#Intoxicated





(あれ、誰か来たみたいだな)

 楽太は何度かチャイムを鳴らされドアを叩かれたのに気付いたが、しばらくは放っておいた。何故なら、ここは楽太の家ではなく武流に家だから。先生の留守に生徒が出るなんておかしいから大人しく無視しているのだ。そして何故楽太が武流の留守に一人で部屋にいるのかというと、今日武流は職員の飲み会に出掛けているのだが、楽太がせっかくの土曜日なので絶対に泊まりたいとごねてこうしているのだ。

 そんなわけで楽太は出ることもなくテレビを見ていたのだが、ノックの音に声がまじったような気がして音量を下げた。

「おーい、西嶋だけどー。いるんだろー?」

(あれ、西嶋先生だっ)

 その微かに聞こえた声に楽太は慌てて玄関に向かった。宏は同じ飲み会に行っていたはずだから、武流に何かあったのかもしれない。宏は楽太と武流の関係を知っているので、楽太は躊躇わずドアを開けた。

「あー、よかったー。上田先生酔っちゃってさー」

(酔・・・。センセイが?)

 楽太は驚いたが、その言葉の通り武流は歩けないほどではないが宏に肩を借りていた。宏も少し酔っているらしく顔に赤みが差しているが、武流も同じくらい赤くなっているし意識もはっきりしていないようだ。

 それをめずらしそうに見ながら、楽太は宏が武流をベッドに引き摺っていくのを手伝った。

「・・・オレ、センセイが酔ってんの始めて見た」

 なんとか横にした武流を見下ろして、楽太は興味深そうに言う。武流が飲み会から帰ってくるのを待つのはこれが初めてではないのだが、いつもは全くの素面で帰ってくるのだ。

「ああ、それがだな、先生がいつもちっとも酔わないから、他の先生が面白がってすごくアルコール濃度高い酒を飲ませちゃってさ。さすがの先生もこうなったわけ」

 標的が武流に向かったせいで自分があんまり飲まされなかったのを悪いと思いながらも有難く思っていた宏が、おかげで呂律が回らないなんてこともなく話す。

「へえー」

「じゃあ、あとは任せていいか?」

 無責任かと思ったが、実はミドリを待たせてある宏はそう言って帰っていった。

 鍵を掛けてから楽太が戻ると、武流は上半身を起こしている。

「センセイ、大丈夫? 水とか飲む?」

「・・・いや」

 相変わらずの低い声で武流はそう言うと、楽太をじっと見つめた。

(う・・・なんかこのセンセイって・・・)

 黙って楽太を見上げる武流の顔は、上気している。酔っているせいか目も微かに潤んでいる。

(なんか、エッチしてるときみたい・・・なんて・・・)

 楽太はそう思って、ハッと酔った人相手に何を考えてるんだと頭を振る。楽太はもちろんそういうこともする為に泊まりにきているのだが、酔っ払い相手にスルのは気が引けるので諦めようとした。

 そんな楽太に、武流は目線を外さずに手を伸ばす。

「楽太」

 名を呼びながら楽太の腕を掴み、ベッドに引き摺り込んだ。そして、武流は上に覆いかぶさるようにして、いつもよりやや強引に口付ける。

 その遠慮なく口内を貪る動きに楽太は少し驚いたが、しかし拒む理由もなく自分からも舌を絡ませていった。

(なんかよくわかんないけど、ラッキー・・・みたい?)

 武流はいつも決して消極的ではないが、それでもここまで積極的なのは初めてで、楽太は嬉しくなる。

 何度も離れてはまたキスを繰り返しながら、武流は楽太の体を服の上からなぞっていった。

(なんか、この体勢って、いつもと逆で変なかんじだな・・・)

 武流のシャツのボタンを外しながら楽太はいつ上下を入れ替えるのだろう思った。しかし、武流は口付ける場所を口から頬や首筋などに変えていき、その気配を全く見せない。

 武流はしばらくTシャツの裾から手を入れて楽太に触れていたが、やがて邪魔に思ったのかそれを少し乱暴に脱がせた。そして、あらわれた肌に唇と舌で楽太が普段するように愛撫を加えていく。

(あ、れ・・・? もしかして、オレがや、やられちゃう・・・?)

