LOVE VERSION



version.S

「さ、遠慮せずに入って」
「は、はい」
 言われるまま、ヒューゴは室内に足を踏み入れた。
 その部屋は、ハルモニア式なのだろう、豪華でありながらも落ち着いていて、ヒューゴの自室とは全く違う雰囲気だ。
 そしてこの部屋の主、ハルモニアの麗しき神官将ササライは、ヒューゴに優美に微笑み掛ける。
「さあ、好きなところに掛けて。ディオス、紅茶を頼む」
「あ、はい」
「はっ」
 ササライの言葉に、ディオスは隣室へと移動し、ヒューゴはちょっと迷って遠慮がちに近くの椅子に腰掛けた。
 するとササライは丸テーブルを挟んでヒューゴのちょうど向かいに座り、目が合うとにこりと笑う。
 ヒューゴはこの高貴な雰囲気のせいなのかなんなのか、なんだかドキドキしてきた。
「紅茶をお持ちしました」
 少しして、ディオスが紅茶をトレーに載せて運んでくる。ササライとヒューゴの前にそれを置くと、そこが低位置なのかササライの左うしろに立った。
 ヒューゴがつい気になってちらちら視線を送っていると、ササライがそんなディオスを振り返って苦笑する。
「ディオス、外してくれないかな。おまえがいると、ヒューゴ君が話しづらいようだ」
「し、しかし」
 言われたディオスは、ヒューゴに目線を遣りながら躊躇いを見せた。確かに、少し前まで対立関係にあったグラスランドの少年とササライを二人きりにさせるのに抵抗があるのは、副官としては当然かもしれない。
 しかしササライは穏やかでいて有無を言わせない笑顔をディオスに向けた。
「ディオス、二度も同じことを僕に言わせる気かい?」
「は、承知しました」
 ディオスはまだしぶしぶといったかんじだが、ヒューゴに牽制の為だろう視線を一瞬向け、それから部屋を出ていった。
 しかしディオスがいなくなっても、ヒューゴの落ち着かない気分は一向に薄れない。
「さ、僕に聞きたいことがあるんだったよね? なんだい?」
「あ、あの・・・」
 ヒューゴはどうしようかと思った。
 確かにササライに聞いてみたいことがあって声を掛けたのだ。しかし、こんな部屋に招かれて、部下を下がらせてもらってまでの質問では全くないのである。
 しかしこういう状況になった以上、聞かないのも逆に失礼な気もした。なのでヒューゴは、気が進まないながらも口を開く。
「・・・た、たいした質問じゃないんですけど・・・」
「うん?」
 ササライは相変わらずの笑顔で首を少し傾げ先を促す。おかげで少し話しにくさが和らぎ、ヒューゴは思い切ってずばりと聞いてみた。
「あの、真の紋章宿してると成長しないって本当ですか!?」
「・・・・・・」
 予想外の質問だったのか、ササライの顔から一瞬笑顔が消える。だからヒューゴは慌てた。
「す、すいません! こんなときに、こんなくだらない質問、非常識ですよね!」
 こんなとき、とはちなみに、破壊者たちによって真の紋章を奪われいざ儀式の地に行かん、という時期だったりする。
「オ、オレ、失礼しますねっ」
 ヒューゴは自分がいたたまれなくなって席を立とうとした。
 しかし、ササライはそんなヒューゴを制止する。
「君にとっては、くだらないことじゃないんだろう? だったら、構わないよ」
 ササライは真っ直ぐ見上げてきて言うので、ヒューゴは椅子に座り直した。
「真の紋章とは一生付き合っていかないといけないんだからね。不安に思っていることがあるのなら、早めに解決しておくに越したことはないよ」
「は、はい。・・・実は紋章を宿したときからずっと気になってて。不老だとかって言われたんで、どうなのかなって・・・」
 ヒューゴがまだ申し訳なさそうに話すと、ササライはうーんと首を傾げる。
「どうなんだろうね。僕は生まれたときから宿しているわけだけど・・・」
「えっ、そうなんですか? 一体どうやって? すごいですね!」
 ヒューゴはササライの思わぬ言葉に、素直に驚きを表現した。
 しかし、ヒューゴはすぐに自分の軽率な発言を後悔する。
「・・・・・・別に、そんないいもんじゃないよ」
 変わらず笑顔のはずなのに、ササライのその表情はどこか歪んで見えた。つらそうにも、自嘲するようにも見えた。
「・・・そ、それってつまり、紋章を付けてても成長するってことですよね!」
 だからヒューゴは慌てて話題を転換する。するとササライは一瞬目をパチクリとし、それから僅かに強張っていた体から力を抜いた。
「そうだね。そうなのかもしれないね、確かに」
「で、ですよね! だったら、オレも、これからもちゃんと成長しますよね!?」
 ササライの様子が元に戻ったので安心しながら、成長出来るかもしれないという事実よりそのことにホッとしている自分を、ヒューゴはちょっと不思議に思った。
「・・・でも、僕はもう十数年この姿だけどね。君はもう僕より背が高いから・・・どうだろうね?」
「えっ、そんなぁ」
 悪戯っぽく目を細めて笑うササライに、ヒューゴの緊張感も薄れて口調も軽くなる。
