take a step
forward
「・・・あ・・・あのー・・・・・・」 唇を離した途端に、カイルが微妙に引き攣った笑いを見せながらガレオンに問い掛けた。 「・・・も、もしかして、このまましようとか思ってたりします・・・?」 「・・・・・・そういう話ではなかったのか?」 ガレオンは思わず眉を寄せる。少しでも好意を持ってくれているならいい、とカイルは確かにさっき言った。 カイルはさりげなくガレオンから距離を取りながら、わざとらしい軽い口調で言い返す。 「ガレオン殿、オレの体目当てだったんですかー? ひどーい!!」 「・・・・・・・・・」 「あ、じょーだんです!! すいません!!」 軽口で流そうとしたカイルは、しかしガレオンの無言の圧力に、慌てたように発言を撤回した。そしてヘコヘコ謝る素振りをしつつ、何気なくさらにガレオンとの距離を離す。 「・・・あの、で、でも、このままってのも・・・」 「・・・・・・」 相変わらず引き攣ったような笑顔のカイルに、ガレオンは眉間の皺をさらに深くした。ここまで来てこんなことを言い出すカイルがさっぱりわからない。 「・・・嫌ではないと言わなかったか?」 「イヤじゃないですよ!!」 カイルはその点についてはやはり即座に否定した。しかし一転し、歯切れ悪く続ける。 「・・・でもー・・・ちょっと気が進まないっていいますかー・・・」 「・・・それを嫌だと言うのではないのか?」 「違います!!」 嫌なら嫌と言えばいいと思わず溜め息をもらすガレオンに、カイルは勢いよく首を振る。そして、ガレオンとの間に自分が作った距離を、自分で埋めた。 「イヤじゃないです!! オレは嬉しいです、ホントに!!」 それだけは誤解しないで欲しいと、カイルがガレオンを真っ直ぐ覗き込む。 「・・・・・・」 至近距離で見つめ合えば、その僅かな距離すらももどかしいかのように、自然と唇が重なった。 さっきの言葉を証明するように、カイルは嫌がる様子など少しも見せず、素直にガレオンを受け入れる。舌を絡ませ合うのにも抵抗なさそうなカイルを、ガレオンは自然な流れでうしろへ押し倒した。 「ん・・・ガ、ガレオン殿・・・!」 何事か言おうとするカイルの口を、ガレオンは再び塞ぐ。 嫌ではない、カイルのその言葉が嘘にはとても見えなかった。ならば嫌がるような素振りはまた何かの作戦なのだろうとガレオンは思う。 そうならばやめる必要もないだろうと、ガレオンはキスを続けながらカイルの服にも手をかけた。留め金をはずし襟を開いて、首筋にも口付ける。 「あ、ちょ・・・待っ!!」 だが、カイルはガレオンの肩に添えた手を、縋るようではなくむしろ押し返すように動した。形ばかりの抵抗をしているかに思えたカイルは、しかしそれにしてはその腕に力を込める。 「ま、待って・・・待って下さいってばー!!」 「・・・・・・」 切羽詰ったような声、カイルの抵抗はどうやら本物のようだ。やはり本当は嫌なのかと、ガレオンはさすがに強引に先に進む気を失う。 体を起こしてカイルを見下ろしたガレオンは、思わず少し目を見開いた。ガレオンの想像に反してカイルは、顔を真っ赤にしている。 「・・・おぬし」 「だ、だからイヤなわけじゃないって言ってるじゃないですかー・・・」 カイルは決まり悪そうに、腕でそんな顔を隠すように覆った。そういえばカイルは、ガレオンに指で触れられただけで大袈裟なほど狼狽えていた。 だがカイルは、一方では数々の浮名を流してきている。そんなカイルがこんな初心な反応をするだなんて、思ってもいなかったガレオンは少し戸惑った。 どうしてよいやらわからずガレオンが取り敢えずカイルから体を離すと、カイルが慌てて追うように上半身を起こす。 「あ、ホントにイヤなんじゃないんですよ!!」 「・・・ああ」 「ただ・・・ちょっと・・・おっつかないっていうか・・・」 カイルはガレオンから微妙に視線をそらしながら、恥ずかしそうにボソボソ喋った。 「こんなことになるなんて思ってもなかったから・・・心の準備が間に合わないっていうか・・・」 相変わらずその頬は赤く染まっている。 「言っちゃうと、キスですら、すごいドキドキしちゃって・・・・・・あ、やっぱ言うんじゃなかったカッコ悪い・・・」 消え入りそうな声で独り言のように言って、カイルはちらりとガレオンを窺った。ガレオンが怒っていないか呆れていないか、確かめるように。 そんなカイルの様子は、ガレオンを誘惑しようとしていたときのわざとらしい態度よりもずっと、ガレオンを惹き付けた。 「あの・・・ガレオン殿・・・?」 何も返さないガレオンに不安を煽られたのかカイルが表情を僅かに曇らせる。 そんなカイルに、ガレオンはゆっくりと手を伸ばした。そっと頬を撫でれば、カイルはそれだけでまた顔を少し赤くする。 少し早急過ぎたかと、ガレオンは少し反省した。 しばらく頬を撫でてから、ゆっくりとキスする。