LOVE CONCLUSION



 ヒューゴがあの決意をしてから一週間ほど。
 ヒューゴは以前以上に真面目に取り組んでいた。もちろんその間、シーザーが言った通り、ゲドとの接触は最低限に抑えている。
 ヒューゴは正直、ゲドと接しないことが思っていた以上につらくて、何度もへこたれそうになった。
 だが、そんな思いをどうにか抑えて、ヒューゴは頑張っているのだ。シーザーの心配は、今回は杞憂だったようである。


 この日、ヒューゴは仲間を連れての数日掛りでの遠征から帰ってきたところで、昼食をとろうとレストランに向かっていた。
 その途中で、軍曹に出会う。
「あ、軍曹」
「よう、ヒューゴ。久しぶりだな」
 軍曹もレストランに向かっているらしく、二人は並んで歩きだす。
「・・・ねえ、軍曹。最近のオレの評判はどう?」
 ヒューゴは、ちゃんと英雄として頑張っているように見えているか気になって、尋ねてみた。すると軍曹はくちばしの下に手羽を当てて考える。
「そうだなぁ・・・ああ」
「何?」
 何か思い出したらしい軍曹に、ヒューゴはちょっと期待して続きを促した。なので軍曹は、笑いながら教えてやる。
「お前、最近ゲドにまとわり付いてないだろ。早くも冷めたのかって、噂だぞ」
「何それ、冷めてないよ!」
 ヒューゴはビックリして慌てて否定した。それから、期待はずれのその内容にガックリする。
「そんな噂しかないんだ・・・」
 そんなヒューゴの横で、軍曹は何か思い出したようでポンと手を叩いた。
「そうだ、ゲドといえば、昨日お前がいつ帰ってくるかって聞いてきたな。今日の昼くらいだろうって答えておいたが」
「えっ、本当っ!?」
「ああ」
 やはり予想外だが、今度は嬉しい知らせに、ヒューゴはパーっと顔を明るくした。
「軍曹、そういうことは早く言ってよー!」
 ヒューゴは遂に作戦成功したのかと、ウキウキする心を抑えられない。
 そんなヒューゴを、軍曹は不思議そうに見上げた。
「どうした? 会いに行かないのか?」
「うん、オレから行ったら意味ないもん」
「?」
 ヒューゴのことだからすぐにでもゲドのところに向かうと思った軍曹は首を傾げる。しかしヒューゴは軽い足取りではあるが、そのままレストランへと歩いていった。


 ヒューゴが海老フライランチを食べ終え、試しに爆弾アイスを食べてみていたとき。
「・・・・・・ヒューゴ」
 うしろから突然名を呼ばれ、ヒューゴは心臓が飛び出しそうになった。それは驚いたからではなく、その声が今か今かと待ち焦がれていたゲドのものだったからだ。
「・・・・・・話がある。今いいか?」
 ゲドは振り向いたヒューゴを見下ろして、遠慮がちに問い掛ける。ヒューゴは「もちろん!」と答えたいのを抑えて、なるべく冷静な声で答えた。
「あ、はい、大丈夫です」
 するとゲドは黙って方向転換をし、レストランから出ていく。ヒューゴは慌てそうになって、しかし平静を装ってそのあとをついていった。
 ゲドは交易所や畑を通り過ぎて牧場方向へ、ヒューゴを振り返ることもなく歩いていく。
 ヒューゴはそんなゲドの背中を見つめた。こうして近くにいるのも久しぶりで、それだけでヒューゴの心は弾む。それに加えて、こうして初めてゲドのほうからヒューゴに声を掛けてくれたのだ。シーザーの作戦が成功したのかと、ヒューゴの心は期待で躍りだしそうになった。しかし今自分の方からゲドに飛び付いては意味がなくなるので、ヒューゴは我慢する。
 そんなふうにヒューゴが落ち着かない気分を外に出さないよう心掛けているうちに、ゲドは鍛冶屋と牧場の中間辺りで足をとめた。
 しかし切り出しにくいのか、ゲドは何度か口を開くものの、そこから言葉がなかなか出てこない。そんな様子も、ヒューゴの期待をいやおうなしに高めていく。
 そしてゲドは、ヒューゴと目を合わせないまま、やっと話し始めた。
「・・・・・・この間は、悪かった」
