take a step forword




 セックスなら今まで何度もしたことがある。
 だがカイルは、経験したことのない動悸を覚えていた。初めてのときも結構緊張したが、やはりそのときの比ではない。
 心臓が口から飛び出るのではないかとカイルは思った。だが、その口は現在塞がれている。それもまた、カイルの鼓動を早める大きな要因なのだが。
「・・・・・・ん・・・ぁ」
 その口を解放され、カイルは思わず声をもらしてしまう。キスだけでこんなに感じてしまうなんて、今までになかった。
 これまで散々流してきた浮名が泣くと思いつつ、しかしそんなことももうどうでもいい気がする。
 ずっと好きだった人とのやっとの口付けなのだ。どうしようもなく昂ぶって当然だろうとカイルは思った。
 そのずっと好きだった人、ガレオンは、カイルの髪を撫でそして再び口付けてくる。
 どうしてガレオンが突然その気になってくれたのか、は今のカイルにはどうでもいいことだった。というよりも、そんな疑問を覚える余裕もないのだ。
 ガレオンの無骨な指が厚めの唇が、触れてくるだけでカイルは嬉しくて気持ちよくて、どうにかなってしまいそうだった。
 だが、カイルの緊張の理由の半分は、別にある。
 怖いのだ。
 カイルには男性経験などない。ガレオンへの思いを自覚してから多少知識を仕入れはしたが、具体的なイメージにはならなかった。
 それでも、可能な範囲で想像しただけでも、尻込みしたくなるに充分である。どう考えても、つらそうで痛そうなのだ。
 そんなふうに歓喜と不安がないまぜになったカイルは、身動きさえ取れなくなっていた。ガレオンの指や唇を受け止めるので精一杯で、自分から何かをし返すなどとてもじゃないが出来ない。今まで培ってきた知識や経験などどこかに飛んでいってしまっていた。
 そんなカイルに気遣ってか、ガレオンはしばらくは髪を撫でたり顔や唇への口付けを繰り返す。
 だがやがて、こうしていても埒が明かないと思ったのか、ガレオンは唇を首筋へと移していった。同時に、カイルの内着を引き止めている帯をするりと解く。
「・・・・・・!!」
 カイルは益々身を縮こまらせた。
 肌を見られたくらいで恥じ入る乙女のような思考は持っていないはずだが、しかしやはり少し気恥ずかしい。そして何より、いよいよこの先に進むのだという明確な意思を持った動作に、カイルはなんだか追い詰められた心境になってしまった。
 勿論、怖いと思うのを上回って、嬉しい。だからこそ、舞い上がりそうな心とバクバクいう心臓を制御出来ずに苦しいのだ。
 ガレオンの手が、そっとカイルの胸に触れた。
「・・・っ!!」
 カイルは思わずもれそうになった声を飲み込む。変な声になってしまいそうだったのだ。
 ガレオンの大きな手が、長年重い武器を握ってきたせいで硬くなってしまっている皮膚が、ゆっくりと心臓のほうへ向かって這っていく。
 それだけで体温が数度上がってしまった気がするのだから、カイルはこの先が思いやられた。
 ガレオンは、女のように乳房がない胸を触ってどうすればいいのかわからないらしく、困惑したように眉を寄せたが、カイルはそんなガレオンの表情に気付く余裕もなかった。
 うるさいくらいの心臓の音を手で感じ取られていると思うと、それだけで頭が煮え立ってしまいそうになる。
 カイルはたぶん真っ赤になっているだろう頬と、ついでに口元を、手で押さえた。
 ガレオンの手が今度は段々と下方へ、腹筋の割れ目を辿るように下りていく。同時に、首筋から胸元へと口付けを落としていった。
 そんな些細な感覚にですら体がピクリと震えて、カイルは恥ずかしくて堪らなくなる。そして、ガレオンの手が益々下がっていくのに気付いて、カイルは益々逃げたくなった。
「・・・・・・っあ、あの」
 だが逃げるわけにもいかないので、カイルはとめようと思う。自身がもうすっかり元気になってしまっているのは見なくてもわかった。もうバレているかもしれないが、しかし手にされ再認識されてしまうのはとてもじゃないが恥ずかしすぎる。
 さらには、カイルは抱いてもらうという意識のほうが強いので、握ったり扱いたりそんなことさせるのは大変気が引けた。
 だからとめようと上半身を起こしたカイルは、しかし動きをピタリととめる。
「・・・っ!!!」
 カイルの制止は一瞬遅く、先にガレオンの手が辿りついたのだ。
 自分のすでに勃ち上がりかけた性器に、ガレオンの指が絡みついている。
