LOVE POTION (H,side)
「もうさ、頼れる人がシーザーしかいなくてさ」
と、開口一番溜め息まじりに、今日も惰眠を貪るシーザーの元を訪れた少年は言った。
「どうせシーザーは知ってるんだろ? 教えろよ」
「・・・・・・」
シーザーは体を起こして、何かにつけて自分を頼ってくる少年を呆れたように見る。
「他当たれよ。おれは眠いんだ」
「もう当たったよ。でも誰も教えてくれないんだもん」
プーと頬を膨らませて不満そうに言うのは、この炎の運び手の幼き英雄ヒューゴだ。彼は、いろんな意味で、本当に幼かった。
「・・・だからって、なんでおれんとこ来んだよ」
「だから言ったじゃん。もう頼れる人はシーザーしかいないんだって。いいじゃん、オレとお前の仲だろ」
「・・・・・・」
どうやら目一杯頼られているようだが、シーザーはどうしても素直に教える気にならない。
ヒューゴが知りたがっていること、それは所謂セックスの仕方である。いや、仕方というよりは、それがなんなのか、すら知らないそうなのだ。
恋人ができたから知りたくなる気持ちはわからなくないが、しかし何故自分がそんなことを教えてやらないといけないという思いのほうがずっと強い。
説明すること自体が面倒だというのもあるが、それよりも、教えてエースたちに恨まれるという理不尽な目に合ったり、ヒューゴにこれから先もそっち方面のことで頼られるのが嫌なのだ。
だからどうにかかわしてやろうと思ったシーザーは、ふと思い付く。
「そうだ、教える代わりに、いいもんやるよ」
シーザーは小物がゴチャゴチャ入っている上着のポケットから小瓶を取り出した。
「なぁヒューゴ、わかんねぇなら、ゲドに教えてもらえばいんだよ。実地でな」
「ゲドさんが教えてくれるわけないよ」
そんな期待はしてないと言うヒューゴに、シーザーはニヤリと笑ってみせた。
「だから、そこで、これを使うんだよ」
そしてほんの少し液体が入った小瓶をヒューゴの目の前にかざす。
「・・・何これ?」
「今のお前に言ってもわかんねぇだろうから、簡潔に説明すると、そういう気分に人をしてくれる薬」
「そういうって?」
首を傾げるヒューゴに瓶を渡しながらシーザーはわかりやすく教えた。
「おまえが知りたがってる、キスより先、に進みたいと思っちまう気分」
「へえ・・・」
ヒューゴは不思議そうにその透明な液体を見る。
「あと一人分しかねぇけど、どっちかがそうなったら、さすがのゲドも相手してくれるだろ。一応恋人なんだし」
「一応じゃなくて正真正銘! ・・・でも、ほんとにうまくいくの?」
「いくんじゃねぇの?」
薬の効能がわからないヒューゴにはどうなるのかいまいちわからないのだろう。だがシーザーは、言うべきことを言ったので、もう寝たくなってくる。
「・・・ていうか、これが減ってるのって、シーザーが使ったから?」
「・・・・・・」
「そうなんだ・・・。成功したの?」
「じゃあ、まぁ、せいぜい頑張ってくれな」
シーザーは全く読めない笑顔で言って、さっさと横になった。そして早速襲ってくる眠気に従って寝息を立て始める。
そんなシーザーをヒューゴはしばらく窺っていたが、そのうち小瓶を固く握りしめて走り去っていった。
その日の夜、夕飯時に約束を取り付けたヒューゴはゲドの部屋を訪れた。
「ゲドさん、これ、お土産です。アンヌさんにわけてもらったんです。一緒に飲みましょう!」
ヒューゴが掲げた小さめのボトルを、ゲドは見て眉をしかめる。
「酒か? ・・・大丈夫なのか?」
ヒューゴがたいそうアルコールに弱いことを、ゲドはエースから笑い話として聞いて知っている。
だから少し心配して聞いたゲドに、ヒューゴは笑って答えた。
「大丈夫です。これ、アルコール1%未満の、前飲んだやつよりもっと弱いらしいですから」