「・・・・・・・・・・・・は?」
 ヒューゴの期待に反して、ゲドの口から出てきたのは謝罪の言葉だ。余りにも予想外で、ヒューゴは思考が停止してしまう。
「・・・?」
 ゲドはヒューゴから反応が返ってこないので、訝しんでヒューゴのほうを見た。なのでヒューゴは慌てて抜けた表情を引き締める。
「え、えっと、気にしてないですよ」
 なにがなんだかわからないまま、ヒューゴは取り敢えずそう答えておいた。
 そしてそれから、「炎の英雄としての云々」発言を詫びているのだろうとやっと気付く。
「ほ、ほら、ゲドさんの言ったことも当たってるところあるし」
 ゲドの前では、シーザー曰く「バカばっかりやってる」、という自覚が確かにあるので、ヒューゴは続けてそう言った。
 しかしゲドは、またヒューゴから目線を逸らしながら、躊躇いがちに口を開く。
「・・・違う、そうじゃない」
「え?」
 話が見えないヒューゴに、ゲドはますます気後れしたかんじで、話した。
「言いづらいんだが・・・・・・あれはただの・・・八つ当たりのようなものだ」
「・・・へ?」
 ゲドがヒューゴのほうをチラッと窺ったが、今度は抜けた表情を隠すことが出来ない。ヒューゴはゲドのあのときの言葉と八つ当たりという行為が結び付かず、どういうことかと首を傾げた。
 そんなヒューゴの視線に、ゲドは決まりが悪そうに目を伏せる。
「詳しくは・・・言えないが、お前に非はない」
 それからゲドは、ちゃんとヒューゴのほうを向き、真っ直ぐ目を合わせた。
「俺は、お前がちゃんと英雄たらんとして努力していることを知っている。それなのに・・・」
「・・・・・・」
「・・・本当に、すまなかった」
 真剣に謝るゲドに、今度はヒューゴのほうが居心地が悪くなってくる。
「あ、あの、もういいですよ」
 そして動揺したままのヒューゴは、どうして八つ当たりしたくなったのかを追究するのを残念ながら忘れてしまった。代わりに、自分を責めている様子のゲドに、気にすることないと声を掛ける。
「ほら、たまにはそんなこともありますって。人間なんですから、ね!」
 そして、自分が何を言ってるかよくわからないままヒューゴは、さらによくわからない流れで締める。
「オレはそんなゲドさんも好きですよ!」
 もはやノリとしかいいようがないが、しかしヒューゴのその言葉も笑顔も、偽らざる本物だということは明白だった。
「・・・・・・そうか」
 ゲドは僅かに目を見開き、それからふうっと息をはく。どうやら気が晴れたらしい様子のゲドに、ヒューゴもホッとした。
 ホッとして、それから、ヒューゴは違和感を感じて「あれ?」と思う。少し考えて、ヒューゴはハッと思い出した。
「・・・も、もしかして、話ってこのことですか?」
「ああ」
 答えたゲドは、見るからにスッキリしているようだ。
 ヒューゴはガクッとした。もしかしたら、「お前のことが好きだと気付いた」くらい言ってくれるかもしれないと思っていたのだ。
 しかし今冷静に考えると、ゲドがそんなことを言うはずもない気がしてくる。ヒューゴはそんな甘い期待をした自分の単純さをこっそり反省した。
 だが、期待はずれだったことがわかっても、ヒューゴの気分はそんなに落ちない。
「でも、よかったです。ゲドさんに不真面目なやつだと思われてたんじゃなくて」
 ゲドに嫌われたかもしれないと思っていたヒューゴだ。八つ当たりであれなんであれ、あの言葉が本気でなかっただけでヒューゴはよかったと素直に言えた。
「・・・悪かった」
「いいですってば。それに、もしゲドさんがほんとにそう思ってたとしても、見直してもらえるように頑張るだけですから!」
 ここ一週間ほど正にそれを実践していたヒューゴは、明るく笑って答える。
 するとゲドは、そんなヒューゴを見て、少し目を細めた。
「・・・ジンバの言った通りだな」
「・・・どうしてジンバが出てくるんですか?」
