84.なかったことにして





「センセーイ、オレね、ラブホテルに行ってみたいーっ」

 誕生日の三日前に、オレはセンセイにそう言った。この時期に言うってことは提案じゃなくておねだりだってことに、五年目になる付き合いでたぶんセンセイは気付いてくれる。

「ほら、あっちのほうの線路沿いに何軒かあるじゃん。行きたいなー」

 隣に座って見上げると、センセイはオレのほうを見てちょっと考えてそれから口を開いた。

「まあ、いいよ」

「ほんとっ!?」

 オレが思わず笑顔になると、センセイはオレの頭を撫でて笑う。

「誕生日プレゼント代わり、ってことなんだろ? 付き合ってやるよ」

「わーい、センセイ大好きーっ」

 オレは嬉しくってセンセイにガシッと抱き付いた。





 そんなわけで七月五日、誕生日にオレとセンセイは約束通りラブホテル街にいた。

「センセーイ、どれにするー? あの壁がピンク色のとことかラブホテルってかんじでいいなーっ」

 オレはウキウキしながら、それでも小声でセンセイに話し掛ける。ここは隣町だから知り合いに合うことはほとんどないだろうけど、やっぱり男同士でラブホテルに来るのは普通おかしいもんね。だから、オレは体の線が出にくい服に帽子で、女の子の振りをしてるんだ。そう見えるかどうかは微妙なとこかもしれないけど。でも堂々とセンセイと腕組めて嬉しいなーっ。

「あっ、センセイ、あそこにしようっ」

 おとぎ話に出てくるお城みたいなホテルを見付けて、オレはセンセイを引っ張っていった。入口に入ろうとするとセンセイもついてきてくれる。

「えへへ〜、センセイ部屋選ぼーっ」

 オレは壁にくっついてるパネルの前に行った。ここで部屋番号を選んで、カウンターでお金を払ってカギを貰うみたいだ。無人だったほうが都合がいいけど、こうして変装(?)してきたから平気だもんねっ。

「センセイ、どれにするー? オレ、回るベッドとか乗ってみたいなー」

「・・・楽太」

「何何?」

「ここでは先生って言うなよ」

「あっ、はーい。で、どれがいい? オレはこれとかいいなーって思うんだけど」

「今日は全部、お前の好きにしたらいいよ」

「やったー、じゃあここっ」

 誕生日特有の優しいセンセイにそう言うと、センセイはカウンターに行ってカギを取ってきてくれた。それでさっそく部屋に向かおうとしたんだけど。

「あれっ、先生じゃん」

 うしろから掛けられた声に、オレは思わずギクッとして帽子を深く被り直し、センセイは振り向いた。

「なぁんだ、先生でもこんなとこにくるんだぁー」

「でも意外だねー」

 こそっと見ると、イマドキの高校生カップルってかんじで、オレの知り合いじゃなさそうだから取り敢えずホッとする。

「あ、てことは先生カノジョいたんだー。どんな人ー? 見せてよー」

 センセイに恋人がいるって知って驚く気持ちはわかるけど。二人に覗き込むように見られてオレは焦った。すると、センセイが二人から隠すようにオレを抱き寄せる。

「内緒、だ」

 そう言ってセンセイは歩きだし、ちょっとして足をとめて二人を振り返った。

「こういうとこに来るなとは言わないけど、なるべく早く帰れよ」

 そして二人が素直に「はーい」と返すのを背中に聞きながら、オレたちは今度こそ部屋に向かった。





「でもよかったの? 生徒に見られて」

 部屋に入って一頻り騒いだあと、オレは丸いベッドに腰掛けてちょっと気になってたことを聞いた。学校の先生だからってこういうとこに入っちゃいけないってことはないだろうし、向こうともお互いさまだから大丈夫だとは思うけど。

 見上げたオレに、センセイも隣に座りながら答える。

「平気だろ。未成年なんだからむこうのほうが分は悪いし」

「そっか。でも先生なのにとめなくてよかったの?」

「別に校則に書いてあるわけじゃないし、いいだろ。俺が言っても説得力ないしな。ま、見なかった振りだ」

「そーだね。男の子とこんなとこ来てるセンセイに人のことは言えないよねー」

「・・・。それよりもあいつら、今がテスト期間中だってことが心配だ」

「あー、そういえば」

 オレの誕生日は毎年ちょうどテスト期間中でセンセイのとこには泊まりにいけなかったっけ。でも、今はこうやって一緒にいられるんだ。

「ま、自分たちで責任取るだろ」

「そうそう。それよりさっ」

 自分から振った話題なのにオレはもうどうでもよくなって、センセイを期待を込めて見上げた。そしたらセンセイは小さく笑って、オレの髪を撫でながらキスしてきてくれる。

「ね、全部オレの好きにしていんだったよねっ?」

「ああ、好きにしろ」

 やっぱり笑って答えるセンセイを、オレはエイっと押し倒してキスをした。せっかくセンセイが優しくって、せっかくこんなとこに来たんだから、いろいろいっぱいしないとねっ。オレがそう思いながらニンマリ笑顔で口付けると、センセイも笑顔でそれに応えてくれた――。







 END

こじ付けるのにも程があるね・・・。

(お互いに、見なかった振り、みたいな・・・)

しかし、せっかくラブホテルなのにエロなし・・・。

いつか続きを書いたらこっそり繋げときます。(書いたら、ね)

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