「・・・・・・」
それはそれで気が進まなさそうなゲドに、ヒューゴはさらに笑って言う。
「一杯くらい付き合って下さいよ。将来の予行演習ですって」
「・・・まあ、一杯くらいなら」
そう言われるとゲドも付き合わないわけにはいかない気になったのだろう、浅く頷く。ひとまず同意が得られたことにホッとしながら、ヒューゴは酒をグラスにつぎに行った。
二つ用意したグラスに注ぐと、ポケットから小瓶を取り出して、右側のグラスにその液体を混ぜる。
「・・・右側、右側がゲドさんのほう・・・」
ヒューゴは確認するように小さく呟いた。
一人分しかないので少し迷った結果、ヒューゴはゲドのほうに薬を入れることにした。そんな気分とやらになったことが一度もないヒューゴは、不安がることではないのだろうと思いながらも、自分がそうなるのはどうしても気が進まなかったのだ。その点ゲドは、あまり考えたくはないが、長い人生の中でそんな気分になったことが何度もあるだろう。
だからゲドに飲んでもらうことにしたヒューゴは、心なしか右手に力を込めながらグラスを手に取った。
そしてテーブルに運ぶ途中、何か抜かりはないかと考えたヒューゴは、部屋の鍵を掛けていないことに気付く。慌ててヒューゴはテーブルにグラスを置いて鍵を掛けにいった。
「よし!」
と、明らかに不審・・・というよりわかりやすい行動をしているヒューゴには気付かず、ゲドはグラスに口をつけている。
「・・・あれ?」
戻ってゲドの斜向かいに座りながら、ヒューゴは残されたもう一つのグラスを見た。
右手に持っていたほうに薬が入っている、のはわかっている。が、目の前のグラスが左手で持っていたほうなのかそれとも右手のほうなのか、ヒューゴにはすでにわからなかった。
「・・・どうした?」
「あ、いえ・・・」
どうしようかと思ったヒューゴは、しかし飲むのを躊躇えばゲドに訝しまれるだろうと思う。
「なんでもないです!」
言ってヒューゴはグラスを手に取り、思い切ってそれを喉に流し込んだ。
こうなったら、一か八かだ、そう思って。
アルコール1%未満のお酒を飲み干したヒューゴは、今度は自分用に持ってきたジュースを飲み始めた。さすがにあの度数では酔っぱらうこともなかったらしく、ヒューゴはこういうので少しずつ慣らしていけばいいのかなと思う。
一方ゲドは、ヒューゴが匂いだけで酔ってしまいそうなお酒にとっくに飲み変えていた。
その様子は、普段と全く変わらない。結局どっちの薬が入っていたのか、ヒューゴにはまだわからなかった。
しかしせっかくゲドと過ごしているのだから、そのことにばかり気をとられているのは勿体ない。そう思ったヒューゴは、今日あった出来事などを話し始めた。
それからまた少しの時間が経った。
「・・・ゲドさん、この部屋暑くないですか?」
「いや」
アルコールが入っているので多少は普段より熱いが、それでも言うほどではないとゲドは否定する。
しかし、ヒューゴはやっぱり暑いと思った。前に酔っ払ったときも熱くなったが、あのときは飲んだ直後だったので、それとは違うのかと思う。
だがどちらかというとこれは、気温が高いときの暑さではなく、酔ったときや熱を出したときの内からの熱さのような気がした。それか、キスして気持ちが昂ったときの、熱さ。
だとしたら、もしかしたらこれが薬の効果なのかもしれない。そうヒューゴは思ったが、しかし漠然とした説明しか聞いていないヒューゴにはよくわからなかった。もしこれがその効果なのだとしても、キスの先に一体どう関係するのかも、わからない。
わからないが体が熱いのは確かで、ヒューゴは冷たいジュースを飲み干した。
しかし体は少しも冷める様子はなく、益々熱は募る。
そんなヒューゴの様子にゲドも気付いた。
