momentary physical intercourse




 深夜の本拠地。ゲオルグはルクレティアに軽く報告を済ませると、自分の部屋に戻った。
 長居すべきではないとわかっているが、数刻だけでもゆっくりと体を休めたかったのだ。
 ゲオルグは一ヶ月ほど前にこの城を出た。だがゲオルグには袂を別ったつもりはなく、少しでも王子の力になれればと陰ながら働き、ルクレティアとだけは定期的に連絡を取っていたのだ。
 片付けてしまわれることもなく出ていったそのままになっている自室にゲオルグはそっと入った。そしてまずシャワーを浴びようと奥に向かおうとしたゲオルグは、ぎょっとする。
 通り過ぎようとしたベッドに、人の気配を感じたのだ。
 部屋に入った時点で気付かなかったのはかなり不覚だったが、それだけこの部屋が自分にとって気を張らない場所になっているということだろうかとゲオルグは思う。
 が、今はそんなことどうでもよかった。
 ゲオルグは提げたままの刀を意識しながら、備え付けのランプに火をともす。
 そして浮かび上がった姿に、ゲオルグは思わず安堵の息をはいた。そしてその気配に気付かなかったのも無理なかったかもしれないと思う。
「なんだ、カイル、お前か」
 ベッドに横になりまるでこの部屋の主人が如く寝入っているのはカイルだった。
 現在恋人といっても差し支えない関係にあるカイルの、すっかり馴染んだその気配を気取れなかったのも仕方ないだろうと思う。
 そしてそれはカイルのほうも同じなのか、相変わらずカイルはゲオルグに気付いた様子もなく眠り続けていた。
 そんなカイルを見下ろして、ゲオルグは首を捻る。
「しかし、なんでこいつはこんなところで寝ているんだ?」
 カイルにも、この部屋ほど広くはないが個室が与えられていた。シャワーは付いていないが、この城には立派な公共浴場があるので、それが理由ではないだろう。
 ならば何故なのか、ゲオルグに思い浮かぶ理由は一つだった。
 ゲオルグがここを離れてから、そろそろ一ヶ月になる。その間、勿論カイルとは一度も会っていなかった。
 出会ってそして関係を持ち始めてから、勤めで一週間ほど離れることはあったが、それでもこんな形でこんなに長くというのは初めてだった。
 つまりカイルはゲオルグ不在という状況で、独り寝の寂しさを少しでも紛らわす為、ゲオルグの残り香を求めてここに来てこうして寝ているのだろうか。
 そう思って、ゲオルグの口の端は思わず上がる。
「・・・ふ、かわいい奴め」
 普段はサッパリしていて寂しいなどとは決して言わないくせにと、ゲオルグは自分の予想を勝手に真実だと決め付けて満悦する。
 そしてカイルを見下ろすゲオルグに湧き上がるのは、愛しさ、だけではない。
 離れていた期間は愛情を募らせるのと同時に、欲求も育てる。
 しかもカイルは、ゲオルグのベッドの上で無防備な寝姿を晒しているのだ。今夜は湿度が高いせいか、シーツは腹の辺りに掛かっているだけ。そして浴衣の胸元ははだけ、大の字に伸ばされた長い脚がめくれた裾から覗いている。
 薄闇に慣れてきたゲオルグの目に映る、ランプの僅かな明かりを受けて浮かび上がるカイルの久しぶりに見る肌は、ひどく扇情的だ。
 これを据え膳と言わずになんと言うのか、ゲオルグはそう思う。
 その肌を思い切り撫で回したい衝動に駆られ、しかしまずはとゲオルグはマントを脱ぎ捨てた。そしてベッドによじ登り、カイルの顔を真上から見下ろす体勢を取る。
「・・・カイル、カイル」
 何度か名を呼んだが、カイルは依然目覚める気配がない。
