11.確信犯



「ゲオルグ殿ー、ちょっと休憩しませんー?」
 そう提案して、ゲオルグ殿が聞き入れてくれる確率は、半々。
 そして今日のゲオルグ殿は、まだまだ足りないってかんじだから、無理な相談かなと思ったんだけど。
「・・・あぁ、そうだな」
 意外にもゲオルグ殿はすぐに体を離した。そしてベッドから降りる。
 なんだかわからないけどラッキー、と一息ついてたオレに、戻ってきたゲオルグ殿がグラスを差し出した。
「喉が渇いたろう?」
「・・・・・・・・・・・・はぁ」
 何このサービスのよさ。なんか下心を感じないでもないけど・・・でもゲオルグ殿の下心なんてたかがしれてるし。
「ありがとうございますー」
 確かに喉は渇いているから、ありがたく受け取ることにした。
 なんの変哲もない水をゴクゴクと飲み干していく。その様子を、何故かゲオルグ殿がジーっと見てきた。
 そしてオレが飲み終わっても視線を逸らさず・・・・・・あ、なんか今ガッカリした?
 僅かに、だけど確かにゲオルグ殿の肩が落ちた。なんだろ、色っぽい飲み方とか期待されてたんだろうか。
 首を捻りながらグラスをサイドテーブルに置くと、ゲオルグ殿がずいっと距離を縮めてきた。
「あれ、休憩は?」
「今取っただろう?」
「・・・・・・」
 こういうときのゲオルグ殿が聞き入れてくれる確率は、ゼロ。抵抗するのは諦めた。まぁそこまでイヤなわけじゃ全然ないからさ、オレも。


「んー・・・・・・」
 眠りから覚めたオレの目に、真っ先に飛び込んでくるのはゲオルグ殿の顔。そんな状況にはもうすっかり慣れてしまった。
 女王宮にいた頃は、いつもゲオルグ殿があとに寝て、先に起きてたのに。これも気を許されてるってことなんだったら、やっぱり嬉しい。それにしても、こうやって見るとゲオルグ殿の顔って、やっぱり精悍でカッコいいよなぁ・・・。
 とか寝起きでボケた頭でついつい考えながら、顔に掛かる髪を何気なくうしろへと流した、そのときだ。手が、何か柔らかなものに触れた。
「・・・・・・・・・」
 その感触に覚えはある。まるで上等な毛皮のような触り心地だった。いや、毛皮にしては、ぬくもりがある。しかも、ピクピク動いている。
「・・・・・・・・・」
 オレはその物体を引いてみた。・・・なんで、引っ張られる感覚を頭が感じるんだろう。
 だって、この感触は、動物の耳、じゃないんだろうか。なんでこんなところにそんなものが、って疑問はひとまず措いとくとしても。人間のオレに、そんなものがついてるはずない。
「・・・・・・」
 オレの体を抱くゲオルグ殿の腕をそっと外して、体を起こした。動くと、なんだか背骨の下のほう辺りにも違和感を覚えたけど、そこは取り敢えず気にしないことにして。ベッド脇に掛けられてる、オレが持ち込んだ鏡を、そーっと覗き込んだ。
「・・・・・・・・・・・・えぇー!?」
 つい目を丸くし、それから驚愕の声が口からもれた。
 うっすら予想はしていたものの。実際目にしてしまった、その衝撃といったら、もう。
 だって、これは動物の耳だ。どう見ても。それが、なんでオレの頭に生えてるわけ? でもって、オレの元々の、人間の耳はどこにいったわけ??
