#Will





「ねー、センセイは何才なの?」

「二十五」

「へえ、10も違うんだ。ね、身長はいくらなの?」

「百九十くらい」

「うへー、やっぱり高いなー。じゃあさ・・・」

 放課後の教室。オレはオレの席の前にイスを持ってきて座ってるセンセイに色々質問していった。

 といっても、こんな会話をするためにセンセイがここにいるわけではもちろんない。

「石井、そんなこと質問するより、こっちしろ」

 センセイがオレの机に置いてあるプリントを指す。

「・・・だって」

 そんなことオレだってわかってる。わかってるけど、どうしても他のことに逃げたくなるんだよ。

 このプリントは先週出された課題で、本当は今日の数Tの授業のときに提出するはずのものだ。オレだってちゃんとやって出すつもりだった。だったけど、今迄まともに勉強も宿題もやってこなかったオレにはちょっと荷が重すぎて。たったプリント一枚なんだけどな・・・。

 そんなわけで、オレは今 居残りさせられてるってわけなんだ。

「だって、わかんないんだもーん・・・」

 オレはぼやくように言った。

「だから、わからないところがあったら教えてやるから、とりあえずやってみろよ」

「・・・うん」

 確かにこのままうだうだやっててもどうせいつかはしないといけなくなるんだから、そう思ってオレはシャーペンを取った。

「・・・ねえ、ここってさ」

「ああ、それは・・・」

 しょっぱなからつまずいていちいち聞くオレに、センセイは親切に教えてくれる。

 こうやってセンセイと話してると、ホントにオレってバカなんだなって実感するよ・・・。

「・・・なあ、センセイ呆れてるだろ。オレがあんまりにも出来ないから」

 オレはハハハと明るく笑い飛ばすつもりだったけど、微妙に空笑いっぽくなる。

 本当はわかんないとこあったら聞きにいこうかとは思ったのに、結局行かなかったのはこうなることがわかってたからかもしれない。愛想尽かされそうっていうか・・・いや、まあ基本的にオレは先生にどう思われようと構わないんだけど。

 でも、なんかセンセイにそう思われるのは嫌な気がする。別に部活の顧問だからってわけでもなくって、実際中学のとき陸上の顧問だった先生の担当教科だって他と変わらず悪かったんだけど。

「別に・・・」

 センセイが口を開いたので、オレはよくわかんない思考を中断してそーっと顔を上げた。

「お前がこれだけ出来ないっていうのは、それだけ今迄やってこなかった、それだけのことだ」

「オレがバカだからじゃなくて?」

 普段と全く表情を変えずに言うセンセイの言葉に、オレはハッキリした意味を取りかねて聞く。

「勉強に関しては、バカかそうじゃないかは自分次第だ」

 自分次第・・・。オレでもやれば出来るんだってセンセイは思ってくれてんのかな。

 オレはセンセイを見上げる。怖そうな顔もこうやって見れば結構そうでもないかもしれない。そもそもオレは最初に会ったときの姿が印象強くって、そんなに怖いってかんじは受けないんだけど。

 ・・・ってのは、今 関係なくって。

「センセイ、オレでも出来るようになる?」

 あ、なんか前もこんなこと先生に聞いたことある気がする。弓道、オレもセンセイみたいに出来るようになるか聞いたときだ。

「努力すればな」

 センセイは当然のように言う。あのときも、こんなふうに言った。

 何故だかわからないけど、センセイにそう言われると本当に出来るようになる気がする。ていうか、出来るようになりたい気がする。

「センセイ、オレ頑張るよ。だから教えてねっ」

 オレは笑って言った。単純だけど、そう言葉にすると余計にオレはヤル気がグングン出てくる。

「ああ、いつでも教えるよ」

 センセイはやっぱり表情を変えずに、でも真っ直ぐオレを見て言う。

「うん。とりあえず、今日はさっさとこれ終わらせよ。部活行く時間なくなるよ」

 オレがそう言ってまだ半分しか出来てないプリントに取り掛かり始めると、センセイは時計を見て言った。

「今日は部活諦めろ。絶対間に合わないから」

「う・・・」

 断言されてしまったけど、確かに下校時刻まであと一時間くらいあるのに、それまでにこれが終わるとはオレにも思えない。あと数問しかないのに。

 これがオレの今の力ってわけだ。

「さ、続きやれ。最後まで付き合ってやるから」

「うんっ」

 オレは張り切って答えた。

 やっぱりやれば出来るんだなって、そうセンセイに言わせてみせるぞなんて思いながら――。





END


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先生相手にタメ口っていいんだろうか・・・。

楽太、穴に落ちるまであと二歩。