いつも一緒に。



 二匹の野良猫が、街の片隅で寄り添うようにして暮らしていました。
 金色の瞳を持つ黒猫と、青い瞳と薄い黄白色の毛を持つ猫です。野良猫なので、二匹とも名前はありません。ですが、二匹っきりで暮らしているので、特に不便はなかったのです。
(あ、ありがとうございますー!)
 白猫は目の前に置かれた本日のご馳走を見て、それから黒猫に向かって言いました。こんなふうにいつも、黒猫は白猫のぶんのご飯も用意してくれるのです。
 それは、二匹が出会った頃から変わらないことでした。おなかを減らしてヨロヨロだった白猫を、偶然出会った黒猫が助けてくれたのです。白猫はその優しさに参ってしまって、勝手に側にいることを決めました。すると黒猫は、それを許してくれたのです。そして、賢い生き方を知らない白猫の面倒を見てくれるようになったのです。
 白猫は、足手まといかなぁ悪いなぁと思いながらも、そんな黒猫から離れられないのでした。
(・・・いつもいつも、お世話になっちゃって、すみませんー・・・)
 食事を終えて、毛繕いを始めた黒猫に、白猫は小さな声で言いました。黒猫が自分の為にいろいろしてくれるのに、自分は黒猫の為に何もしてあげられなくて、そんな自分を白猫は情けないなぁと思っているのです。
 そんな白猫の頭を、黒猫がポンと叩きました。
(気にせんでいい)
 続けて黒猫は、よしよしと白猫の頭を優しく撫でてくれます。白猫は、感激しました。
(はい、ありがとうございますー!!)
 現金かもしれませんが、白猫はとたんに元気を取り戻します。ひしっと抱き付いて、黒猫の首筋に鼻を摺り寄せました。
 それから、白猫は黒猫の毛繕いを始めます。自分に出来るのはこれくらいだからと、一生懸命ペロペロと舌で黒猫の毛並みを舐めました。黒猫はこのときは、白猫に身を委ねてくれます。
 だから、黒猫の為にしているはずなのに、白猫はこの時間が大好きでした。
 面倒ばっかり掛けて申し訳ないけれど、それでも白猫は、このままずっと黒猫と二匹で暮らしていけたらいいなと思っているのです。


「にゃっ!?」
 白猫は驚いた声を上げました。突然ひょい、と体を抱え上げられたのです。
「うわー、かわいい猫だなー!」
 明るい声が白猫のすぐ近くで聞こえました。それもそのはず、白猫の目の前に人間の顔があって、その口が喋ったのです。
「にゃ、うにゃん!」
 白猫は尻尾を逆立てながら逃れようと体を捩りましたが、その人間はしっかりと白猫を掴んで離しません。逆に、もっと顔を近付けて覗き込んできます。
「あれー、なんかお前、ちょっとオレに似てるねー! いやー、親近感持っちゃうなー!」
 その言葉に、白猫はその人間を思わず見返しました。青い瞳に金の髪、確かにその人間は白猫にちょっと似ています。人間は、何故かそのことが嬉しいようでした。
 首を傾げた白猫は、しかしハッとします。これはあまりいい状況ではありません。この人間が次に言う言葉が、白猫は嫌でも想像出来ました。そして、その想像通りの言葉が人間の口から出たのです。
「うーん、かわいいなー。飼っちゃおうかなー!」
「にゃん!!」
 白猫はとっさに頭を振って拒否しました。自分でも容姿にちょっと自信のある白猫は、こうやってよく人間に目を付けられるのです。ですが勿論、白猫はそんなの冗談じゃありません。黒猫と離れ離れになるなんて絶対に嫌でした。二匹まとめてなら、考えないでもないですが。どうやらこの町の人間は、黒猫は縁起が悪いとかで嫌いなようなのです。
(いやですいやですー!!)
 白猫は必死に首を横に振ったのですが、人間は相当調子がいいのかちっとも読み取ってくれません。
「あ、お前もそうしたいってー!?」
(そんなこと言ってないですー!)
 白猫の気も知らず、人間はひょいっとそのまま立ち上がってしまいました。白猫は益々焦ります。
(やです、離して下さいー!!)