 強引に起こす選択肢もあるが、ゲオルグはそれは取り敢えず後回しにして、先に久しぶりのカイルの唇を味わおうと思った。
 寝息を立てる薄く開いた口に、ゲオルグはゆっくりと近付く。
 確かな弾力を持つ唇に触れれば、すぐに馴染むのと同時に、ひどく懐かしい気がした。ゲオルグは思っていた以上に自分がカイルに飢えていたのだと知る。
 つい早急に求めそうになるのを抑えて、ゲオルグはまずは唇を舐め食みじっくりと味わった。
同時に指を髪に差し込めば、結われていない髪は逆らわず受け入れ、動かすたびにスルスルと皮膚を撫でる。普段は安らぎを与えてくれることもあるその感触は、しかし今はゲオルグの性感を煽るだけだった。
 右手で変わらず髪を弄びながら、左手で僅かにカイルの体を覆っていたシーツを剥いだ。そして胸元に手を這わせれば、少し汗ばんだ肌はしっとりとして、堪らない触り心地をゲオルグに伝える。
 それに合わせ、やはりすぐに軽く触れるだけでは足りなくなった舌を、唇を強引に割って内へ侵入させた。反応を返さないカイルの舌はそれでも充分愛しく、ゲオルグは夢中で擽り自然と溢れる唾液ごと吸い上げる。
 欲求のまま好きにカイルを楽しんでいると、そんなゲオルグの与える感覚にさすがに覚醒を促されたのか、カイルが身動ぎした。
「・・・・・・ん・・・?」
 ゆっくりと開き何度か瞬いた瞳が、ぼんやりとゲオルグを捉える。
「やっと起きたか」
「・・・・・・ゲオルグ殿?」
 寝起きでまだ霞んでいる視線を向けてくるカイルが、恋しがっていた自分を認めてどんな反応をするのか、ゲオルグは髪を梳く右手はそのまま楽しみに待った。
 だがカイルは、ゲオルグが期待したような表情にはならず、むしろ眉を寄せる。
「・・・・・・なわけないか・・・いるわけないもんねー」
 カイルは目を閉じてしまい、ゲオルグがまさかまた寝るつもりじゃないだろうなと疑いだした頃、再び目を開いた。
「・・・・・・まだいる。オレ、夢見てんのかなー」
「おい・・・・・・」
 全く今の状況を把握していない様子のカイルに、わからせようと思ったゲオルグは、しかし言葉を続けることが出来ない。
 あんなふうに何も言わずに出て行っておいて、ちょっと用があって寄った、などと言ってもカイルは納得しないだろう。だからといって真実を話してしまうわけにもいかなかった。
 ゲオルグがどうしようかと迷っていると、カイルが動く。
「ま、いっか、夢でも」
 目を細め口をゆるくカーブさせ、カイルはゲオルグが見たかった笑顔を見せた。
 そしてゲオルグにゆっくり腕を伸ばし、後頭部を掴んで引き寄せると、そのまま口付ける。
 さっきのゲオルグと同じように、まず数度確かめるように軽く唇を触れ合わせてから、舌で内への侵入を試みてきた。
 こうなると、カイルの誤った認識を正すべきかどうかという迷いは一先ず吹き飛んでしまう。
 ゲオルグはカイルの舌を引き入れてやって、しばらくは好きにさせた。いつになく積極的な動きでカイルの舌はゲオルグの口内を弄る。
「・・・ん、っふ」
 夢中になっているカイルと、ゲオルグの合わさった口の隙間から、吐息ともつかない声がもれた。
 その声をもっと聞きたい、そう思ったゲオルグはカイルの舌を押し返す。そしてカイルの口内に入り、さっきよりも遠慮なく舌を吸い歯列の表も裏もくまなく愛撫していった。カイルもそれをじゃますることなく、それでもされるがままになるではなく、上手くゲオルグの動きに合わせる。
「は・・・ぁ・・・ぅん」
 声をもらしながら、ゲオルグの髪を掻き乱すその仕草にも、カイルの興奮が現れていた。
 やはり、反応があったほうが、格段に愛しい。