 楽太はふと思って、慌てて武流の肩を掴んだ。武流は以前楽太に抱く立場に立ちたいとは思わないと言ったが、考えが変わった可能性もある。武流が本気でそのつもりなら、楽太には抵抗してもとめることなどとても出来ない。

「あ、あの、センセイ・・・」

 なので、なんとか今のうちに思いとどまってくれないかと楽太が声を掛けようとする。すると武流は顔を上げて、楽太に言葉を続けさせないためか、やはり少々荒くその口を自分のそれで塞いだ。

「セ、セン・・・んっ」

 口付けを解かないまま、すでに熱を持ってしまっているそこをズボン越しに撫でられて楽太は思わず声を上げてしまう。武流は今度は楽太のズボンの前を開け、それに直接触れて扱きだした。

「あ、セン、セ・・・ンセっ」

 弱いところを知り尽くしている武流の手の動きに、楽太はすぐに抵抗することも訴えることも出来なくなる。

 真上から見下ろしていた武流は、楽太のその様子に、口の端を上げて囁くように言った。

「楽太、かわいいよ」

(セ、センセイはなんか、カッコいい・・・)

 楽太は気持ちよさにボーっとしながら、もういいかと思った。

 いつもよりも武流が強引なのは、酔っているせいかもしれない。武流は普段、大人の分別からか先生という立場からか元々の性格からか、自分の欲求を誰かに一方的にぶつけることはない。

 それが、酔ったせいで理性より本能が勝っているのだとしたら。そして、そのせいで楽太に対する欲求がストレートに表現されているのなら。

 楽太はその欲求を、それがどんな形でも、自分に向けられているのなら喜んで受け入れようと思ったのだ。

「・・・セ・・・ンセイ、好・・・き」

 楽太は乱れる呼吸の中なんとかそれだけ言うと、腕を伸ばして武流の頭を引き寄せキスをした。武流もすぐにそれに応えながら、同時に右手の人差し指を楽太の先端の窪みを抉るように動かす。その加えられる強い刺激に楽太は思わずギュッと目を閉じた。

「センセ、・・・っ、んんっ」

 楽太はなんとか耐えようとしたが、それは叶わず武流の手をその精で汚す。武流はそれを楽太の腹にひとまずなすり付けておいて、体を少し離した。

 息を整えながら楽太はきっと次は自分のズボンを脱がされるのだろうと思って、力が入らないなりに身構える。しかし武流は楽太のではなく自分のに手を掛けて、それを下着ごと脱ぎ捨てた。

(あ、あれ? やっぱりセンセイは入れられるほうでいいのかな? ・・・って)

 抱かれるのが嫌なわけではないがやっぱり出来れば抱くほうがいいやとほっとしていた楽太は、次の瞬間思わず目を見張る。

 武流はさっき楽太が放ったそれと、自分のすでに勃ち上がっているものからこぼれるそれを混ぜるように左手に付けた。そして、右手を壁について体を支えながら、その手をうしろからまわしてそこを慣らすために指を動かし始める。

 楽太はびっくりして咄嗟に代わろうと半身を少し起こした。しかし、そこで動きがとまる。

(・・・な、なんか・・・)

 楽太は無意識に喉を鳴らした。

 武流の顔は相変わらず紅潮しているが慣れない行為の為かしかめられ、ときおり息と共に低く声をもらしている。前が開かれたシャツの間からは、うっすら汗が浮かんだ肌が覗き、その下には楽太に触れていただけで昂ぶってしまったものが未だその熱を失わず姿を見せていた。そして、その奥に僅かに見える手の動きと、もれる湿った音。

(エ、エロい・・・)

 その光景に、楽太の神経は目と耳に集中した。そしてそれとは対照的に、熱は下半身に集まっていく。

 楽太はせっかくなのでもうしばらく見ていたいとも思ったが、しかしそれ以上に早くその中に入りたかった。

「ねえ、センセ・・・」

 楽太は武流を見上げてねだろうとして、ふと思い付いて言った。

「センセイ、欲しい? オレのこと」

 いつもは楽太がこう聞いてみても、武流はまともに答えてはくれない。言葉で聞かなくても同じように欲しがってくれていることは楽太もちゃんと知っている。知っているが、しかしたまにはハッキリ言葉で言って欲しいとも思うのだ。

