謎と秘密



『緑〜たなびく並盛の〜大なく小なく並〜がいい〜♪』
 何やら耳に入ってきた音楽に、いつの間にか眠っていたディーノは、目を覚ました。
「・・・・・・なんだ?」
 布団に突っ伏していた顔を起こして、キョロキョロと周りを見渡す。すると、布団からちょっと離れたところに、携帯電話が転がっている。
「恭弥の携帯か・・・」
 その持ち主は、眠ってしまう前は確かにディーノの隣にいたのだが、今はその姿は部屋の中にもなかった。とはいえ、シーツにはまだぬくもりが残っている。
 そのうち戻ってくるだろうと、ディーノは気にせずもう一度布団にもぐった。
 しかし、それから10分は経ったが、雲雀は帰ってこない。
『緑〜たなびく並盛の〜大なく小なく並〜がいい〜♪』
 と、コールがあるたびに単調でいて耳に残る妙な歌が流れ、ディーノの頭に入り込んでくる。
「・・・・・・大なく・・・小なく・・・並?」
 ディーノはつい首を傾げながら考えた。日本語をほとんど理解しているとはいえ、やはりディーノにとっては外国語、よくわからないことも多い。
 一体この歌は何を歌っているのか。雲雀が着信音に設定しているからこそ、その内容が気になるのだ。
 何度目になるか、緑たなびく〜の歌を聞きながら、ディーノはなんとなく考えていた。
 そんなとき、やっと雲雀が帰ってくる。鳴っている携帯を一瞥した雲雀は、仕方なさそうに手に取って、しかしプチッと切ってしまった。
「おい、いいのか?」
 何度もコールしてくれた相手に、なんて酷い仕打ちだろう。だが雲雀は、どうでもよさそうに携帯を放り投げた。
「それより、早くシャワー浴びてきたら?」
 そう言う雲雀は、自分はさっさと済ませてきたらしく、よく見れば髪がしめっている。自分を置いていくなんて冷たいよな、とか思いつつも言われた通りシャワーでも浴びてこようと、ディーノは布団から這い出した。


 ディーノが部屋に戻ってくると、雲雀は布団に入って本を読んでいた。ディーノはいつものように、その隣にもぐりこむ。
 そして今度こそグッスリ寝ようとしたディーノだが、また枕元すぐ近くから、あの歌が聞こえてきた。
『緑〜たなびく並盛の〜大なく小なく並〜がいい〜♪』
「・・・なあ、恭弥」
 出ないのか?とか聞いたところで、雲雀に出る気があるならとっくに出ているだろう。だからディーノは、そんなこと言わない。
「この歌、なんなんだ?」
 雲雀が着信音に設定しているのは一体なんの曲なのか、ディーノはとても気になった。雲雀は本から目を離さずに、それでも答えてくれる。
「・・・校歌」
「・・・・・・こうか?」
 聞き慣れない言葉にディーノが眉を寄せれば、雲雀は仕方なさそうに言い換えた。
「国歌みたいなものだよ。うちの中学校の歌」
「へー。おまえ、ほんとに学校好きなんだな・・・」
 そんなものをわざわざ設定しているなんて、雲雀の並中愛はとどまるところを知らない。感心すると共に、一体何が雲雀をそんなに惹き付けるのか、ディーノとしては気になるところだ。
「で、歌詞はどういう意味なんだ? 並がいいとか言ってるけど」
「何事も程々が一番、ってことじゃない?」
 別に特に深い意味はないだろうから、雲雀は適当に答えたが。ディーノは、なるほど一理ある、さすが雲雀が気に入っているだけあってなかなか深いなぁ、と思った。
「確かに、大事なことだよな。何事も、ほどほどに・・・」
 ディーノは繰り返して言って、それからつい雲雀を見る。
「でもおまえ、せっかくのありがたい教えを、実践してないよなー」
「・・・・・・」
 どういうこと?と目で聞いてくる雲雀に、ディーノはハァと溜め息つきながら言ってやった。
「おまえいっつも、ほどほどで切り上げてなんてくれねーじゃん。大なく小なくならぬ・・・早くなく遅くなく・・・? やり過ぎず足りなくもなく・・・? もうちょっと、程よいかんじに、出来ねーのか?」
 現在まさに気怠くて堪らないディーノは、つい恨みがましい口調になる。
「・・・何言ってるの」
 ディーノは何についてかハッキリ言わなかったが、ついさっきまでのことでもあるし、雲雀はちゃんとわかったようだ。切れ長の目を細めて、笑う。
「僕にとっては、程々、だけど?」
「・・・・・・・・・」
 これが若さか・・・と、ディーノの頭にどこかで聞いたようなセリフが浮かんだ。すぐに、いやいやオレもまだ若いし、と思い直しても何か負けた心地がする。
 ディーノが返す言葉を失っていると、また雲雀の携帯が、並がいい〜♪と歌い始めた。
「・・・で、出ねーのか?」
 相変わらず動く気配のない雲雀に代わって、ディーノは携帯へと手を伸ばす。これだけしつこく雲雀に電話を掛けてくる相手も、ちょっと気になる。
 携帯を掴もうとしたディーノの手は、しかし空振りした。ディーノよりも先に、雲雀が携帯を取り上げたのだ。
「触らないでくれる?」
「・・・な、なんでだよ」
 何か見られたくないものでもあるんじゃないかと、ディーノはつい考えてしまう。たとえば、電話を掛けてきた相手の名前とか。
「・・・恭弥、もしかして浮気とかしてんじゃねーだろうな・・・?」
「・・・・・・・・・」
 つい疑いの眼差しを向けるディーノに、雲雀は心底呆れた眼差しを返した。
「・・・あなた、それ本気で言ってるの?」
 呆れるというよりは、怒っているようにも、見える。雲雀の機嫌を損ねると大変だと、よーく知っているディーノは慌てて笑顔で言った。
「いや! そんなわけねーだろ! 恭弥はオレ一筋だもんな!!」
「・・・・・・・・・」
 雲雀は再度溜め息をついてから、この話題はこれで終わりと言いたげに、携帯の電源を切ってしまう。
「今後も触らないでね。壊されたくないから」
「なんだよ、それ。触ったくらいで壊れるわけねーだろ・・・」
 と言い返すディーノの声は、若干控えめだった。壊した経験が、勿論あるからだ。
 図星を指されたようで余計に面白くないディーノは、雲雀を睨み上げるが、それを雲雀が気にすることも当然なく。
「疲れてるなら、寝れば?」
 そう言いながら、本と一緒に携帯を枕元に置いた。ついそれを、ディーノは目で追ってしまう。だが、勝手に触って壊さない自信が、確実にあるとは言いがたかった。
 ディーノはいさぎよく諦めて、確かに疲れきっていることだし寝ようと思う。
「わかったよ。じゃあ、お休み、な」
 雲雀の頬にお休みのキスをしてから、オレもあの着メロ使わせてもらおうかなー、なんて思いながらディーノは眠りに落ちていった。


 そうやって雲雀は、ディーノから隠し通すことに成功したのだった。
 たとえば、何度も電話を掛けてくるのが、早くボスを帰せと催促するディーノの部下たちだ、ということだとか。
 たとえば、雲雀の携帯の時刻表示が、いつもイタリア時間に設定されていること、だとか。




 END
ディーノの恥ずかしい言動は、イタリア人だし、で片を付けられるので便利です。
それを自然に受け入れちゃっている雲雀については、言い訳の仕様もないのですが…(笑)

リボーン!一番の謎は、何故雲雀があんなにも並盛を愛しているのか、だと思います。


(08.03.02up)