#Determination





 土曜日の部活。オレはサボってやろうかと思ったけど、気がついたら学校に向かっていた。慣れっておそろしい・・・なんて思ってみたり。だって、他に原因なんてない。相変わらず最低な目覚めで気分が優れないのに。それなのに部活に出るなんて、それ以外にどんな理由があるっていうんだ。どんな・・・

「おー楽太、今日も暗い顔してんなー」

 学校近くになって同じように部活に向かう良太に会った。いつもうるさい騒がしいとか言う良太に暗いって言われるとは、オレってそんなに元気ないんだ・・・。

 そうは思ってもやっぱり明るく返事なんて出来なくって、オレは「よう」と軽く手を上げるしか出来ない。

「・・・どうしたんだ、本当に。らしくないぞ。何か悩みがあるんなら言ってくれよ」

 良太は心配そうに言う。こいつなら他言しないだろうし親身になってくれるだろうし、何より馬鹿にしたり揶揄ったりすることもなく真剣に聞いてくれるだろう。

「・・・あのさ、良太は人を好きになったことあるか?」

「え? そ・・・それは・・・うん・・・あるけど・・・」

 良太は照れながらもちゃんと答えてくれる。

「もしさ、好きかもしれないって思う人がすごく年上の人で、しかも・・・男だったらどうする?」

「それって、上田先生のこと?」

「えっ、いやっ、なっ、なんっ」

 すごい勢いで動揺するオレに、良太は「まあ相手は誰でもいいや」と話を続ける。

「オレだったら、戸惑ったり悩んだりもすると思うけど、でも、その人を好きだって思う自分の気持ちを大切にしたいよ・・・」

「好きだって思う自分の気持ち・・・」

「あ、っていうか急がないと遅れるぞっ」

 真面目に語ってしまった照れ隠しにか走りだす良太を、確かに時間がやばそうなのでオレも追った。





 今日は三年生が模試をやっているとかで人が少ない。おかげで、一年生もちょっと矢を射らせてくれることになった。

 いっつものオレなら基礎練習ばかっりでちょっぴりウンザリしてるから喜ぶんだろうけど、今日は微妙だ。なんてったって、慣れてないし危ないから手伝ってもらわないといけないんだ。センセイに。

「おい楽太、おまえの番だぞー」

「うわ、うん」

 慌ててオレは射場に立つ。平常心、無心、だよな、こういうのやるときの心構えって。

 はい、とセンセイに弓と矢を渡される。

「好きに構えてみろ。直すから」

「うん」

 オレは言われた通り適当にそれっぽく構えた。するとセンセイがオレの背後から型を直していく。

 背中に感じる微かに触れてるか触れてないかの気配が、妙にくすぐったい。手も添えられてるけど、二人とも手袋してるから直接触れられなくて残念だ。

 ・・・・・・って残念ってなんだよ。

「もう射ていいぞ?」

 頭ん中でジタバタして一向に射ようとしないオレにセンセイが声を掛ける。いつもより近いところから聞こえて、オレの心は頭以上にジタバタしだす。

 体が熱くなってくる。今すぐ逃げ出したい、そう思う一方で、このままこうしていたいなんて思ったり。

 そんなやばい思考に、まずいと思ってオレは慌てて射るとさっさとセンセイから離れて射場を出た。

「おい、石井」

 するとセンセイが射場から顔をのぞかせてオレに声を掛けた。

「え、何?」

 オレ今普通の顔してるよなと思いながら振り返る。

「何、じゃなくて、弓持ったままだろ」

「あっ本当だ」

 そんなことにも気付かないなんて、うかつもここに極まれりってかんじだな・・・。

 オレは慌てて引き返すとセンセイに弓を手渡した。センセイは受け取ると、しばらくオレの顔を見つめる。

「な・・・何?」

「気抜いてると怪我するぞ」

 そう言うと軽くオレの頭を叩いて、センセイは射場に戻っていった。

 オレの様子がおかしいから心配してくれたのかな・・・。まあ、部活中に何かあると顧問として困るだろうし。それとも・・・

「・・・っていうか、その前に、オレの気持ちかぁ・・・問題は」

 オレの気持ち。

 今までずっと考えないで逃げてきた。なんか怖かったから。

 でも、何が怖いんだろう?

 久しぶりのセンセイとの会話。なんだか、楽しかった。というより、嬉しかった、気がする。

 このままじゃ、きっとあんなふうには話せなくなる。たぶん、そんな気がする。

 なんだか「気がする」ばっかりだな、とオレは思った。

 このままじゃいけない。

 ハッキリさせないといけない。

 逃げるのでもなくなんらかの結論が出るのを待つのでもなく、自分で出すのだ。それがどんなものでも、受け止めてみせる。

 ハッキリさせてしまおう。今日、部活が終わったら。



 

「あのさ、なんか話あるんだけど・・・」

 微妙な日本語で、オレは部活が終わったあとセンセイに声を掛けた。

「・・・じゃあ、うちに来るか?」

 センセイが少し考えて口にした言葉にオレは思わずパッと顔を上げる。

「う、うんっ。行ってみたい」

 車で送ってもらったことはあるけど、家に行くのは初めてだ。そう思うとオレは今までセンセイのこと散々避けようとしてきたのも忘れてついウキウキしてしまった。

 「車まわしてくる」と言ってセンセイがいなくなってしばらくして、オレはハッとしてうかれている場合じゃないと頭を振る。

 そもそも、どうしてこんなふうにうかれてしまうのか。先生の私生活というものにはつい興味が引かれてしまうから、だからなのか? オレが楽しそうなことに目がないタイプだから、なのか?

 それを、ハッキリさせるのだ。そう、決心したのだ。

 こぶしをギュッと握り、オレは近付いてくる車のほうに駆けていった――。





Declarationに続く→


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楽太、突然前向きに・・・。

まあ、切り替え早い子ですから・・・。

ていうか、続けて読むと何気に前の話と微妙に繋がってない気がすることに気付きました。

でも放置。