learn each other little by little
扉が閉じると同時に、カイルはパタリとうしろへ倒れた。
「はぁー」
思わず溜め息をつけば、それは妙に熱が篭っている。
そして息だけでなく、体中が熱くて堪らなかった。
一週間ぶりに触れたガレオンの指や唇に、カイルは飢えを満たされるような思いと同時に、さらなる渇きを触発されたような思いを覚える。
まさか腰が抜けるとは思ってもいなくて、そこは思い出すととても情けなく恥ずかしいが。しかしガレオンは、そんなカイルも受け入れてくれた。カイルはそれが堪らなく嬉しい。
「うわー、どうしよう」
カイルは火照った顔を両手で覆った。その耳によみがえるは、ガレオンの言葉。
待っていてもらえぬか、ガレオンはそう言った。
戻ってきて、そしてさっきの続きをしてくれるのだ。また、抱いてくれるのだ。
そう思うとカイルは、堪らなく嬉しいと同時に、なんだか逃げ出してしまいたい気分にも襲われる。
これから何をするか、自分がどうなるか、全部ハッキリわかっている。だからこそ、カイルは許容量を超える期待と喜びに、耐えられる自信がなかった。
ただ想像するだけでも、どうしようもなく体が熱くなってしまうのに。
「・・・どうしよう」
その熱を散らそうと、カイルの手はウズウズと下半身に伸びようとする。
だがカイルは、その手をどうにか押しとどめた。
「もうちょっと、もうちょっとでガレオン殿が来てくれるんだから・・・!」
それまではおとなしくしていようとカイルは思う。ちょっとの間も待てなかったのかと、ガレオンに知られでもして呆れられるのは嫌だった。
だからカイルはベッドの上に寝転んでじっとしていおいた。
「・・・・・・・・・」
だがすぐに、カイルの考えは変わってくる。
「違う・・・こんなに我慢して我慢して、それでいざガレオン殿に触られたら、それこそ情けないことになる・・・!」
軽い接触でさえ、今のカイルには耐えられる自信がなかった。
「そうだよね・・・うん、一発抜いといたほうがいいよね!」
もっともらしい理由が付けば、迷いなんて消えてしまう。
カイルはそそくさと女王騎士服の隙間から手を差し込んだ。
触ると、そこはもうすでに反応しかけていて、こんなんで我慢しようだなんてよく思ったなと、カイルはちょっと呆れる。
「・・・まあ・・・いいや」
カイルはそれよりはと、早速手を這わせゆっくり扱き始めた。そして思い浮かべるのは、ガレオンだ。
まさか自分が男のことを考えながら自慰するなんて思ってもいなかったカイルだが、そのことに対する躊躇やガレオンに対する罪悪感のようなものはすでにほとんどなかった。
この一週間、何度もガレオンで抜いてしまっている。そしてガレオンへの思いを自覚してからをカウントすれば、もうそれこそ数え切れないほどなのだ。
いつものように思い浮かべながら、しかしいつもとは違ってそれはすぐさっきの感触。ガレオンの唇や手の質感や温度が、カイルをいつも以上に煽る。
「ん・・・ぁ」
自然とガレオンの指を思い出しながら、カイルは指の動きを早めた。
もう少し、もう少ししたら、また触れてもらえる。また、ガレオンの熱い昂ぶりで、体の奥深くまで満たしてもらえる。
「・・・ん、ん・・・・・・っ」
意識がうしろへ逸れそうになって、しかしまだそっちを宥める術を知らないカイルは慌てて先端を強く刺激した。
「は、あ・・・っあ」
そしてそのままそこをグリグリと弄くり続ければ、今日昂ぶりかけては放置を繰り返していたそこは早くも限界を伝えてくる。
その早さに、やっぱり先に抜いておくのは正解だったとカイルは思った。だが同時に、実際ガレオンに触られたとき果たしてちゃんと持つのかどうか、かなり怪しいと思う。
あのガレオンが、いつも真面目な顔をしていて性的なイメージなんて全くないガレオンが、自分の性器に触れ、そして扱くのだ。
それを思っただけで、目の前にガレオンがいると自分の指がガレオンの指だと想像しただけで、カイルは耐えられなくなってしまった。
「っん・・・は、あ・・・っ!」
体が緊張し、次の瞬間手の内のものがドクリと脈打つ。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・はぁー・・・」
呼吸を宥めながら、カイルはシーツを手繰り寄せた。そして残滓を拭っていると、いつものことだが、微妙な虚しさに襲われる。