「あはは、鳴き声もかわいいなぁ、オレにそっくりでー・・・なーんて!」
 ジタバタと白猫が暴れても、人間はちっとも気にせず上機嫌で歩き出そうとしました。そのときです。
「うわっ?」
 人間が不意に足をとめました。そして視線を落とすので、白猫もつられて下を見ました。
 目に入ってきたのは、人間の足にカリカリと爪を立てている黒猫です。黒猫は本日のご飯を探しにいっていたのですが、白猫の声を聞きつけたのか、助けにきてくれたのでしょう。
「にゃ・・・っ!?」
 感激しそうになった白猫は、しかしビックリしました。それまで自分をしっかり掴んでいた人間の手から、突然解放されたのです。
 代わりに人間は、その手で黒猫を抱き上げました。この町の人間は、黒猫を見ると顔をしかめ、触るなんてとんでもないという態度をとるのですが。この人間は、何故か反対に、顔を輝かせたのです。
「うわー、すごーい! 金のおめめに艶々の黒い毛! ゲオルグ殿そっくりー!!」
 二匹にはよくわからないことを言って、人間は黒猫に頬摺りまで始めました。こうなると、今度は白猫のほうが人間の足をカリカリかく番です。
(離れて下さいー! 触らないで下さいー!!)
「あ、黒猫ちゃんにあんまり構うなってー?」
「にゃっ!?」
 思ったことをズバリ言い当てられて、白猫はビックリしました。さっきはちっともわかってくれなかったのに、と不思議がる白猫に、人間は笑い掛けます。
「わかるよー。オレもよく思うもん、オレのゲオルグ殿に触んないで下さいー!!って」
「うにゃ・・・」
 白猫は、オレの、なんておこがましいことは思っていませんが。確かに、人間が黒猫にベタベタするのが面白くありませんでした。
 人間はそんな白猫と黒猫を交互に見て、言います。
「心配しないで、引き離したりなんかしないからー」
 黒猫を地面に下ろし、人間は二匹の頭を同時に優しく撫でました。
「離ればなれは、寂しいもんねー・・・」
 それまでただ明るかった人間の顔が、ちょっと曇りました。
「にゃ?」
 白猫は首を傾げそうになりましたが、それより早く、人間が二匹の頭を今度はポンポンと叩きました。明るい笑顔に、戻っています。
「だから、二匹ともオレが飼うのー! よろしくねー!!」
 人間は勝手に決めて、二匹を抱えて歩き出しました。
(・・・いいのか?)
 取り敢えずおとなしく人間の腕の中に収まりながら、黒猫が白猫に窺います。いつも白猫が人間に飼われるのを嫌がっていたからでしょう。ですが、白猫は人間に飼われるのが嫌なのではなく、黒猫と離れるのが嫌なのです。そしてこの人間は、二匹を一緒に飼うと言いました。
(うーん・・・)
(・・・・・・まぁ、しばらく様子見するか)
(はい・・・!)
 こうして二匹は、人間に飼われることになったのです。


「でもほんとに、ゲオルグ殿にそっくりだなー。あ、そうだ、名前はゲオルグにしちゃおう! てことは勿論、こっちはカイル! それでいいかなー? いいよねー? ちなみにー、オレの名前はカイルだよ、よろしくー!」
 などと言いつつ、人間は二匹の名前を決めました。
 黒猫がゲオルグで、白猫がカイルらしいです。しかも人間の名もカイルというらしく、とても紛らわしい気がしますが、人間が気にした様子はちっともありません。
 そして始まった人間との生活は、二匹にとって、結構快適なものでした。もうおなかをすかせることも寒さに震えることもないのです。そして人間カイルは世話好きな性格らしく、二匹の面倒をとてもよく見てくれたのです。特にご飯がとってもおいしくて、それはずっとここにいたいと思わせます。
 ですが、なんの問題もないわけでも、なかったのです。ゲオルグはそうでもないかもしれませんが、カイルにとっては、ちょっと面白くないことがあったのです。
「ゲオルグー、こっちこっちー!」
 人間カイルがニコニコ笑いながらゲオルグを手招きします。今は、ちょうど夕飯を食べ終えて、片付けも終わって、食後のまったり時間です。人間カイルが作ってくれたご飯がおなかにある身で突っぱねるわけにもいかないし、ゲオルグは素直に人間カイルに近寄っていきました。
「にゃあ・・・」
 人間カイルはゲオルグの体を撫でたり、抱き上げて頬を寄せたりしています。それを見ていると、カイルの胸がもやもやし始めました。いつも、こうなるのです。
 人間はゲオルグのことをとっても気に入っているようでした。人間カイルの好きなゲオルグという人間が、ゲオルグに似ているからでしょう。だからこそゲオルグがゲオルグという名を貰ったのですが、そんなことはカイルにとってはどうでもいいことなのです。人間カイルとゲオルグがくっついて仲良くしているのを見るのが、その理由はさておきカイルはなんだかつまらないのです。
 勿論人間は、カイルのことも構ってかわいがってくれます。でもカイルは、人間にゲオルグほどかわいがってもらえないのが面白くないのではないのです。
 ここで飼われることになるまで、カイルはずっとゲオルグと一緒でした。二匹の間に入ってくる人は誰もいなかったのです。なんだかゲオルグをとられてしまったような気がして、カイルはじゃれ合っているように見えるゲオルグと人間カイルを恨めしそうに見つめました。
「ゲオルグー、ブラッシングしてあげようかー」
(いや、いい)
「せっかくのきれいな毛並みだもんねー。ゲオルグ殿も黒々してて男らしくて素敵なんだよー!」
 ゲオルグが断っても、人間カイルは気にせず嬉々としてブラシを手にします。カイルは我慢の限界でした。
「にゃ、にゃん!!」
 カイルは尻尾を逆立てながら、人間に飛び掛ってその手を爪で引っ掻きます。
(ゲオルグの毛繕いするのはオレなんですー!)
