96. ・・・
修学旅行の二日目は、クラス別の自由行動だ。クラス毎に回る場所を決め、スケジュールを立てるのである。
そして楽太はその日、武流が自分のクラスの副担任で本当によかったと再度思った。(ちなみに一度目は、飛行機に乗ったとき楽太が出席番号一番だったので副担任の武流と座席が隣同士になったとき)
何故なら、こうして堂々と武流とラーメン屋に行き、隣に座ってラーメンを食べれるのだから。
ちなみにここは旭川のラーメン村。2−6の生徒たちは好きな店に入ってラーメンを楽しんでいる。そして楽太は武流が宏と入ろうとしていたラーメン屋に迷わずついてきて、もちろん隣の席をゲットしたのだった。
「あー、センセイのチャーシュー大きいっ。交換してよー」
「・・・・・・。やるよ。ほら」
そして、とかいう二人の会話を聞きながら、それぞれ二人の隣に座って向かい合わせの良太と宏は同じように内心でビクビクする。この店には他の生徒もいるのに、この二人はいつ憚らずイチャイチャしだすかわからないからだ。こんな公共の場でしかも修学旅行で来ているのだから武流がうかつなことをするとは考えにくいが、楽太の口はいまいち信用出来ない。
ラーメン(+α)を楽しんでいる二人の横で、楽太と宏はそっと目を合わせて、どちらからともなく頷いた。
それは、その日の朝のことだった。楽太が武流を起こしているんだかイチャイチャしているんだかの部屋の前に立っていた宏に良太が話し掛けてきたのだ。
「あの、先生は知ってるんですよね? 楽太たちのこと」
「はっ? え、ええっと」
「楽太がそう言ってましたけど」
突然思いもよらない話題を出されて動揺するが、しかし確かに知っているので宏は頷いた。
「で、でもそれがどうしたんだ?」
「あの、今日回る*とか*とかって、上田先生と二人で回るんですか?」
「あー、うんまあ、その予定だけど」
まだ話が見えず首を傾げながら答える宏に、良太は本題を告げた。
「オレたちは班のやつらと回ることにしてるんですけど、楽太たぶんちょっとでいいから先生と二人っきりで回りたいと思ってると思うんですよ」
「・・・そうだろうな。せっかくの機会だし」
修学旅行とはいえ一緒に北海道まで来ているし、その上学生カップルはここぞとばかりにそこらじゅうでイチャついているのだ。そんな光景を楽太が羨ましそうに見てたことを宏も知っている。
「それで、先生に協力して欲しいんですけど・・・」
「二人っきりにしてやるんだな? 俺のほうは全然構わないよ。簡単なことだし」
宏が快諾すると、良太はホッと息をついた。
「よかった。オレのほうも楽太と班のやつらを上手くはぐれさせますから、よろしくお願いします」
そうして、楽太の為に同盟を組んだ二人は詳細を話し合った。
「・・・でも、友達思いだなぁ、わざわざこんなこと考えてあげるなんて」
「はあ・・・」
話が一段落ついて、感心したように宏が言うと、良太は困ったように笑う。
「というか、二人でいられる機会があったら、みんなでいるときはもうちょっと落ち着いてくれるかなと思って・・・」
「・・・ああ、そういう・・・」
宏はすぐに納得がいった。
「そうだな、はしゃぐのはそのときくらいにしてくれると助かるな・・・」
「全くです」
二人の間に妙な連帯感が芽生えた瞬間だった。
*で、良太と宏の計画は発動した。
「あれー、みんなどこいったんだろー」
見事にはぐれさせられてしまった楽太は困って辺りをキョロキョロ見渡す。いくら楽太が能天気でも、初めて来た場所で一人ぼっちになってしまうとちょっと不安になってしまうのだ。
しかしそんな楽太の表情は、次の瞬間パーっと明るくなった。
「センセーっ」
見知った人に会えたから、だけの喜びではもちろんない。
「どうしたのーっ? 西嶋先生は? あっ、もしかしてセンセイもはぐれちゃったのー?」
「も、ってお前と一緒にするな。忘れ物をしただかなんだかでバスに戻ったんだよ。お前はどうしたんだ?」
武流は周りを見渡して他に生徒の姿がないことに気付く。
「それがさー、一緒にいたはずなのにいつのまにか誰もいなくなってさー・・・」
「高校生にもなって迷子か・・・」
「違うよーっ。オレのこと置いていった良太たちが悪いんだもんっ」
意地悪く言う武流に言い返して、そこで楽太はやっとこの美味しい状況に気付く。
「ねえセンセイっ、せっかくだからさー、良太たちが見付かるまで一緒にいようよーっ」
楽太に期待を込めて見つめられ、武流は宏の行動がおそらくこの為だったのだろうと気付いた。そしてそれは良太と申し合わせてのことだろうと思ったが、楽太はどうやらそれを知らないし気付いてもいないらしい。
「ねっ、いいよねっ。あー、でもついてるなー。こーんなところでセンセイとデート出来るなんて思ってもなかったよー」