「・・・えぇ・・・えぇぇー・・・?」
 オレの動揺に合わせて、オレの髪と同じ色したその耳がピクピク動く。しかも、鏡の端には、やっぱり同じ色した猫のっぽい細長い尻尾と思われるものが、所在なさげに揺れていた。勿論、どうやらオレのお尻から生えてるみたい。
「な、何これ・・・ウソー・・・」
 あ、もしかして夢なんだろうか。と頬を抓ってみたら、普通に痛かった。夢じゃないらしい・・・。
「・・・・・・騒がしいな」
「っゲオルグ殿!!」
 騒がしくしていたせいでか、ゲオルグ殿が目を覚ましてしまったみたいだ。起き上がる気配を感じて、オレは振り返った。
「ゲオルグ殿、見て下さいよこれ!!」
 そういえば今オレは全裸なわけだけど、それはこの際いいや。それより、オレの身に起こったことを、ゲオルグ殿ならなんとかしてくれるかもしれない、そう期待した。なんてったってゲオルグ殿は、経験豊富な男だ。
 ゲオルグ殿は、オレの姿を目を丸くして眺める。
「・・・ お前、それ」
「さっき起きてたらなってたんですよー!!」
「・・・・・・」
 そろそろ驚きから立ち直ったゲオルグ殿は、まずは心配でもしてくれるのかと思えば・・・何故だか、ほぅと溜め息をついた。
「いや、これは想像以上だな・・・」
「・・・・・・・・・は?」
 なんか不穏なこと言わなかったか、この人。
「ふむ、そうか・・・・・・堪らんな」
「っ!!」
 ヤバい。ゲオルグ殿の目つきが、ヤバい。
 上から下まで舐め回すような視線から逃れようと、シーツを手繰り寄せようとしたが、一瞬の差でゲオルグ殿にシーツを取り上げられてしまう。
「隠すことないだろう」
「・・・いや、あの」
 そんなにジロジロ見られれば、隠したくなるのが人間ってもんでしょ?
 大体、なんでそんな、興奮したような視線送ってくるんですか。そりゃゲオルグ殿が猫好きなのは知ってますけど。でも、この状況のオレに疑問抱いたり心配したり、そういうのはないんですか?
「・・・・・・ゲオルグ殿?」
「・・・・・・・・・」
 変わらずゲオルグ殿は、オレのことをジーっと見つめる。妙にギラギラした目つきで。
 ・・・・・・あ、なんか嫌なこと思い出したかもオレ。
 何日か前、オレと猫を見比べてなにやら考えていたゲオルグ殿。それから昨夜、妙に親切に喉が渇いたろうって水を持ってきてくれたゲオルグ殿。
 まさか・・・いや、まさかそんな・・・。
「・・・あの、ゲオルグ殿・・・これってゲオルグ殿が仕組んだ・・・んじゃないですよねー・・・?」
 違う、と言って下さい。祈るような気持ちで尻尾を指しながら尋ねたオレに、ゲオルグ殿は真顔で答えたのだった。
「あぁ、そうだが」
 それがどうかしたか?とでも言いたそうな口調で。
「・・・・・・・・・や、あの、えっ、ちょ、はぁ!?」
「落ち着け、カイル」
 それをあなたが言いますか・・・。
「お、落ち着けって、ゲオルグ殿、一体どういうことですかっ!?」
「どういうって、そのままだろう」
 ゲオルグ殿は、やっぱり真顔で答える。
「似合うだろうと思ったから、ジーン殿とレヴィ殿に協力を仰いでな。さすがだなあの二人は。昨夜は効かなかったかとガッカリしたが、時間差とはな」
「・・・あのー、ゲオルグ殿? もしかして、オレになんか盛ったんですか・・・?」
「あぁ」
 躊躇もなく恥ずかしげもなく済まなそうでもなく。
「・・・・・・あの、オレに説明とか、ごめんとか、何かないんですか?」
「ん? まあいいじゃないか、あとでも」
 よくないです、オレにとったらちっともとくないです。でもゲオルグ殿的には、今それどころじゃないみたい。
 相変わらずオレの耳と尻尾に熱い視線を送っている・・・だけならまだしも、なんか近付いてこようとしてる?