 その光景を目の当たりにして、カイルは嬉しいのか恥ずかしいのかわからず、ただそこに意識が集中しようとするのを必死で抑えた。
「だ・・・ダメです・・・っ!!」
 ブンブンと首を振って訴えるカイルを、ガレオンが見上げる。嫌がってとめているのかどうかを確かめるように。
「・・・・・・」
 探るようなガレオンの目に見つめられただけで、カイルは頭がグラグラして思わず目を伏せた。一層赤みを増した頬に、何かが押し付けられる。
 当然それはガレオンの唇で、横にずれてくるそれをカイルは今度は唇で受け止めた。
 キスなら少しは慣れた。カイルは顔を少し傾けて受け入れた舌に、自分からも舌を絡ませていく。キスに集中して下半身の状況を忘れたかったのかもしれない。
「・・・・・・ん・・・っ!」
 だが、ガレオンがいつまでも軽く触れておくだけにとどめるはずもなく、ゆるりと指を動かし始めた。
 あまり力を込めず指を上下させるだけの刺激でも、今のカイルには充分で、自然と手がシーツを強く握りしめる。直接的な刺激だけでなく、ガレオンの指が、という事実だけでカイルは常ならず昂ぶってしまうのだ。
「・・・ふ・・・ぁ、ん」
 もれる声は、しかしガレオンに舌を絡め取られ、吐息まじりの小さなものにしかならなかった。
 次第にガレオンの指の動きは遠慮なくなっていく。
 力強く先端をこすられると、腰回りに痺れが奔った。微かに水音が聞こえ、早くも先走りが溢れ出していることにカイルは恥ずかしくなるが、この状況では羞恥心すら快感を増幅させるだけになる。
「・・・・・・っ・・・ん、ん・・・!」
 ガレオンの大きな手は意外と器用に動き、確実にカイルを高めていった。上下に強く扱かれたかと思うと、先っぽを短く切られた爪で引っ掻かれ、合わせてカイルの閉じた目蓋もピクピクと震える。
 体が強張るような力が抜けるような不思議な感覚で、肘を伸ばしてついていた腕で上半身を支えるのが難しくなっていった。カクリと肘が曲がり上体が少しうしろへ倒れると、自然にガレオンとの口付けが解ける。
 が、呼吸が苦しくなりつつあったカイルは、むしろこれ幸いと自由になった口で息を大きく吸い込んだ。
「はぁ・・・は・・・あ」
 呼吸の為口を開けていれば、当然吐息にまじって声がもれる。だが口を閉じれば息苦しくなるので、カイルは諦めて声を抑えるより呼吸を優先することにした。そもそもすでにカイルには、余計な気を回している余裕はなかったのだ。
「ん、は・・・っあ、あ」
 ガレオンの動きに合わせてカイルの口からは絶えず吐息まじりの声がもれ始める。
 きつく目を閉じているのは、流されないようにする為か、それともより深く味わう為か、カイルにはもう自分でもわからない。
 だがカイルは、目を開いた。そしてガレオンを見る。
 すでに何も考えられなくなったような頭で、しかしカイルは思ったのだ。ガレオンがどんな顔で、自分の性器に愛撫を加えているのだろう、と。
 少しぼやける視界に映るガレオンの顔は、普段とほとんど変わらない。いつもの硬い表情そのままに見えた。
 が、不意にガレオンがカイルに視線を合わせる。その瞳は、いつもよりもずっと、熱っぽいような気がした。
 カイルの願望が見せた錯覚かもしれない。だがそれでも、今のカイルにはそう見えたことが重要だった。
 そして、ガレオンの手に扱かれ息を乱して感じている、そんな姿を、ガレオンに見つめられているのだ。
「・・・・・・っん・・・!!」
 ゾクゾクッとカイルの背筋を電気のようなものが走り抜ける。ガレオンに直接触れられる前から昂ぶっていたそこは、すでに限界を訴えていた。
「・・・ガレオン・・・殿っ」
 このままではいつガレオンの手に吐き出してしまうかわからず、カイルはもういいと目で訴えた。扱かせるだけで充分気が引けていたのに、その上その手に吐精してしまうなど、とても出来ない。
 だが一方では、どうでもいいから楽になりたいと思っている自分もいて、カイルはその思いを抑え付けながら下腹に力を入れて耐えた。
「ガレオン殿・・・離し・・・っ」
 それでもガレオンは、手を離そうとせず、逆により力を込める。明確な意思を持った動きに、カイルは訴える言葉を吐くことも出来なくなった。
「は、あ・・・あぁ・・・・・・?」
 再び目を閉じたカイルは、しかしすぐにまた目を開く。間近にガレオンの気配を感じた。
「・・・カイル殿」