「・・・熱でもあるのか?」
地黒でもそれとわかるほど顔を赤らめているヒューゴをゲドは心配そうに見遣る。そして、身を乗り出して右手を伸ばし、額で熱を測ろうとした。
しかし、その手が触れた途端、ヒューゴのその部分にビリッと何かが奔る。
「うわっ」
思わずヒューゴは声を上げた。
体をのけぞらせ、額を押さえる。しかし自分の手では何も起こらず、つまりゲドが触れたからなのかと思ったヒューゴの、体の一部分に急激に熱が集まり始めた。
そこはヒューゴにとっては思いもかけないところで、わけがわからずヒューゴは混乱してくる。
「・・・ヒューゴ、大丈夫か?」
「ゲドさん・・・」
心配そうなゲドを、ヒューゴは救いを求めるように見上げた。
「なんか・・・ジンジンする・・・んですけど」
「・・・どこがだ?」
席を立ちすぐ隣に来たゲドに、今度はなんだか目を合わせづらく感じて、ヒューゴは俯く。その視線は自然と、熱くて堪らない、自分の下半身に向かった。
「・・・そうか」
ゲドはその目の動きを追って、すぐに何がどうなっているのか理解したようだ。
だが何もわからないヒューゴの不安は消えない。体がこんなふうになるなんて初めてで、もしかして薬が変なふうに効いたのだろうかと少し怖くなった。
「ゲドさん・・・これって・・・?」
「・・・取り敢えず、その体勢はつらいだろう」
ゲドは問いには答えず、ヒューゴを抱き上げた。
その接触にすら、ヒューゴの体は過敏に反応し、体中が心臓になったようにバクバクいう。接している部分から僅かに伝わるゲドの質感に、ヒューゴは逃げ出したいようなこまま触れていて欲しいような、矛盾した気持ちに襲われた。
ゲドはヒューゴをベッドの上に座らせると、自分は端に腰掛ける。
「・・・ゲドさん」
体勢が変わってもつらさは変わらず、ヒューゴはゲドを見上げた。
「ゲドさん、オレ大丈夫なんですか?」
ゲドはいつものように無表情で冷静だ。熱のせいか視界がぼやけてきたヒューゴにはそう見える。
その落ち着き払った様子は、しかしヒューゴの不安を取り除きはしない。
「・・・・・・そうか、知らないんだったな・・・」
ゲドはその様子に、ヒューゴがまだ性に関することを何一つ知らないのだと思い出した。
「・・・ヒューゴ、落ち着け。おかしいことでは・・・ない」
ゲドはその知識のなさをどうこう言うより、ヒューゴの不安を取り除いてやるのが先決なのだろうと思う。ヒューゴを真っ直ぐ見つめて、言い聞かせるように教えた。
「ほ、ほんとに・・・?」
「ああ。大人になれば誰でも・・・男ならそうなることがある」
その断言に、ゲドの言葉に絶対的な信頼を寄せているヒューゴは少しホッとする。
「そう・・・なんですか・・・ゲドさんも・・・?」
「・・・・・・ああ」
ゲドは少し躊躇いがちに、しかしヒューゴの為に正直に話した。
「・・・だったら・・・なおしかた・・・」
それならばとヒューゴは教えて下さいと言おうとして、逸る気持ちに従って言い換える。
「・・・なおしてください・・・ゲドさんが」
説明を聞き実行する、そんな手順を踏む余裕などヒューゴにはなかった。
「・・・俺が・・・か?」
「・・・だめ・・・なんですか・・・?」
ゲドは戸惑ったようにヒューゴを見下ろしている。しかしヒューゴには、ゲドの感情を考慮する余裕もまた、なかった。
その部分は熱さを通り越して、痛みすらヒューゴに伝えてくる。額には脂汗が浮かび始め、口の中は乾ききって呼吸も荒い。
今自分が頼れるのはゲドだけなのだという思いが、自然とヒューゴの視線に縋る色合いを加えていた。
そんなヒューゴに見つめられ、ゲドは躊躇いを振り払わざるを得なくなる。
「・・・・・・わかった」