「ち、ちょっと、なんでこっち来るんですか?」
「決まっているだろう」
 ゲオルグ殿の手が、怪しく動く。あ、触るつもりなんだ、握るつもりなんだ。こっちはまだ自分にこんなものが生えてるって事実を受け入れられてもないっていうのに。
「・・・ひどいですよ、ゲオルグ殿」
 怒りたくなるのを抑えて、オレは悲しそうな声色で上目遣いで言ってやった。こうしたほうが、ゲオルグ殿には効果的だって、わかってるんだ。
「自分さえ楽しければいんですかー? オレの気持ちは無視ですかー?」
「・・・あ、いや」
 予想通り、ゲオルグ殿が途端に気まずそうな申し訳なさそうな顔になる。
「いや、そういうわけではなくてな?」
「だって、なんにも説明してくれないし・・・。オレ、自分が突然こんな姿になって、すごく不安なのに・・・」
 眉を下げ目に憂いを乗せ、斜め下に視線を向けて、両手をついて肩を落とす。我ながら24の男には似合わない仕草だと、内心では薄ら寒い思いを覚えるんだけど。でもゲオルグ殿には、違うふうに映るらしい。なんてったって、ゲオルグ殿はオレに、メロメロ、だから。
「・・・悪かった。そうだな、お前の気持ちも考えんで・・・済まなかった」
 神妙な顔をして、姿勢も正す。そういえばゲオルグ殿も全裸で、その姿で正座ってなんかすごい間抜けなんだけど。
 笑っちゃダメなので耐えながら、いじけるような表情をゲオルグ殿に向けた。
「あぁ、もう、そんな顔をするな。わかった、ほら、取り敢えずこれをかぶれ」
 ゲオルグ殿は慌てたようにシーツを差し出してくる。受け取りながら、なんてタチが悪くて御し易い男なんだろうと思った。
 シーツを頭からかぶると、ゲオルグ殿が残念そうな顔をしたけど、構うもんか。勿論、尻尾もはみ出ないようにしまう。
「・・・で、なんでこんなことしたんですかー?」
 壁に背を預けながら尋ねた。ゲオルグ殿も取り敢えずズボンを穿いて、それからオレの隣に同じように壁を背凭れにして座る。
「それはだな・・・」
 そしてゲオルグ殿は語った。恥ずかしげもなくしゃあしゃあと。
「俺は一度でいいから、耳と尻尾が生えた人間を、抱いてみたかったんだ」
 ・・・・・・・・・・・・・・・。
 ここって、キレてもいいところだよな?
「だ、だったら群島諸国にいるっていうネコボルトでも抱いたらいいじゃないですかっ!!」
「・・・焼きもちか?」
「ち、違います!!」
 なんだよ耳と尻尾が生えてりゃ誰でもいいのか、なんて思ったわけではない・・・たぶん。
「あぁ、誤解するなよ?」
 ゲオルグ殿はオレを宥めるようにポンポンと頭を叩く。
「今はもうお前しか考えられんぞ? お前以上に似合う奴はいないしな。いや、お前は最高だな」
 ニヤッ、ってそんないい顔して笑われても・・・。そうなんですか!!とかってオレが喜ぶとでも思ってんですか。動物の耳と尻尾が似合う、なんて言われて喜ぶ男がどこにいるんですか。
「・・・嬉しいか?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
「だが、頬が赤くなってるぞ?」
「き、気のせいです!!」
 シーツをさらに深くかぶって顔を隠した。そんな、嬉しいわけないじゃないですか、喜んでるわけないじゃないですか!