とっても嬉しそうに言われて、宏たちがせっかく作ってくれた機会でもあるので、武流は少しならいいかと思った。
「わかったよ。どこ行きたいんだ?」
「やったーっ。えっとね、ちょっとお腹空いたから何か食べたいー」
「さっきラーメン食ったばかりだろ・・・」
「だから今度はおやつなのー」
すっかりいつものように会話しながら二人は歩き出した。
「どうでしたか? あの二人」
それから三十分ほどで集合時間になり、合流した良太は宏にこそっと聞いた。楽太と武流が二人で過ごしている間、良太は班の人たちと一緒だったのだが、宏は二人のあとをこっそりつけていたのだ。特にすることがないのと、用心の為に。なんのかというと、もちろん二人が周囲も憚らずイチャイチャしださないかどうか、だ。
「楽しそうでしたか?」
「ああ、それはもう、とっても楽しそうだったよ・・・」
宏はちょっと遠い目をして答えた。さすがに堂々と二人の世界を作るなんてことはなかったが、宏から見たら充分ラブラブしていたのだ。その表情と声のトーンで良太はなんとなくを察する。
「・・・すみません、こんなことさせてしまって」
「いや、いつものことだし・・・」
宏は、いざ巻き込まれたら勘弁してくれよと思うのに、それなのに自分から首を突っ込んでしまうことが多々あることに気付いていた。それは、なんだかんだいって二人の関係を好ましく思っているから、かもしれない。強引かつ好意的に解釈するならば。
「ま、二人が楽しかったんならそれでいいし」
宏はいつも辿り着く結論に今回も行きついた。良太もはっきりとではないが頷いて同意する。
「あれー、二人で何話してんのー? めずらしいねー」
ちょうど会話が途切れたところで、タイミングよく楽太が二人を振り返って近寄ってきた。その笑顔は、一時間前よりも格段に明るい。
「あ、良太、明日のことでなんか話あるってー」
そしてご機嫌のまま良太を引っ張って班の人たちのところに連れていった。
「・・・ありがとう、と言うべきなのか?」
幸せそうなそのうしろ姿を見送っていた宏に、武流がいつの間にか隣に来て同じように楽太に目線を遣ったまま話し掛けてくる。
「あ、あぁ、いや、好きでやったことだから」
「そうか」
宏はハハハと笑って答え、その笑顔は宏がよくする愛想笑いではないので武流は素直に感謝した。
「いつも迷惑掛けるな」
「・・・掛けてる自覚あったんすか・・・?」
「ぼちぼち」
「・・・」
バスに着いたので座席につき小声になりながら二人は続ける。
「いつも思ってたんだけど、バレたらどうしようとか思わないわけ?」
「バレないよ」
「そうかー? 結構際どいこと堂々とやってるだろ」
「俺とあいつじゃ誰も疑いすらしないよ」
「・・・まあ、確かに」
「な。それよりは、俺と先生のほうがまだ真実味があるだろ」
「はっ!?」
武流の思わぬ言葉に宏が驚いたとき、クラスの室長が声を掛けてきた。
「先生、みんなそろったみたいですけど」
「あ、あぁ」
担任の宏は慌てて点呼をして、バスは本日の宿泊場所に向けて走りだす。そして席に座り、宏は聞き流すのも手だと思ったがしかし蒸し返してみた。
「・・・で、なんで俺と先生が・・・」
「そんな噂があるらしい。小耳に挟んだとかでうるさく言われた」
武流は目線でその情報源が楽太だということを知らせる。
「な、なんでそんなことに・・・」
「お互いに女っ気がないからだろ」
「だからってそんなこと考える人いるんだなぁ・・・。でも、まあ、それだけ仲良く見えるってことだから、そんなに悪い気はしないような気もするな」
どう反応していいかわからないので、宏は強引にいい意味で捉えてみる。武流はそんなふうに噂されていても気にしていなさそうで、宏はこの話題から離れようと思った。
「何話してるのー?」
そんなときうしろの座席から楽太がひょいっと顔を覗かせて話し掛けてくる。
「お前には関係ないこと」
「えー、なんだよー」
ぷーっと顔を膨らませる楽太の手元を見て、武流は呆れた視線を送った。
「お前、また食ってんのか?」
「だってー。ほら、センセイにもあげるからー」
どうやら、二人っきりで過ごせたせいで楽太のテンションは逆に高くなってしまったようだ。そして楽太が差し出したポッキーを、武流は口で受け取る。
「「・・・・・・・・・」」
その様子を見ていた宏と良太は、そっと視線を合わせ、同時に小さく嘆息した。
END
やっぱり、仲良し「武流・宏」を書くのが楽しいです・・・。
書いたことなかった「宏・良太」の絡みを書けたので、
第三弾では「武流・良太」を書いてみようかなー。
(ということは良太の出番をまた多くしないといけないのか・・・)
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