still a child




「あ、王子、姫様ですよ?」
「えっ?」
 リオンの言葉に、僕は驚いた。だって、僕とリオンは自分の部屋に戻ろうとしていたところで、つまりここは太陽宮の東側の棟なんだ。リムたちの部屋や食堂なんかがある西側の棟と違って、こっち側には男の王族や女王騎士の為の部屋なんかしかない。リムがこんなところに用があるとは思えないんだけど・・・。
「どうしたんだろう・・・」
 僕は不思議に思って、あとをつけてみることにした。もしかしたらリムにとっては大切な用事なのかもしれないし、声を掛けたら迷惑がられるかもしれないから。
 リオンも同じ気持ちらしく、僕たちは足音を忍ばせながらリムのあとを追った。リムはきょろきょろしつつ、迷いながら足を運び、そのうちに女王騎士詰め所に入っていってしまう。
「・・・もしかして、ミアキス様を探しているんでしょうか?」
 扉の前に立って、入るべきか悩んでいると、リオンがふと言った。そういえばいつも側にいるミアキスの姿が見えないし、その可能性は高い気もする。
「そうかもしれないね。でも・・・だったら女官とかに呼んでもらえばいいのに」
「それに、姫様が探しているのに、ミアキス様がそのことに気付かないのも、変ですね」
「・・・うん」
 確かに、そうだ。ミアキスは任務だからという以上にリムのことが大好きで、自分に別の勤めが入っているとき以外はリムの側にいる。そもそも、リムが自分で探してまでミアキスに差し迫った用があるというのは考えにくい。
「・・・・・・よし、入ってみよう」
 首を捻って少し考えてから、僕は決意した。
 女王騎士の詰め所は、そうそう行く場所じゃないから、僕にとっては敷居が低いとはいえない場所なんだけど、リムにとっては僕以上にそうだろう。そんなところに入って、リムが何をしているのか、気になる。
「・・・失礼します」
 僕は一応ドアをノックしてから、そーっと中を窺った。そこには誰もいなくて、僕とリオンはなんとなくそろそろと足を踏み入れながら、騎士長執務室のほうに向かう。
「もしかして、父さんに用があるのかな・・・?」
 予想してみて、でもそれもしっくりこない。やっぱりリム本人に聞くのが一番だと思って、執務室のドアを開けた。
「・・・リムー?」
「・・・・・・!!」
 顔を覗かせると、びくっと体を揺らしたリムが、僕の顔を見て目を丸くする。
「な、なんじゃ兄上か!」
 ほっとしたように息を吐きながら、リムは心臓の上辺りを押さえた。どうやらとってもびっくりさせてしまったみたいで、申し訳なくなる。
「ごめん、驚かせちゃったね」
「い、いいのじゃ! それより兄上、どうしたのじゃ?」
 ぶんぶんと首を振ってから、こんなところで会えたことを喜ぶようにリムが笑顔で聞いてきた。ついついその頭を撫でながら、僕は正直に言う。
「リムがこんなところに入るのを見掛けたから、気になって。ね、リオン」
「はい。姫様ひとりでこんなところにいるのはめずらしいと思いまして・・・」
 するとリムは、はっとしたように、扉を気にしつつ心なしか声を小さくした。
「兄上、リオン、ミアキスを見なかったか?」
「・・・見なかったけど・・・リム、やっぱりミアキスを探しているの?」
 どことなく挙動不審なリムを不思議に思いつつ僕が言うと、リムはぶんぶんと首を振る。
「違うのじゃ! ミアキスがわらわを探しておるのじゃ!」
「・・・・・・どういうこと?」
 めずらしくけんかでもしてミアキスから逃げ回っているのだろうかなんて予想したら、それとは全く違う、とても微笑ましい答えが返ってきた。
「かくれんぼなのじゃ! ミアキスに見付からないように隠れておるのじゃ!」
 ぐっと両のこぶしを握って、頬を紅潮させて言うリムが、とっても可愛く思えるのは兄の欲目じゃない・・・と思う。
「だからこんなところにいるんだ」
「そうなのじゃ!」
「・・・・・・でも、ミアキス様は女王騎士ですから、ここは見付かり易いのではないですか?」
 ・・・確かに、リオンの言う通りな気がする。でもリムは、自信ありげに胸を張った。
