LOVE BEHIND
ビュッデヒュッケ城ののどかな昼下がり。
武術指南所へと繋がる石段に座って、柔らかな陽の光を浴びながらジョー軍曹は毛繕いをしていた。そんなとき。
「・・・一つ聞きたいんだが」
突然うしろから影と共に掛かった声に、軍曹は手をとめて振り返った。そこにいるのは、その声と同様に疲れを滲ませた表情をしているゲドだ。
「・・・・・・ヒューゴのことか」
その用件にすぐに見当が付いた軍曹は、見事な手羽で自分の隣を指した。
「まあ、ここに座れ。そこに立たれると日が当たらなくなる」
「・・・ああ」
ゲドは言われた通り、軍曹の左隣に座った。
「・・・で、ヒューゴのやつがなんだって?」
「・・・・・・あいつは・・・」
軍曹に促されて、ゲドは口を開いた。そして、至極真面目な表情で問う。
「・・・どうして、ああ、なんだ?」
失礼な言い様だが、ゲドには他にどう表現していいかわからなかったのだ。ヒューゴの教育係兼保護者を自任している軍曹も、それがわかったのだろうか、ヒューゴの為にそこをつっこむなんてことはしなかった。
しかし、かといって、軍曹が返したセリフといえば。
「・・・苦労しているみたいだな」
という、まるで他人事のような呟きだけだった。
ゲドは軍曹に恨めしそうな視線を送る。まるで、お前の教育が悪い、とでも言いたげに。
軍曹はその視線を受けて、多少のきまりの悪さを感じながらも、ハッキリ告げた。
「・・・でも俺は、あいつの育て方を間違ったとは思わないぞ」
「・・・・・・まあ、それは」
確かに、ヒューゴは真っ直ぐな良い子だ。彼の元々の性質と、そしてルシアや軍曹の教育の賜物だろう。それはゲドも認める。
だが、ヒューゴのそんな部分こそが、今ゲドを悩ませているのもまた事実なのだ。
「・・・しかしな、余計なことは吹き込まないでいいだろう」
ゲドは暗に、ヒューゴのゲドへの想いが恋愛感情だと教えた軍曹を非難する。しかし軍曹は、どこ吹く風といったかんじで切れ長の目を細めた。
「俺は余計なこととは思わんよ。自分でもわからないまま、変に暴走するよりはいいだろう」
「・・・・・・」
長年ヒューゴの側にいた軍曹が、今のヒューゴが暴走していないと言うのなら、果たして暴走したヒューゴは一体どんなにすごいのだろう。それを想像したゲドは、軍曹の考えが正しい気が少ししてしまった。
言い返せないゲドに、軍曹はさらに続ける。
「でも、ヒューゴはあれで諦めることも知ってるやつだぞ。思い切り突っぱねればいいんだ。本当に、嫌ならな」
「・・・・・・・・・」
ゲドはまたしても即答出来なかった。
そして、しばらくして、やっと搾り出すように口を開く。
「・・・・・・苦手なんだ・・・昔から・・・ああいうタイプは・・・」
「勢いがあって、自分のペースに乗せるのがうまいやつか。・・・英雄もそうだったのか?」
軍曹の口から予想外の人物の名が挙がり、ゲドは眉間の皺を深くした。
「・・・・・・もしかして、筒抜けなのか?」
「だいたいな」
おそるおそる尋ねるゲドに、軍曹はカラッと答える。
「聞いてもいないのにいろいろと教えてくるんだ。ときには怒ったように悔しそうに、ほとんどが、そりゃもう嬉しそうに」
「・・・・・・・・・」
「そろそろ、結論を出してやってもいいんじゃないか?」
軍曹は、親心だろうか、ゲドを窺うように見て言った。
するとゲドは、やや下を向いて黙り込んでしまう。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・ま、お前さんたちは、これからまだまだ時間があるんだから、そう焦ることもないか」
ゲドが意地悪で返答を先延ばししているわけではないことは承知しているので、軍曹はだいぶ言を和らげる。
それを空気としても感じたのか、ゲドはそっと息をはいた。
「・・・・・・・・・にしても」
そして、毛繕いを再開した軍曹にゲドは気になっていたことを聞いてみる。
「普通は反対するなり諭すなりしないか? 仮にも跡継ぎなんだろう? ルシア族長も「ヒューゴのことは頼んだ」とか言ってくるし・・・」
ゲドはよっぽど不思議だったのか、普段なかなかお目に掛かれない長台詞を口にした。
