#Game 





「あー、センセイ、やっぱり似合うねっ」

 オレは目の前で手際よく着替えていくセンセイを見てはしゃいだ。

 センセイが着たのは、深い青色した浴衣だ。寝るときに着るほうの浴衣も似合ってるけど、こっちの浴衣もやっぱり似合うなあ。

「お前もさっさろ着ろよ。手伝おうか?」

「んー、とりあえず自分で着てみる」

 服を脱いだまま見蕩れていたオレは、ハッとして着始めた。浴衣を着るのは初めてだけど、着物は弓道着で慣れてるから結構ピシッと着れた。

「どうっ?」

「うん、もう少し帯は下のほうがいいな」

 手を広げてポーズをとるオレにそう言いながらセンセイは直してくれる。その様子を見てオレは顔がニヤけた。

「なーんか、夫婦みたいだよねー、これって」

「・・・・・・どこがだよ」

 センセイはオレに呆れた視線を送るけど、そんなのいつものことだから気にしない。

「だってー、今のセンセイ『仕方ない人ねえ、あなた』ってかんじじゃん、って痛い痛いっ」

 ヘラヘラ続けるオレに、センセイは帯を思いっきり引っぱってきた。

「軽い冗談じゃんー」

「だから手加減してやったろ」

「こ、これで・・・」

 オレはまだ結構痛む腹に、センセイの馬鹿力を実感した。やっぱりオレって一生センセイに力では敵わないや・・・。

「でも、サイズは丁度だな」

「あ、うん」

 オレが着たのはセンセイに借りたやつなんだ。ちなみに、センセイが今 着てるのよりもちょっと紫がかった青色してる。

「俺が中学に入った頃のなんだけどな」

「どーせオレはちっちゃいよー」

 オレはちょっと唇を尖らせながらセンセイを見上げる。でも、自分が小さいってこと、実を言うと別にもうそんなに気になってない。だってセンセイがオレのちっちゃいとこ好きって言ってくれたからさ。

「あー、でも、中学生のセンセイかー・・・」

「・・・なんか変な想像してないか?」

「変じゃないよっ。ていうか、想像出来ないし・・・」

 中学のときのセンセイなんて、本当に見当付かないや。オレは今後の目標に、センセイのアルバムを見せてもらうってのを付け加えた。

 でも、とりあえずオレが今 着てる浴衣サイズくらいだったんだよな。というか、センセイこれ着てたんだよな、昔。そう考えるとなんかドキドキするー。

「じゃ、そろそろ行くか?」

「あっ、うんっ」

 そういえば、浴衣着てなんか満足してたけど、目的はお祭りに行くことだったんだ。

 去年、オレがセンセイに浴衣をプレゼントしたときに約束したこと。センセイの実家の近くのお祭りに一緒に行こうって。同じ日に学校の近くでもお祭りがあるから、オレたちの学校に通っている人たちはたぶんほとんど来ない。だから、堂々とセンセイとデート出来るんだ。

「さっ、行こ行こっ」

 オレはセンセイの手を引っぱってウキウキと歩き出した。





 リンゴあめ食べて金魚すくいしてヤキソバ食べてかき氷食べて・・・あとまだ何か食べた気もするけど・・・それと、花火も見た。

 やっぱりお祭りって楽しいなあ。それに、なんてったって、センセイが一緒だ。さすがに知り合いがいないからって手を繋いだりは出来ないけど。でも並んで歩いてるだけで楽しいし。