 耳元で低く掠れた声が聞こえただけで、カイルはゾクリと性感を煽られ身を震わせる。
「無理することはないと、言ったであろう」
「・・・で、でも・・・!」
 だから我慢するなと言いたげなガレオンに、しかしカイルは首をふるふる振って抵抗した。
 するとガレオンは、だったら力ずくでと思ったのか、ゆるめていた手の動きを不意に再開する。
「あ・・・っや!!」
 先端に狙いを定めて刺激され、カイルは次第に頭の中が白くなっていくのを感じた。首を振って気を逸らそうとすると、ガレオンに空いている左手で頭を押さえられてしまう。
 その手で顔の角度を変えられ、唇を奪われ、カイルは呼吸から熱を逃がすことも出来なくなった。
 行き場を失った熱は、たった一つの場所へと向かい、そこから噴き出そうとする。
「っあ、ん・・・ん!!」
 こうなるとカイルにはもう耐えることは不可能だった。それを読み取ってガレオンが一際強く抉るように刺激してくると、カイルの頭が真っ白になり、そして唐突に弾ける。
「ん・・・あ、あぁ・・・っ!!」
 体が足の先まで強張り、一瞬ののちに脱力した。肘でも上体を支えられなくなり、うしろに倒れ込む。カイルはそのままで、荒い呼吸を宥めた。
「・・・・・・は・・・はぁ」
 しばらくして、やっと呼吸が整ってきたカイルは、うっすら目を開ける。
 どうやらカイルの様子を窺っていたらしいガレオンは、小さく頷いた。もう落ち着いたと判断したのだろう、そして次の行動に移る。
 手をカイルの太腿へと滑らせた。
「・・・・・・・・・っ!!」
 カイルはハッとして、ガバッと上体を起し、そして体を少しうしろに逃がす。
 当然ガレオンは怪訝そうに眉を寄せたが、しかしカイルはそれに気付くどころではなかった。
 一度熱を放出して浮かれていた頭が少し冷静になったカイルは、今度はガレオンに対する申し訳なさで一杯になる。
 セックスするのだから性器を愛撫するのは当たり前のことで、その結果射精してしまうのもまた当然のことだ。
 だが、カイルにはそうは思えなかった。
「あ、あの、スイマセン! オレばっかり・・・き、気持ちよくなっちゃって・・・! あの、オレ・・・オレ・・・」
 カイルはガバッと顔を上げて、ガレオンにまくし立てた。
「そ、そうだ、ガレオン殿はおとなしくしてるのと積極的に動かれるの、どっちが好みですか!? あ、抵抗されると興奮する、ってのもありだと思いますけど!」
「・・・・・・・・・」
 途中でカイルは、申し訳ない思いだけでこんなふうに言っているのではないと気付く。だが、ガレオンが何か言いたげな表情をしているのも見ない振りして、カイルは続けた。
「でも、オレ経験ないんで、積極的にって言われてもどうしていいかわかんないっていうか・・・でも、出来るだけ努力はしますけど! だって、マグロじゃやっぱり、つ、つまんないですよねー! スイマセンー! あ、じゃ取り敢えずオレもガレオン殿のしましょうか!? やっぱり口でしてもらえるのが男のロマンですかね! で、でも、さすがに最初から口では自信がないというか・・・したことないし・・・そ、そのうちちゃんと練習・・・?して出来るように・・・」
「カイル殿」
「・・・っ!!」
 さえぎるように名を呼ばれ、カイルはビクリとする。ガレオンは眉をしかめたまま、小さく溜め息をついた。呆れているように見える。
「あ、あの・・・っ」
 カイルは焦って、慌てて口を開いた。
「ホントにスイマセン、なんかさっきからムード壊すようなことばっかり言ったりして!!」
 ガレオンにはちょっと前、いつもとは勝手が違うから、とその理由を話した。だが、本当はそれだけが理由ではないと、カイルはわかっていたのだ。話すのは躊躇われたが、しかし呆れられてしまうよりはいいだろうと思う。
「あの・・・だ、だって・・・ちょっとガレオン殿に触られるだけで、すごく・・・怖いくらいドキドキして、キスだけでなんか心臓痛いくらいだし、そんなんで先に進んだら・・・もうどうなるんだろうって怖くて、どうでもいいこと考えたり茶化したりしないと変になっちゃいそうで、ていうかもう充分変で、どうにかなっちゃいそうで怖くて・・・」
「・・・・・・・・・」
 しどろもどろになりながら、自分が何を言っているかよくわかっていないカイルは、怖いと連発していることにも気付かなかった。
 カイルはガレオンが益々呆れてる気がして、おそるおそる見上げる。が、意外にもガレオンの眉の皺は浅くなっていた。
