以心伝心



「そういえば、今月の24日って、山本の誕生日なんだって?」
 ツナの言葉に、獄寺の耳がついピクリと反応した。山本の誕生日なんて、初耳だったのだ。
「おお、よく知ってんな」
「さっき女子が話してた。多分、プレゼントとか、くれるつもりなんじゃない?」
 そこまで言ってツナは、獄寺に振ってきた。
「獄寺君は?」
「・・・・・・は、なんでオレがこの野球バカにプレゼントあげなきゃなんないんっすか!?」
 ちょうど、知ってしまったんだからもしかして何かプレゼントしたほうがいいのだろうか、なんて考えていたところだったから。
 考えを読まれてしまったかと慌てて言ったら、ツナがちょっと目を丸くする。
「いや、そうじゃなくて、山本の誕生日、知ってたのかなって思って・・・」
「あ・・・・・・」
 どうやら早とちりしてしまったらしい。
 くくくと可笑しそうに笑う山本のことは無視しつつ。
「オレが野球バカの誕生日なんて、知ってるわけないっす!」
「そうなんだ・・・最近、仲良いみたいだから、もしかしたら知ってるのかと思って」
「・・・・・・・・・」
 そんなふうに思われていたとは。
 いや、確かに、間違ってはいないのだが。だがそれを、他人に気取られているつもりはなかった。
 ツナの超直感だろうか。そう思うと、ちょっと、さすが10代目!!と思ってしまいつつも。やっぱりツナにそう思われていると思うと、言葉を失ってしまう獄寺だ。
 さらに、また山本の忍び笑いが聞こえてくるから、獄寺はじっとしていられず。
「べ、別に仲良くなんかねーっすよ!!」
 そう慌てて主張してから、獄寺は立ち上がり。
「じゃあ、10代目、お先っす!!」
 ツナに敬礼してから、教室を出て行った。
 以前は、下校するツナに付き従っていた獄寺だが。このたび、ツナにも彼女が出来た。それなのにそこにくっついていくほど、獄寺も野暮ではない。
 寂しさを感じながら廊下を歩いていく獄寺に、いつのまにか追いついて並んでくる山本。
 それを、獄寺が初めの頃のように追い払わなくなったから、ツナも二人が仲良くなったんだと思ったのだ。
 そんなことに、獄寺は気付いてなんていないが。