「だ、だいたい、こんなことして、元に戻らなかったらどうするんですかっ!!」
「あぁ、それなら心配いらん」
 妙にキッパリ言い切るから、そこはちゃんとしてるんだと、シーツの隙間からゲオルグ殿を窺ってみると。
 やっぱりゲオルグ殿は、とってもいい笑顔。
「戻らなくても、ちゃんと俺が責任持つさ」
 むしろ望むところだ、とか思ってるよきっとこの人・・・。
 戻らない可能性がある薬を盛るなんて、なんてことするんだろうと、呆れてる場合じゃないけど呆れてしまう。
 思わず溜め息ついたオレに、ゲオルグ殿はシーツを引っ張ってオレの顔を覗き込んだ。
「あぁ、勘違いするなよ?」
「・・・・・・はい?」
 こういう振りをしたあとのゲオルグ殿のセリフは、たいていどうしようもない言葉に決まってる。そして今回も、ゲオルグ殿は裏切らなかった。
「戻ったとしても、責任は取るつもりだからな。任せておけ」
「・・・・・・・・・はぁ・・・」
 男同士なんだから、責任取るとか取らないとか、そういうのはナシでしょう。そんなふうに言われても、別に嬉しくないですよ嬉しくないですよ嬉しくないですよ・・・ってなんか自分に言い聞かせてるみたいだけど、とにかくそんなに嬉しくないんですってば。
「・・・嬉しいか?」
「う、嬉しくないですっ! 大体、事前に相談とか、して下さいよー!」
「嫌だと言われると思ってな」
「・・・」
 それがわかっててコッソリ盛るって、一番タチ悪いんですけど。
「もー・・・」
「それより、カイル」
 お、なんかすごくマジメな声になった。視線を向けると、真顔のゲオルグ殿。
「そろそろ、触らせてくれんか?」
「・・・・・・・・・」
 真剣な顔しといて、それが頼み事ですか。あぁ、また手がワキワキしてるし、よく見たら目が期待でギラギラ輝いてる・・・。
「・・・さ、触るだけですか?」
「・・・・・・触って握るだけだ」
「・・・・・・」
 いまいち信用ならない。だってさっき、耳と尻尾が生えた人間を抱いてみたい、なんて自分でヌケヌケと言ってたんだから。
 でもまぁ、変なことしようとしたら、また泣き落としでもすればいいんだし。ゲオルグ殿って結局オレに甘いし弱いから。
 って、こうやって妥協してる時点で、オレも充分ゲオルグ殿に甘い気がするけども。
「・・・ち、ちょっとだけですよー?」
「あぁ、わかっている」
 途端に輝くゲオルグ殿の顔。誰もゲオルグ殿がこんなふうに表情をゆるませるだなんて、知らないんだろうなぁ。正直、ちょっとした優越感を覚えてしまう。
 だから結局オレも、ゲオルグ殿にやっぱり弱いんだ。
「・・・じゃあ、どーぞ。ちょっとだけ」
 頭からかぶっていたシーツを肩まで下ろすと、ゲオルグ殿は何故か首を振る。
「それじゃあ、尻尾がよく見えん。これを着ろ」
 自分のカッターシャツを引っ張り出してきて渡された。なんだろ、シャツの裾から覗く尻尾が堪らない、とかそういうこだわりなんだろうか。衣装まで指定してくるとは、マニアだこの男。
「はいはい、わかりましたよー」
「で、ここに座れ」
 抵抗するのも面倒で従ったオレに、次の指令。大きく開いた自分の足のその間をゲオルグ殿は指差した。
 あーもうはい言う通りにしますよこうなったら。
「どっち向いて座ればいいんですかー?」
「そうだな、向こう向かれると顔が見えんしな。横を向いてもらえるか?」
「はーいー」
 言われた通り、ゲオルグ殿の足の間に腰を下ろした。冷静になると、何やってんだろ自分・・・ってヘコみそうなシチュエーションだから、もう開き直って許せる範囲までは乗ってやることにしよう。
「はい、どーぞ。耳でも尻尾でも、触って下さい」
「あぁ・・・」