「あ、あのー・・・」
 窺うように見上げたカイルに、ガレオンがゆっくり手を伸ばす。頬を触られて、カイルはそれだけで相変わらず心臓が鳴ってしまった。
「・・・ならば、やめるか?」
「そ、それは・・・っ」
 答えようとしたカイルは、しかし口を塞がれる。
 ガレオンはカイルの答えなど、聞かなくてもわかりきっているのだろう。
「ん・・・ぁ」
 口付けていると、やはりドキドキするが、合わせてカイルはとても嬉しくなる。幸せな気分になる。
 だから、怖い思いがあっても、やっぱりカイルはしたいのだ。
 カイルはその思いを再確認した。
 そして、そろそろとうしろへと体を倒そうとする。ガレオンがどういう好みかはわからないが、今回はどうせろくに動けはしないだろうと思って、おとなしく寝転んでいようと思ったのだ。
 が、カイルが体を少し倒すと、そのぶんガレオンも体を前に傾ける。別におかしいことではないが、しかしカイルはその離れない距離に、なんだかまた追い詰められるような気分になった。
 したいとは思っているが、しかしやっぱり、怖くもあるのだ。
 カイルは自然と、逃れるように上半身を捻った。右腕をついて体を支えながら、上体をじりじりと横に向けていく。
 遂には左腕も右腕と同じほうのシーツについたが、ガレオンはそんなカイルを何故かただ見ていた。それから、むしろカイルにうつ伏せになるよう促すように覆いかぶさってくる。
 背中すぐに感じる気配にドキリとしながら、カイルはすぐ側にあったガレオンの枕を手繰り寄せ、抱きしめるようにして顔を預けた。
 完全にうつ伏せになると息苦しくなりそうなので、脚は半端に横を向いたままにしておく。そうすると上半身とベッドの間に隙間ができた。這い蹲ればいいのだろうが、その姿勢を維持しておくのは無理そうな気がしたのだ。
 カイルが体勢を整える終わると、ガレオンの手が再びカイルの太腿に触れた。
「・・・っ!」
 やっぱりカイルは逃げたくなったが、しかしその思いを枕にしがみ付いて抑え付ける。
 ガレオンの右手が、ゆっくりと足の付け根に向かい、そして遂にカイルの誰にも晒したことのない場所に触れた。
 つい体を強張らせたカイルだが、しかしガレオンの指はすぐに離れていってしまう。それどころか、ガレオンは体も起こしてしまった。
「・・・・・・?」
 どうしたのかと思ったカイルは、もしかしてやっぱり男相手にその気になれないのだろうかと心配になる。カイルは怖くてガレオンの様子を振り返ることは出来なかった。枕にギュッとしがみ付きながら、下準備をするのが嫌なら自分で出来ないか努力してみるけどもし勃たないから無理と言われたらどうしようもないよどうしよう、と考えを巡らせる。
 が、カイルの心配を他所に、ガレオンはすぐに戻ってきた。そして、カイルの脇に左腕をついて、再び覆いかぶさるように体を寄せてくる。
 そうなると、カイルは違う意味でドキドキしてしまった。
 つい意識が向いてしまうそこに、ぬるり、としたものが触れる。
「・・・っ!?」
 カイルには何かわからなかったが、それはガレオンが毎日使っている鬢付け油だった。だが何かはわからなくても、たぶんローション代わりなのだろうことはカイルにもわかる。
 それでもだからといって、すぐにその感触までも受け入れることは出来なかった。
 体温であたたまった油が足を伝い落ちていくのに、カイルはブルリと身を震わせる。何より、塗り付けるようにしてくるガレオンの指が表面を撫で、その感触と、そしてそれがいつ入ってくるのか、カイルは気が気ではない。
 自然と枕をギューっと抱きしめながら、終わる頃にはこの枕が変形してそうだなぁそうなったら新しいのを買ってプレゼントしよう、などとカイルはどうでもいいことを考えた。気を逸らしていないと、緊張と不安でどうにかなってしまいそうだったのだ。
 しかし、そんな努力も空しく、カイルの体は充分ガチガチになっていた。ガレオンの指に触れられているのだ。そこから意識を完全に逸らせるはずなどなかった。
 そして遂に、ガレオンが内へ進入しようという動きをみせる。
「・・・カイル殿、無理だと思うたら言われよ」
「・・・・・・っ」
 カイルはブンブンと頭を振って答えた。身構えそうになって、いや力を抜いていたほうがいいのだろうと思いながらも、やはり体は強張る。
 ガレオンの中指が遠慮がちに、ゆっくりと入り込んできた。
「・・・・・・!!!」