最初はやはり少しぎこちなく受け止めるカイルは、やがて少しずつ馴染んでいった。 宥めるようなキスを繰り返していくうち、ようやくカイルの体から余計な力が抜けていく。抵抗がないのを確かめながら再び押し倒しつつ、口だけでなく目元や頬にも口付けていくと、カイルが身を少し捩りながら笑った。 「ガレオン殿、髭がちょっとくすぐったいですよー」 「・・・・・・」 緊張が解けたのはいいが、ちょっとゆるみ過ぎではないかとガレオンは思う。大体において初めから、自分よりはずっとこういう機会に慣れているだろうはずなのに、たまにしか色気を見せないのはどうなのだろう、と。 「・・・・・・いつも、こうなのか?」 「え、何がです?」 少し目を丸くするカイルに、何故こんな会話をしているのだろうと疑問を抱きつつも、ガレオンは問う。 「・・・その・・・ムードというか・・・」 「そ、そんなわけないじゃないですかー。いつもは優しくリードするカイル君ですよー」 ちょっと口を突き出して反論したカイルは、それからふらーっと困ったように視線を彷徨わせた。 「でも、いつもとは勝手が違うから、どうしていいかわからないっていうかー・・・」 「・・・・・・・・・」 そう言われてしまうと、なんだか申し訳ない気もして、ガレオンに躊躇いが生まれる。 「あ、でもイヤじゃないですよ、全然!!」 「・・・それはわかった」 カイルのその言葉を今日だけで十回は聞いた気がするガレオンだ。だがわかっても、ガレオンはどうしても次の行動に移ることが出来なかった。そしてそれと同時に、一度その気になった体を宥めることは容易ではない。久しくなかった葛藤にガレオンは悩んだ。 一方カイルは、動きをとめてしまったガレオンを怪訝そうに見上げる。 「あのー、ホントにイヤじゃないですよー? あ、もしかしてあんまりにもムードないからソノ気なくなっちゃいました?」 「・・・・・・」 カイルのその様子は、困ったようにも残念そうにも見える。そういえばカイルは、イヤじゃないどころか嬉しい、そう言っていたのだ。ならばやはりカイルの為にもしたほうがいいのだろうかと思う。 「・・・・・・」 ガレオンは、そういうことにしておこうと、小さく頷いた。そして安心させるようにカイルの頭を撫で、そのままキスしようとする。 が、唇が触れる前に、カイルが声を漏らして、ガレオンは思わずとまる。 「・・・あ、あのー、やっぱり確かめてみといていいですかー?」 いつの間にかまた微妙に笑顔を引き攣らせたカイルが、この期に及んでまた変なことを言い出すのではないかと、ガレオンのほうこそ顔が引き攣りそうになった。何故この青年は、いいムードになろうとしているときに限って水を差すようなことをするのか、ガレオンは心底理解出来ない。 「・・・・・・今度はなんだ?」 「はい、あのー・・・やっぱり、するって、最後まで・・・ですよねー?」 「・・・・・・・・・」 そうではないなら何か寸止めでもするつもりか、ガレオンは視線だけで答えた。 「で、ですよねー・・・。そのー、するっていうかーされること自体は・・・まあ気持ち的な覚悟は常日頃から一応してたりしたんですけどー・・・」 「・・・・・・・・・」 「でも、いざってなるとー・・・やっぱり、そのー・・・ビビっちゃうっていいますかー・・・」 ふらふらと視線を彷徨わせながらカイルは歯切れ悪く言う。 なるほど、さっきからいまいち気が乗り切らない様子だったのはそのせいなのかと、ガレオンはやっと得心がいった。 「・・・怖いのか」 「そ、そりゃ・・・怖いですよー。怖いっていうか・・・だって絶対すっごく痛そうじゃないですかー!」 「・・・・・・」 納得したはずのガレオンは、しかしカイルのその言葉に、引っ掛かりを感じる。 「・・・・・・経験はないのか?」 「あるわけないじゃないですか! え、ガレオン殿、オレのことなんだと思ってたんですかー!!」 ひどいですよーと心持ち頬を膨らませるカイルに、ガレオンはしかし記憶を辿って、自分に非はないだろうと思った。 「・・・さっき言っていたではないか。・・・・・・具合がいいと言われる・・・とか」 「・・・・・・・・・・・・ああ!」 カイルは数秒溜めてから、ポンッと手を叩く。 「あれはデマカセですよー!」 思わずガレオンは目を見開いた。 「そうだったらガレオン殿も乗り気になってくれるかなーとか思って」 「・・・・・・・・・」 悪びれず笑うカイルに、ガレオンは軽い眩暈を覚える。 が、確かにこの状況に至ったのはそのセリフのせいのような気もして、ガレオンにはそんなカイルに何も言い返せはしなかった。 そしてカイルはそんなガレオンの心境など知らず、勝手に話を進める。 「で、でも、覚悟決めないとダメですよね!! はい、どうぞ!!」 カイルは観念したように腕を広げてベッドに投げ出し、生贄よろしく目を閉じた。 「・・・・・・・」 そんなふうに強張った表情を見せられて、じゃあと据え膳を食えるとでも思うのだろうか、ガレオンは溜め息をつく。 