「いびられるよりはいいだろう」
「・・・・・・。アイラはアイラで、「どっちが花嫁になるんだ?」って真面目に聞いてくるし・・・。カラヤは一体どうなってるんだ・・・」
真剣に訝しんでいるらしいゲドに、軍曹はダック女性なら一発でメロメロになるような笑顔を向ける。
「ははは。どうもなってないさ。ただみんな、ヒューゴのことが好きで、それからあんたのことも好きで、だから二人がうまくいくのが嬉しい。単純なことさ」
「・・・・・・・・・」
「もちろん、この俺もな。同じ気持ちだよ」
優しい口調で語る軍曹に、ゲドもそう言われてしまうと嬉しくないことはない。
「まあ俺は、ヒューゴからいい報告が聞けるのを楽しみにしてるさ」
「・・・いや、それは」
どうだろう、とゲドが続けようとしとたき、ふと二人(一人と一匹)はうしろに気配を感じた。隠しているつもりだろうが、歴戦の戦士である二人には木陰に隠れたその存在に気付くなど容易いことなのだ。
「誰だ?」
しかしまあ、敵がなんらかの情報を得ようと潜入したのなら、明らかに関係ないことを話しているこの二人の会話を聞いてはいないだろう。
なので敵意も殺気も向けずに軍曹が問うと、少し離れた木のうしろから、その人物は飛び出してきた。
「すいません、スクープの匂いがしたものでっ!」
新聞屋のアーサーは、ガバッと頭を下げて一応の謝罪をすると、すぐにゲドに詰め寄る。
「で、どうなんですか!? ヒューゴくんとそろそろくっつくんですか!!??」
「・・・いや、それは」
目をキラキラさせたアーサーに、ゲドは下手に何か言ってはいけないと思い言いよどむ。
「ね、どうなんですか!? このネタを逃すわけにはいかないですからねっ! すごいスクープになりますよ! あぁ、反響もすごいんだろうなー。喜ぶ人もいるだろうけど、悔しがる人も多いんだろうな。知ってます? ゲドさんのこと狙ってる人多いんですよ。ヒューゴくん、ますます敵が多くなるだろうな。炎の英雄がそんなんで大丈夫ですかね?」
アーサーは好奇心と興奮を隠さずに、息継ぎなしに捲くし立てる。それに対してゲドは、
「・・・・・・・・・・・・」
アーサーの勢いに少し圧されているのもあるだろうが、黙秘権を行使することにしたようだ。
「ゲドさん! どうなんですか!?」
「・・・アーサー、記事のネタが欲しいなら」
それでもなお追求しようとするアーサーに、軍曹が空を指しながら声を掛ける。ゲドへの助け船なのだろう。
「あれなんかどうだ? 「グリフィンと竜、早いのはどっちだ」とか」
軍曹の手の先には、
「「キュイイイイインンンン!!!」」
と、競うように空を飛ぶフーバーとブライトの姿。獣同士通じ合うものがあるのか、この二匹は近頃よく一緒にいるようだ。
軍曹が手を振ると、フーバーは気付いてすぐ側に着陸し、ブライトもそれに続く。しかしアーサーは、二匹に向かって首を振った。
「うーん、いいですけど、でもちょっと弱いかなぁ」
すると軍曹は、今度は前の道を丁度通り掛った男女二人組みを指す。
「それじゃ、あの二人なんて、どうだ? 「熱愛発覚、なんとあの二人が!」とか」
アーサーが視線を向けると、そこには親しげに話をしながら歩く、フッチとアップルの姿があった。
「あっ、本当だ! 女っ気がないと思っていたフッチさんに、どうやら離婚歴があるらしいアップルさん。気付かなかったなぁ! これはいい記事が書けそうだ!」
アーサーは興奮で目を輝かせてはしゃぐ。二人もこっちに気付いたようで、進路を少し変えて歩み寄ってきた。
「こんにちは。今日はいい天気ね」
穏やかな笑顔で話し掛けてくるアップルに、アーサーは挨拶も返さずたたみ掛ける。
「いい雰囲気ですね、お二人とも! 一体いつからお付き合いしてるんですか!? キッカケは!? 告白はやっぱりフッチさんからですか!?」
その勢いと内容に、フッチとアップルは一瞬フリーズしてしまった。しかし、引き続き固まったままのフッチと違って、アップルはすぐに立ち直って微笑む。
「アーサーくん、残念だけど違うのよ。フッチさんとは誼があってね。偶然さっきそこで会って、昔話に花が咲いていただけなの」
「なぁんだ」
アップルがごまかしているようにも見えないので、アーサーはガッカリした。