「え、何、ゲオルグに触るなって?」
(そうですー、離れて下さいー!)
 バリバリ引っ掻くカイルに、人間カイルは困ったように笑ってから、ゲオルグを床に下ろしました。
「もー、カイルはヤキモチやきだなー。気持ちはわかるけど」
 仕方なさそうに言って人間はカイルの額をつんっとつつきます。ですがカイルは気にせず、ゲオルグに駆け寄りました。
(ゲオルグ、オレが毛繕いしてあげますー!)
(あぁ、頼む)
 ゲオルグはカイルの申し出にはすぐに頷いてくれます。カイルは嬉しくなりながら、いつものようにペロペロとくまなく舐めていきました。ゲオルグの毛並みは美しくて、人間カイルの気持ちもわかります。ですが、カイルは譲るつもりなんてありませんでした。
(ゲオルグー、気持ちいいですかー?)
(あぁ)
 その言葉を肯定するように、ゲオルグの尻尾がゆったりと揺れています。カイルはまたとても嬉しくなりました。
(えへへー。頑張りますー!)
 カイルは心を込めてゲオルグの毛並みを整えていきます。
 しかしカイルは、不意に動きをとめました。人間カイルが、二匹をじっと見つめています。
 人間は、カイルとゲオルグがじゃれ合っていると、意外にも邪魔をせず、いつもこうやって二匹を見守っているのです。微笑ましそうに、羨ましそうに、どこか寂しそうに。
 そんな人間カイルの表情を見るたびに、カイルはなんだか落ち着かない気分になります。
 カイルは人間カイルに、ゲオルグは人間の好きな人に似ているそうです。だったら、人間カイルには、仲良さそうにしている二匹の姿がどんなふうに映っているのでしょうか。
 最初、人間カイルはゲオルグという人間と恋人なのかと思っていました。しかし、ここで飼われるようになってもう半月ほどですが、ゲオルグという人間を一度も見たことがありません。だから、じゃあ片思いをしているのかなと思ったのですが。よく見るとこの家には、ペアのマグカップや人間カイルのものとは思えない服などがそこかしこに置かれているのです。ということは、二人は以前は一緒に暮らしていたのでしょう。
 でも、今ゲオルグという人間は、ここにはいないのです。
 カイルは考えてみました。カイルは出会ったときからずっとゲオルグと一緒です。でももし、ゲオルグが自分の側からいなくなってしまったら。
(・・・・・・や、いやですそんなのっ!)
 カイルは思わずゲオルグにぎゅっと抱き付きました。ゲオルグと離れるなんて、考えられません。
(どうした?)
 ゲオルグは首を捻りながら、カイルの頭を撫でてくれます。
 こんなふうに触ってもらえなくなるなんて、カイルには考えられません。カイルはゲオルグが大好きです。一緒にいられなくなるなんて、絶対に嫌です。
(ゲオルグ、オレとずっと一緒にいてくれますかー?)
(・・・あぁ、ずっと一緒だ)
 ゲオルグは、カイルの突然のお願いに、しかし動じずしっかりと応えてくれました。カイルは思わずゲオルグに抱き付きます。
(オレもゲオルグから離れませんー!!)