 獄寺は一人暮らしだ。だから、そんな獄寺を山本がしょっちゅう夕飯に誘い。初めは突っぱねていた獄寺も、いつのまにか自然と足を向けるようになっていた。
 山本の父は店に出ているから、自然と二人で夕食をとることになる。この日も、獄寺と山本は二人で食卓を囲んでいた。
 ちなみにメニューは、寿司屋だから寿司、というわけではない。本日は、ボンゴレスパゲッティをメインとしたイタリアンだ。馳走になるばっかりじゃ、借りを作っているようでなんか嫌だ、と半分は獄寺が作るようになっていた。これも、いつのまにか、だ。
 そうして、二人でパスタをフォークでつつきながら、獄寺は呟くように言った。
「言っとくけど、オレは本当にお前の誕生日、知らなかったからな」
 今さら蒸し返すことでもないとわかっているのだが、しかし知らない振りをしていたと思われるのも嫌だったのだ。
 だが、言ってから、全く知らなかった、と主張するのもどうかと獄寺はちょっと思ってしまう。逆に山本に、お前の誕生日なんて知らねーよ、なんて言われたら、なんとなくショックなような気がしないでもない。
 しかし山本は、どうした突然と不思議がることもなくだから何と問うこともなく、いつもの呑気な笑顔で。
「だろうなあ」
「・・・・・・」
 別に知っててくれても知らなくても構わない、と言いたげな態度に獄寺はなんとなく引っ掛かる。いや本当は、山本がそういうつもりじゃないということくらい、わかっているのだが。
「・・・別に、知って堪るかって思ってたわけじゃねーけど」
「わかってるって」
「・・・とにかくだから、プレゼントとか期待すんなよ」
「わかってるって」
「・・・・・・・・・」
 山本は相変わらず呑気な顔で、パスタを食べながら頷いている。そんな、どうでもよさそうな態度を見たら、山本がそういうつもりでないとわかっていても、獄寺はつい言ってしまった。
「ど、どうしても欲しいなら、考えてもいいけど・・・」
「・・・ははは!」
 すると山本が、何やら可笑しそうに笑うから、獄寺はカチンときた。
「な、なんだよ・・・!」
「いや」
 そして山本は、まだ笑いながら、ケロリと言う。
「俺、お前のそういうとこ、好きだなー」
「なっ!!」
 直球なその言葉に、獄寺が言葉を失っている隙に、山本は畳み掛けてきた。
「ちなみに獄寺、今週の土曜日、暇か?」
「・・・だったらなんだ?」
「その日さあ、ガキどもに野球のコーチする約束してんだよ」
「んなことに付き合わねーぞ」
「わかってるって。その日、親父も飲んでくるらしくって。だから、夕飯作っててくんねーかなって」
「・・・・・・・・・」
 今週の土曜日。それが例の山本の誕生日だってことくらい、わかっている。
 好きだなんて言葉はサラリと言ったくせに、随分と遠回しな誘い。獄寺は、それもわかっていた。
 直球だと撥ね付け、勿論自分からも言い出せない獄寺に山本がくれた、たった一つの選択肢なのだ。
「・・・・・・し、仕方ねーなあ!」
 獄寺は山本にそっぽ向きながら、吐き捨てるように言う。
「そんなに言うなら、作って待っててやるよ!」
「おー、頼むな」
「リ、リクエストとかあったら聞いてやるぜ? 作るかどうかはわかんねーけどな!」
 やっぱりそっぽ向いて言う獄寺に、山本は少し考えて答えた。
「じゃあ・・・やっぱ、寿司かな。せっかくなら好物食いてーし」
「寿司だな。代わり映えしねーやつ! あ、作るかどうか、わかんねーからな!」
 念を押す獄寺に、山本は小さく笑う。
 山本はわかっているのだ。そう言いながらも、獄寺がちゃんとを作ることを。しかも妙に気合いを入れて。
 そして獄寺も、自分がそうすることを、知っていた。
 それにしてもこんなやり取りをしないと、誕生日を祝うことすら出来ないなんて、なんて厄介な奴なんだろうと獄寺は自分で自分のことをそう思う。
 ツナに向ける素直な好意を、ほんの少しでも、山本に向けて表現出来たらいいのに。
 獄寺は、自覚はしているのだ。自分が山本に、ツナに対してとは違う、どちらが上とも言えない特別な好意を抱いていると。
 なのにいつまで経ってもそれを素直に表に出来ないのは、しかし半分は山本のせいだと獄寺は思っていた。
 だって山本曰く、そんなところが好き、らしいのだから。
「・・・趣味悪ぃやつ」
 つい獄寺が呟けば、山本はいつもの呑気な笑顔で。
「何が?」
「・・・なんでもねーよ」
 そう答えて、フォークを動かす獄寺に、山本はまたさりげない口調で切り出してきた。
「ふーん。ところで、獄寺。ついでに今日、泊まってくか?」
「・・・・・・・・・」
「ほら、宿題、教えて欲しいとことかあるしさ」
 返事し易いように、理由を付けてお膳立てしてくれる山本に、獄寺はいつもの返事を返す。
「・・・仕方ねーな!」
「はは、ラッキー」
 笑って、スパゲッティを美味そうに平らげていく山本は、きっと知っているのだ。
 仕方ない、それが獄寺にとっての、喜んで、なのだと。




 END
一応これでも、ちゃんと付き合っているという形の関係なのです。
しかし多分、しててもまだキスまで。
獄寺はエッチしてようやく態度が軟化し始めるのではないかと…(笑)

ちなみに、「山本、部活は?」という疑問は抱かないように。(…)
そしていつ頃の話なのかは…山本の誕生日が土曜日にある年度、ということで… (適当 過ぎる)


(08.04.26up)