29.携帯電話
「センセイっ」
楽太は武流に近付き、いつものように目を閉じ口を突き出してキスをねだった。
それに、よくあることなので、武流はすぐに応えてやる。
口を寄せて唇を触れ合わせ少しずつキスを深くしながら、楽太は右手に持っていたそれをそーっとかざした。そして、数秒後にパシャっと音がする。
「・・・・・・?」
武流がなんの音かと思って楽太から顔を離し目を遣ると、そこには楽太の手に持たれた携帯電話が。
「エヘヘー、撮っちゃった」
楽太は嬉しそうに笑って、武流に携帯の画面を見せた。
「便利だよねーっ」
「ふぅん」
携帯を持っていない武流にはどう操作して映したのかわからなかったが、そこには二人のキスしている姿が映っている。
「あとね、これ見て見て」
楽太は携帯のボタンを数度押して、今度は違う画像を出した。映っているのは、寝ている武流だ。
「・・・いつの間に」
「朝センセイが寝てる間にー」
ちっとも気付かなかった、と思いながら武流にはむしろ他のことが気に掛かる。
「そんなの撮ってどうするんだ?」
「これでいっつもセンセイの顔見れるじゃーん。携帯買ったら絶対撮ろうと思ってたんだー。寝顔とキスしてるところとエッチしてるとこーっ」
楽しそうに語る楽太に、武流は呆れた目線を送った。
「あっ、でも、誰にも見せないから安心してね。オレだけが見れるセンセイなんだもんっ」
「・・・あっそう」
どうにでもしてくれとばかりに溜め息つく武流に、楽太は取り敢えず携帯をたたんでズボンのポケットに入れてから、首に腕をまわし抱きついていく。
「だから、あとエッチしてるときのセンセイを撮らして欲しいなー。ねっ、いーい?」
「・・・別に」
頬にキスしてきながらねだる楽太をひっぺがしもせず、武流はされるがままになりながら答えた。
「好きにすれば」
「えっ、いいのーっ?」
頼んでおきながら驚く楽太に、武流は小さく笑う。
「お前しか、見ないんだろ?」
「う、うんっ! やったー、センセイ好きーっ」
楽太は撮らせてくれるという結果よりその理由が嬉しくて、笑顔でガバッと武流に抱き付いた。
そんな楽太に、しかし武流はやはりただ甘いわけではないのだ。
「・・・まあ、お前にその余裕があったらだけどな」
「うっ」
撮れるかどうか一気に自信がなくなって、楽太はちょっと恨めしそうに武流を見上げる。すると武流の表情は、いつの間にか揶揄うような笑顔に変わっていた。
「もー、センセイの」
意地悪、と言おうとした楽太の口を、武流の口が塞ぐ。ついついそれに応えて、唇が離れた頃には楽太はもう笑顔に戻っていた。
「センセイ、大好きっ」
明るく笑って言う楽太に、武流は返事の変わりにもう一度キスをした――。
END
ときどき、こんなイチャイチャバカップルな話を
どうして書いてるんだろうと微妙な気分になる。
でも、まだまだ書くんだろうな・・・。
ちなみに、写メはやっぱり撮れなかっただろう・・・。
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