「・・・ほんとだったら・・・今頃ガレオン殿とあーんなことやこーんなこと、してたはずなのにー・・・」
カイルはついついボヤいた。仕事を思い出したと律儀に戻っていってしまったガレオンが少し恨めしい。
「・・・でも、そういう生真面目なところもガレオン殿の魅力っていうか・・・好きなところなんだよなー」
自分だったらあの状況で仕事を思い出したとして、中断出来るかどうかと言われれば、答えはハッキリNOだった。
「・・・・・・・・・」
そこでカイルは、ふと違和感を覚える。
「あれ・・・なんか・・・おかしい・・・」
カイルは自分の思考を反芻し、違和感の正体を探り、そしてハッと思い当たった。
「・・・・・・・・・あ、仕事!!!」
仕事を残していたのはガレオンだけではなく自分もだったのだ。フェリドに頼まれ、そして元老院に報告に行く、正にその途中だったとカイルは思い出す。
カイルは慌てて起き上がり簡単に身支度を整えた。
待ってます!!と言っておいて部屋を離れるのは気が引けたが、しかし仕事を半端にしておくことはやっぱり出来ない。普段は不真面目でも締めるところは締める、というのがカイルの信条だったのだ。
「あとは元老院に届けるだけだから・・・大丈夫だよね」
ガレオンと行き違いにならないか少し心配だが、すぐに戻ってこれるだろうとふんで、カイルは部屋を出た。
フェリドに指示された通り元老院で担当の役人と協議し話を付けた。そしてさあ部屋に帰ろうと思ったカイルは、しかし別の役人につかまってしまう。
それがどうでもいい役人だったら無視するのだが、普段から懇意にしている人だったので無下に断るわけにもいかなかった。
それならせめて早く終わらせようと思ったカイルだが、途中で夕方を告げる鐘が鳴り、そして夜に差し掛かる時間になってやっと終わらせることが出来た。
普段から真面目にやってればもうちょっと早く片付けられた気がすると、カイルは自分の日頃の不真面目さを少し悔いる。
が、それは一瞬で、カイルは急いで自分の部屋に戻った。
扉を開けたそこに、ガレオンの姿はない。
「まだなのかな・・・それとも部屋に帰っちゃったのかな・・・」
どちらなのかはカイルには判断が付かなかった。
すぐに戻れるだろうとふんで書き置きを残すなどしなかったことを後悔する。
「とにかく、こうしてても仕方ないや」
カイルはガレオンの部屋に行ってみることにした。
ノックして失礼しまーすと声を掛け、カイルはガレオンの部屋に入った。
ガレオンの姿はないが、明かりがついている。
「・・・いるのかなー」
カイルはそろりと部屋に足を踏み入れた。すると、微かに水音が聞こえてくる。お風呂の方向からだ。
「お風呂に入ってるのかー」
カイルは、だったら出てくるまで待ってようと、ベッドに腰を下ろした。
「・・・・・・・・・」
だが、カイルはなんだか落ち着かない。
「お風呂・・・入ってるのかー」
カイルはもう一度繰り返した。
男なら女性がシャワーを浴びていると覗きたくなるものだろうとカイルは思っている。
そして、それは相手が男であっても、好きな相手なら同じなのだとカイルは実感した。
しかもカイルは、まだガレオンの体をろくに見れていない。前回は緊張で見るどころじゃなかったのだ。余計に思いは高まる。
「・・・・・・見たい・・・なあ」
カイルは浴室があるほうを窺った。
ガレオンは今髪を洗っているのだろうか体を洗っているのだろうか、それとも湯につかっているのだろうか。
想像すると、カイルはなんだか堪らない気分になる。思わず腰を少し浮かせた。
「ちょっとだけ・・・でもバレたら呆れられるかな・・・ていうか引かれるかもしれない・・・」
カイルは見たいという思いと、もし嫌われたらどうしようという思いの狭間で揺れる。
まさか自分が男の風呂を覗くかどうかでこんなに葛藤するだなんて、とカイルはちょっと思った。
が、やはり見たいものは見たいし、でも嫌われたり気持ち悪がられたりもしたくないのだ。
「・・・・・・・・・あれ?」
悩んでいたカイルは、しかしハッと気付く。
「違う、こんなことしてる場合じゃないって!!」
カイルはすくっと立ち上がった。
ガレオンは風呂に入っているのだ。つまり、カイルもシャワーを浴びておくのが礼儀ではないだろうか。
「そうだよ、今日は走ったりして汗かいたし・・・こんなことしてちゃダメだ!!」
カイルは急いで自分の部屋に戻ろうと扉に向かった。
だが途中で、ピタッとその足をとめる。
「・・・・・・・・・」