 楽太は今の武流ならばきっと言ってくれるだろうと期待を込めて見つめた。武流はその視線に、少しぼおっとした様子ながらもはっきり笑顔を作って答える。

「欲しいよ」

 そのセリフとその表情に、楽太は充足感と同時に強い渇望感を覚えた。

「いつでも、好きなだけ、あげるよ。だからオレにも、センセイをちょうだい」

 結局自分からねだるようなことを言いながら楽太は武流を促す。

 武流は指を引き抜くと、その手を楽太の脇の辺りについた。そして、楽太のすでに大きくなっているものに右手を添えながらそこに向かってゆっくりと腰を下ろしていく。

「・・・っ」

 武流は初めての体勢のせいか苦しそうに声をもらしながらも、少しずつ楽太を飲み込んでいった。

「センセ、だいじょうぶ?」

 もちろん嬉しいのだが無理することはないと言う楽太に、武流は軽く頷きながら動きをとめようとしない。

 楽太はそのもどかしい動きに多少じれったさを感じていたが、しかし今日は全て武流に委ねようと決めたのだ。だが、少しくらいは手伝ってもいいかなとも思う。

(そういやオレ、まだセンセイに触ってないや・・・)

 楽太は目の前の武流に手を伸ばした。まずその汗ばんだ胸に触れ、それから少しずつ下に降ろしていって、やはり未だ熱を保ったままのそれに手を這わせる。

「・・・っ、はぁ」

 楽太の手の動きに合わせて、武流はそれまでのつらそうなのとは明らかに異なる声をもらした。それに伴って楽太を包み込む内壁もうごめき、楽太に確かなしかし決定的ではない快感を与える。

(うあー、なんとかの生殺しって感じだー。なんだっけー)

 楽太はなんともし難い状況に、他に意識を逸らそうとしてみるが、しかしそんな器用な真似が楽太に出来るはずもない。

 楽太がそんなふうになんとか耐えているうちに、武流はやっと楽太を全て収め終えた。

「センセイ、好きに動いちゃっていいよ」

 一息つく武流に、楽太は本当のところ思う存分突き上げたくて堪らなかったのだが、それでもそう言って武流が動くのを待った。

 武流はそんな楽太に目を遣って、軽く笑う。そして、ついた両手と膝で体を支えながらゆっくり動き始めた。

「ん・・・あぁ」

 自分の快楽だけを求める武流の動きに、楽太も強い刺激を受けて声を上げる。楽太を擦り上げる内壁はいつも以上に熱かったし、吐息も声もはばかることなく出され楽太の耳を通してそれは快感へと姿を変えていく。

 楽太は抱いているはずなのに、なんだか抱かれている気分になった。覆い被さられているからか快感を与えているというより与えられているかんじだからか。しかしそれ以上にきっと、武流がこんなにも自分のことを欲しがっているからだと、楽太は思った。全身で、貪るように、求めているからだと。