ゲドはヒューゴにというよりは自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。ゆっくりと体を動かし、ヒューゴの背後に回る。
そして、うしろから抱き込むように、ゲドはヒューゴに体を密着させた。
「う・・・っ」
すぐ背後のゲドの気配に、ヒューゴは思わず身震いをする。
くすぐったい、そんな生易しい感覚ではなかった。互いの服を通して伝わるゲドの体温がわからなくなるほど、ヒューゴの背中は灼けるように熱くなる。
ゲドは手を前に回して、しかしそこで迷うように彷徨わせた。
「・・・服は・・・自分で開けられるな?」
「・・・・・・っ」
思ったよりもすぐ近くで聞こえたゲドの声も、ヒューゴの内の何かを駆り立てる。
ヒューゴにはもう思考などというものは存在しなかった。体を支配する耐え難い疼き、そしてそれをゲドがどうにかしてくれるはずだという期待。ただそれだけが、今のヒューゴの全てだった。
「は・・・はぃ・・・」
ヒューゴはゲドに言われるまま、震える手でなんとか腰布を弛める。
そして上衣の裾を捲り上げズボンを下ろすと、それはヒューゴの眼下に跳ねるように現れた。もうすでに、ヒューゴが今まで見たことのない形状へと変貌している。
その体と同じく発達途中のヒューゴの性器は、精一杯上を向きながら、腫れたように横にも膨張していた。さらに、先端からは透明な液が僅かに溢れ出し、茎を伝って根元の淡い茂みまで細いラインを描いている。
「っう・・・」
その不気味さに、ヒューゴは思わず喉を鳴らした。
それが自分の体の一部とはどうしても思えない。しかしそこに集中する感覚が、確かにヒューゴの一部なのだと痛いほどに知らせている。
ヒューゴはおそるおそる、そそり立つ自らに手を伸ばした。
そして指の先だけの僅かな接触で、ヒューゴはその手を引っ込めてしまうことになる。
「っあ・・・!?」
触れた瞬間、体を電撃のようなものが駆け抜けたのだ。ビックリしたヒューゴだが、しかしそこはまだ触れられるのを欲しているように見える。
ヒューゴは思わずゲドを振り仰いだ。
「・・・・・・ゲド・・・さん?」
「大丈夫だ」
こんなことになってもおかしいわけではないのかと問うヒューゴに、ゲドは短く答える。
そして宥めるように頭を撫でると、もう一方の手をヒューゴの物欲しそうに揺れる若い幹へ伸ばした。
「つらく感じられるかもしれんが・・・身を任せればいい」
そう前置きし、ゲドはヒューゴが頷くのも待たず指を這わせた。
「ち、ちょ、まっ・・・て!」
ゲドの指が軽く触れただけで、痺れるような感覚が体を這い上がり、ヒューゴは慄いて思わず制止の声を上げた。
しかしゲドは構わず、遠慮なく扱き上げる。
「あ・・・っや・・・!」
慌ててゲドの動きをとめようとしたヒューゴの手は、しかし力など入らずゲドの腕にしがみ付くしかなかった。逃げようとする腰はしっかりとゲドに押さえられ、行き場のないうねりのないようなものがヒューゴの体を駆け巡る。
「や、やだっ・・・ゲドさ・・・っ」
初めて知る快感、しかも強すぎるそれは、ヒューゴにとっては恐怖ですらあった。
思わず目の前の現実から逃れるように目を閉じると、その拍子に滲んでいた涙が頬を伝い落ちる。
「う・・・っあ、あぁ・・・!」
目を閉じたのは逆効果だったとヒューゴは知る。視覚が閉ざされた為、その他の感覚が否応なしに研ぎ澄まされてしまったのだ。
擦過音とそれにまじる水音。背中や腕に感じられるゲドの体、気配。そして何より、遠慮ないゲドの指使いによって与えられる、許容量を遥かに上回るような刺激。
目を開ける余裕すらなくなり、何かを目指して熱がヒューゴの体中を駆け巡った。
「・・・・・・ゲ・・・ドさっ」