 カイルは目を見開き、枕をこれでもかというほど締め上げる。体からブワッと汗が噴き出るのを感じた。想像以上の痛みと、そして異物感だった。
「・・・カイル殿?」
「・・・・・・だ、だいじょうぶ・・・です」
 ガレオンに余計な気遣いをさせまいと、カイルはなんとか声にする。言ってから、しかしカイルは余り大丈夫そうではない声だった気がすると思った。
 確かにカイルは、大丈夫かどうかと問われれば大丈夫ではないのだが、だからといってここまできてやめて欲しくもない。
 そしてガレオンは、カイルの思いを読み取って、先へ進むことを選択した。
 指に絡めた油のぬめりを利用して、じりじりと押し入れていく。
「・・・・・・っ・・・」
 カイルはもれそうになる呻きを、口を枕に押し付けて消した。ガレオンの動きは丁寧で、油のおかげで割りにスムーズだ。だが、カイルにとってはただただ痛くてつらかった。
 出来るならこのまま意識でも飛ばして楽になりたい気もしたが、しかしせっかくガレオンと肌を合わせるチャンスに恵まれたのだから、と思い直す。そして、ガレオンとの初めてのセックスが痛くてつらい思い出になるのは嫌なので、なんとか少しでもマシになるようにカイルはどうにか頭を巡らせた。
 痛みから気を逸らすのが無理なら、痛みを受け入れればいいのだ、と。
 この苦痛を与えているのは、他ならぬガレオン。ガレオンの戦士らしい硬く太い指が、体に入り込んできているからこその痛みなのだ。誰にも自分にだって触れられたことのない場所を、今ガレオンは押し開いているのだ。やがてそこに、自らの雄を突き立てる為に。
「・・・・・・っ!」
 想像しただけで、カイルは堪らない気分に襲われた。
 これまでは漠然としたイメージでしかなかったものが、こうやって指一本受け入れたことでリアルになったのだ。こんなふうに、もうすぐそこに、ガレオンの陰茎が肉を割り裂くように入ってくる。
「ん・・・・・・んぅ・・・」
 痛みは引かないが、同時に痺れるような感覚をカイルは感じた。自然と感覚が集中し、ガレオンの指の存在を、動きを追い始める。
 ガレオンは奥まで差し込んだ指を、油を塗り付けながら広げていくように、ゆっくり出し入れしていく。
「・・・は・・・ぁ・・・っ」
 つらい、だけではない気がするが、カイルにはよくわからなかった。ただ無性に、熱い。
 次第に湿った音がガレオンの指の動きに合わせてもれ始めた。確実に、ガレオンを受け入れる場所へと変えられていっている。
「・・・っん・・・ガレオン・・・殿ぉ・・・!」
 もう変形するのも構わず枕にギュッとしがみ付きながら、カイルは耐えられず名を呼んだ。これ以上続けられると、なんだかヤバい気がする。
「・・・つらいか?」
「ち、違・・・じゃなくて・・・」
 心配そうに動きをとめたガレオンに、カイルは首を小さく振って返した。
「・・・だ、だから・・・」
 もういいです挿れて下さい、と口にするのは恥ずかしい。だが言葉にしないとガレオンはわかってくれそうになくて、カイルはどうしようかと思った。
「あ、あのー・・・もう、い・・・い・・・」
 ズバリ言ったほうがいいと思いながらも、やはり男の身でそのセリフを言うのには抵抗があって、カイルの言葉は澱む。
「い、挿れ・・・・・・」
「・・・もうよいのか?」
「っあ、はい! そうです!」
 どうにか先に察してもらえて、カイルはホッとした。指がゆっくり引き抜かれ、一端ガレオンの体が離れていく。
 ずっと力んでいた体から力を抜いたカイルは、しかし衣擦れの音が聞こえて、思わず息を呑んだ。
 ガレオンが内着を脱いだ音だろう。カイルの心臓が再びドクドク言い始めた。
 うしろを振り返れば、カイルがまだ見たことのない、ガレオンの裸体がある。カイルは見たい思いといややめようという思いで、激しく悩んだ。
 大好きなガレオンの、裸だ。見たいすごく見たいじっくり見たい。
 が、体を見るということは同時に、これから自分が受け入れるガレオンの陰茎をも見ることになるのだ。体つきからきっと立派だろうと想像させるそれを見て、自分がビビらずにいられる自信がカイルなかった。
 いや、すでにビビッてはいるのだ。そこにさらに現実を突きつけられると、反射的に逃げ出してしまいそうな気がする。
 だが見た上で心の準備をしたほうがいい気もするし、やっぱり見たいし・・・とカイルが葛藤しているうちに、ガレオンの気配が再び近付いてきた。
「っ!!」
