LOVE UNKNOWN



「はぁ・・・はぁ・・・・・・、はぁ」
 しばらくそのままの体勢で息を整えてから、ヒューゴはゆっくりと起こした体を、今まで自分が乗っていた体のすぐ横に投げた。
「あぁ・・・疲れた」
 言ってもらす吐息に満足の度合いが知れて、思わずパーシヴァルは笑みをこぼした。それに気付いて、笑われたと思ったヒューゴは口を尖らせる。
「・・・なんだよ?」
「いえ、なんでもありませんよ。・・・それよりも」
 その表情が、さっきまでの行為と打って変わって年相応で、パーシヴァルは余計笑ってしまいそうになったので、話題を変えることにした。
「どうですか? 少しは進展しましたか?」
「ん? んー・・・」
 ヒューゴは少し釈然としないものを感じたものの、追及してもどうにもならないので、変えられた話題に乗ることにした。
「いまいち、かなぁ。どうもさぁ、オレのこと”男”だと思ってくれてない気がするんだよな・・・」
 溜め息をつきながら、ヒューゴは自分の想い人の姿を脳裏に描く。自分の気持ちをわかってくれてさえいない気がするのだから、深い仲になるなどまだまだ先のことに思えた。
「キス、するだけなら、出来るんだけどね」
 きっと今なら、子供のかわいい悪戯だと受け取ってくれるだろう。だからこそ、そんなことをしても意味はないとヒューゴはわかっていた。
 それでも、ヒューゴの指は無意識に、物欲しそうに唇に触れる。
「・・・では、その寂しさを、私が紛らわせてあげましょうか?」
 パーシヴァルはその様子に、つい身を乗り出した。その顔のすぐ横に肘をつきもう片方の手で頬に掛かる髪をそっと払う。
「・・・・・・ありがと、でも、やめとく」
 ヒューゴは近付いたパーシヴァルの唇に、未練を感じずにはいられないものの、はっきりと断った。
「ファーストキスはやっぱり、好きな人としたいからさ」
 言って、ヒューゴは少し照れたように笑う。
 自分とこんな関係になっておきながらそんなかわいらしいことを言うヒューゴに、パーシヴァルは思わず目を細めた。
「体の純潔は失っても、唇の純潔は守りたい?」
「ん、だってさ、セックスよりもキスのほうが、愛し合ってるかんじがする・・・気がする」
 少し首を傾げながら、ヒューゴは想像で物を言う。体を繋げるという本能的な行動よりも、唇を触れ合わせるという些細な接触を思ったほうが、今のヒューゴにくすぐったいようなときめきを与えた。
「・・・早く、想う人とセックス出来ればいいですね」
「?」
「そうすれば、わかりますよ。抱き合うということがどういうことか、ね」
 パーシヴァルはそれをまだ知らないヒューゴを、少し哀れむように言った。そこには、そんなヒューゴをこんな関係に誘ってしまった多少の罪悪感もある。
 しかしそんな感情はヒューゴには伝わらず、相変わらずよくわかっていないふうの表情をパーシヴァルに向けるだけだった。
「・・・ふうん?」
「・・・・・・・しかし」
 パーシヴァルは今のヒューゴに言葉で言ってもわからないだろうと、諦めるように体を起こしてヒューゴと距離を離した。
「もしそうなれば、私はお役御免になりますね。少し、残念です」
「・・・え?」
 パーシヴァルを見上げながらその言葉を受け取ったヒューゴは、思わず同じように体を起こす。
「そうなの?」
「だって、この行為は、あなたにとっては、ただの予行演習のようなものなのでしょう?」
「まあ・・・そうだけど・・・」
 言われてみれば、確かにこの行為の動機はまさにそれだとヒューゴは改めて思い返す。そしてそうなればやはり気になって、ヒューゴは正直に尋ねてみた。
「・・・ねえ、オレ、初めに比べたら少しは・・・どれくらい上達した?」
 任せっきりだった初めに比べれば上達してないことはないだろうとヒューゴは多少の自信を持って思う。
「・・・そうですね、随分上手くなりましたよ。若いだけあって、勢いも持久力も申し分ありません。・・・・・・ただ」
「ただ?」
 真剣に続きを待つヒューゴに、パーシヴァルは堪えきれない笑いとともに評価を下した。
「技術はともかく、大きさのほうだけは、体の成長を待たなければなりませんからね」
「・・・・・・っそ、それは・・・」
 ヒューゴはガックリしつつ、まだ成長途中のそれをパーシヴァルから隠すように座り直す。
「・・・だいたい、パーシヴァルさんの恋人と比べないで下さいよ」
 そして外見から自分よりはずっと立派そうだと想像させるパーシヴァルの恋人を思い浮かべて、ヒューゴは悔しくなると同時に、ふと疑問に思う。
「・・・でも、パーシヴァルさんは、どうしてオレと?」
「今さらそれを聞きますか?」
 もう何度目とも知れない行為のあとで、とパーシヴァルは笑う。