「でも、僕はこれ以上成長しなくても・・・しないだろうけど・・・構わないよ」
「え? そうなんですか? オレはやだけどなぁ・・・」
「この姿で別段困ったこともないしね」
「それは、そうだけど・・・」
 確かに困ることはないが、それでも男だったらもっと大きくなりたいと願うんじゃないだろうかとヒューゴは思う。
 ヒューゴは首を傾げて、今の自分に満足していると言う目の前のササライを見た。
 おそらく外見年齢は17歳くらいだろう。華奢といってもいい体つきに、日焼けを知らなさそうな白い肌。柔和な表情を形作るのは、ヒューゴのよりも少し深い緑の瞳、すっと通った鼻梁、緩やかなカーブを描く口許。そしてその優美な顔を覆っているのは、さらさらと音が聞こえてきそうなオリーブ色の髪の毛。
 ヒューゴは唐突に気付いた。ササライの容貌が、美形と表現してなんの遜色もないものだということに。
 確かにこの外見なら自分に不満はないだろうと思いながら、ヒューゴはそんなササライからなんだか目が離せなくなった。
そしてそんな視線に気付かないほど、ササライは鈍感ではない。
「・・・僕の顔に何か付いてる?」
「い、いえっ」
 ヒューゴは声を掛けられて、ハッと我に返った。
「あのっ、・・・・・・か、かわいい顔ですね!」
 そして何か言い返さないとと思ったヒューゴの口から出てきたのは、そんな素直な感想だった。
「・・・・・・・・・」
「あっ、失礼なこと言ってすみませんっ!」
 ササライが思わず沈黙するので、ヒューゴは慌てて謝る。正直者なので訂正することは出来なかったのだが。
 するとササライはすぐに笑顔に戻った。
「ふふっ、いいよ。それよりも僕は、君のほうがかわいいと思うけどね」
「ええっ!?」
 ササライからの思いも寄らないカウンターに、ヒューゴはギョッとした。ビックリしたはずだが、何故か頬は赤くなる。
「僕は、どうせかわいいって言われるなら、君みたいな顔がよかったな」
「そ、そんなことないですよ! オレ、ササライさんの顔、好きです!!」
 勢いで、ヒューゴはテーブルに手をついて主張してしまう。その衝撃でカップの中の紅茶が揺れたが、ヒューゴは気付かなかった。
「そう? ありがとう」
「・・・・・・・・・」
 ササライは一段と綺麗な微笑を浮かべ、今度はヒューゴのほうがどう返していいかわからず黙り込んでしまう。
 それからしばらく、沈黙が続いた。
 ヒューゴはどうしていいかわからず、場繋ぎ的にカップに手を伸ばして紅茶をすする。
 落ち着かなくてソワソワする。しかし気まずいわけではない。言うなれば、ドキドキする。しかもそれは、最初に部屋に入ったときに感じた、あのドキドキとは違うような気がするのだ。
 少し俯いて、そんな自己分析をしていたヒューゴは、そおっと顔を上げた。
 何をしているのだろうと思って見遣ったササライは、紅茶カップに口を寄せていて、ヒューゴと目が合うと瞳だけで笑む。
「・・・・・・あっ、あのっ」
 ヒューゴはなんだか居ても立ってもいられなくなって、バッと立ち上がった。
「話聞いてくれてありがとうございましたっ。そろそろ失礼しますねっ」
 言ってからドアに向かうヒューゴの、微妙な挙動不審っぷりに気付いているのかいないのか、ササライも席を立つ。
「まあ、僕はここで成長がとまってしまったみたいだけど、君はきっとまだまだ大きくなれると思うよ」
「あ、ありがとうございます」
 隣に立ってササライは、気休めではなく心からなのだろう、ヒューゴに声を掛ける。
「てことはそのうち、かわいいじゃなくて、かっこいいって言わないといけなくなるんだね」
「そ、そんなことっ・・・」
 サラッと言うササライに、ヒューゴはまた顔が上気するのを感じた。地黒だからササライにはバレないだろうけど、とヒューゴは自分がカラヤの人間だということに感謝する。
 ヒューゴがそんなことを考えているうちに、ササライは自ら扉を開けようと手を伸ばした。そんなことをさせるのはなんとなく申し訳なくて、ヒューゴは慌てて自分も手を伸ばす。
 すると自然に二人は接近し、その近さにヒューゴは扉を開けようとしていたことも忘れてしまった。
 口が、自然に動く。
「・・・ササライさんって・・・いい匂いしますね」
「・・・・・・」
 やっぱり唐突なヒューゴの言葉に、ササライはまた沈黙する・・・と思ったら、今度は小さく吹き出した。
「あっ、す、すみませんっ!」
 ヒューゴは慌ててササライから離れ、どう自分をフォローしようかとおろおろする。
 そんなヒューゴに、ササライは優美というよりは楽しそうな笑顔を向けた。
「なんだか、君のこと気に入っちゃったな。また、いつでもおいで。話をしよう」
「は、はいっ」
 結局ササライに扉を開けてもらったヒューゴは、その言葉にとっさに、飛び付くように返事してしまった。
 そんな自分にヒューゴはちょっとたじろいだが、ササライは嬉しそうに笑って返す。なのでヒューゴも思わず笑って返した。