 ゲオルグ殿はゆっくり手を伸ばしながらゴクリと喉を鳴らした。このゲオルグ殿の表情は見たことがある。そう、レツオウ殿が作ってくれた新作のチーズケーキを今まさに食べようとしているときの表情と同じだ。
 そんなに好きなんだ・・・って、なんだか満更じゃない気分になるのは間違ってるよな、うん。
「もう、さっさと触って下さいってば!」
「そうだな・・・では、いざ」
 妙な気合を入れて、ゲオルグ殿はオレの・・・と言っていいのかわからないけど、とにかくオレの頭に生えてる猫のっぽい耳に触った。
 そして次の瞬間、目を閉じて、熱の篭った息を吐き出す。
「・・・・・・ほぉ」
 そのゲオルグ殿の表情にも見覚えがある。堪らなく美味なチーズケーキに出会ったとき、それをじっくり堪能しているときの顔だ。
 すりすりと、何度も指でこするように感触を確かめられると、なんだか微妙な気分になる。だって、こんなふうにしつこく触られるなんて、そういう行為のときしかないし・・・。いや、でも、こんなことでウッカリその気になったんじゃ、ゲオルグ殿を付け上がらせるだけだ。
「・・・あ、あの、別にどうってことないんじゃないですか? 猫撫でるのと同じだろうし」
 そんなに夢中になって撫で続けることないんじゃないですかー?と言ってみたんだけど。ゲオルグ殿は、まぁそりゃあまたいい笑顔で。
「そんなことはないぞ。お前に生えているからこそ、ここまでグッとくるんだ」
「・・・は、はぁ・・・」
 ここまでって、どこまででしょう。とか聞いて、下半身、なんて答えられると困るから問いにするのはやめとく。
「だがお前も、気持ちいいんだろう?」
「え、いや別に、そんなことはないですけどー」
 ちょっぴりギクッとしながら言い返すと、ゲオルグ殿は視線をオレの背後に移す。
「ここは、気持ちよさそうに揺れているが?」
「そ、そんなの、ほら、なんでもなくたって揺れますよ!?」
 適当に意識してみると、本当に尻尾が振れた。うわぁホントに生えてんだなあ、って今さら実感しつつ、さらに右に左にパタパタ振ってみた。ちょっと楽しいかも。
 とか思いつつ、黙り込んでしまったゲオルグ殿の顔を何気なく見たら・・・あ、やばい。何も考えずに煽ってしまった、思いっきり。
 ゲオルグ殿は今まで以上に瞳をギラギラさせて、ゆらゆら揺れる尻尾を凝視していた。そして、そうしていたかと思うと・・・。
「わっ!!」
 前触れなく遠慮なく、ガシッと掴まれた。
「ちょっと、もうちょっと優しく掴んで下さいよ! 痛いじゃにゃ・・・!?」
 ギュムっと尻尾を握られた瞬間、なんか変なことになった。にゃ、とかって言っちゃった気がする。
 慌てて口を押さえて、おそるおそるゲオルグ殿に視線を向けると・・・うわ、興奮を隠そうともしてないよもう!
「・・・カイル」
 ゲオルグ殿は左手で尻尾をムギュムギュしながら、右手で口を覆うオレの手を外そうとしてきた。
 ダメだ、手をどけたら変な言葉が出てくる気がする。絶対に手を離すまいとしてると、ゲオルグ殿はひとまず諦めてくれたようだ。矛先を尻尾に絞る。
 まず先っぽをグリグリ弄くって、それから毛並みに逆らうように根元のほうへ撫で上げていき、今度は毛並みに従ってすっと先っぽに戻し、またグリグリ。そんな触り方、猫の尻尾にしないことないですか?
 訴えたいけど、口を開きたくないし。
 ゲオルグ殿は調子に乗って、右手も添えて撫でたり揉んだり、果ては頬擦りまでしている。
 なんだろう、この感覚。なんだか、ムズムズする、気がする。特に先っぽをグリグリされると、ゾワゾワ、する気がする。
 ヤバい、言葉遣いとか、気にしてる場合じゃない。
「・・・もう、いつにゃん・・・まで触ってうにゃ・・・るんですかにゃっ!!」
 うわぁ、やっぱり気になるし!! ゲオルグ殿がギュッと尻尾を握るたびに変な声が出る。猫語? もう、一体どんな変な薬使ったんですか!!