ヒューゴはその何かがわからず、いつまで続くかわからないこの責め苦から逃れたくて、抵抗するように体を強張らせた。
その口は、無意識に何度もゲドを呼ぶ。
「・・・・・・ヒューゴ」
その声に応えるように、ゲドが囁くように言った。
「耐えるな。体の欲求に従えばいい」
「・・・ぅ、ん・・・っ・・・!」
その言葉よりも、すぐ耳元で聞こえたゲドの低い声に、ヒューゴの体は反応した。
「・・・ぁっ・・・ん、んんっ!」
うねりのような快感が一際大きくなると、脳天を突き抜けるように白い波が一気に満ちる。
「ん・・・ぁあ、・・・・・・っ!!」
ゲドの腕に跡が残るほどしがみついて、ヒューゴは体の欲するままに解き放った。
「っは、はぁ・・・はぁ・・・・・・」
何かが体外に放出される感覚、それと同時にひどい脱力感に襲われ、ヒューゴは荒く呼吸しながらうしろに凭れ掛かった。それを支えながら、ゲドがゆっくりとヒューゴの頭を労うように撫でる。
その感触が心地よくて、熱が発散されたこともあり、ヒューゴはようやく落ち着きを少し取り戻した。
「・・・少しは楽になったか?」
「・・・ん」
依然として頭はボーっとしていたが、呼吸もだいぶ楽になり、ヒューゴはゆっくりと目を開けた。
すると目の前には、さっきよりも勢いをなくした幹が、それでもまだ張りを持って存在している。
そして、そのすぐ近くにはゲドの手。指には、自分が放ったと思われる白く粘ついた液がこびりついていた。
「・・・・・・あの・・・ごめんなさい」
なんだかゲドに変なことをさせてしまったのではないかと、少しだけ落ち着いたヒューゴは気付く。まだ意識はぼやけているので気恥ずかしさなどはなかったが、済まないという思いはあり、つい謝罪が口をついて出た。
「・・・言っただろう、おかしなことではないと」
「・・・そう・・・だっけ・・・だれでもなるんだっけ・・・」
気にするなと言いたいのだろうゲドの言葉に、ヒューゴは交わした会話をかろうじて思い出す。
「・・・・・・ゲドさんがこうしてくれたのも・・・ふつうのこと? だれにでも・・・?」
「・・・そんなわけ・・・ないだろう」
「・・・・・・」
ヒューゴはそこで、やっとゲドの顔を振り返った。涙目のせいか微妙に揺らぐ視線の先で、ゲドは少し気まずそうにしている。
「・・・オレもです・・・・・・オレも・・・ゲドさんが・・・」
言いながら、ヒューゴは先程までの強烈な、そして今も僅かながら確かに燻っている熱を思い出した。
「ゲドさんが・・・さわってくれたから・・・こんなに・・・」
ヒューゴはもう一度、ゲドの少し汚れてしまった手を見た。そして、指でそっと触れてみる。
ゲドの大きくて節だった、実はあたたかい手。男としての劣等感を少々抱かされるものの、それでもヒューゴはこの手が大好きだった。
その手が、自分の体・・・しかも誰にも触れられたことのない自分でも頻繁には触らない部分を這ったのだ。
それを思うと、ヒューゴにさっきまでの灼けるような熱がよみがえってくる。
「・・・・・・ゲドさん・・・」
ヒューゴはゲドを見上げた。そしてキスをしようと顔を近付ける。不自由な体勢の為届かなかった距離を、埋めたのはゲドだった。
「・・・ん・・・んぅ・・・」
優しく唇を吸われ、ヒューゴは堪らず自ら舌を突き出して絡めていった。
この熱さはキスをしたときの熱さと似ている、そう思った自分は正しかったとヒューゴは感じる。息継ぎもそこそこに口内を探り合っていると、次第に頭がジンと痺れたようになっていった。そして、湧き上がる熱の行き場を覚えたヒューゴの体は、すぐにそれを形にして表しだす。
キスを繰り返しているだけで自らがどんどん張り詰めていくのをヒューゴは実感した。
その昂りにはいつのまにか、ゲドの手が添えられている。無意識に自分で引き寄せたのか、ヒューゴにはもうわからなかった。