「問題ない! 灯台下暗し、と言うじゃろう!」
 そうかな、とちょっと思ったけど、リムがそう考えたんだから乗ってあげることにした。
「うん、そうだね」
「兄上もそう思うか!?」
 でも、嬉しそうにリムが言った、そのときだった。詰め所のドアが開く音がして、僕たちはつい息を潜めてぴたりと動きをとめた。
「・・・二人、ですね」
 それからリオンが慎重にドアに近付いて、耳を当て気配を読み取る。
「だ、誰なのじゃ?」
「・・・・・・」
 リオンは引き続いてドアに張り付いて、耳を澄ました。
「・・・ミアキス様と、カイル様です」
「ま、まことか!?」
 焦るリムに、リオンが頷いて返す。僕もリオンに習ってドアに耳をくっつけてみた。
「・・・・・・でも、なんか様子がおかしくない?」
 僕が首を捻ると、リオンももう一度ドアに耳を押し付ける。
「なんだか、リムを探してるかんじ、しないような・・・」
「・・・確かに、そうですね・・・」
 普通こういうときは、名前を呼びながら机の下を見たりソファーの裏を調べたり、するんじゃないんだろうか。それなのに、ドアの向こうのミアキスにその気配はないし、こっちの部屋にくる様子もない。
「・・・どういうことじゃ?」
「どうやら、お二人でお話しているようですけど・・・」
 うん、確かに、ドア越しに二人の会話してるらしい声が聞こえてくる。内容までは聞き取れないけど。
「・・・ミアキスのやつめ、わらわを探さずに、何をやっておるのじゃ!?」
 ぷーと頬を膨らませてから、リムがドアノブに手を掛けた。
「・・・リム、どうするつもりなの?」
「あやつらが何をやっておるのか、覗き見するのじゃ!」
 堂々と言ったリムは、ドアをそーっと開けていく。
「・・・でも、見付かったらどうするのですか?」
「そのときは、おぬしらが適当にごまかしてくれればいいのじゃ!!」
「・・・・・・」
 勝手なこと言うなぁ・・・と思うと同時に、仕方ないなぁ、とも思ってしまう。僕がリムに甘いことは、とっくに自覚してるんだ。
 はぁ、と軽い溜め息つくと、隣でリオンが微笑んで頷いた。僕も苦笑いを返してから、せっかくだから一緒に覗かせてもらうことにする。ミアキスがさっさとリムを探そうとしてくれれば、こんなことしなくてよかったわけだし。
 上から僕、リオン、リムの順で、ドアの隙間から詰め所の様子を窺う。5センチほど開けたところで、二人の姿が視界に映った。
 ミアキスはテーブルにうしろ手をついて体を預け、カイルはその向かいに立っている。僕たちからはちょうど二人の横顔が見える位置だ。
 こんなことをしている僕たちに、女王騎士の二人なら気付いてもおかしくない気がするけど、二人はお喋りに夢中なのかこっちに視線を向けもしなかった。
「へー、かくれんぼしてるんだー」
「はい、わたしが鬼なんですぅ」
 二人の会話が耳に届いた。
「・・・なんじゃ、ミアキス、覚えておるのか!」
 口を尖らせながら、リムは小声で怒る。そんなリムには気付かず、二人は会話を続けた。・・・リムとかくれんぼしているミアキスはともかく、カイルは仕事とか、しなくていいんだろうか。疑問がよぎったけど、カイルはそんなこと気にならないのか、いつもの能天気そうな顔で口を開く。
「でも、この広い女王宮でかくれんぼなんて・・・元気だねー」
「あらぁ、年寄りくさいですよぉ、そのセリフ。そうだ、カイルちゃんも一緒にやりません?」
「うーん、誘ってくれるのは嬉しいけどー・・・」
 腕組みしたカイルは、眉を寄せて、仕事があるからとでも断るのかと思えば。
「でも、今晩の為に、体力残しとかないとねー」
 ・・・・・・。それって・・・つまりそういうことなのかな。女好き、と名高いカイルの口から出てきた言葉に想像が付いてしまって、僕は思わず頬をちょっと赤くした。リムとリオンはといえば、意味がわからないらしく、きょとんとしている。これ以上会話が教育の悪いほうへ行きませんように、と僕は心の中でそっと祈っておいた。
「カイルちゃん、それを言うなら、今晩の為におなか減らしておかないと、でしょお?」