 ピッタリくっついて、カイルは幸せで堪りません。
 反対に、こんなふうに一緒にいられなくなると、それはとてつもなく不幸なことです。
 カイルは人間カイルのほうを見ました。人間カイルは机に頬杖をついて、ぼんやりした視線を棚のほうに向けています。その棚の上にあるのは、おそらく二人の思い出の品か何かなのでしょう。
 それをぼんやりと、しかしじーっと見つめている人間カイルは、一体何を考えているのでしょうか。幸せだった頃のことを思い出しているのでしょうか。
 カイルの胸がギュッとします。
「にゃん!」
 カイルは人間に向かって鳴き声を上げました。人間は、ハッとしたように慌てて笑顔を作ります。
「え、どうした?」
「にゃー」
 カイルは人間に近寄りました。机にひらりと登って、人間カイルに頬刷りをします。
「何ー? お前も構って欲しいのー?」
 人間カイルは嬉しそうに笑って、カイルを撫でました。ですがきっと、人間のほうこそ構って欲しいのでしょう。寂しいのでしょう。
 だから、特にゲオルグを、人間カイルは構うのです。それを面白くないなと思っていたことを、カイルはちょっと反省しました。人間カイルと違って、カイルはずっと一日中ゲオルグと一緒にいられるのですから。
(ゲオルグー)
 カイルはゲオルグを手招きしました。ゲオルグはカイルの気持ちを読んでくれて、人間カイルの膝の上に乗っかります。
「え、何? オレ、モテモテー?」
 人間カイルは首を傾げながらも、嬉しそうに二匹を引き寄せました。
「てことはもしかして、そろそろ一緒に寝てくれるのかなー?」
「うにゃ・・・」
 カイルは、言葉に詰まりました。人間カイルは二匹と・・・特にゲオルグと一緒に寝たがっていました。しかし、カイルはいつもそのお願いを撥ね付けていたのです。
 二匹っきりで暮らしていた頃、二匹はいつもくっついて丸まって寝ていました。外の世界は物騒だし、寒さを防ぐ目的もありました。人間に飼われることになって、その心配はなくなったのですが、それでも二匹は変わらずそうやって寝ているのです。
 だからカイルは迷いました。ですが、たまにはいいか、と思い直します。
「にゃん!」
 カイルは人間の頬に顔を摺り寄せました。
「え、ほんとにー? いやー、お前たちいい子だなー! 拾ってよかったよー!!」
 人間カイルは嬉しそうに、二匹まとめてぎゅっと抱きしめました。


 それからまた一週間ちょっと、人間に飼われ始めてもうすぐ一ヶ月になります。
 二匹はすっかりこの生活に馴染んで、人間は二匹の世話を甲斐がいしくやいてくれます。カイルも、譲歩を覚えました。人間がゲオルグにベタベタしていても、ちょとくらいなら邪魔しないことにしたのです。相変わらず、ゲオルグの毛繕いだけは譲りませんでしたが。
「二人ともー、夕飯は何食べたいー?」
 人間カイルは二人に料理の本を見せながら尋ねます。二匹も本を覗き込んで考えました。
「二人ともよく食べてくれるからなー。オレも作りがいがあるんだよー!」
 人間カイルはニコニコ笑って言います。人間は、料理を作るのが好きみたいでしたが、誰かの為にというほうがもっと好きなようなのです。きっと一番食べて欲しい人はゲオルグという人間なのでしょうけれど。
 そう思うと、カイルはついいつもたくさん食べてしまうのです。勿論、人間カイルの作るご飯が美味しいから、というのが一番の理由なのですが。
「にゃー」
「あ、これー? ヘルシーなのが好きだよねー。美容にもいいからね、さっすがカイル、わかってる!」
 人間カイルはそう言いながら、立ち上がろうとしました。そのときです。
 パッと人間がドアのほうに目を向けました。微動だにせず人間カイルが見つめる扉が、しばらくして、ゆっくり開きます。
「にゃっ?」
 不審者でしょうか、カイルは身構えゲオルグはさりげなくカイルの前に出ます。猫の二匹は、鍵がなければ玄関が開かない、なんてことには気付かなかったのです。
 ドアを開け、人間が入ってきました。同時に、人間カイルが立ち上がります。そして、その人間に一直線に駆け寄りました。
 二匹は、てっきり殴り倒したりするのかと思ったのですが。
「おかえりなさいー、ゲオルグ殿ーーっ!!」
 人間カイルはその人間にひしっと抱き付きました。
 どうやらこの人間が、噂の人間カイルの想い人ゲオルグのようです。確かに、ゲオルグと同じように、綺麗な黒髪と金色の目をしています。
 ですがそんなことに頭は回らず、二匹は呆然と目の前の光景を見ていました。
「あぁ、ただいま」
「もー、早かったじゃないですかー! 帰るなら帰るって教えてくださいよー! そしたら料理とか張り切って作ったのに、なんの用意も出来なかったじゃないですかー!!」