 一通り楽しんでいったん離れていくゲオルグの口を、名残惜しそうに目で追うカイルは、すでにその頬を紅潮させていた。
「どうした? 今日はいつもよりも乗り気じゃないか」
「ん・・・だって・・・」
 ゲオルグが耳元で囁くように言えば、カイルはそれだけでピクリと体を震わせる。その反応がかわいくて、さらに息を吹きかけ舌で擽ってやると、カイルは息を乱しながら、それでもゲオルグへの返答を口にした。
「いつ・・・覚めちゃうか・・・わかんないから、勿体付けてると・・・勿体ないかな・・・って」
「・・・・・・ほぉ」
 いいことを聞いた、ゲオルグはそう思う。
 行為に及ぶとき、大抵カイルは最初嫌がったり恥ずかしがったりして、なかなかゲオルグの思うようにさせてもらえない。だがそれがただの振りで、単にわざとゲオルグを焦らしていただけならば。これからはもう遠慮してやる必要はないな、とゲオルグは思わずニヤリと笑った。
「・・・ゲオルグ殿ぉ?」
 そんなゲオルグに、気を他に逸らしていると感じたのかカイルが不満そうな口調を向ける。
「あぁ、悪い」
 ゲオルグは宥めるように軽く口付けてから、そのまま唇を首筋へと滑らせていった。キスを落とし舌を這わせときに軽く歯を立てながら、夢だと思っているせいかいつもより素直なカイルに、ゲオルグは甘い言葉を言わせてみようと問い掛ける。
「そもそもな、どうしてお前がこんなことろで寝てたのかと思ってな」
「え、あぁ・・・それは・・・」
 ゲオルグのゆるやかな愛撫に熱い息をもらしながら、カイルは本音であろう理由を教えた。
「ここって、王子の部屋にも近いし・・・便利だから」
「・・・・・・・・・」
 ゲオルグが恋しかったから、などという理由を期待していたゲオルグは、思わずガクリとする。やはりこのカイルという男は、なかなかゲオルグの思った通りにはなってくれないようだ。
 そんなカイルは、また愛撫の手をとめたゲオルグを非難する。
「ゲオルグ殿ー、そんなことより・・・」
 いや、それは非難というよりは、ねだると言ったほうが正確だった。カイルは自らの脚をゲオルグの脚に擦り付ける。
 そんなふうにされ、ゲオルグはあれこれ考えているのがバカらしくなった。
 そろそろ本格的に肌を触れ合わせようと、ゲオルグは手袋と防具を外す。そして服も一気に脱ぎ捨てると、むわっと汗と埃のまじったにおいが鼻を掠めた。
 そういえばシャワーを浴びる前だったと思い出し、さすがにこのままだとカイルも嫌がるだろうかと思う。
 が、カイルは嫌がる素振りを見せるどころか、逆にゲオルグに向かって腕を伸ばしてきた。
「・・・ゲオルグ殿のにおいだー。夢なのにそのまんま・・・なんか変なのー」
 面白そうに笑うカイルは、しかしどこかうっとりとした眼差しでゲオルグを見つめる。
 ゲオルグが体を寄せれば、カイルは背に腕を回し、その質感を確かめるように手を這わせた。同時に首筋や肩に顔を摺り寄せてゲオルグを感じようとするカイルの、下肢は薄い布越しにゲオルグに熱を伝えてくる。
「・・・カイル」
 思わず名を呼んだ、ゲオルグのその声も、すでに充分なほど熱を孕んでいた。


「・・・っん、あ・・・ぁあ」
 そこはすでに熱く蕩けきっていて、二本目の指も難なく呑み込んだ。カイルのもらす声にも、さほど苦しそうな響きはない。
 それでも久しぶりだということもあり、ゲオルグは丁寧に自らを受け入れさせる準備を整えていった。
 指に感じる内側と、その指の動きに合わせて反応するカイルに、ゲオルグの理性も少しずつしかし確実に剥ぎ取られていく。
