#Place
「ね、センセイはいっつもされるほうで、嫌じゃないの?」
「・・・ん?」
ベッドの上で、顔の脇に手をついて見下ろす、まさにこれからという体勢。その状況での楽太のセリフに、武流は思わず聞き返す。
「だってさ、センセイのほうが体おっきいし、年だって上だし・・・」
「そりゃ、わかりきってることだろ。なんで今更」
こういうことをするようになって二ヶ月ほど経つのにと言いながら武流は、良くも悪くも考えなしの楽太のことだから今迄 考えてもみなかったのだろうと簡単に予想する。そして楽太はその通り、だって今ふと思ったんだもんと返す。
「だから、不満だったりしないのかなと思って」
「・・・まあ、普通はそうなんだろうな。男の沽券が、とか」
「こけん?」
「プライド、みたいなもん。でも俺は」
不安そうというか困ったような顔で見下ろしてくる楽太に、武流はそんな顔するくらいなら聞かなければいいのにと思いながら続ける。
「別に抱かれる立場に立つことで男としての自分が損なわれるなんて思わないし」
「う、うん・・・?」
楽太はいまいち意味がわからないらしく曖昧に頷く。
「だから、簡単に言うと、俺はこのままでいいよ。そもそも、嫌だったらやらせないし」
「そ、そうかっ」
楽太は納得したらしく嬉しそうに笑う。
そんな楽太の額を、武流はつついた。
「お前、もし俺がされるほうが嫌だって言いだしたら、どうするつもりだったんだよ」
「えっ、それは・・・」
楽太は驚いたように目を丸めて、それから目を閉じて眉を寄せる。その顔に、やっぱりそこまでは考えていなかったんだなと、武流は思わず失笑しそうになるのをこらえた。
「えーと、センセイが絶対するほうじゃないとしないって言うんだったら、たぶん・・・させる」
楽太が思いきり難しい顔で言うのに、武流は今度は笑いを抑えきれず軽く吹き出す。
「な、なんだよっ。真剣に答えてんのにっ」
「いや、お前ってつくづく面白いやつだと思ってな」
破顔、に近いその笑い方に、言われている内容にもかかわらず楽太は胸が高鳴る。言い返しもせずに顔を赤くする楽太の頭に手を遣って、武流は笑いを浮かべたままで口を開く。
「仮定の話なんだから軽く考えればいいのに」
「だ、だってー」
楽太は一瞬口を尖らせて、それからまあいいやと笑った。
笑って、武流に口を寄せる。
それに応えながら、武流は楽太があと数分でこの話題を忘れてしまうだろうなと思った。
「・・・俺がされるほうでも構わないってのはな」
「え、ん? うん」
その言葉に、楽太は武流のシャツのボタンに掛けていた手をとめて少し首を傾げた。それを見て、どうやら忘れるのに数分も掛からないらしいと思いながら武流は続ける。
「俺のほうがするのは、なんかお前がかわいそうだからいい」
「なんで?」
さっぱりわからないという顔をする楽太に、武流は揶揄うような笑顔を浮かべる。
「お前ちっちゃいし、俺大きいから」
「うっ」
言い返そうにもその通りで何も言えない楽太に武流はさらに言葉を投げる。
「それに、精神的には明らかに俺のほうが勝ってるから、それくらいは譲ってやるよ」
「ううっ」
楽しそうに言う武流に、楽太はやはり言い返せない。
楽太は思った。確かに口では敵わないし体格でも頭のよさでもなんでも敵わない気がする。
でも、この気持ちだけはきっと負けないと。
「・・・センセイ、好きだよ」
前置きもせずに突然言う楽太に、しかし武流はもう慣れていて余裕そうな顔を崩さない。
「俺も、好きだよ。お前と同じくらい」
まるで自分の心を読まれたようなセリフに、楽太はそれじゃあ本当に敵うところがなくなるじゃないかと思う。
思うが、しかしこの気持ちに関しては大きさが同じのほうが嬉しいやと思って、楽太はエヘヘと笑った――。
END
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楽太は、センセイにはとことん敵わない。
しかし楽太はそれを実のところ喜んじゃってるからね・・・。
ちなみに「Place」は「(人の)あるべき場所、立場」て意味で。