 ・・・・・・? ミアキスのセリフは、今度は僕にもどういうことかよくわからなかった。
 でも、こうやって見るとこの二人って、仲がいいんだなぁ。僕はへー、と思った。任務以外で二人一緒にいるのをあんまり見たことなかったからだけど、確かに考えてみれば、二人は歳も近いし明るく楽しい性格も似ているから、気が合うのかもしれない。
「あ、それなら問題ないよー。ちゃーんと、おなか減らしとくからー」
「ふぅん・・・・・・あ、そうでしたぁ」
 明るく笑って言ったカイルに、ミアキスもにこりと笑って返す。
「カイルちゃんは、その点は心配いらないんですよねぇ」
「?」
「わたし、聞いたんですよぉ? 酒場で働いてる・・・ルーシーちゃん・・・でしたっけぇ?」
「・・・ぎく」
「今日の夕方、デート、するんでしょお?」
「・・・・・・はー、参ったなー、知ってたんだ」
 ぽりぽりと頭を掻きながら、でも言葉のわりにカイルは悪びれた様子もない。まぁそりゃあ、ミアキスに女遊びを指摘されても、カイルに気まずく思う理由はないだろうけど。
 だったらそもそも、なんで二人はこんな会話をしているんだろう? 僕の疑問を、さらに深めることを、二人は言う。
「・・・・・・怒った?」
「残念、怒ってあげませぇん」
「ちぇー」
 にこりと微笑むミアキスに、カイルはちょっと口を尖らせて残念そう。・・・・・・つまり、カイルはミアキスに怒られたかったってこと? よくわからないな、どういうことだろう。
「・・・さっきから、なんの話をしておるのじゃ?」
「・・・・・・さあ、なんでしょう・・・?」
 リムとリオンはもっとわからないようで、しきりに首を傾げていた。どうやらまだ子供の僕らには、二人の会話がよくわからないらしい。もっとも、大人とか子供とか関係なく、二人の言ってることがわからないことはちょくちょくあるんだけど。
「あ、でもねー、ミアキスちゃん!」
 カイルが何かに気付いたのか、ぱっと顔を明るくして口を開いた。僕の経験でいうと、こういうときのカイルって、あんまりマトモなことを言わないんだけど・・・。
「オレ、ちゃんと、夕飯までには帰るから、って断ったんだよー? 褒めて欲しいなー!」
 やっぱり、そんな胸張って言えることじゃないと思うんだけど、カイル・・・。それに・・・大体、どうしてそれでミアキスに褒めてもらえるんだろう? カイルの言葉はまるで、恋人に浮気を咎められた人が最後の一線は越えていないと苦し紛れの言い訳をしているような・・・。とはいえ、カイルにごまかそうとする不自然さや必死さはないし、そもそも二人は恋人じゃないから当てはまらないだろうし。
「・・・兄上、どういうことじゃ?」
「っえ?」
「王子、わかるんですか?」
「・・・あ、あのー」
 見れば、リムもリオンも期待するような視線を僕に向けていた。純真な二人の眼差しが、眩しい。
「・・・・・・い、いや、僕にもよくわからなくて・・・」
 二人の期待を裏切るのは心苦しいけど、解説なんてしにくいし・・・そもそも僕にもはっきりとわかっているわけでもないし。
「そうか、兄上にもわからんのか」
「うん、だから・・・」
 そろそろ覗き見するのはやめない?と僕は言いたかった。のだけど。カイルの褒めて下さいへの返事を、口元に手を当てて考えていたミアキスが、口にする。
「つまりぃ、ルーシーちゃんは、カイルちゃんにとっては前菜、ってことですかぁ?」
「うーん、あんまり言葉よくないけど、そういうことかなー」
 ・・・なんだか、リムの耳に入れるべきじゃない、不健全な会話をしている気がする。ドアを閉めようかと、悩みながら伸ばした僕の手は、思わず途中でとまった。ミアキスの、言葉と、そして行動の為に。
「・・・まぁ、仕方ないですぅ。ご褒美、あげまぁす」
 ミアキスはにっこりと微笑んで言ってから、爪先立ちしてカイルに顔を近付けた。そして、ちゅっと、僅かにだけど確かに、カイルの唇にキスをする。
 僕は思わず目を見開いたけど、たぶんリムもリオンも同じ反応をしているはずだ。だって、キスは恋人同士がするもので、つまりカイルとミアキスは・・・そういう関係ってこと?