 いつもとは違い進んで四つん這いになったカイルは、しかしすでに腕に力が入らないらしく、枕に顔を沈み込ませていた。おかげで枕に吸収されがちになる声を聞きたくて、ゲオルグはカイルの髪を梳き、そのまま指を滑らせてあごを掴み隙間を作る。
「は・・・あ、あぁ・・・っ!」
 同時に指で慣れた場所を刺激すれば、カイルの口から嬌声がもれた。やはりいつもとは違い、声をそう抑えるつもりもなさそうなカイルに、ゲオルグの興も乗る。
「・・・カイル、ここがいいのか?」
「っあ、・・・っん」
 ゲオルグがカイルの耳元で囁くように問えば、カイルは潤んだ瞳をゲオルグに向けた。
「い・・・いぃ、ぁ・・・そ、そこ・・・っ」
 夢だと思っているせいか、カイルは素直に快感を享受し声を上げる。そんなカイルに、ゲオルグは堪らなく煽られた。そうでなくても、一ヶ月ぶりなのだ。ゲオルグの雄はすでに張り詰め、ズボンの中で窮屈そうにしている。
 しばらくはこのままカイルを焦らし鳴かせたい気もしたが、しかしゲオルグは自分にそんな余裕はないだろうと思った。
「っん、ゲ・・・オルグ・・・・殿・・・!」
 そんなゲオルグに、カイルが首を振りながら、言外で先をねだる。淫蕩にけぶる瞳を向けられれば、ゲオルグにはこれ以上先延ばしすることは不可能だった。
 ゲオルグはカイルにうずめていた指を引き抜き、逸る手つきでまずは己を取り出す。余裕のない動きだとわかっているが、しかし気にはならなかった。目の前のカイルがそんなゲオルグを冷静に捉えていないのは明らかだったからだ。
 ゲオルグの支えを失って体をシーツに沈ませたカイルは、しばらくしてゆっくりと仰向けになった。その視線は、逞しく育ち天を向くゲオルグの陰茎に向けられている。
 この先への期待と快楽の予兆に身を震わせるカイルに、ゲオルグも自然と生唾を飲み込んだ。
「・・・ぁ」
 カイルの左脚を掴み抱え上げて肩に担ぎ、左手で入り口を拡げる。するとそれだけでカイルが焦がれるように小さく声をもらし、その様子に、ゲオルグに僅かに残る理性が待ったを掛けた。
 せっかくカイルが常ならぬ従順さを見せているのだ。このまますぐに挿れてしまうのは勿体ない気がした。
「・・・ゲオルグ殿? ・・・っ、あ」
 動きをとめたゲオルグを怪訝そうに見上げたカイルは、びくりと体を揺らす。
 ゲオルグはそそり立つ自らをカイルの秘部に押し付け、しかし挿入はせずただその上を滑らせた。
「ひゃ、ぁ・・・な、なん・・・で・・・っ」
 戸惑う視線を向けるカイルに構わず、ゲオルグはまるで挿入するときのような動きを続ける。
 そうしているとどうしても、すでに爛れたような熱を持っているカイルの内部を思い描いてしまい、ゲオルグは自分で取った行動ではあるが自分の忍耐を最大限に試されてる気になった。しかしカイルも同じだけ、いやそれ以上の耐え難いむず痒さを感じているだろう。
「っ、あ・・・や、やぁ・・・!」
「・・・カイル」
 逃れようと体を捻るカイルの肩を押さえて再びシーツに沈ませ、ゲオルグは自らをさらに強くこすりつけた。
「どうして欲しい?」
「は・・・あ・・・?」
 乱れる髪を撫で付けてやりながら耳元で問うと、カイルはどうにか焦点をゲオルグに合わせる。
「俺にどうして欲しいか、言えるだろう?」
「ん、や・・・や、だっ・・・!」
 ぐいっと一際強く押し付ければ、カイルはゲオルグに押さえつけられ動かせない体の代わりにか首をぶんぶんと振った。
 そしてゲオルグが期待した臆面もないおねだりの言葉が、しかしカイルの口からは出てこない。
「あ・・・や、いや、言わな・・・っい」
「む?」
 ここまできてカイルが強情を張るとはまさか思わず、ゲオルグは思わず眉間に皺を刻んだ。
「・・・何故言わん?」