 ゲドの言葉に、ヒューゴは微妙な気分になる。ゲドとジンバは、いつどこでどうやって知り合ったか知らないが、旧知の間柄らしいのだ。しかも、かなり親密な。
 だから自然ともやもやしながらヒューゴが尋ねると、ゲドはそんなヒューゴの心中など知るはずもなく答える。
「少し・・・話を聞いてもらった。お前のことを、強い子だと言っていた」
「・・・なんか複雑・・・」
 ジンバのことをカラヤ戦士として尊敬しているヒューゴだが、ゲド経由でそんなことを言われると、喜んでいいのかどうかよくわからなくなった。
 しばらくは言葉の通り複雑そうな表情をしていたヒューゴだが、しかしすぐにまた明るい顔に戻る。
「まあ、いいや。褒められたんだろうし」
 そしてヒューゴは、改めてゲドを見上げた。
 ホッとしたりガッカリしたり喜んだり微妙な気分になったりしてつい忘れていたが、こうしてゲドと過ごすのはおよそ一週間ぶりなのだ。
 しかもゲドにいい加減なやつだと思われていないとわかったのだから、話し掛けるのにもうなんの躊躇いもなかった。ヒューゴはどうやら、シーザーの「押して駄目なら引いて」作戦のことは忘れてしまったらしい。シーザーの心配通り、ヒューゴはまたもやせっかくの策を活かしきることが出来なかった。
 しかしヒューゴはそんなことに気付かず、上機嫌でゲドに話し掛ける。
「ゲドさん、こうして話するの久しぶりですね」
「・・・ああ、そうだな」
 ゲドはその事実に今初めて気付いた、というわけではなさそうに答える。ヒューゴはそんなことでも嬉しくなった。
「知ってますか? オレがゲドさんに飽きちゃったって噂もあったみたいですよ。あ、もちろんそんなことないんで、安心して下さいね!」
「・・・・・・そんな心配してない・・・」
「そうですか? オレって信用あるんですね!」
「・・・・・・」
 ゲドはちょっと呆れたようにヒューゴを見た。だが、こんなやり取りこそ距離が近いからこそだと思って、ヒューゴは益々嬉しくなる。
「でもこの一週間くらい、ゲドさんと話せなくて寂しかったです。ゲドさんもちょっとは寂しかったですか?」
 聞きながらヒューゴはきっと否定されるのだろうなと思った。しかしゲドは微妙な顔をするだけで、何も言わない。
「・・・え、本当に? ゲドさんも寂しかったですか!?」
「・・・寂しくは・・・ない。ただ、・・・調子は狂ったな」
 予想外で期待以上の返答に、ヒューゴは嬉しくて堪らなくなった。そんなヒューゴの様子に、ゲドは心配になったのか付け加える。
「少しだけ、だぞ」
「それでも充分です!」
 ゲドの修正に、しかしヒューゴの嬉しい気分はちっとも変わらない。
 そしてヒューゴは、気が大きくなったついでに、今まで聞けなかったことを聞いてみた。
「・・・昔の炎の英雄って、どんなだったんですか?」
「・・・どんなとは?」
 ヒューゴの唐突な質問に、少し面食らいらながらゲドは問い返す。
「えっと・・・」
 それにヒューゴは、答えようとして、躊躇った。
 彼が「英雄」としてどうだったのかを聞こうかと思ったのだ。だが、いざとなると聞くのが怖くなる。
 五十年前、ゲドは英雄と付き合っていたらしい。ということは、ゲドにとっての英雄を超える為には、「英雄」として彼を超える必要があるとヒューゴは思っていたのだ。
 しかし、まだ自分が「英雄」として英雄に遠く及ばないことは、ヒューゴ自身が一番よく知っていた。
「・・・あのですね」
 だからヒューゴは質問を変えて、同じくらい気になっていたことを聞いてみることにした。
「ゲドさんと英雄って、どんなかんじだったんですか?」
「・・・・・・・・・」
 ゲドは驚いているのか躊躇っているのか判別しかねる表情になる。そんなゲドに、ヒューゴは言い換えた。
「英雄とも、こんなかんじで話したりしてたんですか?」
 するとゲドは、そんなことを知ってどうする、と言いたげな目線を向けてくる。