ガレオンの入浴を覗きたい。そして自分もシャワーを浴びておきたい。
その二つを同時に実現する方法を、カイルは思い付いたのだ。
「そうだ、一緒に入ればいいんだ!!」
これぞ一石二鳥!とカイルはポンッと手を叩く。思い付いた自分を偉いと褒めたくなった。
そして嬉々として風呂場に向かおうと振り返ったカイルは、目を見開く。
「ガレオン殿!!」
いつの間にか、浴室の扉の前にガレオンが立っていた。
「もう上がっちゃったんですかー」
カイルはガッカリした。こんなことなら迷わず取り敢えず覗きにいっておけばよかったなーと思う。
「・・・・・・」
「・・・・・・あ、あの」
そしてカイルは、ガレオンがとても微妙な表情で自分を見ていることに気付いた。もしかしたら覗きに行けばよかった云々を心の中でボヤいたつもりが声に出していたのだろうか。
「あ、えっと、どうせだから一緒に入っちゃおうかなーなんてー・・・」
やっぱり覗くは引かれるかと思って軽い口調で言い直そうとしたカイルは、しかし言葉を詰まらせる。
「思ったりなんか・・・した・・・んですけどー・・・」
一応最後まで言いながら、カイルの視線はガレオンに釘付けになった。
(うわー、風呂上りのガレオン殿だー)
カイルはついつい見蕩れる。
風呂上りというのは女性を色っぽく見せるものだが、しかし男も同じなのだとカイルは知った。
湯上りで赤らんだ肌が渋い抹茶色の浴衣から覗いている、そんないつもの女王騎士服姿とは一味違うガレオンに、カイルのほうが風呂に入ったわけでもないのに頭がクラクラする。
(一緒にお風呂とか・・・)
こんなガレオンと、狭い部屋で二人きりになるのだ。
(・・・絶対・・・ムリ)
カイルは考えなしに浴室に飛び込んでなくて本当によかったと思った。
「・・・もう勤めはよいのか?」
「え・・・あ、はい、終わりました!」
ガレオンの不意の問いに、カイルは慌てて答え、それから首を傾げる。
「あれ、なんで勤めだって・・・」
「そうでもなければ、部屋を離れたりせぬだろう」
「あ、はい、その通りです!」
ガレオンがちゃんとわかってくれていて、カイルはとても嬉しかった。
「よかったー、逃げ出したとか勘違いされたらどうしようかと思いましたー!」
ホッとして笑ったカイルに、ガレオンが歩み寄る。
「・・・もう、逃げぬのか?」
「っ!!」
ガレオンがゆっくりと、カイルの頬に指を触れさせた。
「に・・・逃げないです・・・けど・・・」
カイルはそれだけで心臓がバクバクいいだして、思わずガレオンの指から逃れうしろにさがる。
「あの・・・シャワー、そうシャワー浴びてこないと・・・っ!!」
体を反転させようとしたカイルを、しかしガレオンは逃がさなかった。
腕をグイッと掴まれ、そのまま引き寄せられ抱きしめられる。
突然のことにカイルは身動きもとれず、ただ頬が熱くなっていくのを感じた。
カイルが早鐘を打つ心臓を必死で抑えようとしているのに、ガレオンは構わずカイルの顔に手を添え、そして口付けてくる。
「ん・・・っ」
初めから遠慮なく深く貪られ、カイルはそれでもどうにか必死でガレオンにしがみ付きながらそれに応えた。
「・・・ぁ・・・は」
「・・・・・・済まぬが」
唇を少しずらし、ガレオンが至近距離から瞳を合わせる。
「もう、待てぬ」
短くそうとだけ言うと、ガレオンは再びカイルに唇を重ねた。
その言葉と、再度の口付けに、カイルの体がブワッと歓喜に包まれる。
カイルは堪らず自分からガレオンに腕を回してギュッとしがみ付いた。するとガレオンも強くカイルの腰を引き、益々深く唇を合わせる。
「・・・ん・・・っふ」
舌で舌を擽られるだけで、背筋がゾクゾクするのだ。
キスだけでこんなに気持ちよくなれるなんて、とカイルは熱に浮かされ始めた頭で思った。
To
be
continued...
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今まで何度も疑問に思ったんですど。カイルの女王騎士服ってどうなってんだろうなぁ。
ちゃんと脱がないと、やりにくそうです。寝転ぶとタスキも邪魔だしさあ!!
フェリド様の陰謀かと疑いたくなります。(何それ)
ところで気付かれたかもしれませんが。
エロをちゃんと書くという当初の目的を、すでに忘れかけて ま す (逃)
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