽は目に見えている。
「あ、違うか、初めては・・・」
 黙って自分を見つめてくるガレオンに耐えかねるように、カイルは引き続き口を開いた。
「さっき・・・ですよ・・・ねー」
 言いながら、さっきの出来事を改めて思い出してしまったらしく、みるみる顔が赤くなっていく。
 そんな、自分のせいで変わるカイルの表情を、もっと見たい。ガレオンは率直にそう思った。
 軽く添わせていた手を、もう少ししっかりと耳のうしろ辺りにまで差し込めば、カイルが無意識にか僅かに顎を上げる。
 さっきとは違ってゆっくりと、ガレオンはカイルの唇に触れた。
 まるで初めてのキスかのように唇を引き結んでいたカイルは、やがて少し慣れたのかその力を抜いていく。やわらかさを増したその唇をしばらく味わってから、ガレオンは距離を取った。
 名残惜しそうな溜め息がついもれて、カイルは恥ずかしそうに益々顔を赤くする。伏せた目が、ちらりと、窺うようにガレオンを見上げた。
 その碧眼に誘発されるように、ガレオンの口が動く。
「・・・少しで、よいのだな?」
「・・・・・・っ!!」
 ガレオンの言葉に、カイルはパッと顔を上げて目を見開いた。
「は、はいっ!! いいです、それで!!」
 カイルの表情が、まるで花が綻ぶように、みるみる笑顔になっていく。
 自分によってだけ変わるであろうその表情、ガレオンはそれを見て嬉しく思っている自分を自覚した。
 それは、その感情こそが、もしかしたら愛しいということなのだろうか。
 それを言葉にすれば、カイルはもっと喜んだのだろうが、さすがにガレオンにはそんなこと言えない。
 その代わり、もう一度手を伸ばして、カイルの頬や髪を撫でた。するとカイルは、エヘヘと笑う。
「・・・オレ、嬉しいです」
 はにかむようなその笑顔。
 自分の行動によるカイルの表情の変化が、ガレオンはやっぱり、嬉しかった。この感情がもしかしたら、再びそう思ってガレオンは、しかし今はその先を考えないことにする。
 それよりはと、未だうっすら頬を染めているカイルを、ガレオンは引き寄せた。



To be continued...

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・・・ダメ過ぎる・・・何このジジィ!!!(ガタガタ)
まぁカイルも大概ダメな子ですが・・・。
そして、またエロの前でぶった切る逃げ腰っぷり・・・
しかしガレカイエロは、自己生産しないと本気で一生お目に掛かれないので、いつか書きますとも・・・(クッ)