 しかしヒューゴは、気になって仕方ないのだ。しつこいが、五十年前、ゲドは英雄と付き合っていたらしい。だから、ゲドの恋人になりたいヒューゴとしては、二人がどんなかんじの恋人だったのかは、聞きたくないようなしかし興味が尽きないことなのだ。
「ね、どうだったんですか?」
「・・・・・・」
 ヒューゴの何気なさそうに見えて真剣そうな問いに、ゲドはやっと口を開いた。
「・・・アイツとは・・・こんなふうに穏やかに会話したことはなかったな」
「・・・そうなんですか?」
 少し遠くを見ながら話すゲドに、ヒューゴはちょっと聞いたことを後悔する。今ゲドが自分の存在しない頃のことを思い返してるのかと思うと、仕方ないことだとわかっていても寂しくなるのだ。
 しかし次のゲドの言葉で、ヒューゴは途端にそんな気分も吹っ飛んだ。
「ああ、アイツとは・・・親友ではあったが、それでも気安い仲ではなかった」
「・・・へぇ」
 ということは自分とは気安い仲と思っているのだろうか、とヒューゴは一瞬喜びそうになる。しかし素直に喜ぶにはどこか違和感がある気がして笑顔になれなかった。
「・・・・・?」
 微妙な表情をするヒューゴをゲドは訝しそうに見る。そんな視線を無視してヒューゴは考え込んだ。
 そして、やっと違和感の正体に気付く。
「・・・あれ、ゲドさん、英雄と付き合ってたんですよね?」
 ヒューゴは確認するように問う。すると今度はゲドが微妙な表情になったが、ヒューゴはそれには気付かず首を捻って疑問を口にした。
「なのに、あんまり仲良くなかったんですか・・・?」
「・・・・・・」
 そしてヒューゴはゲドを見上げ、その複雑そうというより決まりが悪そうなものに代わっているゲドの表情に気付く。
「・・・ゲドさん?」
「・・・・・・」
 不審に思うヒューゴの問い掛けにも、ゲドはしばらく沈黙を守った。
 それから、少し経って、ようやく重たそうに口を開く。
「・・・それは・・・・・・事実じゃない」
「!?」
 観念したように目を閉じながらのゲドのセリフに、ヒューゴは体に雷を落とされたような衝撃を受ける。
 「それ」というのは、英雄と気安い関係ではなかったことではないだろう。つまり、事実じゃないのは、ゲドが英雄と付き合っていたということ。
 ちなみに、正確に言うならゲドは、ゲドが英雄を好きだったと思ったヒューゴを否定しなかっただけだった。そしてヒューゴはいつのまにかゲドの片思いではなく二人が付き合っていたんだと思い違うようになっていたのである。
 そう考えればゲドにそう非はない気がするが、しかしゲドがヒューゴの思いを拒絶する為にその勘違いを利用したことは確かだった。
「ひどいっ! オレ真剣に告白したのに、ごまかしてたんですねっ!?」
「・・・すまなかった」
 ショックを受けるヒューゴに、ゲドは本日二度目の謝罪を口にする。ゲドに謝られるという貴重な体験を二度もしたヒューゴは、おかげでショックも和らいだ・・・わけではないだろうが。
 ヒューゴはよくよく考えて、そう悪いことではない気がしてきた。あのときゲドに嘘をつかれたことがではなく、この場で嘘だったと告げてくれてくれたことが。
 自分を振るためについた嘘を、ゲドは今撤回したのだ。ということは、ゲドの心があのときよりも間違いなく、ヒューゴに近付いているということだろう。
 そう考えて、自分の感情にとことん素直なヒューゴは、たちまち笑顔になってしまう。
 そんなヒューゴの突然の表情の変化に、ゲドは不思議そうに見下ろすが、ヒューゴは構わずニコニコしながら見上げた。
「じゃあ、今好きな人はいないんですね?」
「・・・ああ」
 怒ると思いきや嬉しそうに笑い出したヒューゴに度肝を抜かれたゲドは、しかしどうにか平静を取り戻して、正直に答える。
「気になってる人とかもいないんですよね?」
 続けてヒューゴが問うと、ゲドは一瞬、ヒューゴにはわからない程度に渋面を作る。
