LOVE CLOSE
武術指南所に向かっていたヒューゴは、ふと足をとめた。
視界に入ったのは、黒い毛並みの子猫。陽を浴びながら、悠然と毛繕いをしている。
「・・・猫かぁ」
ヒューゴはそーっと目の前にしゃがみこんで、その猫を見つめた。
何匹も連れ帰るくらい、ヒューゴはどちらかといわなくても犬派だ。だが、どうやらゲドは猫派らしいのだ。
それを知って以来、ヒューゴはどうしても猫が気になるようになってしまった。
「まぁ、かわいいけどさ」
ヒューゴは言いながら少し首を傾げる。
目の前の猫は、ヒューゴの視線など気にも掛けずにまだ毛繕いを続けている。これが犬なら、きっと構って欲しそうに寄ってくるだろう。
ヒューゴはそっと手を伸ばして、警戒されないようにその頭を撫でてみた。猫はちらりとヒューゴのほうを見て、すぐに関心を失ったように逸らす。
なんだかそれが悔しくて、ヒューゴは今度は喉を撫でてみた。すると、ゴロゴロと気持ちよさそうに鳴きだす。
「へへっ」
嬉しくなって、ヒューゴは抱き上げようと両手でその体を掴もうとした。しかし、猫は素早い動きでそれをかわす。両手を広げたままの体勢でしばらく待ってみても、寄ってくる気配は全くない。それならばと、素早さなら猫にも負けない自信があるヒューゴは、逃げようとするより早く強引に引き寄せた。が、腕に収まったのも一瞬で、鋭い爪で引っかいてからヒューゴが怯んだ一瞬の隙に逃れてしまう。
そして猫は、数歩歩いて、また何事もなかったかのように毛繕いを再開した。
犬は無邪気に人に懐き、従う。だが、猫は決して、人に馴れもへつらいもしない。
だから猫より犬のほうが好きだったヒューゴは、しかし今までとは違う思いになる。
「・・・なんだか、猫って、ゲドさんみたいだ」
素っ気なくて、人に興味がなさそうで、寄せ付けない雰囲気があって。
「だから猫と気が合うのかな・・・」
言いながら、ヒューゴはもう一度、猫との距離をそっと詰めた。
すげなくされるとわかっていても、それでも、手を伸ばさずにいられない。構わずにはいられない。愛すべき、生き物。
「ほんとに、ゲドさんみたいだ」
慎重に伸ばした指は無事に猫に届く。
真っ黒で、陽を受けて艶やかに光る、その毛並み。
「この毛も、ゲドさんみたい」
ヒューゴの頬は自然と緩む。
「オレ、犬好きだけど、やっぱり猫も好きかも」
現金だなと思いながら、それでもヒューゴにとって猫はちょっと特別な動物になってしまった。
「へへへ、かわいいなぁお前」
ヒューゴは嫌がられないので、嬉しくなって何度もその頭を撫でる。
すると、不意に、猫がヒューゴの手を首を振って払った。そしてそのままどこかへ去るのかと思えば、逆に自らヒューゴに近付き、その指をぺろりと舐める。
「おっ?」
驚くヒューゴに構わず、子猫は今度は指に頬をすりよせた。
髭が少しチクリとするが、そんなこと気にならないくらいヒューゴは嬉しくなる。
猫だって、人に懐くこともある。気を許すことだってあるのだ。好意を持って接すれば。
「・・・そうだよね」
最初はとっつきにくくて堪らなかったゲドとも、今では何気ない会話を交わすことが出来るようになっている。
距離は、確実に近付いているのだ。
「うん、やっぱり、猫も好きだな」
ヒューゴは子猫がじゃれ付いてくる反対の手で、また喉元を優しく撫でた。
「ゲドさんのほうがもっと好きだけど・・・」
言ったヒューゴは、なんだかくすぐったい気分になる。
「・・・なんてね」
ごまかすように少し強めに頭を撫でると、子猫はニャーときれいな声で鳴いた。
END
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片思いしてるヒューゴって、何故か妙に幸せそうだ・・・
猫にかわいいって言ってるヒューゴのほうこそかわいいよ
って話でした (ぇ)
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