 それから、しょっちゅうササライの部屋を訪れるヒューゴの姿が目撃されたという。



END

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ていうか、最終戦はどうなったんだろう・・・





































LOVE VERSION



version.A

サッパリ思い付かないよ・・・!









































LOVE VERSION



version.P

なんとなく思い付いてはいますよ・・・。




































LOVE VERSION



version.F

一度何かを思い付いたんですがねー・・・・・・忘れた。






































LOVE VERSION



version.G

「あ、あと五分・・・・・・」
 ヒューゴはやめたい気持ちをなんとか抑え付けながらなんとか頑張っていた。
 もしこれが真面目な剣の練習などであったなら、軍曹辺りが「ヒューゴも炎の英雄としての自覚が・・・」などと喜んだかもしれないが。
 しかし実際は、それどころか、傍から見たら奇行としか取れないことをしているのだった。
 そんなヒューゴの状況を、ここで説明しよう。ビュッデヒュッケ城の牧場近くの森の中。3メートル近いところにあるがっしりした木の枝に、彼はぶら下がっていた。
 そう、アノ修行である。
 腕に力を込め耐えていたヒューゴの視界に、そんな自分に近付いてくる人影が映った。そしてその人物が、自分の愛しい人だと気付く。
「ゲドさんっ!」
 ヒューゴはゲドに向かっていつものように手を振ろうとした。
 すると当然、手は木の枝から離れ、ドスンと音をさせて地面に落下してしまう。
「・・・・・・何をやっているんだ」
 ゲドに思い切り呆れた顔をされ、ヒューゴは決まりの悪さを笑ってごまかそうとした。
「えへへ」
 しかしごまかせるはずもなく、微妙な空気が漂う。
「・・・・・・軍曹が」
 その沈黙を破ったのは、めずらしくゲドのほうだった。先程までヒューゴが掴まっていた枝を見上げながら口を開く。
「俺ではとめられん、と言っていたのはこのことか」
「えっ、ゲドさん、軍曹に言われたから来たんですかっ?」
 溜め息まじりのゲドの言葉に、しかしヒューゴはゲドの言いたかったこととは別の部分に引っ掛かる。
「他に何がある?」
「何って・・・オレに会いたかったからとか・・・オレの姿が見えないから心配で・・・とか・・・」
 ゲドの顔が怪訝そうになるにつれ、ヒューゴの声も小さくなっていく。
「・・・はは、そんなわけないですよね・・・」
 そしていつも通り、ヒューゴにとっては少し切ない結論に辿り着いた。
 そんなヒューゴに気を取られることもなく、ゲドは話題を戻す。
「・・・で、どうしてそこまで背を伸ばしたい?」
「え、そ、それは・・・」
 ヒューゴはギクッとした。ゲドさんに釣り合うようになりたいからです!と、本人を前に言うのは気が引ける。
「・・・ほ、ほら、こんなに見上げないといけないなんて、疲れるじゃないですか・・・!」
 この言い訳もそれなりに不本意なのだが、ヒューゴ本当のことを言うよりはましかと自分を宥めた。