「・・・・・・いない」
 しかし表情に気付かなくても、さすがのヒューゴも不自然な間に気付く。
「・・・なんですか、その間は」
「・・・特に意味はない」
「・・・ふうん」
 どうにも怪しいゲドの様子だ。
 追及しようとしたヒューゴを、しかしゲドが先に口を開いてさえぎる。
「・・・今回の遠征はどうだった?」
「え? あ、そうそう、今回はビッキーさんに山道の手前まで送ってもらって、セナイ山まで行ってきたんですよ」
 ゲドのほうから話題を振られ、ヒューゴはつい嬉々として報告してしまう。あっさりはぐらかされてしまうヒューゴだった。
「セナイ山で白磁だっけ?の花瓶を見つけて、ギョームさんに見せたら偽物だって言うんだけど、怪しいから他の人にもう一遍鑑定してもらおうと思ってるんです。それまではお城の階段の途中のとこに飾っておくことにしました。それから」
 ヒューゴはこの一週間ほど分を取り戻すかのように、あった出来事をゲドに向かって捲くし立てた。ゲドはいつものように口を挟むこともなく聞いているが、めずらしくときどき頷いている。ゲドのほうも、久しぶりにヒューゴの話を聞くのを、彼なりに楽しんでいるのかもしれない。
「それで、セナイ山でまた犬を見つけて・・・」
 ヒューゴはとりとめもなく話しながら、しかしそう言いかけて途中でとめてしまった。
「・・・どうした?」
 ゲドが訝しんで問うと、ヒューゴは困ったようにゲドに控えめな目線を送る。
「・・・だって、ゲドさん、犬が好きじゃないって前・・・・・・もしかして、八つ当たりって犬が原因なんですか?」
 そういえば犬の話をしたあとだったと思い出したヒューゴは窺うようにゲドを見上げる。
「・・・あのな」
「あはは、まさかですよね。ゲドさんみたいな立派な大人が」
「・・・・・・」
 ゲドは痛いところを突かれたようにこっそりと顔を歪めた。そりゃそうだろう。原因がなんであれ、八つ当たりをする時点ですでに大人気ない。
 そして流れてからヒューゴが八つ当たりの原因を聞いてくる気がしたのか、ゲドはまたもやヒューゴをはぐらかすように口を開く。
「・・・確かに犬に興味はないが、お前の話を聞くのは好・・・・・・」
 しかしゲドは途中で言葉を途切れさせた。ヒューゴが一転してキラキラと期待に満ちた目で見上げているのだ。
「好・・・?」
「・・・嫌いではない」
 ヒューゴが調子に乗ると思ったのかゲドは言い直した。今さらなんの効果もなかったが。
「へえ、そうだったんですね。任せてください! いくらでも話してあげますよ!!」
 ヒューゴはこれ以上ないくらい上機嫌になって、にんまり笑いながらゲドを見上げる。
 ヒューゴは今日、いろんないいことを知ることが出来た。
 ゲドが努力を認めてくれていた。ヒューゴの存在はゲドにとって、いないと少し調子が狂うくらいらしい。ゲドと英雄は付き合ってなんかなかったし、現在好きな人もいない。ヒューゴの話を聞くのが、どうやら結構好きらしい。
 一つずつ思い出して、ヒューゴは噛みしめるように幸せに浸った。
「ゲドさん、オレ、今すっごく幸せです」
 表情だけでわかるそれを、ヒューゴは言葉にしてもゲドに伝える。そして、表情ではわかりにくいゲドにも聞いてみた。
「ゲドさんは、どうですか?」
「・・・・・・悪くはない」
 やっぱり表情にはなんにも出ないが、そこには悪くない以上のニュアンスがあるように思えて、ヒューゴは益々嬉しくなった。
「そうですか!」
 満面の笑みで、ヒューゴはゲドを見上げる。その笑顔は、ここ一週間の中で一番、輝き満ち足りたものだった。




END

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なんだか、このままくっつけれそうな勢いです。
しかし、ヒューゴのテンションの浮き沈み、激しすぎ・・・。