「だって、そういえば聞いてなかったって、今気付いたから。なんでオレみたいなガキを相手しようと思ったわけ?」
「ガキだなんて・・・英雄が何をおっしゃいますか」
「それは関係ないよ。体が子供ってことに変わりはないないじゃないか」
 事実は事実として認めるヒューゴに、パーシヴァルは首を振って返す。
「関係ありますよ。英雄の筆おろしをするなんて光栄なこと、そうないですからね。それに、私は人を見る目には自信があるんですよ」
 パーシヴァルは、ヒューゴのまだ幼さの残る頬のラインをなぞりながら、言葉の通り自信を込めて言う。
「あなたは、いい男になりますよ。誰もが・・・もちろんあなたの想い人も認める、最高の男に、ね」
「・・・そう?」
 ヒューゴはパーシヴァルのその期待に、少しも怯むことはなかった。
「言われなくても、なってやるつもりだけど?」
 言って不敵に笑うヒューゴを、パーシヴァルはやはり自分の目に間違いはなかったと満足そうに見返す。
「・・・まあ、それから単に、私が足りないからなんですけどね」
 そしてパーシヴァルは、ガラッと口調を軽くして冗談を言うようにもう一つの理由を教える。
「恋人がいるのに?」
「ええ。心は満たされても、体のほうが、どうしても一人じゃ満足出来ないんです」
「へえ、大変だね」
 ヒューゴにはよくわからなくて、曖昧に相槌を打つしかない。
「・・・じゃあさ、オレと出来なくなったら、他の人を探すの?」
「・・・そうですね、たぶん、そうでしょうね」
 パーシヴァルは容易に想像が付くことを、仕方なさそうでもなく言う。
「・・・なんか、嫌だなあ」
 そうなったときをちょっと想像して、ヒューゴは思わず眉をしかめた。
「どうしてです?」
「だって・・・愛してるのはあの人だけだけどさ、オレ、パーシヴァルさんのことも好きだもん」
 ヒューゴは玩具を欲しがる子供のような口調で、しかしパーシヴァルを真っ直ぐ見つめて言う。ヒューゴが本気でそう思っているのが伝わって、パーシヴァルは思わず苦笑した。
「・・・困ったことを言いますね」
「パーシヴァルさんも、残念って言ったじゃないか」
「ええ、私もあなたが好きですから」
 苦笑したのは自分も同じ思いだから、そうパーシヴァルは隠さず教える。
「・・・それは、困ったことだね」
 だからヒューゴも、同じように苦笑した。
「まあ、あなたは大丈夫ですよ」
 そんなヒューゴに、パーシヴァルは困ると思うのは今のうちだけだろうと言う。
「その人と付き合えるようになれば・・・愛し合い抱き合えるようになれば、あなたはそんなこと忘れてしまいますよ。その人だけを見てその人のことだけを考えて、その人さえいればそれでよくなります。あなたの愛し方は、きっとそうです。相手は、幸せですね」
「・・・・・・パーシヴァルさんの相手も、そう見えるけど?」
 自分がそうかはまだよくわからないが、ヒューゴから見てもパーシヴァルの相手こそそう見えた。
 そしてパーシヴァルは悠然と微笑む。
「ええ。ですから私も幸せですよ」
「・・・なのに、オレとこういうことするの?」
「言ったでしょう、心は、満足していると。・・・まあ、そんなことはいいじゃないですか」
 肩を軽くすくめてから、パーシヴァルはゆっくりとヒューゴに手を伸ばした。
「それよりも、今は一人身なんですから、相手して下さいよ」
 言いながらヒューゴの肩を押し、体を倒しながら上に乗る。
 微笑むパーシヴァルを、ヒューゴは苦笑しながら見上げた。
「・・・確かに、一人じゃ足りないみたいだね」
 恋人はかわいそうかもしれないけど、おかげでこういう目を見れたのだと思えばヒューゴにとってはありがたいばかりだった。
 その思いを隠さず見せながらヒューゴは手を伸ばして笑う。パーシヴァルの体はすでに熱を持っていて、しかし自分もすぐに熱を取り戻すだろうとヒューゴはわかっていた。
 パーシヴァルの言った、好きな人と抱き合えるようになればその人のことしか考えられなくなるということ。今のヒューゴは自分が本当にそうなるとは、あまり思えなかった。
 もちろん、愛しく思うのはあの人だけだ、そうヒューゴは断言できる。
 それでも今この瞬間、ヒューゴに見えるのは目の前のパーシヴァルの体、ただそれだけだった。




END

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二人の相手は匿名ですが、一応それぞれゲドさんとボルスをイメージしました。
しかしヒューゴとボルスってそういえば、身長たった4センチ差なんだよなぁ・・・。
気にしない気にしない。
しかしこの二人、この先どうなるんだろうな。(当然何も考えてません)