 するとゲドは、尻餅をついたまま自分を思い切り見上げるヒューゴに、確かに一理あると思って、当座の解決法の為その隣に腰を下ろした。
 しかしやはり、そこまで気にする理由がわからないようだ。ヒューゴにしてみれば、ゲドさんは背が高いからわからないんです!、という言い分なのだろうが。
「・・・だいたい、そう低いとは思えないが」
「そんなことないですよ! みんなオレより高いです。ビッチャムとかゲドさんの仲間とか」
「大人と比べてどうする・・・」
「・・・・・・」
 ゲドはヒューゴの思考がわからなくて、再度溜め息をつく。するとヒューゴは、いじけたように視線を地面に落とした。
 その様子はゲドに、何かフォローをしないと可哀相だと思わせるに充分、らしい。
「・・・俺は・・・お前の身長、好きだがな」
「ほんとですかっ?」
 ゲドの言葉に単純に喜びかけたヒューゴは、しかしまたもやずれたところに引っ掛かる。
「ひどい、ゲドさん。オレのことは好きだって言ってくれたことないのに!」
「・・・・・・同じことだろう」
 同じじゃないです、と言おうとしてヒューゴは気付いた。
 ゲドは額を押さえ疲れたような表情をしている。ヒューゴはそれがゲドの、普通の人でいう「照れ」の表情だとこれまでの付き合いで学んでいた。
 ゲドにとって「同じ」ならば、ゲドはヒューゴのことを好きだと言ったも同然なのだろう。
「・・・ゲドさん、オレやっぱり背を伸ばしたいです」
「?」
 この期に及んでしつこく言うヒューゴに、ゲドはらしくないと思ってその顔を見つめる。
「だって、今もし立っていたら、ゲドさんの表情に気付けなかったかもしれないし・・・それに・・・」
 ヒューゴは言いながら、自分のほうを向いているゲドの顔に、自らの顔を近付けた。
「こうして、好きなときにキス、出来ないですから」
 数秒だけ重ねるだけだが、それで満足なのかヒューゴは嬉しそうに笑う。
「・・・ね」
 少し細められたその瞳と至近距離で合い、ゲドは今さらだが落ち着かない気分になった。
「・・・・・・だいたい」
 だからなのか照れ隠しなのか、それでもずっと密かに思っていたことをゲドは教える。
「木にぶら下がっても、伸びるのは背じゃなく腕だろう」
「・・・・・・あっ!!」
 するとヒューゴは、そのわかりきった事実に今初めて気付いたらしい。ギョッと目を見開いて、腕の長さを確かめだした。
 そんなヒューゴを見て、しかしゲドは呆れたふうではなく口を開く。
「・・・無理はするなよ」
 その言葉はゲドにしてはめずらしく素直に、ヒューゴの体が心配なのだと伝えていた。
 そんなふうに言われてしまうと、ヒューゴもそれに従わざるを得ない。
「はい、わかりました」
 しかしヒューゴは、持ち前の前向きさで、それならばとゲドを見た。
「でも、その代わり、キスしたくなったら言いますから、ゲドさんからして下さいね」
「・・・・・・・・・」
 ヒューゴが悪戯っぽく笑って言うと、ゲドは渋い表情になる。その予想通りの反応に、ヒューゴの表情はますます満ち足りたものになった。
 こんなやり取りが出来るのなら、背が低いのも悪いことばかりじゃない。ヒューゴは、そう思った。



END

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バカップル、万歳。(・・・・・・)