 リムとリオンに視線を移せば、二人は驚きながらも頬をちょっと赤くして、ドアの向こうの光景に見入っている。僕ももう一度目を向けると、二人はまだキスを繰り返していた。いつの間にか、ミアキスの手はカイルの肩に、カイルの手はミアキスの腰に。
 ・・・やっぱり二人は、恋人同士、なんだよね・・・? 今まで一度もそう疑ったことがなかったから、どうしてもなかなか信じられない。
 僕たちの驚愕と困惑など知るよしもないだろう二人は、やっぱりしつこくキスを繰り返している。ちゅっちゅと小鳥が啄ばむような軽いのから、唇をしっかり合わせるのまで、いろいろ。
 ・・・人のキスシーンを見るのって初めてだから、なんだか変な気分っていうか、悪いことしてる気分というか・・・って、覗き見してる時点で悪いことしてるの確実なんだけど・・・。
 うしろめたさに逆に背を押されるように、二人から目を離せない。そのうちに、カイルの手がミアキスの腰からゆっくり移動していって太腿に・・・
「わっ、何するんじゃ兄上!?」
 リムが小声で抗議してきたけど、僕は構わずそのままリムの両目を手のひらでしっかりと覆った。僕としてはカイルにこそ、何するんだ、と言いたい。そりゃあカイルはリムが見てるなんて知らないだろうけど、それにしてもそこは女王騎士詰め所なわけで・・・。ともかく、さすがにこれ以上はリムに見せてはいけない気がする。
「・・・ほら、覗き見なんて、やっぱりするもんじゃないよ!」
「・・・・・・そ、そうですよね!」
 僕がリムを抱えるようにしてドアから離れれば、リオンもはっとしたように、体をリムとドアの間に滑り込ませた。
「なんじゃ、今さら・・・」
 リムは納得出来ないように唇をちょっと尖らせてから、でもあんまり騒ぐとミアキスに見付かると思ったのか、おとなしくなってくれた。
「じゃが・・・驚いたな。ミアキスとカイルがのう」
「私もびっくりしました・・・」
 リムとリオンがちょっと興奮したように頬を赤くして顔を見合わせている。女の子は恋愛話が好きって聞いたことあるけど、この二人もそうなのかな・・・と思うとちょっと感慨深いような・・・。
 って、そんなことは今はどうでもよくて。こっちに人がいるって知らない二人が、あれ以上いかがわしいことを始めようとしたら、そのときは僕が飛び出してでも阻止しなきゃならないし。
「しかし水臭いのうミアキスも、わらわに何も言わんとは」
「でも意外ですねえ。カイル様にちゃんと本命の方がいたなんて・・・」
「確かにそうじゃな。ミアキス相手に、ちょっと手を出してみた、なんて通用せんじゃろうしな」
 とか、リムとリオンが何やらまだ楽しそうに会話してるのを横目に見つつ、僕はドアの向こうの二人の様子をそうっと窺ってみた。なんだかすごいことしてたらどうしよう、と心配しつつ、まさか女王騎士の二人がそんな迂闊なことしないだろうと自分を励ましつつ。
 そしてドアの向こうでは、カイルがミアキスの太腿に這わせていた手を、ミアキスに抓られているところだった。
「カイルちゃん、わたしを前菜にするつもりなら、とめませんけどぉ?」
「・・・あ、あはは、やだなー、そんなことしないってー・・・!」
 焦ったようにカイルはミアキスからぱっと手を離す。僕はなんだか意外だなぁと思った。カイルは恋愛に関してならミアキスよりもずっと得意そうなのに、でもなんだかカイルはミアキスには敵わないように見える。それだけ、ミアキスがカイルに、よりもずっと、カイルがミアキスに夢中で本気、ってことなんだろうか?
 首を捻った僕の耳に、うしろからリムとリオンの会話が聞こえる。
「そういえばミアキスのやつ、午前中、料理の本とにらめっこしておったぞ。さっき、カイルに腹を減らしておくように言っておったし・・・」
「ということは、カイル様の為に今晩料理を作るんですね・・・!」
 何やら盛り上がっている二人の会話に、僕は再び意外だなぁと思った。あのミアキスが、まさか男の為に得意というわけでもない料理を敢えて作るとは。つまりそれだけ、ミアキスもカイルに負けないくらい、カイルに夢中で本気、ってことなんだろうか。
 うむむ、と思わず悩んでしまいそうになった僕は、耳に入ってきたミアキスの言葉にはっとした。
「さぁて、そろそろ姫様見付けましょおか!」
 ミアキスがぽんっと手を叩いて言ったと同時に、そういえばリムがかくれんぼしてる途中だったと思い出す。リム本人も忘れているだろうけど。
「リム、ミアキスがかくれんぼ再開するって!」
「・・・はっ! そうじゃった!!」
 やっぱり忘れていたらしく、リムは僕が教えると目を丸くしてから、隠れ場所を探して室内をきょろきょろ見回した。
「あ、そうじゃ兄上は・・・!!」
