Xmasを君と



 今日はクリスマス。
 毎年ツナにとって、この日は特に誰と約束もない、ただ家でケーキを食べて母親にクリスマスプレゼントを貰うだけの日だった。というか今年も、別になんの約束も入っていないのだが。
 だが、一緒に過ごしたいと思っている人ならいる。勿論、中一のときからずっと片思いしている、笹川京子だ。
「はー、京子ちゃんとクリスマス・・・いいなぁ・・・」
 ツナは部屋でこたつに入りながら、顔をゆるませて呟いていた。京子とプレゼント交換をしたり一緒にケーキを食べたり、そんなふうに過ごせたら、どんなに楽しいだろう。
 そう妄想しつつも、実際に京子にお誘いを掛ける勇気がないツナだった。ただ見ているだけだった頃から比べると親しくなっているとは思うが、普通のデートに誘ったこともないのに、いきなりクリスマスは敷居が高過ぎた。
「・・・・・・うぜえぞ」
 そんなツナに、いつのまにか目の前に立っているリボーンが、銃を突きつけている。
「うわっ、リボーン!」
「うじうじ悩んでいる暇があったら、行動しねえか」
 夢ばっかり見ているツナが気に入らなかったようで、リボーンはさらに引き金に手を掛けた。
「わ、ちょっと待ってリボーン!!」
 ツナは慌ててリボーンの銃口から逃げる。
 そりゃあ、死ぬ気弾で死ぬ気になれば、京子を誘うことは出来るだろう。だが、昔のツナならともかく、今のツナはそんな方法に頼りたくなかった。
「わかったよ! ちゃんと誘ってくる!」
 ツナは宣言して、その勢いでコートを引っ掴んで部屋を出て行った。


「・・・・・・・・・はぁ」
 勢いに任せて家を出たものの、ツナはすぐにトボトボと歩き始めることになる。
「京子ちゃんを誘うなんて・・・出来るわけないじゃないか・・・」
 その気があるのなら、もっと早くに誘っていた。
 だが、せっかく家を出てきたのだから、誘うことは出来なくても顔くらい見たいとも思う。そしてチャンスがあれば、一緒にお茶を飲むとかそれくらいは出来ないかと思う。
「どうしよう・・・・・・そうだ!」
 うだうだ考えていたツナは、はっと思い付いた。
 今日はクリスマス、勿論京子の家でもクリスマスケーキを食べるだろう。ケーキ好きの京子のことだから、もしかしたら自分で買いに来るかもしれない。あのお気に入りのケーキ屋さんに。
「よし、行ってみよう!」
 もしそこで運よく会えたら、デートに誘おう! ツナはそう決意しながら並盛堂へと走った。