「・・・っふ・・・ぁ・・・」
さっきと違って緩やかなその動きは、しかしねっとりと絡みつくようで、ヒューゴを再び快感の渦中に落とし入れる。
また思考が働かなくなっていくのを感じながら、ヒューゴはどうにか口を離した。
「・・・・・・ん・・・ゲド、さん」
何かゲドに伝えたい気がしたのだが、しかしぼやける頭ではそれがまとまらず言葉に出来ない。
そんな自分がなんだかおかしくて思わず笑ってしまいながら、諦めてヒューゴはもう一度口付けた。
「・・・・・・ん・・・?」
ヒューゴはゆっくりと目を覚ました。しかし室内は薄暗く、まだ夜が開け始めたばかりのようだ。
「・・・・・・」
少し目蓋が腫れぼったく喉も嗄れているが、気分はいつもと同様・・・もしかしたらそれ以上にスッキリしていた。
しばらくそのまま横になったままでいると、段々と目が暗がりに慣れてきて、ここがゲドの部屋だとわかる。
「・・・あぁ、そっか」
ヒューゴはゆっくりと上体を起こしながら、昨夜のことを少しずつ思い出していった。
「なんかすごく・・・気持ちよかった?・・・うん気持ちよかった」
あとあと、二度目もゲドの手に吐き出してしまったところまではなんとか覚えているが、それ以降はちっとも記憶にない。
それでもいつのまにか、ヒューゴの服は新しい物に変わっていた。きっとゲドが着替えさせてくれたのだろう。サイズが自分より一回り以上大きい服を見てヒューゴは嬉しくなった。
すぐ横で背を向けて眠っているゲドを目に遣れば、さらにいろいろなことが思い出されてくる。
「・・・なんか・・・ゲドさん、優しかったなぁ」
ヒューゴは嬉しくて堪らなくなり、一人でしばらく笑っていた。
それから、やっと少し疑問に思う。
「・・・でも結局、あれでよかったのかな?」
昨日の行為が、おそらくキスの先なのだろうことはなんとなくわかった。しかし、あれで全部なのか、それともまだ更に先があるのか、ヒューゴにはやっぱりよくわからない。
「・・・でも、取り敢えず、薬の効果はあれでよかったってことだよね」
シーザーには今日お礼を言いにいこう、そしてついでにいろいろ聞いてみよう。などとヒューゴがシーザーにとっては大迷惑なことを考えていると。
「・・・・・・・・・薬?」
「わっ!」
予期せぬ声が隣から聞こえてきて、ヒューゴは驚いた。
視線を向ければ、目を開けたゲドが疑わしそうにヒューゴを見ている。
「ゲ、ゲドさん、いつのまに起きたんですか?」
「・・・・・・まあな」
ゲドはどことなく気まずそうに答えにならないことを口にした。
しかし、一人でブツブツ呟いたり笑ったりしているのを見られていたのかもしれないと思うと、自分のほうがずっと気まずいとヒューゴは思う。
うろたえるヒューゴに、ゲドは重ねて問うた。
「・・・で、薬とは?」
「う・・・あ、あの・・・それは・・・」
ヒューゴは出来ることならごまかしてしまいたかった。が、自分にそんなことが出来はしないと残念ながら知っている。
「・・・・・・実は・・・」
なのでヒューゴは正直にシーザーとのやり取りから話した。シーザーに薬を貰ってそれをゲドに盛ろうとしたことまで、包み隠さず。
黙って聞いていたゲドは、ヒューゴが話し終えると、深く溜め息をついた。
「・・・・・・そういうことか」
「・・・はい・・・」
頭痛でもするかのように眉間を押さえるゲドに、ヒューゴはつい正座してしまいながら項垂れた。
「・・・・・・そして、うっかり自分が飲んでしまった、と」
「・・・・・・は、はい・・・」
間抜けすぎる事実を確認されて、ヒューゴはもう頭を上げられない。
「・・・・・・ゲドさん、呆れてます・・・よね」
「・・・・・・」
ゲドは言葉ではなく、再度の溜め息で答える。
