LOVE PASSION



 四年ぶりだった。
 それでも、外見も大して変わっていない。だから特にこれといった感情を覚えることもないだろう、そう思っていた。
「・・・・・・はぁ」
 シーザーはベッドに体を投げ出した。そして力なく息をはいたが、それは多分に熱を含んでいる。
 四年ぶりだった。
 そして、その姿を認めたとき、シーザーはハッキリと悟らされてしまったのだ。
 危険な思想を持ち実行に移し始めたアルベルト。彼をとめなければならない、だから追い掛ける。彼の野望を阻止する、それが自分の役目なのだと。
 シーザーはそう思っていた。そう、思い込もうとしていただけだったのかもしれない。
 野望だとか、とめなければならないとか、そんなのは跡付けの、言い訳にしか過ぎなかったのだ。
 彼の姿を目の当たりにして、シーザーはそれを知った。
「・・・アルベルト」
 シーザーは無意識にそう呟いて、耳に届いた自分のその言葉に、内からの熱を煽られる。
 自然と、シーザーの手は下半身に伸びた。シャツの裾をたくし上げ、ズボンの中に手を突っ込み、欲望のまま指を動かし始める。
 四年ぶりだった。
 見上げる角度は変わっていたが、その先にある同じ血を感じさせる赤い髪も緑の瞳も、昔と何も変わっていない。
 自分に向けられた、冷え切った目つきも、低い声も、少しも変わっていなかった。
 それでも、間近で見た本物の彼はこんなに、こんなにもシーザーを煽るのだ。
「・・・っ、ん」
 抱えきれない熱を放出するように、シーザーの指は動きを早める。目を閉じて快楽に耽りながら、その頭が描くのはただアルベルトの姿、それだけだ。
 左目が隠れるくらい少し長めの暗い色をした赤髪、その梳き心地をシーザーは知っている。
 分厚いコートに覆われる体、その肌をシーザーは知っている。感触も、匂いも、知っている。
 自分の名を呼ぶ声、なんの感情もこもらない冷たい声色も、弟に対するほんの僅かな愛情を覗かせた声色も、シーザーは知っている。
 一日だって忘れたことはなかった。本物を見て、より鮮やかによみがえるのを感じ、シーザーはそれを知った。
 自分が何を欲しているのか、シーザーは知った。
「はっ、あ、アル・・・」
 アルベルトの野望を阻止しなければならない、そんなこと、本当はどうでもよかったのだ。
 そんなことの為に彼を追い掛けているのではない。
 シーザーは欲しかっただけなのだ、彼自身、ただそれだけが。
 見た目よりも柔らかい髪を掻き乱し、邪魔な服など取り払いその色素の薄い肌に手で触れ舌を這わせ、うしろも前も表も裏も、全てが欲しい。隅から隅まで、自分のものにしたい。
 だから、彼を追い掛けているのだ。
「アル・・・兄ぃ・・・っ」
 その瞳が自分だけを捉え、その声が自分だけを呼び、その腕が自分だけに伸ばされる、何度も夢想したことを現実のものにしたい。
 だから、彼を追い求めているのだ。
 いつか必ず、何もかもを手に入れてみせる。
「・・・・・・んっ・・・ん、はっ・・・あっ」
 そのときを思い描き、一際昂るのに任せて、シーザーは耐えることなく吐き出した。
 熱は飛散するが、欲に果てはない。
「はぁ・・・はぁ・・・は」
 荒い呼吸を繰り返しながら、シーザーは右手をゆっくりと目の前にかざした。
 粘ついて白く濁ったそれは、アルベルトへの想いに酷似している。
 澱んでいて、汚れていて、行き場がなくて、それなのにどんどん溢れ出しとまらない。
「・・・足りねぇよ、こんなんじゃ」
 シーザーは掠れた声で、隠さず欲望を口にした。
 もっと近くで、直接触れたい。めちゃくちゃにして、綺麗に済ました顔を歪ませたい。自分だけを見て、自分だけを呼んで、自分だけに縋って、他の何も考えられなくなればいい。
 愛と呼べるほど純粋でなく恋と呼べるほど生ぬるくない。
 それは、ただの欲望。理性など届かない、昏い激情。
 欲に果てはなく、熱はすぐに募る。
「・・・アルベルト」

 ただ彼だけを欲する。




END

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「Lust」と対の話ですが、ストーリー自体は別次元です。
シーザーって、なんか童貞っぽいよね。
だから、妄想がいまいち生ぬるいのです。(言い訳)
しかし、致してても描写をすっ飛ばしたらここまでエロくない代物になるんだねー(逃)