 こうなると、カイルにはもう葛藤している余裕はなくなる。どっと期待と不安が押し寄せてきて、頭はグルグル回り体は自然と硬くなった。
「・・・カイル殿」
「は、はいっ!?」
「体を少し起こしてもらえぬか?」
「は、はいっ!」
 竦みそうになるのを声を上げることで振り払おうとしたカイルだったが、しかしその声は僅かに裏返ってしまい自分の緊張を再確認してしまうだけになってしまう。
 ガレオンに言われるまま、確かにこのままではやりにくそうなので、カイルはゆっくり体を起こした。
 結局四つん這いになるのか、と思いつつカイルは、すでに震え始めている手足で体を支えきる自信がない。だがそれはガレオンに任せてしまおうと思って、膝を立て肘を伸ばし、取り敢えずその体勢になった。なるべく脚は開いたが、カイルはもう恥ずかしいなんて思うどころじゃない。
 覚悟を決めたとはいえ、やはりしつこく、怖かった。指一本でも充分痛かったのに、その倍以上あるものが、入ってくるのだ。恐怖するのも当然だろうと思う。
 そして、同じくらい、カイルは嬉しかった。ガレオンを、遂に受け入れることが出来る。つまり、ガレオンが、心も体も、受け入れてくれるのだ。
 ガレオンの気配をすぐ背後に感じて、自然と心臓が早鐘を打ち始めた。
 左手で腰を掴まれビクリと体が揺れる。右手で尻から足の付け根辺りを入り口を広げるように掴まれ息を呑む。
 期待なのか恐怖なのか、カイルにはもう判然とせず、ただうるさいくらいの動悸に襲われた。
「・・・カイル殿、よいか?」
「っ・・・!」
 いいです、と答えようとしたカイルだが、しかしカラカラに乾いた口から言葉が出てこない。代わりに首をブンブン振って答えた。
 すると、少しの間をおいて、入り口に何かが押し付けられる。それは勿論ガレオンの陰茎で、カイルに熱を伝えてきた。ちゃんと自分相手に興奮してくれているのだと、知ることが出来てカイルは嬉しい。
 そして遂に、ガレオンの熱く昂ぶった陰茎が、カイルの内側へ侵入を開始した。
「・・・・・・っん、あ・・・ん!!」
 カイルの手はシーツに爪を立て、体は自然と前に逃れようとする。だがガレオンは腕で腰を抱えるようにしてカイルの動きを抑え、ゆっくり少しずつ埋め込んでいった。
 自身にも油を塗り付けたらしく、カイルが体を強張らせている割には順調に挿入を果たしていく。だがそれでも、カイルの受ける衝撃は、言葉にならないほどだった。
「う、ん・・・ん・・・・・・!!」
 目はきつく閉じ眉は寄り、口からは呻き声がもれ、脂汗が浮かび上がる。体を串刺しにされたような、熱い痛みが絶えず脳天を突き抜けていった。
 どれくらい耐えたか、不意にカイルはハッと目を開く。髪を、優しく梳かれ、そのまま頭を撫でられた。
 脚にはピッタリとガレオンの脚がくっつき、背中をガレオンの髪が擽る。何より、ジンジンと疼くような痛みを伝えてくるそこに、信じられないくらい奥まで、ガレオンの存在を感じた。
「・・・・・・は、いっちゃった・・・んですか?」
「・・・うむ」
 頷いたのか、背中でガレオンの髪が這うように動き、その僅かな刺激にもカイルはゾワリとした感覚を覚える。思わず身動ぎして、そうすれば自然と、内のガレオンがより感じられた。
 痛みで半分頭が朦朧とする。カイルはそれでも、泣きたいくらいの幸福感を感じた。
 ガレオンと、今こうして繋がっているのだ。ピッタリと隙間がないくらい近く、体の内側奥のほうまで深く。
 カイルは、どうにかなりそうになった。
 好きだ。ガレオンが、好きだ。誰よりも、どうしようもなく、好きで好きで堪らない。
 次から次へと溢れてくる感情で、カイルは胸を突かれ息が詰まった。
「・・・つらいか?」
 ガレオンの指が優しく髪を撫ぜてくる。首を振ろうとし、しかしそうすればガレオンの手を振り解くことになりそうで、カイルは言葉にすることを選んだ。
「へいき・・・です、から・・・」
 最後まで言わずとも、ガレオンはわかってくれたらしい。結局髪からガレオンの手は離れていったが、代わりに腰を掴まれた。
 そしてガレオンは、ゆっくりと抜き差しを始める。
「あっ、ん・・・っ・・・!!」
 途端に焼けるような痛みが奔り、カイルはきつくシーツを握りしめた。
 背後で、少し苦しそうな吐息が聞こえる。こんなに締め付けられればつらいだろうし、自分はともかくガレオンには気持ちよくなってもらいたい、カイルは思う。が、だからといって体の強張りを解けるかといえば、それは別問題だった。
