LOVE LUST



 ハルモニア軍宿営地の、アルベルトに与えられた簡素なテント。周りの兵士に気付かれることもなく、その中に二人は帰ってきた。
「・・・全く、あなたの我侭にも困りますね。気が済んだのなら、早く向こうに合流してはどうです?」
「ふん、俺としては感謝してもらいたいくらいだがな」
 少しも困った様子なく言うアルベルトに、ユーバーはニヤリと笑って返す。
「おかげで、オトウトくんに会えただろう?」
「・・・・・・」
 ユーバーの揶揄いを含んだ言葉に、しかしアルベルトは手袋を外しながら聞き流した。そんなアルベルトに近付き、ユーバーは手袋が落とされた机に手をついて、顔を覗き込む。
「あれなんだろう? 俺が代わりにされてるのは。どうだった? 久しぶりの逢瀬は」
 愉快そうに瞳を細めたユーバーに、アルベルトは今度は視線を向け、皮肉な笑みを浮かべた。
「そんな色気のあるものじゃなかったのは、見ていて知っているでしょう?」
「どうだか」
 否定したアルベルトを、だがユーバーは変わらず覗き込む。見透かすように、曝け出させるように。
「・・・・・・」
 この瞳に見つめられると、アルベルトはつい馬鹿らしくなってしまう。本能で生きている男に対して、自らのそれを隠してどうなるのかと。
「・・・そうですね」
 アルベルトは机に背を預け、ゆっくりと思い出した。ついさっき、すぐ目の前にいた、シーザーの姿を。
 アルベルトがシーザーを見たのは四年ぶりになる。17になった彼は、まだあどけなさの残る顔から、少し大人びた表情のまじる顔つきになっていた。
 それでも、その目つきは変わっていない。家を出るとき、自分に罵声を浴びせながら睨むように見上げてきた、瞳の鋭さ、熱。
 彼は今も、あの目を自分に向けているのだ。自分を、自分だけを、追い掛けているのだ。
 アルベルトはそのことに、言いしれぬ悦びを感じた。
「なんだ? 久しぶりに会って、つい欲情したか?」
 無意識に口の端が上がっていたのを見逃さず、ユーバーが同じようにニヤリと笑う。
「・・・そうですね、そんなところです」
「くくっ」
 アルベルトが否定せず見返すと、ユーバーは愉快そうに喉を鳴らした。
 そして、机から離した手で、アルベルトのスカーフを剥ぎ取る。するりと抜けたそれの行方を気にもせず、ユーバーは晒されたアルベルトの喉元に喰らいついた。
 ユーバーはいつも前触れない。だがアルベルトは、そんな彼の相手をするのが嫌いではなかった。
 おそらくユーバーは感じ取っているのだろう。アルベルトのいつもは隠されている、性を満たしたいという欲求を。
 それを汲み取りながら、しかし結局のところやはり自分の本能のまま行動に移しているにすぎない。ユーバーは、そういう男なのだ。
「早く終わらせろ」
 溜め息まじりに言いながら、しかしアルベルトは自らコートを脱いだ。
「いいだろう。お前がそれで、満足出来るならな」
 ユーバーはそんなアルベルトを嘲笑し、遠慮なくその体を楽しみ始める。その冷たい手が服の中に潜り込み肌を這いだすのを感じながら、アルベルトは目を閉じた。
 そして、脳裏にシーザーを描く。
 無邪気に懐いてきた幼い笑顔、甘えを含んだ名を呼ぶ声。払った手を見つめる呆然とした表情、一瞬泣きそうに歪んだ表情、悲しみを怒りでごまかすように睨み付けてきた表情。
 ユーバーと行為に及ぶとき、アルベルトはいつもシーザーを思い浮かべた。例えばシーザーに同じように抱かれたいとか、そんなことを思うわけではない。
 ただ彼の存在が、何よりも誰よりも、自身を煽るのだ。際限なく。
 何故なのか、それを考えることなど、アルベルトはもう数年前に放棄した。唯一理性を忘れる行為においては、理屈など必要なく、ただその事実だけで充分なのだ。
 その姿を思い出すだけで、アルベルトの体を悦びが支配する。いつもと違う、現実のシーザーを、手を伸ばせば触れられる距離で見た、成長していたその姿を、変わらない熱を帯びた瞳を、鮮明に描くだけで。
 自然と体が震え、アルベルトは思わず目の前の肩を手繰り寄せた。
「どうした、今日はいつもよりノリがいいじゃないか」
 ユーバーは面白がるように笑い、更に深く、隙間を埋めるように体を繋げる。
 答えなど期待していないユーバーには返さずに、アルベルトは心の中で呟いた。
 それでいい、シーザー。どこまでも、追って来い。
 その激しいまでの感情を宿した眼差しで、
「もっと私を、愉しませろ」
 アルベルトは他の何も、誰も、要らないのだ。

 ただ彼だけを欲する。




END

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最初は16禁くらいの意気込みだったんですが、
結果は、この通り、何してるのかもわからないという・・・
だってアルのコートとかその下とか全然わからないんだもん!(言い訳)
あのスカーフ?をするりと解けるユーバーってすごいねー(逃)