「ごめんなさいね、期待に応えられなくて。でもね」
ハァと溜め息をつくアーサーに、アップルはフッチのほうを見て意味深に笑う。
「フッチさんのタイプは、私みたいな人じゃないから。ね、フッチさん」
「え!?」
ブライトに摺り寄られてやっと正気に返っていたフッチは、突然話を振られて驚いた。それから、アップルの言葉の意味を理解して、今度は動揺する。
「な、なんのことかなあ・・・っ!!」
適当に流そうとしてそれに失敗するフッチを他所に、アーサーとアップルはその話題を続ける。
「アップルさん、フッチさんの好みのタイプ知ってるんですか? 教えてくれたら、相手を新聞で募集することも出来ますよ」
「あら、それはいいかもしれないわね。あのね、フッチさんが好きなのは、頼りがいがあって物静かで・・・」
「ア、アップルさんっ」
アーサーの提案にアップルがペラペラ喋り出すので、フッチは焦った。
そしてどうにか話題を変えようと口を開きかけたそのとき、彼は現れた。残念ながら、フッチの助けになるような人物では全然なかったのだが。
「あ、いたっ!!」
威勢のいい声に、アップルもアーサーもつい口を噤んでその方向に目を遣る。その人物に、助かったと思ったのも束の間、フッチはすぐさまブライトに乗って逃げたい気分になった。
「・・・・・・フレッド」
しかし人の手前そんな情けないことも出来ず、フッチはフレッドが目の前に来るのを待つしかなかった。
フレッドは、そんなフッチの気も知らず、いつもの高いテンションで切り出す。
「フッチ、さあ練習するぞ!!」
「・・・だから、僕は嫌だって言ってるだろ」
フッチは本気で嫌そうに返すが、フレッドはそんなこと気にしない。
「何を言う。この攻撃にはお前が必要なんだ!!」
「そんなことないだろ・・・。他を当たってくれよ」
拳を作って力説するフレッドに、フッチはいつものように断固拒否をしていた。ここ最近ずっと、フッチとフレッドの間でこのいたちごっこが続いているのだ。
ただ、今回はいつもと状況が違った。
「フレッドさん、なんのことですか?」
好奇心を隠さず問うたのは、またしても瞳をキラキラ輝かせたアーサーだ。
するとフレッドは、嬉しそうにアーサーにガバッと向き直る。
「よくぞ聞いてくれた! 実は、こいつと協力攻撃をすることになってな」
「・・・なってない」
「だが、こいつがちっとも練習に参加しなくてな」
「だから、僕はやるとは・・・」
フッチはいちいち口を挟むが、しかしことごとく無視される。
「そうだ、攻撃名を決めかねているんだ。新聞で募集してくれ!」
「なるほど。お安い御用ですよ!」
「おい、だから・・・」
かってに話が進んでいくので、フッチはだんだん焦ってくる。しかし、ゲドにとっての軍曹のように、フッチに助け船を出してくれる人は残念ながらこの場にいなかった。
「そうね、美青年攻撃はどうかしら? 今回はまだないし。二人にピッタリだと思うわよ」
「ア、アップルさん・・・」
アップルまで悪乗りしてくるので、フッチはなんだか眩暈がしてきた。しかしフッチはなんとか、話がこれ以上悪いほうに行かないように頑張る。結果的には全くの徒労なのだが。
「なるほど。いいじゃないか、強そうで」
「・・・そうか? それに、僕はそんな柄じゃないし」
「何言ってるの。十五年前は立派に美少年攻撃の一員を努めていたじゃない」
「うっ」
話の進行を阻止するどころか、フッチにとって触れられたくない過去まで出てきてしまう。
「そうなのか。15年前というと、フッチは14歳か・・・」
「それはもう、かわいかったのよ。今よりずっと華奢でね」
「・・・・・・とにかく! 美青年なら僕よりも相応しい人が他にもいるでしょう!」
フッチは必死に訴えるが、フレッドは意に介さず首を傾げる。
「そうか? お前はどこから見ても美青年だ。オレはお前以外に考えられないぞ!!」
フレッドは非常に真剣な表情で、フッチの顔を覗き込んだ。
「・・・そ、そんなこと言われても・・・っ」
練習に参加させたいが為の方便だろうと思っても、フッチはちょっと動揺してしまった。
そしてその隙を逃さず、話はさらに進行していく。
