#Heat





「暑い・・・・・・」

 楽太は言いながら机にへばった。

 時は六月下旬、湿気のせいでいつもより蒸し暑い日。場所は教師用アパートの一室。シチュエーションは大好きな人と二人っきり。

 最後のは構わない。というか、嬉しい限りだ。

 しかし問題は前項の二つである。いや、夏だから暑いのは仕方ない。しかし、その暑さを凌ぐための便利な道具があるだろう、と楽太は思った。

 しかしこの部屋、なぜか窓も開いていないし扇風機も回っていないしエアコンもついていないのだ。

 楽太は机に顔を預けたままで、この部屋の主である武流を見遣った。

「センセイは、暑くないわけ・・・?」

 武流はさすがに半袖の服を着てはいるが、その表情はたいして暑さを感じているようには見えない。

「そりゃ、暑いよ」

「だったらさ、エアコンとかないんだったらせめて窓開けるとかさっ」

 暑がりなほうの楽太は座っているだけなのに滲んでくる汗をうっとおしく思いながら訴える。

「お前の声大きいから駄目」

「う・・・」

 確かに近所の先生に聞かれるとやばい会話を頻繁にしているので、そう言われると楽太は黙るしかない。

「ぐだぐだ言ってないで、さっさと課題しろよ」

「うー」

 確かに机にはやろうと思っていた問題集が広げてあったが、しかし今の楽太にはそんな気力はなかった。

「暑いのがいけないんだよ。ちゃんと涼しかったら、オレだって真面目にバリバリやるのに・・・」

 楽太はつい愚痴る。暑いなら暑いで、せめて勉強から逃れる言い訳にくらいはなってくれと思いながら。

「・・・本当に、涼しかったからってするのかよ」

「するよ。もし、涼しかったらね」

 そう言った楽太に、武流はそれじゃあと何かを手に取る。

「・・・・・・何それ・・・・・・」

 楽太は見覚えがあるそれに、嫌な予感がしながら尋ねる。

「エアコンのリモコン」

「・・・っ、エアコンないって言ったじゃん!」

 楽太は騙したなと思わずガバッと起き上がった。

「ないなんて、一言も言ってない。そもそも、お前はあれがエアコンじゃなくて何に見えたんだ?」

 そう言って武流は部屋の隅に付けられた、どうみてもエアコンな物体を指して心底不思議そうに言う。

「・・・・・・。だって・・・」

 思い返してみれば武流は確かにエアコンがないとは言っていない。しかし暑いのにつけていないし、ないと思っている楽太の訂正もしなかったのだ。とはいっても、普通ならやはりエアコンがあることに気付くだろうが、楽太はなんといっても単純で思い込んだらとまらないやつなのである。

「そんなん、ないんだって思うじゃんかー! だいたい、何であるんだったらつけないんだよー!」

 悔しさでジタバタしながら楽太は武流を睨む。

「別につけるほどは暑くないし」

「オレは暑いのー!」

 楽太の抗議に、武流はリモコンを持った手を楽太のほうにかざしながら少し笑って言った。

「お前言ったよな、涼しかったら勉強するって。するか?」

 その言いように、確かに自分が言ったセリフではあったが、楽太はムカッとする。

「・・・・・・・・・する」

 しばらく黙っていた楽太は、低い声でそう言って立ち上がった。そしてムッとした顔のまま武流ににじり寄っていって、何をするのかと見上げている武流を思いきり力任せに押し倒す。

 その反動で武流の手からリモコンが床に落ちたが、楽太はそんなこと気にせず噛み付くように口付けた。勢いがよすぎてどちらかの唇かどこかが切れたらしく微かに血の味がしたが、楽太はやはりそれも気にせず貪るように口内を弄る。

「・・・するのは、勉強だろう?」

 しばらくしてやっと解放された口を、武流は開く。

 しかし楽太はそれに答えず、服の下に手を入れて武流の少し汗ばんだ肌に直接触れだした。

「何突然サカってんだか・・・」

 好きにさせながら呆れたように呟く武流に、楽太がやっと声を出す。

「ねえセンセイ、暑いときの頭がボーっとする感じって、ちょっとセックスしてるときと似てるよね」

 だからセンセイのせいだよ、と楽太は武流を見下ろす。その熱を帯びた目に、掠れ気味の声に、触れる肌の熱さに、次第に武流も内からの熱を煽られていく。

「・・・お前の、せいだよ」

 似たようなセリフを言う武流に、楽太は一瞬動きをとめて、それからニッと笑った。

「だから、責任とろうよ。お互いに」

 そう言ってやはり少し乱暴に口付けてくる楽太に、武流はお返しとばかりにその舌を噛んでやる。

 楽太はそれに眉をしかめつつも離れることはせずに、手を武流の下肢に伸ばして片手だけでそれを引きずり出した。そしてさっそく扱き始めた長く持たせてやるつもりのなさそうなその動きに、武流も楽太のを取り出し同じように刺激を加える。