「ん・・・う、ぁ・・・・・・っあ!?」
 しかし突如、カイルの体を痺れが走り抜ける。それが痛みではなく快感だと、カイルは一瞬遅れで気付いた。
 つらそうなカイルを見兼ねてか、ガレオンがカイルの長らく力を失っていた性器に指を這わせたのだ。
「あ、ん・・・っん!!」
 腰と指を同時に動かされれば、痛みと快感がないまぜになってカイルを苛む。腕からは力が抜け、まずは右、そして遂に左も肘をついた。
 倒れ込んだ上体に、ガレオンが覆いかぶさるように体を寄せてくる。そうすれば、ガレオンの荒くなった呼吸がすぐうしろから聞こえてきた。
 その熱の篭った吐息、次第に早くなっていく腰の動き。ガレオンの昂ぶりを直に感じて、カイルは堪らない充溢感に襲われた。
 痛いのか気持ちいいのか、もうカイルにはわからず、ただひたすらに熱が募っていく。
「んっあ、あ」
「・・・・・・カイル・・・殿っ」
「・・・っ!!」
 ただ口にしただけか、それとも何かを伝えようとしたのか、だがカイルには名を呼ばれたという事実こそが重要だった。
 耳に入ってくるのは、接合部からの湿った水音と自分の声と、ガレオンの呼吸音とたまに名を呼んでくれる声。感じるのは、ガレオンの指と何度も打ち込まれてくる熱い雄。
 カイルにはもうそれだけだった。
 そして、ガレオンも同じだったら、どんなにいいだろう。そう思ったカイルは、ガレオンが一体どんな顔をしているのか、見たいと思った。
 だが、それは体勢的に無理で、何よりもうそんなことをしている余裕はない。
「あ、ガ・・・レオン、どの・・・っ!!」
 ガレオンの指が与えてくる刺激に、カイルの体が音を上げた。ガレオンがまだなのに、とカイルはシーツを握りしめて耐えようとするが、その気持ちを知ってか知らずかガレオンは力を込めて扱き上げる。
「ん、ん・・・っあ、あ・・・・・・!!」
 耐えきれず、カイルは再びガレオンの手に吐き出した。
 吐精感に体を強張らせると、背後でガレオンが低く唸る。同時に、熱いものがカイルの体の奥深くまで流れ込んできた。
「あ・・・」
 ガレオンが自分の中で果てたのだ。そう思うと、胸まで熱くなった。
 ガレオンはゆっくりと自身を引き抜き、体を起こす。反対にカイルの体はシーツへと沈んだ。
「・・・・・・・カイル殿」
 伏して荒く呼吸していると、優しく頭を撫でられる。カイルはどうにか体を横向け、上半身はさらに捻って、ガレオンを見上げた。
 顔に掛かった髪を拾い上げてうしろへ撫で付けてくれるガレオンから、ポタリと、カイルの顔へ汗が一滴落ちてくる。それを逆に辿るように、思わず左腕を伸ばし顔に触れると、ガレオンも同じようにカイルの顔に指を這わせた。
「・・・やはり、表情は見えたほうがよいな」
「・・・・・・」
 同じことを考えてくれていた。カイルは嬉しくて堪らない。
「オレも・・・ガレオン殿の顔、見たいです」
 一体どんな顔で自分を抱いたのか。興奮を一体どんなふうに顔に表したのか。それを知りたい。
 ゆっくりと降りてくるガレオンの唇を受け止めながら、カイルは右手をガレオンの肩に伸ばした。汗ばんだ肌はまだ熱を帯びていて、冷める気配はない。
「・・・ん・・・ぁ」
 絡み合う舌も触れ合う肌も、心地よくて堪らなかった。もっと、もっとどこまでも、深く繋がり合いたい。
 回す腕の力を強めれば、ガレオンはそれに応えながら、左手をカイルの脚へと伸ばした。意図を読んでカイルが少し浮かせた左足を、ガレオンはさらに抱え上げる。
 そして、ゆっくりと二度目の挿入を開始した。
「あ、ん・・・・・・っ!」
 やっぱり、引き裂かれるような痛みは変わらない。だが初めよりは、ずっと楽だった。さっきのガレオンの残滓も潤いとなって動きを助ける。
 全て収めきると、ガレオンは今度は入り口まで引き、そしてまた奥まで押し入れた。それを、ペースを変えずにゆっくり繰り返す。
「ん・・・あ・・・あぁ・・・」
 馴染ませるようなその動きに、痛みが段々和らいでいった。そうすると、さっきは痛みで半分麻痺してわからなかったことが、わかるようになる。
 内部を擦り上げるものの質量や、引き抜かれるときの内側の動き。
 少しずつ何かを引き出されるような、じわりと何かが広がっていくような、そんな感覚にカイルはなんだか少し怖くなった。
「あ・・・ガレオン、殿・・・も、もう」