「でも、メンバーがあと一人いるわね。美青年っていうと・・・」
「鉄頭によさそうなのがいるな」
「鉄頭・・・ああ、ゼクセン騎士か。それはだめだ」
何気なく会話に参加した軍曹に、フレッドがダメ出しする。
「何故?」
「あいつらは、オレとキャラがかぶる」
「・・・・・・・・・」
それは全くの杞憂だ。とは、面倒なので誰もつっこまなかった。
「サポートのやつをどうにか使えないだろうか」
「確かにバーツやマイクなんかはぴったりだな」
「でも、残念だけど、ちょっと無理かしら」
「なんだったら、あと一人を新聞で募集しましょうか?」
「おお、それがいい!」
どうやら、話がまとまったようだ。
「よし、さあフッチ! さっそく練習するぞ!!」
フレッドは張り切ってフッチのほうを向く・・・・・・と、しかしそこにフッチの姿はなかった。
「・・・ブライトの散歩に行くとか」
これまで傍観者を決め込んでいたゲドがポツリと教える。フレッドが慌ててその方向を見れば、すでに米粒ほどの小ささになっているフッチの姿が。
しかしながら、これしきのことでへこたれるフレッドではない。
「ふっ、オレから逃げるのは不可能だぜ!!」
フレッドはすぐさまあとを追って駆け出した。人間と竜なのでさすがに追い付けないだろうが、それも一時しのぎに過ぎないだろう。フランツを加え美青年攻撃が完成してしまうまで、もうあと数ヵ月・・・。
という未来の話は措いといて。
フレッドが走り去ったのと交代するように、小さな人影が近付いてきた。そのまま通り過ぎるのかと思われたが、しかしある人物に目を留めて急ブレーキを掛ける。
「あっ、ゲドさーん! こんにちはっ!」
少し前に話題にのぼっていたヒューゴだ。
ヒューゴはゲドに向けて笑顔で挨拶する。それから、やっと存在に気付いたのか残りの人にも目を遣った。
「あ、フーバーと軍曹とアップルさんとアーサーも、こんにちは」
「・・・お前な」
オマケのように扱われた軍曹は、呆れた目線をヒューゴに向ける。だがヒューゴは全く構わずに、手に持っていたものをゲドに差し出した。
「ゲドさん、これどうぞ。今さっき通り掛ったときにバーツさんがくれたんです。食べて下さい!」
そう言ってトマトを差し出すヒューゴの表情を、ゲドを含めその場にいる人は思わず凝視した。
石段の中ほどに座るゲドを、ヒューゴは上目遣いで見上げている。そのヒューゴの瞳が、輝くというよりうるんでいる気がするのは、目の錯覚だろうか。
「・・・・・・ヒューゴ、何やってるんだ?」
軍曹がおそるおそる聞いたが、ヒューゴはそれを無視してゲドに顔を向けたまま口を開く。
「ゲドさん、どうですか?」
「・・・・・・どうとは?」
ゲドもなんとかおそるおそる聞いてみた。するとヒューゴはやはり同じ表情のまま言う。
「今日、オレと一緒に寝ませんか?」
「・・・・・・・・・は?」
ゲドにも軍曹にも誰にも、ヒューゴの言いたいことが理解出来ない。
「何言ってるんだヒューゴ。悪いものでも食ったのか?」
見兼ねた軍曹がヒューゴのおでこに手を当てて首を捻った。
「・・・熱はないようだな」
「ひどいな、軍曹」
ヒューゴはやっと表情を変えて、口を突き出して軍曹を見る。それからまたゲドに目を戻し、ゲドが静かに困惑しているのを確認すると、盛大に溜め息をついた。
「なんだよ、シーザーのやつ。偉そうに教えてくれたくせに、全然効かないじゃないか」
「・・・」
そりゃたぶんシーザーの教えが悪いんじゃなくてお前の実践の仕方が悪いんだろうよ、と軍曹はひっそり思ったが、口には出さなかった。
「ごめんなさいね。あの子、まだまだひよっ子だから」
そしてアップルが、わかっているのかいないのか、シーザーに代わって謝る。
「えっ、ううん。・・・あ、アップルさん」
アップルに謝罪されるのは居心地悪いのだろう、首を振ったヒューゴは、ふと何かを思い出したらしく続けて尋ねた。
「アップルさんは知ってますか? シーザーの好きな人が誰か。シーザー教えてくれなくて」
「シーザーの好きな人?」
予想外の質問にアップルは驚いた。そして、アーサーは予想通り食いつく。
「シーザーさん好きな人いるんですか? 誰なんですか? 知ってるんですか!?」