「だ、・・・って」
 思わず動きをとめて問い掛けたゲオルグに、カイルはそこはやはり素直に答えを返す。
「オレが、お願いとか・・・して欲しいとか、言っても、ゲオルグ殿は聞いて・・・くれないじゃないですか」
「・・・・・・」
 ゲオルグは、相変わらず熱に浮かされたようなカイルの瞳を思わず覗き込んだ。息も絶え絶えに言ったその言葉が、単に今のことを指しているようにはゲオルグには思えない。
「カイル?」
「・・・それより」
 思わず状況を忘れてカイルに問い掛けようとしたゲオルグだったが、それより早くカイルが自由な右脚をゲオルグの腰に絡み付けた。
「ゲオルグ殿こそ、欲しくないんですかー?」
 そして腰を押し付けてくるカイルには、理性があるようには到底見えない。潤んだ瞳で熱っぽい口調で、ゲオルグにねだるのではなく、ゲオルグを煽り誘う。
「ゲオルグ殿の好きに、していーんですよ?」
「・・・・・・っ!」
 そんなカイルに、ゲオルグのかろうじて保たれていた理性が、ついに吹っ飛んだ。ゲオルグは堪らず体を屈めカイルに噛み付くように口付ける。
「っう、あ・・・はぁ」
 きつい体勢に少し眉をしかめながらも、カイルはゲオルグの背に腕を回した。
「カイル・・・っ」
 思わず名を呼びながら、ゲオルグは同時に、待ち焦がれていたカイルの内部への侵入を果たす。
「あ、あぁ・・・ん、・・・っ!!」
 その衝撃にカイルが背に爪を立て、さらに内側もゲオルグを押し返そうと抵抗した。
「・・・キツイな」
 充分に慣らしたはずなのに、とゲオルグは己を強く締め付けられ思わず顔をしかめる。
 ゆっくりと腰を進めながら、ゲオルグは指を入れたときも同じことを思ったと思い出した。初めてのとき程とは言わないが、ゲオルグに散々慣らされてきたはずのそこは、しかしすんなりとは受け入れてくれなかったのだ。
 それはつまり、ゲオルグと離れていた一ヶ月の間、他の誰も受け入れてはいなかったということだろう。
 その事実は、ゲオルグの独占欲を刺激した。
「ん・・・っあ・・・?」
「カイル・・・」
 ゲオルグはゆっくりと自身を押し込みながら、貫かれる感覚に支配されているカイルの髪を引き自分に意識を向けさせる。
「お前・・・ほんとに俺以外と奴とやってないのか?」
「は・・・ぁ・・・ぇ?」
 言葉が届かなかったようなカイルに、腰の動きはゆるめずゲオルグは再度問う。
「こうやってここに受け入れたことがあるのは、俺のだけか、と聞いているんだ」
「っう、・・・ん・・・あっ!」
 奥まで一気に突き入れ、カイルはしかしそのせいだけではなく少し睨むようにゲオルグを見上げた。
「あ・・・ったり前じゃ、ない・・・ですかー・・・!」
 今のカイルは嘘は言わないだろう。
「・・・そうか」
「ん・・・っあ、あぁ・・・!」
 ゲオルグは湧き上がる歓びに任せ、自分以外を知らないという内側を貪り始めた。
 初めはキツかったそこは、早急な動きにも次第に慣れていく。熱く絡みつかれ、ゲオルグは余り持ちそうにないと感じた。
「あっ、あ・・・ん、ん・・・っ!」
 長く楽しむ余裕もない激しい挿入出に、カイルは決して苦痛からではない声をはばからず上げる。
 その甘い喘ぎ声も、興奮で色づいた肌も、突き上げるのに合わせて揺れる肢体も、潤んだ青い瞳も、乱れる金糸も、全部全部、今この瞬間はゲオルグのものなのだ。
 女相手にこんなふうにはならないだろうし、男はゲオルグだけだと言った。ならばこんなカイルを見たことがあるのは、自分だけなのだ。
「カイル・・・っ」
 ゲオルグは上体を曲げ、半ば強引にカイルに口付けた。
「ぁあ、ん・・・っ・・・」