 抗議しているようでいて、しかし嬉しそうにしか見えない人間カイルは、益々ゲオルグに強く抱き付きます。それをゲオルグもしっかりと受け止め、愛しそうにカイルの頭を背を撫でています。
(・・・・・・あれがゲオルグか)
 先に立ち直ったのは、やはりゲオルグのほうでした。ちょっと感慨深げに言うゲオルグに、カイルもハッとして、人間のゲオルグを見上げました。
 ゲオルグと同じ特徴を持つ人間は、カイルが褒めていたように、確かにいい男にカイルの目には映りました。ですが、今はそこは問題ではありません。
(・・・・・・捨てられちゃったとか、そういうんじゃなかったんだー・・・)
 カイルは、人間カイルはてっきりゲオルグという人間に振られてしまったのだと思っていたのです。ですがどうでしょう、目の前の二人は、どう見てもラブラブというやつです。
(なんか・・・損した気分・・・)
 人間カイルが寂しそうだから、ゲオルグとベタベタすることをカイルはあんまり邪魔しなかったのです。確かに、一ヶ月離れているのも充分寂しいでしょうが。しかし目の前で抱き合いキスまで始めた二人を見ていると、カイルはどうしてもハァーと大きな溜め息が出るのを抑えられませんでした。
 そんな気も知らず、人間カイルは気が済んだのか、やっと人間ゲオルグのコートを受け取ってから部屋に通します。
「あ、そーだゲオルグ殿、紹介したい子がいるんですよー!」
 カイルはゲオルグにお茶を出して自分も落ち着いてから、思い出したように二匹のほうを振り返りました。実際、どう考えてもさっきまでのカイルはゲオルグのことで頭が一杯のようで、やっと二匹のことに頭が回ったのでしょう。
「ほら、ゲオルグとカイル! オレたちにそっくりでしょー!! なんていうかー、オレたちの、こ・ど・も、みたいなー・・・!!」
 人間カイルははしゃぎながら二匹をひょいっと抱え上げて、それからカイルのほうを人間ゲオルグに渡します。
「ほう、確かに」
「でしょー! しかも、この二人、ラブラブなんですよ! オレたちみたいにー!!」
 言いながらカイルは、ゲオルグにすすすと擦り寄っていきます。
「オレがゲオルグをあんまり構ってると、この子怒っちゃうんですよー。きっと、オレのゲオルグに触らないで下さいー!とか言ってるんですよ! カイルはヤキモチやきなんですね、オレと同じで!」
「お前と一緒なら、それは相当に嫉妬深いんだろうな」
「えへへー!」
 ピッタリと体をくっつけるカイル、そんなカイルを抱き寄せて優しく髪を梳くゲオルグ。
 なんだかイチャつくダシにされてしまった気がする二匹は、そっと二人から離れました。やっぱり、そのことに二人はちっとも気付く様子がありません。
(・・・今晩は、どうやら食いっぱぐれそうだな)
(久しぶりに空腹抱えて寝るんですねー)
 ぼやくように言いながら、二匹はいつも寝床にしているクッションに身を沈めました。視線を向ければ、二人はやっぱりまだくっついて甘い空気を振りまいています。
 ゲオルグも充分うわぁと思うほど優しそうにカイルを見つめていますが、やはり二匹にとってはカイルの表情のほうに気をとられました。
 カイルは基本的にいつも笑顔でしたが、しかし今の笑顔はそれとはちょっと違うのです。頬を赤く染めて、瞳を潤ませて、うっとりしたように微笑んでいます。それはとてもとても、幸せそうに。
 そんな人間カイルにちょっと呆れてしまう反面、しかしカイルはその気持ちがわかる気もしました。
 一ヶ月離れていた大好きな人が、今はすぐ隣にいるのです。どんなに嬉しいことでしょう。
 さっきはたった一ヶ月と思いましたが、カイルはたったの一日だってゲオルグと離れるのは嫌です。
(離れてた分、余計に嬉しいんでしょうねー)
(そうだろうな)
(でもオレは・・・)
 カイルはゲオルグに体を摺り寄せました。
(離れるのはいやです。ずーっと一緒がいいです)
(・・・そうだな)
 ゲオルグもカイルを引き寄せて腕を回し、しっかりと抱きしめてくれます。顔も手足も尻尾もピッタリくっついて、カイルはとっても嬉しくなりました。
 きっと今のカイルは、とても幸せそうな顔をしているでしょう。人間カイルと、同じように。




END

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名前が一緒でWゲオカイ!とかウキウキしながら取り掛かったんですが。
ややこしくて済みません・・・。
ちなみに人間ゲオルグは、出稼ぎか何かに行ってたんではないでしょうか(笑)