アーサーはすごい勢いでアップルに詰め寄った。それに対してアップルは、読めない笑顔を浮かべる。
「ノーコメント、にさせてもらうわ。悪いけど」
「ええーっ」
不満そうなアーサーとヒューゴだが、アップルは構わない。
「そういえば、シーザーを探していたんだったわ。またどこかでサボっているんでしょうけど」
「あ、シーザーならレストランの向こうの辺で寝てますよ」
さっきまで一緒にいたらしいヒューゴが教える。
「そう、ありがとう」
「でね、悪い夢見てるのかもしれないから、早く起こしてあげたほうがいいかも」
「そうなの?」
「うん、寝言でお兄さんのこと呼んでたから。仲悪いんですよね?」
ヒューゴが首をちょっと傾げると、アップルは益々得体の知れない笑顔になる。
「あらまあ、だったら当分放っておきましょうか」
「え、起こさないの?」
ヒューゴがさらにもうちょっと首を傾げると、軍曹が思わずといったようにつっこむ。
「というか、お前こそどうして起こさなかったんだ?」
すると、ヒューゴはカラッと答える。
「だって、せっかく寝てるんだし」
「・・・・・・・・・」
やっぱり微妙に教育を間違ったかもしれないと思う軍曹だった。
「まあ、一応様子を見てくるわ。それじゃ」
アップルは軽く会釈をして、レストランの方向に歩いていった。
「にしてもヒューゴ、シーザーに一体何を聞いたんだ? 軍師殿の優秀な頭脳を無駄遣いさせるなよ」
「それは・・・・・・」
ヒューゴはちょっと考え、相談をしに行ったそもそもの理由を思い出して言葉を詰まらせる。
「い、いいじゃないか、そんなこと。それより」
ヒューゴは軍曹を押しのけるようにしてゲドの隣に座り、ニッコリ笑って見上げた。
「ゲドさん、おいしいですか?」
「・・・ああ」
また会話には加わらず取り敢えずトマトを齧っていたゲドは、聞かれたので素直に答える。
「オレにも一口下さい」
するとヒューゴはそう言って手を差し出してくるので、ゲドは食べ掛けのそれを渡した。そしてヒューゴが同じように齧り付くと、アーサーが途端に反応した。
「あっ、間接キスっ」
少し顔を赤くしてるアーサーに、ヒューゴは笑って返す。
「間接キスくらい、もうどうってことないもん」
「えっ、どういうことですか?」
「オレとゲドさんは、なんと!」
「なんと!?」
「キスしたことありますから!」
「ええっ、すごいですね!!」
瞳を輝かせるアーサーに、ヒューゴはえへんと胸を張った。
「・・・・・・・・・」
一体何を言い出すのかと思っていた軍曹は、そういえばヒューゴに「好きな人にはキスをする」と教えたのも自分だったと思い出す。
軍曹は遠い目をして、その目つきのままゲドを見た。
「・・・・・・そういえば、その節はすまんかった」
「・・・・・・・・・」
ゲドもまた、ちょっと遠い目をした。
「え、なんの話? ずるいよ軍曹!」
「いや、お前らはまだ十五歳なんだなぁと思っただけさ」
「?」
ヒューゴはなんのことかわからず首を傾げ、しかし気にしないことにした。
「・・・ま、とにかくさ、あとちょっとでゲドさんと見事にくっついてみせるから! ね、ゲドさん!」
「・・・・・・・・・」
ヒューゴは無駄に自信に溢れながら見上げてくるが、ゲドは視線を逸らしてノーコメントにさせてもらった。
しかしアーサーは、どうやらそれを肯定だと思ったらしい。
「へえ、そうなんですかっ。さっそく記事にしますねっ!」
アーサーは言うなり、原稿を書く為だろう、駆けていった。
それを見送った三人(二人+一匹)は、三者三様な反応をする。
嬉しそうなヒューゴ、どこか済まなそうな軍曹、そしてなんだか諦めきっているようなゲド。
「ゲドさん、明日からオレたち益々公認ですねっ!」
明るい日差しの中、ヒューゴだけがその太陽と同じように眩しい笑顔だった。
END
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さりげなく軍曹の喋り方がよくわかりませんでした。
ヒューゴ、すごいアホな子にして済みません。
でも、あと少しでくっつきそうですよ。たぶん。
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