「そろそろ帰るか?」

「うん。あっ、センセイ、あれも食べよっ」

 帰ろうと足を動かしかけたオレは、おいしそうなフランクフルトが目と鼻に入ってきてそっちに向かっていった。

「まだ食うのか?」

「これで最後だからー」

 センセイはちょっと呆れたかんじだけど、食べたくなるんだからしょうがないじゃん。オレって食欲旺盛なんだよ。まあ、そのわりに全然身につかないんだけどさ・・・。

 ともかくオレは買ってきて、食べながら歩きだした。人ごみで騒がしかったのが段々静かになってく。

「ね、手繋いでいい? ほら、周り人いないし」

 オレはチャンスだと思って返事を待たずにセンセイの手を取った。センセイはオレをチラッと見て、でも手は振り解かれなかった。

「エヘヘー。静かだし暗いし、なんか世界にオレとセンセイの二人っきりってかんじー」

「・・・やだな、そんな世界」

「いいじゃん、ちょっとの間くらいさ」

 笑って見上げるオレにセンセイは呆れたような目線を向けて、でもやっぱり手は繋がれたまま。嬉しいなあ。こうやって手を繋いで歩くなんて、本当にめったに出来ないもんな。

「あっ、ゴミ箱発見」

 だからオレは、口にくわえたまんまだったフランクフルトの棒の捨て場所を見つけて、センセイの手を離さずにそっちに寄ってった。

 ちなみに今通ってるのは公園で、両脇がちょっとした茂みになってる通路。ゴミ箱はその通路の左端の辺にある。

「ん?」

 ゴミ箱に棒を捨てたオレは、その茂みのほうから何か聞こえた気がして耳を澄ました。

「ね、何か聞こえない?」

「ああ・・・いや、気のせいだろう。いいから帰るぞ」

 センセイはそう言ってオレの手を引こうとしたけど、なんかあやしい。

「オレ、ちょっと見てくる」

 オレは好奇心からセンセイの手を離れて茂みに飛び込んでった。

 しばらく行くと、段々声は大きくなってくる。

「ほら、やっぱり声してるじゃん・・・・・・って、こ、これって」

 ハッキリ聞こえるくらいになると、オレは声の正体がやっとわかった。オレたちみたいに祭帰りらしく浴衣を着た女の人と男の人が、そういうことをしていたのだ。しかも聞こえてくるのは一箇所からじゃないし。

「へ、へえ〜」

 他人のこういうシーンってビデオでなら見たことあるけど実物を見るのは初めてで、オレは思わず近くでその光景に見入ってしまった。

「何見てるんだよ、お前は・・・」

「うわっんぐぐ」

 いきなりうしろから声を掛けられて、オレは驚いて声を上げそうになった。そのオレの口をセンセイが押えて黙らせる。センセイはそのままオレをうしろから抱えるようにして少しその場を離れた。

「お前な、覗き見なんかしてるなよ」

「だ、だって・・・」

 センセイは口に遣ってた手は外して、溜め息をついた。

 オレをうしろから抱えるというか抱きしめるみたいな体勢は変わってなくて、耳元の辺で声とか息遣いがして。あぁ、さっきの見てちょっとドキドキしてたのが、今のでもっとドキドキしてきたよ。

「ね、センセイ」

「・・・・・・なんだ?」

 声色がどうしてもねだるかんじになって、感付いたのかセンセイは少し嫌そうに聞き返した。

「オレたちも、しようよ」

「・・・・・・帰るぞ」

 センセイはオレから体を離して公園の通路に戻ろうと歩きだす。オレは慌ててその手を引っぱって引きとめた。

「だ、だって、こんなんじゃオレ歩いて帰れないよっ」

 オレは空いてるほうの手で、もうすっかりソノ気になってるところを差した。センセイはオレに思いっきり呆れたような目線を送ってきたけど、でも半分はセンセイのせいなんだからな。

「なー、いいじゃん。他の人もやってんだし、誰も見ないって」

 覗き見していた自分のことは棚上げな言い訳をしながらオレはセンセイの手をブンブン振った。センセイはしばらく考えてたみたいだけど、ふと溜め息をついた。

「仕方ないな」

「えっ、いいのっ」

 どうせきっと問答無用で引き摺っていかれるだろって思ってたけど、言ってみるもんだ。喜ぶオレを、センセイは側の木に凭れ掛けさせた。んで、オレの前に膝を突いて座り、オレの浴衣の帯から下を開く。

「セ、センセイ?」

 何をしようとしてるかなんて聞かなくてもわかるし、そりゃこれされるの嬉しいけど、センセイちゃんとオレにやらしてくれる気あるのかな。そう思ってついセンセイの肩を押し戻すように手を動かした。

「あ、あのさ」

「要は、ここが収まればいいんだろ?」

 センセイはオレを笑って見上げて、オレのをパンツから出してくる。あー、やっぱりやらしてくれる気なんかないんだ。

「センセイ、そうじゃなくって・・・っ」

 訴えようとしたけど、センセイの唇がオレのに触れてきて思わず声を詰まらせた。手を添えたままセンセイはゆっくり舌を這わせていく。

 こうなるとオレが敵わなくなるってのはわかってるから、オレは大人しくされることにした。センセイの家に帰ったらやらしてくれるはずだしな。外でっていうのは一回やってみたかったんだけど、まあそれ嫌がってたセンセイが外でこれしてくれるってだけでもすごいことだし。それに、センセイってこれするのうまいもんなあ。すごい気持ちいい。

 段々何考えてるかわからないっていうか何も考えられなくなりながら、オレはセンセイの舌の動きに合わせて声をもらしだした。

「楽太」

「んぇ? な、なに?」

 センセイがふと動きをとめてオレを見上げた。

「声、出すなよ」

「あ、う、うん」

 オレはセンセイの言うことはもっともなので、でも我慢は出来そうにないから口を手で押えた。そんなオレを見上げていたセンセイは、笑った。優しいかんじじゃなくて、ニヤって意地悪そうに。なんか嫌な予感・・・。