 とにかく、尻尾離してくれたら全部解決するはず。と、逃れようとしたけど、ゲオルグ殿は逃がしてくれない。
「まだいいだろう」
「よくにゃいです!!」
 あぁ、ダメだ。喋れば喋るほどゲオルグ殿を煽ってる気がする。
「はにゃして下さ・・・んにゃ!!」
 顔にどんどん熱が集まってくるのを感じた。先端をグリッとされた途端そんな声上げてたら、感じてるって勘違いされてしまう。そうじゃない。断じてそういうわけじゃない。
「・・・・・・カイル」
 なんだか息が荒くなってるゲオルグ殿が、オレにのし掛かってきた。あ、オレのこと組み敷くつもりだヤバい。
「も、やめて下さいって言ってるにゃないですかー・・・」
 慌てて、オレは弱々しい声を繕った。自分からうつ伏せになって、顔を両手で覆う。
「にゃんで聞いてくれにゃいんですかー?」
 肩を小さく揺らせば、ゲオルグ殿からは泣いてるみたいに見えるだろう。予想通り、尻尾を掴むゲオルグ殿の手から力がちょっと抜けた。
「・・・カイル?」
「やっぱりゲオルグ殿・・・オレの気持ちよりも、尻尾のほうが大事なんですねー・・・」
「いや、そういうわけじゃなくて、だな」
 しまいにはゲオルグ殿、尻尾からパッと手を離してしまった。
 よし、成功。ゲオルグ殿が尻尾よりオレの気持ちを大事にしてくれてることは、百も承知だ。
「済まん、カイル。つい興奮してだな・・・」
 ホントに、そうですよ。なんでそこまで尻尾に興奮出来るんですか・・・。
 つっこみたいのを我慢して、オレは顔を覆ったまま、ゲオルグ殿の胸元に凭れ掛かった。顔を見せたら泣き真似がばれるからだ。
「オレだって、別にゲオルグ殿に触られるのがイヤなんじゃないんですよ? でも、耳とか尻尾ばっかり触られると、なんかイヤです」
「そ、そうだな・・・済まん、俺が考えなしだった」
 焦ったようにゲオルグ殿はオレの体を優しく抱きしめる。余裕があるときだったら、だったら他も触ってやろう、とか返すに違いないのに。
 本当に、ゲオルグ殿はオレに、弱くて甘くて優しい。
「・・・こんなふうに、抱きしめられるのは、大好きですよ?」
 そう言うと、オレを抱くゲオルグ殿の腕にいっそう力が篭った。
 これは本音だ。ゲオルグ殿に触られるのが、イヤなはずない。ただ、変なのも生やされた挙句にゃんにゃん言わされるのがイヤなだけで。それから、昨夜したばっかりなのにまたするのがイヤなだけで・・・というか、イヤというより、まだ体が疲れてるから気が進まないだけで。
 ゲオルグ殿は宥めるようにオレの頭を撫でながら、決意するように言った。
「・・・わかった、もう何もせん・・・・・・今は」
 うわ、正直な人だな。そのうちいろいろする気満々なんだ。
 でも、まぁいいかと思った。
 それまでの間に対抗策考えとけばいいだけだし、そのうち元に戻っちゃうかもしれないし・・・その頃にはオレもその気になってるかもしれないし。
 だって、正直、ちょっと気持ちよかった。にゃん、って言っちゃう問題点はひとまず措いといて、いつもと違う刺激は、文字通りなかなか刺激的だった。
 思い出すと、自然と尻尾がフルフルと揺れる。同時に、ゲオルグ殿の体がピクッと反応したけど、尻尾を掴まれることはなかった。頑張って自分を抑えているらしい。
 尻尾に触るのも愛ゆえだけど、尻尾に触らないのも愛ゆえ。
 オレってなんて、愛されてるんだろう。
「ゲオルグ殿、ちょっとくらいなら、いいですよ?」
「・・・・・・・・・いや」
 ゲオルグ殿の手が葛藤するように動いて、でも何もせずオレの体を抱きしめたまま。
 ダメだなぁ、オレ、こういうゲオルグ殿、大好きだ。
 結局オレは、自分から言い出してしまった。
「じゃあ・・・またあとで、ですねー?」
 だって、オレだって、ゲオルグ殿に弱くて甘くて優しいんだ。
 ちゃんと自覚してる。



END

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尻尾をギュッと握ったら「にゃ」がやりたかっただけです。
あとは変態なゲオルグ。(もっともっと変態にしたかった…!)(いつものように情けなさが勝ったような…)
しかし、確かソルファレナ奪還直後のはずなのに、何やってるんでしょうこの二人…。


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