 無理な体勢と深くなった結合に顔をしかめながら、カイルはそれでもゲオルグの背に腕を回し、ゲオルグに応える。
 それでもまだ、ゲオルグの貪欲な占有欲は、満足などしなかった。
「カイル・・・カイルっ!」
 ゲオルグは半分無意識に名を呼びながら、カイルに欲を叩きつける。カイルは、そんなゲオルグを、しっかりと受け止めた。
「あっ・・・ゲオ・・・ルグ殿、ゲオルグ殿ぉ!!」
「・・・・・・っ!」
「ん、あ、あぁ・・・っ!」
 ゲオルグが一際強く押し入れると、カイルも一際高い声を上げ、ほぼ同時に達した。
「あ・・・はぁ・・・は」
「・・・カイル」
 荒く呼吸するカイルに、ゲオルグは口付けた。そして、僅かな休息を挟んで、また動きを再開する。
「ん・・・ゲオルグ殿・・・」
 快楽に酔ったカイルの瞳が、ゲオルグを捉える。
 ゲオルグもまた、カイルだけを映して、その体に思う存分溺れた。


 窓から覗く空は、もうじき夜が明けることをゲオルグに教える。
 そろそろここを離れなければならないと思ったゲオルグは、しかしなかなか行動に移れなかった。
 カイルはこの部屋に入ったときのようにまたベッドでスヤスヤと寝息を立てている。
 目覚めれば、カイルもさすがに夢ではなかったことがわかるだろう。そのとき、カイルが一体自分のことをどう思うか、ゲオルグは怖くて想像が出来なかった。
 何も語らず去っておいて、突然現れただ体だけを求め、そして何も言わずにまた姿を消すのだ。
「・・・すまんな」
 ゲオルグはカイルの髪をそっと梳いた。
 カイルの言葉が、ゲオルグに思い出される。
 いくらお願いしても、ゲオルグは聞いてなんてくれない。
 熱も冷め冷静になった頭で、その通りだとゲオルグは思った。
 カイルに相談もせず真実を告げることもせず、ただ姿を消す。そうしておいて、離れていた期間に嫉妬するように、欲しがった。
 カイルだって、ゲオルグを求めている。それなのにいつも何も言わないのは、きっとわかっているからなのだろう。ゲオルグがカイルの都合になど構わず、自分の思うようにしか動かないと。
 決してわざとではない。ゲオルグだって出来ればカイルの思いを聞き叶えてやりたいと、そう思っている。
 だが、今はそれが現実だった。
 そんなゲオルグに、カイルもそのうち呆れるかもしれない。愛想を尽かすかもしれない。
 だがもし、それでも変わらず、カイルが受け入れてくれるなら。
「そのときは、願いでも・・・つまらない我儘でも、なんでも言えよ?」
 ゲオルグは眠るカイルの目蓋にそっと口付けた。
「ちゃんと、聞いてやるから」
 その言葉も、ひどく傲慢だと、気付いているけれど。
 それでもそんなふうにしか言えない自分に、そしてそんな自分でも受け入れて欲しいと、そう思っている自分に、ゲオルグは呆れる。
 ゲオルグは、カイルの唇に軽く口付けて、それから立ち上がった。
 また当分、会えない。
 湧き上がる離れ難さを、振り切ってゲオルグは部屋をあとにした。



END

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タイトルは「束の間の肉体的交流」って意味です。
この二人、まともに会話もしてないや…とか思いまして。
しかし、このカイルがゲオルグに不満があったりするわけでも別にないのです。
(そして夢だと思ってる振りしてゲオルグに嫌味言ってるわけでもないですよ。笑)
その辺含めて、mentalバージョンをそのうち書きたいなぁとか、意気込みだけはあります。
このままじゃ、ゲオルグが…情けないというか…どうしようもなさ過ぎる気が…!!(笑)