#ラブロマンス編
楽太は選んだビデオをデッキに入れにいった。第一希望のが選べたのでその足取りは軽い。
そのビデオは、ハリウッド製の戦争を絡めたこってこてのラブストーリー。楽太は恋愛映画が大好きなのだ。もちろん武流とこうなってからは以前にもまして。
「ねー、センセイも恋愛モノって見るの?」
「それなりに」
重箱の前に戻ってきて楽太が聞けば、武流は予告が流れる画面に目を遣りながら答える。武流がこういうのを好んで見そうにないというのは当たっているようだが、かといって下らないと一蹴するなんてこともどうやらなさそうで楽太はホッとした。世の中には恋愛映画で本気で涙流す人から、そんな人を心底バカにする人までいるのだ。楽太は、もちろん前者である。
予告がまだ続きそうなので楽太はついでだから武流の好みをサーチしておこうと思った。レンタル屋にいたときの様子では、結構頻繁にビデオを借りにいっているようなのだ。ちなみに今日借りた三本のビデオは、恋愛映画・AVが楽太が借りてもらったもの、ホラー映画が武流が借りたもの。
「いっつもはどんなの借りてるの?」
「適当に」
「適当・・・?」
ホラーばっかり借りていたらどうしようとこっそり思っていた楽太への返答は、取り敢えずそれを否定してはいるもののよくわからなかった。楽太はそういえば武流が普段見ているテレビ番組もバラエティからドラマ・ドキュメンタリー・スポーツと全く纏まりがなかったことを思い出す。
その辺のことも聞いてみようと思ったが、しかし丁度映画の本編が始まってしまったので、楽太はまた今度にしようと思ってテレビに向き直った。
始まって十何分、楽太は既に涙目になっていた。主人公の恋人が戦地で死亡するという悲劇的なシーンの為だ。
かわいそうと思う楽太の目の前から、ふと笑った気配がする。楽太がバッとそっちを向くと、画面を見て小さく笑う武流がそこにいた。
「・・・なんで笑ってんのっ!?」
どう考えても笑うよりは泣くシーンだと思って楽太はビックリする。
「この人可哀想じゃんっ! 恋人死んじゃったんだよっ! センセイが死んだらオレ超悲しいよっ!!」
「勝手に殺すな」
楽太が訴えるが、武流はとても冷静に返してくる。
「例えばの話だよっ! センセイだってオレが死んだら悲しいよねえっ!?」
「死んだときに聞いてくれ」
「死んだら聞けないってばっ! じゃなくって、なんで笑ってたのってばーっ!?」
話を見失いかけて、楽太は最初の疑問をぶつけた。すると武流はテレビに目を向けたまま答える。
「忘れた」
「・・・・・・へっ?」
なんだそりゃ、と思いながらも、楽太はストーリーに置いていかれないように画面に目を戻した。
それからビデオが終わるまで一時間ちょっと。その間に武流は何度も笑った。普通のシーンだろうが感動的なシーンだろうが構わず。
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サンプル。