 楽太は屈み込むようにしているために手の届くところにある武流の顔に手を伸ばした。そしてその輪郭を撫で髪に手を差し込む。

「セ・・・ンセっ」

 その声に武流は動きはとめないまま、楽太と目を合わせた。そしてまた、軽く笑う。

 その顔には欲が満たされていくことへの歓びが溢れていて、その表情は楽太の心と体を痺れさせる。そして、武流の瞳に映る楽太の顔も、やはり同じものを宿していた。

 しかし笑いを交わしたのは一瞬で、すぐにお互いにそんな余裕などなくなり、限界が近いのか武流の動きが一段と激しくなる。

「・・・っは、あぁ」

 自分の良いところばかりを刺激するように動いていた武流は、一際強くこすり付けるとグッと目を閉じて身を震わせた。

「ん、あ・・・っ」

 その動きはダイレクトに楽太に伝わり、その締め付けに楽太もこらえきれずにそのまま中に自身を解放する。

 しばらくは互いに声にもならない息継ぎを繰り返していた。そして息が少し落ち着いてきたところで武流はゆっくりと楽太を抜き取る。

「・・・らく、た」

 まだ吐息混じりの声で呼んで、武流はそのまま覆い被さるように楽太を抱きしめた。体が重なり、その心音も重なる。おそらく、想いも。

「センセイ、・・・」

 楽太は好きと言おうとして、しかしそれだけでは表現し切れない感情に声を詰まらせる。その代わりに楽太は、武流を強く抱き返した。

 熱は、一向に引かない。

「センセイ、まだ、欲しい・・・?」

 少し体を離して目を合わせながら楽太は言った。顔には自然と笑いが浮かぶ。

 答えがわかっているようなその問い掛けに、武流は言葉ではなく笑顔と口付けで返した。





「でね、オレはちょっと覚悟決めてたんだけどさ、センセイは自分のズボン脱ぎ始めてね、それで」

「・・・もういいから」

 嬉々として語る楽太に、武流はベッドに突っ伏したまま掠れた声で静止を掛ける。

「なーんでぇ? ここからがいいとこなのに。だいたい、センセイが覚えてないって言うからオレが教えてあげてんじゃんか」

「そうだけど、そんな詳しくはいいから」

 二日酔いの頭を押えながら武流は呻くように言う。一方の楽太は昨日の疲れなど全く見せずに、ベッドに肘をついて元気そうだ。

「ていうかさ、なんであーんなことまでしておきながら忘れるんだよー」

 あーんなこと、とやらが全く思い出せない武流は、忘れてくれた自分の頭に少し感謝した。文句を言いながらもかなり浮かれている楽太の様子から、自分が相当なことをしてしまったのだと予想は付いたから。

「いーよ、センセイが覚えてなくてもさ。オレはしっかり目に焼き付けといたからさっ」

 ニタつきながら楽太は思い出しているのか斜め上のほうに視線を泳がせる。

「お前、今ろくなこと考えてないだろう・・・」

「エヘヘー。一人でするときのネタは当分あのときのセンセイの姿で・・・ってー」

 隠そうともせず言う楽太の額を武流は少々強めに小突いた。その顔が歪められているのは、二日酔いのせいでないことは明らかである。

「痛いなー、もう。今更照れ隠ししたって、無駄だかんねー」

 額を押えながらも楽太は懲りずに武流に笑い掛ける。

「センセイがどんだけオレのこと愛しちゃってるか、昨日再確認したもーん」

 茶化すような口調で言いながら、しかしその顔は心底嬉しそうだ。ちなみに楽太には、どうやら騎乗位も出来るようだというもう一つの収穫もあったりする。

 いつもより更にご機嫌な楽太を見ながら、武流は観念したように息をはいた。

「俺はもう酔っぱらったりなんかしないぞ」

「なんでー。いいじゃん、たまにはあんなセンセイになっても」

 決意するように言う武流に、楽太は結構本気で惜しがる。武流はそんな楽太に少しだるそうに手を伸ばして、その輪郭を撫でた。

「今度は、忘れてしまわないように、素面でそうなってやるよ」

「ほんとっ!?」

 武流の笑いながらのセリフに、楽太は跳び上がりそうになる。

「で、お前が俺に愛されてどれだけ喜んでるか、再確認してやる」

「うんっ、してしてっ!」

 半端じゃなくニヤけてはしゃぐ楽太に、武流は少し言ったことを後悔しながらもそれ以上に妙に愉快な気分だった。何故か自然に笑いが出る。

「・・・まだ酔いが残ってるのかもな」

「酔ってるのはお酒にじゃなくて、オレにね」

 呟くように言った武流に、楽太はカッコ付けて言う。しかし武流はその笑いを揶揄うようなそれに変えた。

「お前が言っても決まらないな、そのセリフ」

「あー、全然いつもどーりじゃんかっ」

 意地悪な武流の言葉に楽太は口を尖らせる。

 しかし、それはつまり、武流はいつも酔った状態にあるということなのだろうか。楽太に。

 楽太はその顔をすぐに笑顔に戻した。

「オレも、酔ってるよ。センセイにね」

 しかも、それはずっと醒めることがないのだ。

 大きな目を細めて笑う楽太に、武流は何も言わず、ただ笑い返した――。





END


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「Intoxicated」は「酔って、興奮して、夢中になって」という意味です。

エロにおいて、武流をかっこよく楽太をかわいく書いてみようと思ったんですが、

成功したかどうかは措いといて、難しかったけど楽しかったよ・・・。






サンプル。