「・・・・・・これだから子供は嫌だ・・・とかって思ったりしました?」
「・・・・・・」
ゲドは今度は溜め息さえつかなかったものの、そんなことはないと否定もしない。
「・・・・・・・・・」
ヒューゴは益々肩を落とし・・・たりはしなかった。
「でもっ!!」
ガバッと顔を上げて、ヒューゴは満面の笑みをゲドに向ける。
「昨日は初めてゲドさんのほうからキスしてくれましたよね! オレ、愛を感じました!!」
「・・・・・・」
突然打って変わって明るくなられ、しかも思わぬところを衝かれて、ゲドは思わず絶句した。
それから、さっきよりもさらに気まずそうに弁解にもならない言葉をボソボソ落とす。
「・・・・・・それは・・・流れでというか・・・なんとなく・・・だ」
「ゲドさん、オレ覚えてますよ。オレにだから、って言ったじゃないですか!」
さっき思い出して嬉しくなったことをヒューゴは言い逃れようとするゲドに突きつける。
「ねぇ、ゲドさん、誰でも・・・ゲドさんでもなるって、言いましたよね?」
「・・・・・・」
藪蛇だったとおそらく思っているであろうゲドは、少しずつヒューゴから顔をそむけ出す。
「だから、今度はオレがゲドさんにしてあげますね!」
「・・・・・・もう少し寝ろ」
笑顔で見下ろすヒューゴから、ゲドは完全目をそらしたばかりか、言い捨てて背を向け布団をかぶってしまう。
「あ、ゲドさん、ちゃんと約束して下さいよ! してくれなくてもしますけどね!!」
ヒューゴはそれでもその背に言い募ってみた。
薬のせいであり自業自得ではあるが、自分一人が熱くなってしまったことがヒューゴはなんだか悔しかった。だから、今度は自分がゲドを、と思ったのだ。
しかしゲドは、声を返すどころかもう身じろぎ一つしない。
「ゲドさーん、もう寝ちゃったんですか?」
しつこくゲドをつついたり揺らしたりしていたヒューゴは、しかし石のようになってしまったゲドに、遂に諦めた。
同じように布団をかぶって、ゲドとの距離をつめる。そして、昨日は支えてくれた体に、今日はうしろから抱き付いた。
そうして、ヒューゴは思い出す。
昨夜、ゲドに伝えたい気がして、言葉に出来なかったこと。今では何を伝えたかったのかすらよくわからなくなってしまっている。
それでも、言いたかったのはきっと、つまりはこういうことなんだろうとヒューゴは思った。
「・・・・・・ゲドさん、好きです」
回す腕の力を強めながら、ヒューゴはゲドの背に頬をすり寄せる。
その言葉のせいか体勢のせいか、ほんの少し、ゲドが身じろいだ。
しかし半分眠りに入りかけていたヒューゴはそれに気付けなかった。
「大好きです・・・よ・・・」
半分以上無意識に呟きながら、ヒューゴはどうしようもなく幸せな気分で眠りに落ちていった。
END
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こうしてヒューゴは大人への階段を一段昇ったのでした。
・・・・・・・・・。
えっと、ゲドさんがヒューゴに自分で服を脱がせたのは、
実はまだヒューゴの服の構造がわかっていないからでした。
というのを入れる為にも、ゲド視点にしたほうがよかった気もするんですが・・・
あの状況でヒューゴに意識を飛ばされてしまったゲドさんの心境を書くのが躊躇われるので。
だって、さすがのゲドさんだって、ムラムラきてたはずだって!
安眠なんざ出来ませんでした。そうに違いないです。
でも服は着替えさせてあげたゲドさん。脱がし方もよくわからなかったのに。
・・・・・・愛ですね!
・・・ていうかいまいちエロくなくて済みま せ (逃)
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