「・・・っう」

 センセイは動きを再開した。なんかいつもよりじっくりっていうかねっとりしてるっていうか。センセイは元々丁寧なんだけど、今はどっちかいうとしつこいっていうか。なんて言っていいかわからないけど、とにかく気持ちよくって声を抑えるのが大変だ。

「ん、んぐっ」

 オレは思わずセンセイを恨みがましく見下ろした。センセイ絶対にわざとやってるよぅ。オレのから口を離さずに見上げてきたセンセイは、とっても楽しそうだもん。

「セ、センセぇ〜」

「声、出すなって言ったろ?」

 あうっ。訴えるように言ったオレに、センセイはオレのさきっぽを口に入れたまま笑って言う。あー、もう。気持ちいいし、なんか悔しいっていうか大変だし、でもセンセイ楽しそうだから嬉しいやなんて思ってもみたり。

 結局、オレはイかされるまで―‐しかもなかなかイかしてくんなかった・・・―‐そんなかんじで、取り敢えず頑張って声だけは抑えてた。





「さ、帰るぞ」

「・・・無理」

 オレは木に凭れたまましゃがみ込んで、立ったセンセイを見上げた。目つきが恨みがましくなるのは当然だよな。

「ワガママだな」

「意地悪よりはましだよっ」

 口を尖らせて言うオレにセンセイは溜め息ついて手を差し出してきた。

「ほら、立て」

「だから、無理だってっ。力入んないもん」

 オレが思わずその手を取ると、センセイはオレを引っぱって立たせようとした。でもセンセイがしつこかったせいでオレはホントに疲れてんだよ。

「・・・おぶってやろうか?」

 しばらくオレを黙って見下ろしていたセンセイは、ふと言った。

「えっ、いいのっ?」

「いいよ」

 そう言ってセンセイが背中を向けてきたから、オレは思わずその背に飛び付いてった。

「靴は脱げるかもしれないから脱いどけよ」

「あ、うん」

 オレが履いてた草履を脱ぐとセンセイはそれを持って立ち上がった。そして茂みを出て公園の通路に戻る。

「わあ、すごいー。地面が遠いや」

 普段より二十センチ以上高い目線に、暗くてあんまり見えないながらもオレは辺りをキョロキョロ見渡した。

 すると、そんなオレの様子にかセンセイが笑った気配がした。

「なんだよー」

「お前って、本当に面白いやつだな」

「誉めたってなんにも出ないよ」

「誉めてないよ。それに、なんにも出ないってのは嘘だろう?」

「そりゃー・・・」

 あぁ、オレって本当にセンセイには力でもだけど言葉でも敵わないや。きっといつまで経っても。

「嘘だよっ。センセイにならなんでもあげちゃうよっ。センセイ、好きっ!」

 ちょっとやけくそ気味にでもちゃんと心を込めて言って、オレはセンセイにしがみ付く手に力を込めた。

「俺も、好きだよ」

 センセイは笑った気配付きでそう答えてくれる。

 こんなふうに好きって言ってくれたり笑ってくれたら嬉しい。ときどき今おぶってくれてるみたいに甘やかしてくれるのももちろん嬉しい。でも、意地悪なこと言ったりされたりするのも、やっぱり嬉しい。

 ちょっとオレってどうしようもないなって思うこともあるけど。でもそんなセンセイまとめて好きなんだし、そんなセンセイを好きな自分も、大好きだ。

「センセイ、もっと急いでよー。オレまた我慢出来なくなってきたよーっ」

「今度は置いてくぞ」

「やだっ。離れないよっ、オレは」

 冗談っぽく言いながら、オレはさらにセンセイにしがみ付く手に力を込めた。するとセンセイは笑って言う。

「離さないよ」

 ・・・本当に、センセイには敵わないよ。

「うんっ、センセイがそう言うなら、仕方ないからいてあげるよ」

「はいはい、ごくろうさん」

 オレはセンセイには勝てない。

 でも、負ける気も、しないけどね――。





END


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「Game」には「勝負、形勢、勝ち目、揶揄い、獲物、企み」って意味もあるそうな。

しかし、夏祭りでのイチャイチャっていうかエロっていったら基本パターンは、

「花火が綺麗→でも、君のほうがもっと綺麗だ→欲情→気の進まない受を説き伏せて暗がりでエロ♪」

部分的には合ってるのに、なんかかけ離れてる気が・・・