 根比べのような愛撫を与え合いながら、口内を弄り合うのもやめない。

 負けず嫌いだが我慢強くはない楽太は、なんとか耐えようとしていたが、次第に追いつめられ遂にその精を吐き出してしまう。そしてその様子を見届けたあと、武流も自らを解放した。

「もっと忍耐力、つけろよ」

 息を整えながらも鼻で笑うように言う武流に、楽太はさらに体が熱くなるのを感じる。

 楽太は目に物見せてやると、武流が放ったものを指に絡めてうしろを遠慮なく探り始めた。武流の苦しそうな吐息にも、気持ちよくしてやれる場所を知っている楽太は、構わずそこに向かって指を進める。

「ん・・・」

 すぐに辿り着いたそこを軽く引っ掻き擦ると、武流はこらえ切れない声をもらす。指の動きは緩めずに、楽太は悪戯小僧のような笑いを浮かべて言う。

「センセイ、ちゃんと欲しいって言ってくれないと、あげないよ」

 容赦なくそこを責めながら、楽太はすぐにでも押し入りたい自分を抑えてその言葉を待つ。

「ね、センセイ、我慢は、しすぎるのもよくないよ」

 言いながら自分のほうがその言葉の誘惑に負けそうになる楽太を、見透かすように武流は息の合間に声を出した。

「自分に、正直に生きる男、じゃないのかお前は」

 それでもなんとか耐えようとする楽太に、武流はさらに続ける。

「俺は、お前のそんなところには、敵わないんだよ」

 そこが好きなところだ、そう上擦った声で言われて楽太はとうとう微かに残っていた忍耐を手離した。

 もう楽太の頭には勝ち負けや体面などなく、ただ一つになりたい一心で一気に貫く。限界まで我慢していたため途中でとまる余裕などなく、楽太はひたすら熱に浮かされたように自分の快楽を追って動き続けた。

「・・・っ」

 今度は耐えることなく素直に、楽太は埋めたままその中でそのときを迎えた。武流も内でそれを感じながらほぼ同時に果てる。

 それからしばらくはお互いに無言で荒い呼吸を整えていたが、楽太がゆっくりと体を少し離して、落ち着いてきたのか口を開く。

「・・・暑いし、悔しいし、センセイなんてキライだ」

 言いながら楽太は、武流の上に覆いかぶさった。

「・・・言ってることと、やってることが違うぞ」

「違わないよ。・・・なんでかわかんないけど」

 キライっていうのだけは嘘だけど、それ以外は違わない。楽太にとって暑いのも悔しいのは本当だ。しかし、エアコンもついていなくて熱気の篭ったこの部屋で、それなのにこうやってくっついているのがたまらなく心地いいのも本当なのだ。

「・・・体温が同じだと、それが熱くても冷たくても、お互いは心地よさを感じるんだって」

 そんな楽太の心を読んだように、武流はどこかで聞いたことを口にした。

「悔しくても、お前が俺から離れられないのも、それと同じ。わかるか?」

「・・・わかんない」

 疲労感から考えるのも面倒ですぐに降参する楽太に、武流がヒントを出す。

「俺とお前の気持ちの温度が、同じってこと」

「気持ちの温度・・・それって、好きってこと?」

「そういうこと」

 よくできましたと頭を撫でられて、楽太はその気持ちよさに目を閉じた。

 悔しいとか思いながらも、離れずくっついていて気持ちいいと感じてしまうのは、二人が同じ熱を持っているから。

 好きだと思う、愛しいと感じる、恋情という名の熱を――。





END


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いろんな意味で恥ずかしい話じゃ・・・ギャー!

楽太、武流に逆襲・・・出来てないし。どうやってもセンセイには敵わないんだって。

最後の辺で武流が言ってることは、もちろん適当です。






サンプル。