LOVE SECRET



 右手にぼんやり浮かび上がる、その紋章。
 それは祝福か呪縛か。
 ただ一つの事実は、宿している限り、生に終わりは来ない。ただ全ての人を見送り続けることしか、出来ないのだ。

「ササライ様、紅茶をお入れしました」
 物音を立てずテーブルに置かれたカップから漂ってくるのは、ダージリンのかぐわしい匂い。
「ありがとう」
 香りを楽しみ、ゆっくりと口を付け喉でも楽しむ。
「・・・君は本当に、紅茶を入れるのが上手だね」
「そうでしょうか」
 謙遜することを知らないディオスは、本当に訝しいらしく少し首を捻った。それに構わず、続ける。
「どうしようか、君以外の人の入れた紅茶はもう飲めないかもしれない」
「それならご安心を。私の息子は、私よりもよっぽど上手です」
「・・・へえ。君の・・・息子、今いくつだっけ?」
 僅かな逡巡に、ディオスは気付かない。
「もうすぐ十になります」
「そうか、それは、僕も年をとるはずだね」
「そうですね」
 お世辞を決して言わないディオスは、事実を事実として淡々と話す。
「私ももう三十を過ぎました。まだまだ現役でやっていくつもりですが、ご安心下さい」
「何を?」
「私が退いたあとは、今度は私の息子が代わりにササライ様の手足となって働くでしょう」
「・・・・・・」
 ディオスはめずらしく、ほんの少しの微笑を浮かべながら言う。
「・・・それは、楽しみだね」
 そんなふうに言われたら、笑って返すしかない。

 でも、なんて笑えない冗談だろう。
 君がいなくなったら・・・なんて、
 それは紛れもなくいつかくる現実。

 馬鹿な男だね、ディオス。
 君がいなくなったら、君の息子が僕の側にいてくれるって?
 でも、君の息子は、君の息子でしかない。君では、ないんだよ。

 わかってるよ。そう言ってくれることが、君の愛情。上司と部下、それだけよりはほんのちょっと、僕のことを好きだってこと。
 でもね、僕はそんなの望んでいないんだ。

 わかってるよ。君は情に薄そうに見えて、実はとてもあったかいひとなんだ。奥さんのことも息子のことも本当に愛している。
 僕はね、君の奥さんが、羨ましいんだよ。

 わかってるよ。君は僕より先に逝く。僕はこの枷から自ら逃れることは出来ない。
 でもね、君を見送る覚悟が出来てるなんてことは、少しもないんだよ。

 ・・・本当は、君が自分の出世の為だけじゃなく僕に仕えてくれること、それだけで嬉しい。満足は出来ないけど、それでもやっぱり嬉しいんだ。

 馬鹿なディオス。
 でもね、僕のほうが本当はもっと、愚かなんだよ。

 こんな僕、君には一生教えるつもり、ないけどね。




END

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そしてその後、ディオスの息子×ササライになったらいいなぁ・・・
とかちょっぴり思ってみたり。
せめて名前だけでもわかったらね・・・。