 背をゾワゾワと這い上がってくる未知の感覚よりは、痛みのほうがましな気がした。だからもうさっさと好きなように動いて下さい、とカイルは訴える。
 ガレオンはカイルを窺うように見て、大丈夫だと判断したのか頷いた。そして少しずつ動きを早めだす。
「・・・ん、あ・・・ぇ?」
 しかし、カイルが思ったような激しい痛みは、もう感じられなかった。ピリピリとした痛みは依然感じるが、それよりも背を這い上がるような別の感覚にカイルは気を取られる。
 やっぱりとまって下さい、と言おうとした、そのときだった。
「あっ、ああっ・・・!!」
 突き抜けるような感覚にカイルは襲われる。それは痛みではなく、だが何か、カイルはすぐには理解出来なかった。
「ん、・・・やっ!」
 内側から突如湧き上がったそれは、カイルが今まで感じたことのない類の、激しい快感だった。過ぎた感覚に体が自然と逃げようとしたが、しかしガレオンに体をがっちり押さえ込まれてそれも出来ない。
「だ、ダメ・・・っ!!」
 なのでカイルはガレオンの肩を押して動きをとめるよう訴えたのだが。ガレオンは、カイルの様子を窺い、痛みを感じているようでもなさそうなので眉を寄せた。それから、確かめるように腰を動かす。
「っん、ダメ・・・ですってば・・・!!」
 ガレオンが動き、陰茎が内を強く擦り上げるたび、腰回りに目が眩むような痺れが奔った。
 カイルは反射的に首を振りながら腕を突っ張って押し返そうとしたが、ガレオンはとまるどころか逆に動きを早める。
 そうされれば、肩を押す腕にも力が入らなくなり、それでも寄る辺を求めてカイルの手はそのままガレオンの肩に縋りついた。
 ガレオンの動きはどんどん遠慮なくなり、そのたびに背筋を這い上がる感覚がカイルを絶えず苛む。
「あ、あぁっ、・・・っん!!」
 もう抵抗することも忘れて、襲い掛かる快楽に身を任せようとしたカイルは、しかしきつく閉じていた目を開けた。
 ポタリ、と滴が顔に落ちてくる。視界に映るガレオンは、いつもより眉を寄せ、口を開け荒い呼吸を繰り返し、そしてその額や頬を汗が伝い落ちていた。
 きっと、自分も同じような顔をしているんだろう、カイルはそう思う。だとしたら・・・ガレオンも同じように、こんなふうに気持ちよくて、こんなにも幸せだと、感じてくれているのだろうか。
 そう思うと、胸も頭も体中が、熱くて熱くて、カイルはどうにかなってしまいそうだった。
「は・・・ぁん、ガレオン・・・殿っ・・・!!」
 どこにも逃がせない快感がカイルをどんどん追い詰めていく。それを読み取ってか、それとも自分の欲求に従ってか、ガレオンは叩きつけるようにより激しくカイルの肉を抉った。
「っあ、あ・・・っ」
 大きな波のようにうねり押し寄せてくる甘美な刺激を、味わい楽しむ術も余裕も、カイルにはまだない。限界まで高められれば、あとはもう落ちるだけだった。
「・・・ぁん、んんっ・・・・ぁあ!!!」
 一際強い衝撃が背筋を駆け上がり、体の隅々までビリビリと震える。頭は真っ白に染まり、感じ取れるのはただ、熱い、それだけだった。同時にガレオンが小さく呻き、再びカイルの中を満たしたことを、感じ取ることも出来ない。
「あ・・・は・・・ぁ」
 カイルは強張った体から力が抜けるに任せシーツに沈み、しかしずり落ちそうになる腕をどうにかガレオンの肩に縋りつかせた。
 ガレオンを見上げても、乱れた髪と涙に濡れた瞳のせいで顔が見えない。代わりにカイルは、指でガレオンの顔を辿った。
 汗で湿った肌、同じように乱れた髪、全てが愛おしくて堪らない。
 満たされた思いと共に、カイルは、まだまだ足りないとも思った。ずっと、ずっとこのまま、ガレオンの肩に腕を回しガレオンの吐息を熱を感じていたい。
「・・・カイル殿」
 普段よりも低く掠れた声に続いて、ガレオンの指がカイルの顔を撫でた。その仕草が、労わるような優しいものではなく、むしろ愛撫のように熱が篭ったもののような気がするのは、カイルの都合のいい錯覚だろうか。
「・・・・・・ガレオン殿」
 もっと、まだまだ、ずっと。
 同じように思ってくれていればいい、そう思いながらカイルは、ガレオンの背に再び腕を回した。




END

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……これほどコメントしづらい話もないですが。
二人とも、要修行!!てことで…。(一番修行が必要なのは自分ですけど…うっ)