This game is over



 夜中、気持ちよく眠っていたはずのカイルは、しかし微妙な気配を感じて目を覚ました。
 寝入る前、ゲオルグがしっかりとカイルを抱きしめてくれていたのだが、その腕はいつのまにか外されてしまっている。
 かといって、ゲオルグはどこかに行ってしまっているわけではなく、ちゃんとカイルの隣にいる。ただ、俯けの体勢で何やらごそごそとしているのだ。ごそごそというより、むしゃむしゃと言うべきか。
「・・・・・・・・・」
 そう、ゲオルグは布団に入った状態で、チーズケーキを食べていた。
 こんな夜中にベッドの中で何してるんだろうと、カイルは盛大に呆れる。見なかった振りして寝ようかとも思ったが、しかしなんとなくカイルは声を掛けてみた。
「・・・・・・何やってるんですかー?」
「・・・起こしたか?」
 やっと気付いたようで、ゲオルグはカイルのほうを向き、そしてけろりと答える。
「どうしても食いたくなってな」
「・・・・・・・・・はあ」
 こんな夜中にチーズケーキを食べたくなるなんて、どうかしていると思う。それに、こんな夜中に食べたくなったからと言って実際食べてしまうのもどうかしていると思う。さらに言うなら、こんな夜中に食べようと思ってチーズケーキを用意出来ることもどうかしていると思う。
 益々呆れるカイルに構わず、ゲオルグは満足そうにチーズケーキを食べ続けた。
 その様子を、眠気も飛んでしまったことだし、カイルはなんとなく眺めている。
「・・・・・・食うか?」
 するとゲオルグが、カイルの視線がチーズケーキに向けられていると思ったのか、そう言ってきた。
 昔はよく、こんなふうにチーズケーキを物欲しそうに見ていると勘違いして、やらんと釘を刺されてきたものだが。それに比べると、大した進歩だなぁとカイルは思った。別にどうでもいい進歩なのだが。
 別にいい、と答えようとしたカイルだが、ふと思い直した。
「・・・じゃあ、一口」
 チーズケーキが食べたい、わけでは勿論ない。ただちょっと、企みに似た動機がカイルにはあった。
 ゲオルグはそのチーズケーキに関する、カイルにとってはどうでもいいうんちくを語りつつ、ひとかけら手に取る。
 カイルはその腕を引き寄せて、ゲオルグの手から直接チーズケーキを食べた。
 手が汚れるのが嫌だから、と解釈したのか、ゲオルグは特に不思議がりはしない。もう片方の手でチーズケーキを掴んで口に運んでいった。
 そんなゲオルグを横目に見ながら、一口大のチーズケーキをすぐに食べ終わったカイルは、しかしそのままゲオルグの手を逃さない。
 親指や人差し指についたチーズケーキを舐め取るように、ゲオルグの指にゆっくりと舌を這わせていった。
 次の一口を口に運ぶ途中の、ゲオルグの動きがぴたりととまる。今はチーズケーキを頬張っていないはずのゲオルグの、喉がごくりと鳴ったのをカイルは確認した。
「・・・ゲオルグ殿ー、それ、食べないんですかー?」
「・・・ああ」
 ゲオルグははっとしたように、口元のチーズケーキを口に放り込む。
 それと同時に、カイルはゲオルグにキスをした。ゲオルグの唇をこじ開け口内に侵入すると、チーズケーキを奪い取る。
 それを咀嚼し嚥下してから、やっと口を離して、唇を湿らせながらゲオルグを上目遣いで見上げた。
「オレ、まだ足りないんですけどー・・・?」
「・・・・・・・・・」
 ゲオルグの口から、昔のようにチーズケーキを取ったことに対する文句が出てくる、気配はない。
 カイルを見つめるゲオルグの瞳には、もうチーズケーキなんて一片も見えなかった。
 ゲオルグの、さっきまでチーズケーキを掴む為に使われていた手が、カイルの髪に伸びてくる。ゲオルグの、さっきまでチーズケーキを幸せそうに食していた口が、カイルの唇に触れてくる。
 ゆっくりとのしかかってくるゲオルグに腕を回しつつ、カイルは視線を食べかけで放置されてしまったチーズケーキに向け、心の中で勝利宣言をした。




END

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一言で言うと、「チーズケーキに対して優越感抱くカイルの話」です。
こんな下らないネタ、ゲオカイでしか出来ない…(笑)