 そしてリムが言いかけた言葉がなんだったのかは、永遠にわからずじまいになってしまう。背後のドアが、勢いよく開いた。
「はぁい、姫様、見付けちゃいましたよぉ!」
「!!!」
 僕とリムとリオンは、揃って目を見開いて固まった。だって、僕たちがここにいるって知ってたら、最初から見付けにきてるはずで・・・。
「・・・み、み、ミアキス、気付いておったのか・・・!?」
 同じ疑問を抱いたらしく、リムがミアキスをぷるぷる震える指で差した。
「はぁい。女王騎士を舐めないで下さぁい!」
「それに、あんなに堂々と覗かれちゃ、誰だって気付いちゃいますよー」
 にっこり笑って言ったミアキスのうしろから、カイルも顔を覗かせて軽い口調であっさりと言う。
 それってつまり、見られてるのわかってて、二人はキスしてたってこと・・・? やっぱりこの二人って、何考えてるのかわからないや・・・。
 ついつい不思議なものを見る目を向けていた僕に、カイルが近寄ってきて、笑顔で耳打ちする。
「で、王子、どうでしたー? 勉強になりましたー?」
「・・・・・・はぁ、何が・・・?」
 たぶんきっと碌でもないことだろう、と思いながら聞き返してみると、カイルはやっぱり期待を裏切らなかった。
「もー、王子、言わせないで下さいよー!」
「・・・・・・・・・」
 僕の肩を叩きつつ、カイルは人差し指を唇に当てつつウィンクして見せる。・・・やっぱり、僕たちが見てるって知ってて、わざとキスしてたんだ。
「なんでそんなことしたの?」
「そりゃー、王子の後学の為ですよー。役立ったらいいなー、と思いまして!」
「・・・・・・」
 余計なお世話だよ、と僕は全力で言いたかったけど、抑えておいた。カイルは善意でやったんだろうし、それにちょっと癪だけど、もし僕に好きな子とかできたら、そのとき頼るのはやっぱりカイルになっちゃうだろうし。
「・・・でも、リムとリオンもいたんだから・・・ちょっと気が気じゃなかったんだよ?」
「そこは、王子が上手いことやってくださいよー。腕の見せ所ですねー!」
「・・・・・・・・・」
 僕は遠慮なくはぁーっと溜め息をついた。カイルは話してると楽しいけど、ときどきちょっと付いていけない。でもだからこそ、同じくよく付いていけないと思うミアキスと、ぴったり合うのかもしれない。
「まぁ、そういうわけでー」
 カイルは僕と、それからリムたち・・・というよりはミアキスになのかな、手を振って言った。
「オレはデートもあることだし、失礼しまーす。じゃあ、また!」
 口調だけはさわやかに言って出て行ってしまうカイルを、僕たちは当然納得出来ないものを感じつつ見送った。同じように笑顔で、はぁい、と見送ったミアキス以外は。
 それがまた僕らの納得出来ない思いを強めるわけで。
「み、ミアキス、よいのか!? で、デートとか言っておるぞっ!?」
 リムがとても聞き流せなかったようで、ずばりミアキスに問いただした。確かに僕から見ても、カイルはかなり不誠実な気がする。
 でもミアキスは、笑顔を崩さず、おもむろにリムをぎゅっと抱きしめた。
「だってわたしも、一番は姫様ですからぁ。お互い様なんですぅ!」
「・・・・・・むう」
 自分を理由にされ、リムはとっても複雑そうな顔をした。
「・・・・・・ええい、よくわからぬが、好きにするがよい!」
 リムは理解するのを諦めたようだ。僕も、それに倣うことにしよう。考えたところで、わかる気がしない。
 それが、僕が子供だからなのか、それともカイルとミアキスに原因があるのかは、わからないけど。
「さぁて姫様、今度は姫様がオニですよぉ!」
「そうじゃった! 兄上、リオン、おぬしらも一緒にやらぬか!?」
 さっきまでの出来事などなかったかのように、リムは無邪気な笑顔を僕に向けてきた。
「王子、どうします?」
「うん、そうだね・・・」
 僕はちょっと迷う。でも、このあと、特に予定はないし・・・。
「たまには、いいかもね」
「そうじゃろう!!」
 リムが嬉しそうに跳ね上がって腕にじゃれ付いてくるから、僕はつい笑顔になった。リムのこんな顔を見れるなら、やって損はない。それに。
 かくれんぼっていう子供っぽい遊びが、まだ僕にはちょうどいい気がするし、ね。




END

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ミアキスが料理作ってるとき、カイルはデートしている、と考えると釣り合ってない気もしますが。
でもミアキスが料理に何か仕込まないはずもなさそうなので、おあいこかな。
あ、しかし、ミアキスにとってリムが一番なら、カイルにとってはサイアリーズが一番だから、やっぱり釣り合ってない…?
(もうよくわからない…)