「・・・・・・無理することはない」 「そんなこと!」 だがカイルは、パッと目を開いて、ガレオンを見上げた。 「無理とか、ちょっとくらいならするに決まってるじゃないですか!!」 気負いを多分に覗かせながら、それでもカイルは迷わずガレオンに手を伸ばす。 「もうこれで言うの最後にしますけど、オレはイヤじゃないんです。嬉しいんです。だから・・・」 「・・・・・・カイル殿」 カイルに見えるのは、無理とそれ以上の、期待や喜びや・・・突き詰めればガレオンへの愛情だ。 その手の動きに促されるように、ガレオンはカイルに口付けた。もう難なくカイルはガレオンを受け入れる。 これでようやく先に進めるとガレオンがカイルの服に手をかけようとしたところ、しかしカイルが身動ぎした。 「じゃあそうと決まったら、服、脱がないといけないですね! 実はさっきから背中のタスキがジャマだなーって思ってたんですよー」 「・・・・・・・・・」 この男にムードを求めようと思っても無駄なのだろうか、ガレオンは思わず嘆息する。 が、確かにカイルの言うことも尤もだった。普段は全く気にならないが、確かにこんなときまで飾りを背負っているのはどうかと思う。さらに個人的には、女王騎士の証であるこの服を着たまま行為に及ぶのも、なんとなく気が咎めた。 ガレオンが体を離すと、カイルは身を起こしてさっそく服を脱ぎ始める。 そういえば靴すら脱いでいなかったなと思いながのガレオンとは違い、カイルは手早くどんどん脱いでいった。決心が揺らがない内に、とも取れる様子で、早くも一番下の着物だけの状態になる。 そして、まだ靴を脱ぎ飾りタスキを外しただけのガレオンを、何か言いたそうにじっと見た。 「・・・・・・何か?」 「はあ・・・あのー・・・・・・オレが脱がしてもいいですか?」 「?」 さっきまでとは打って変わって積極的なことを言い始めるカイルに、ガレオンは思わず首を傾げる。 「ほらー、いつもみたいに自分から動いたら、ちょっとは気分的に楽かなーとか思いましてー・・・」 「・・・・・・そうか」 確かに、本人も望んでのこととはいえ、カイルに無理を強いるようなことをするのだ。果たして効果があるのかはよくわからないが、それくらいの要望になら応えてもいいだろうと思う。 手をとめたガレオンに代わって、カイルは服に手をかけた。少しずつ脱がせていくカイルは、眉を寄せ難しそうな表情をしている。それがガレオンの女王騎士服の構造のせいなのか、別の要因のせいなのか、ガレオンにはわからなかった。 微妙にぎこちない動きでガレオンの鎧を外して内着だけの状態にし、カイルの手は着物の襟を掴んで、そしてそこでとまってしまう。 益々難しい顔になるカイルは、何かに必死に耐えているようにも見えた。 「・・・カイル殿?」 「・・・・・・・・・や、やっぱりダメです!!」 カイルは突然パッと手を離し、ガレオンからも距離を取ってしまう。そんなカイルは、また顔を真っ赤にしていた。 「な、なんか、主導権持ってるとかなんとか、あんまり関係ないみたいです・・・全然、落ち着かない・・・」 心臓の辺りを、動悸を抑え付けるように、ぎゅっと押さえ付ける。 「オレ、今までホントに好きな人とセックスなんて、したことなかったのかな・・・。こんなにドキドキしたことなんて、なかったもん」 「・・・・・・カイル殿」 そんなふうに言われると、自然とガレオンの胸は熱くなる。 ここまでの想いを向けられて、嬉しく思えない人がいるだろうか。いや、誰でもいいのではなくその相手がカイルだからこそ、こんなにも嬉しいのだろうと、ガレオンは思った。 「・・・カイル殿」 名を呼ぶと、カイルはそっとガレオンを窺うように見上げる。 手を伸ばして、お決まりのようにまず頬を撫でると、カイルのほうから腕を回してきた。そして、ガレオンにそっと口付ける。 離れて、小さく笑うカイルに、今度はガレオンのほうからキスをした。するとカイルは、途端に頬を軽く染める。 そんなカイルの反応が、ガレオンには堪らなく、可愛く思えた。色気とはちょっと遠い気もするが、それもカイルの魅力なのだろうと思う。ガレオンにだけ示される、カイルの愛情の形だ。 ガレオンは自然と優しくなる手つきで、今度こそと、カイルをうしろへ押し倒した。
To be continued...
---------------------------------------------------------------------------- ・・・何この話。エロに至るまでにこんなに紆余曲折するやつらもいないんじゃないかと・・・ ていうか、やる気満々のジジィが、書きながら非常に居た堪れなく・・・!! そして続きは間違いなくエロ本番ですが・・・ちゃんと書きますよ! ・・・そのうち・・・そのうちにね!!
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