LOVE TURN



「どうしようシーザー、オレ、ゲドさんに嫌われたかもしれない」
「・・・・・・・・・あ?」
 いつものように昼寝をしていたシーザーの元に、突然現れた訪問者ヒューゴは、なんだか泣きそうな表情をしていた。
「・・・またなんかあったのかよ」
 いつのまにかヒューゴの相談役になった感のあるシーザーは、呆れたように寝転がった体勢のまま問う。
 そんなシーザーに、ヒューゴはゲドに言われた言葉をそのまま伝えた。
「オレ・・・ちゃんと頑張ってるんだ。立派な英雄になる為に。でも、ゲドさんがいたら、ついそのことよりもゲドさんのことで頭いっぱいになっちゃって・・・」
 今までにないくらい肩を落としているヒューゴに、さすがにシーザーも上体を起こして真面目に相談に乗ろうかと思った。
「おまえが英雄として頑張ってんのはおれも知ってるさ。問題は、ゲドの前じゃバカばっかりやってるってことだろうな」
「バ・・・バカ・・・。でもとにかくそんなかんじ・・・」
 シーザーにずばり言われて、ヒューゴは少し悲しくなりながらも、相談を続ける。
「ゲドさんにいい加減な奴だと思われてたら・・・って考えると、気楽に声も掛けられなくなってさ・・・。せっかく最近なんかいいかんじだったのに・・・」
 ヒューゴは、ゲドのことをついつい避けてしまう最近を思い出して、盛大に溜め息をついた。そして、縋るようにシーザーを見つめる。
「どうしよう、シーザー」
 かなり深刻そうなその様子に、しかしシーザーは引っ掛かりを感じざるを得なかった。
「・・・ていうかおまえ、おれの策はもう信用しないって言ってなかったか?」
 つい呆れたようにシーザーが言うと、ヒューゴは一転してカラッと答える。
「だって、シーザーが一番相談しやすいんだもん。ほら、シーザーっていつも一人だしさ。・・・・・・シーザーって友達いないのか?」
「・・・・・・・・・」
 おれはおまえのなんなんだ、とシーザーはちょっぴり思った。シーザーはいつものように真面目に相談に答えるのが虚しくなりながら、一応自分のフォローをしてみる。
「昼寝するのに誰かを誘おうとは思わないだろ。まあジョアンとはよく連れ寝?してたけど。あいつ、最近は真面目に指南してるし」
「・・・なんかさ・・・オレよりずっとシーザーのほうが真面目じゃない気が・・・」
「・・・・・・」
 ヒューゴに疑うように見られ、確かにそれを否定は出来なかったので、シーザーは話題を戻すことにした。
「なんの話してたっけ?」
「・・・・・・そうそう、シーザー以外になかなか相談する人いないんだよ。軍曹なんてさ、最近オレが何言っても「まあ、頑張れよ・・・」しか言ってくれなくなったし」
「口煩く言われないなんて最高じゃねぇか」
「確かに小言言われるよりはマシだけど・・・。オレは相談に乗ってもらいたいんだって! なぁ、どうすればいいかな・・・?」
 やっと最初の相談に戻って、ヒューゴのテンションもカクッと落ちる。なのでシーザーは仕方なく、まだちょっと寝ぼけている頭を働かせてみた。
「・・・要するに、おまえの信用を取り戻させ、見直されたいんだよな?」
「うん、そうそう!」
 身を乗り出してくるヒューゴに、シーザーは思い付いて口を開く。
「だったら、一石二鳥な方法がある。これから当分、ゲドには近付かずに、英雄としての責務のみをまっとうしろ」
「うん、オレがちゃんとやってるってわかってもらうんだね。でも、どこが一石二鳥なんだ?」
 ヒューゴは何度か頷いてから、首を傾げる。
「つまり、押して駄目なら引いて作戦だ」
「?」
「今まで嫌というほどまとわりついてきてたやつが、突然距離を置き始めるんだ。どうしても、気になって仕方なくなるだろ? で、気付いたら追うほうになってる、ってわけだ」
 少しありきたり過ぎるかと思いながらシーザーが教えると、ヒューゴは瞳をキラキラ輝かせだす。
「へえーっ。シーザーって頭いいなぁ!」
「・・・いや、こんなの初歩だろう」
 素直に感心するヒューゴに、シーザーはちょっと心配になった。また今回も、ヒューゴが失敗してしまうのではないかと。
 しかしそんなシーザーの心配は知らず、ヒューゴは上がったままのテンションで問う。
「で、これもシーザーの経験から?」
「・・・おまえもしつこいな・・・・・・」
 シーザーは体から力が抜けるのを感じながら、そのままうしろに手をついて嫌な記憶を呼び起こした。
「誰でもこの手が使えるってわけじゃないからな。おれの場合は・・・・・・ぜってぇ追ってなんてこないから、やんなかった」
 やさぐれたように言うシーザーに、ヒューゴは今度はコロッと表情を曇らせる。
「ゲドさんも追ってくれなさそう・・・・・・」
 ヒューゴはまたちょっと肩を落とした。シーザーはヒューゴのその自分の感情への素直さが、ほんの少しだけ羨ましくなる。
 しかしそんな感傷はすぐに消し去って、シーザーは目の前のヒューゴに声を掛けてやった。
「そんなことないだろ。おれが見た感じじゃ、上手くすりゃ一気に進展するかもよ」
 するとヒューゴはみるみる表情を明るくしていく。
「そ・・・そうかな」
 そして、だんだんとその気になってきたらしい。ヒューゴは立ち上がって、拳を突き上げた。
「よーし、当分は真面目に英雄頑張るぞ!!」
 決意表明、みたいなかんじで声高らかに宣言するヒューゴを、シーザーは半眼で見上げる。
「・・・・・・・・・」
 ゲドがああ言ったのもわからなくないな、とシーザーはこっそり思うのだった。



To be continued…

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シーザーにも「真面目に軍師やってるのか」疑惑浮上。
しかしゲドさんだって、ちゃんと何かしてるようには見えないよね。
・・・・・・ゲドさんもシーザーも陰でこっそりやってるんだよ!