 が、そう運よく会えるはずもなく、並盛堂に京子の姿はなかった。
「はぁ・・・来てない、か・・・」
 ツナはがっくりする。
 並盛堂はクリスマスらしい装飾が施され、店内ははしゃぐ女の子たちでひしめいている。ツナ一人ではとても長居出来ない空間だ。
 ツナは店から出て、しかしすぐにここから立ち去ることも出来ずにいた。ここまで来たのだから、帰ってしまうのは勿体ない。もしかしたら、そのうち京子が来るかもしれない。
 もうすでに訪れているのかもしれないし、買いに来るのはこことは限らないし、京子が来るのかどうかもわからない。
 だが万が一の可能性にツナは賭けてみたかった。そしてその賭けに勝ったら、京子をデートに誘おう、ツナはそう決意する。
 それから一時間・・・二時間、三時間、時間はどんどん経っていった。その間、京子はちっとも現れる気配がない。
「・・・うー、やっぱり無理なのかなー」
 ツナはどんどん冷えてくる体をさすりながら、半ば諦めの心境になっていく。それでも、もしかしたら、せっかく今まで待っていたんだから、そう思うとツナの足は動かなかった。
 そして、そろそろ五時間も経とうかという頃、空もどんどん暗くなっていき、自分って結構根性あるなぁとツナがちょっと自分を褒めたくなったそのとき。
「・・・・・・京子ちゃん!」
 待ち焦がれていた京子が、遂に姿を現したのだ。京子は心なしかはずんだ様子で、並盛堂へと入っていく。
 嬉しさのあまりそれをただ見送ってしまったツナは、はっとあとを追おうとして、いややっぱりそれはやめようと思い直した。
 ケーキ屋で会って奇遇だね!よりは、ケーキ屋の前で会って奇遇だね!のほうがもっともらしい気がする。ケーキ屋とツナは明らかに似合わないだろう。
 そうと決まれば、ツナは店からちょっと離れたところにスタンバイしつつ、心の準備をした。
 頭の中で、やあ偶然だね!と声を掛ける自分をイメージしながら待つこと10分ほど。やっと京子が店から出てくる。
 ツナは慌てて、それでも出来るだけ平然を装いながら、京子に近付いた。
「・・・・あ、きょ、京子ちゃん・・・!」
「あ、ツナ君!」
 京子もすぐにツナに気付いて、にっこり笑ってくれる。
 偶然だね!とか言おうと思っていたツナは、つい言葉を失ってその笑顔に見惚れてしまった。何度見ても京子ちゃんの笑顔は可愛いよなぁー!!とツナは噛みしめるように思う。
「ツナ君はお買い物?」
「あ、うん、そんなところ!」
 京子に話し掛けられて、ツナはハッと現実に戻ってきた。会えたからには、デートに誘うという大仕事が待っているのだ。
 とはいえ、すぐにその話題を切り出すことは出来ず、まずは当たり障りのない話題から。
「京子ちゃんは、ケーキを買いにきたの?」
「うん」
 見れば、京子の手には大きなケーキが入っているだろう箱が持たれている。なのに、何故か京子は一度肯定してから、プルプルと首を横に振った。
「・・・・あ、違うんだよ!」
「え?」
「これは家族みんなで食べるわけで、全部自分で食べるわけじゃないから・・・!」
「・・・そ、そうなんだ」
 そんな勘違いしないのに・・・と思いつつも、頬を赤くして言う京子に、可愛いなぁと顔がゆるみそうになるツナだった。
 それにしても、どうやってデートに誘おうかと悩むツナは、そこではっと気付く。
 京子はケーキの箱を抱えているのだ。勿論これから家に持って帰るのだろう。つまり、これからデートだなんてとんでもない。
 ガーン、ダメじゃないかーー!! ツナは心の中で叫んだ。
 元々誘う勇気も中々持てなかったのだが、いざ駄目になるとなんだかがっくりしてしまう。なんだか心に隙間風が吹いた気がした。
「・・・ツナ君、ツナ君?」
「・・・・・・え!?」
 ショックを受けるあまり一瞬京子の言葉を聞き逃してしまったようだ。
「ごめん、何、京子ちゃん」
「うん、ツナ君・・・顔色悪いよ?」
「え?」
 確かに、気落ちしているし、寒気もあるがそれは心理的なものが原因だと思ったのだが。
「ほら・・・」
 京子はケーキの箱を片手で抱えると、空いた右手でそっとツナの手に触れた。
「こんなに冷たい」
「・・・・・・!!」
 寒いとか冷たいとか、ツナは一瞬にして忘れた。
 京子の手が、自分の手に触れているのだ。ツナは、熱いくらいだよ!と内心で思う。
 手を繋いだことなんて勿論ない京子の手は、小さくてあたたかくて・・・
「・・・はっくしょん!!」
 ツナはそこで再び寒さを思い出した。確かに、体が寒くて堪らない。
「風邪・・・?」
「ううん、違うと思うけど・・・」
 おそらく原因は、京子を待ってこの寒さの中数時間も外にいたせいだろう。その間に体の芯まで冷えてしまったのだ。それを、京子に会った嬉しさですっかり忘れていたらしい。
「ずっと外にいたから・・・冷えただけだよ」
「そう・・・?」
 京子はまだ心配そうで、こんな顔させちゃうなんて最低だとツナは自己嫌悪しそうになった。
「あの、ほんとに、ちょっと寒いだけだから・・・大丈夫!!」
 ぷるぷると首を振れば、京子は少し首を傾げながら、ツナの手から指を離す。
 しかしそれをツナが残念に思うよりも先に、京子が思わぬ提案をしてくれた。
「そうだ、ツナ君、うちに寄ってく?」
「・・・・・・・・・えっ!?」
 ツナは目を丸くする。そんな自分に都合のいい展開があってもいいのかと、思わず自分の頬をつねりたくなった。
 だが間違いなく、京子は家に来るかと誘ってくれたのだ。京子がツナの家に来たことは何度かあるが、訪ねていったことは一度もなかった。デートよりも、嬉しいかもしれない。
「い、いいの・・・!?」
「うん!」
 一応確かめると、京子はにっこり笑って頷いてくれる。ツナは感激した。寒い中何時間も待っていた苦労も忘れる。いや、この展開は体が冷えてしまったおかげなのだから、感謝すらした。
「お兄ちゃんも喜ぶと思うし」
「・・・・・」
 それはツナ的には正直全く嬉しくないが。
「それに・・・」
「・・・それに?」
 そして何やら続けようとした京子は、しかしツナが聞き返すと言葉を切ってしまった。
「・・・ううん、なんでもない」
「・・・そう?」
 特に深く追求しなかったツナは、首を振った京子の頬が少し赤かったことに、残念ながら気付かなかった。
「・・・とにかく」
 足を動かし始めた京子について、ツナもその隣を歩く。
「熱いお茶でも飲んで、あったまろ?」
「・・・うん!」
 にこりと笑って言う京子に、ツナは勿論笑顔で答えた。
 家に行けることも嬉しいし、京子の気遣いも嬉しい。何より、どんな形であろうとクリスマスを一緒に過ごせることがツナは嬉しかった。
 あのまま家でだらだらしていたらこんな幸運には巡り合えなかったわけで、それを思うと自分をけしかけてくれたリボーンに感謝したくなる。
 本当は、寒い中何時間も待った他ならぬツナの根性が掴み取った幸運だったのだが。
 そんなことにツナは気付いていなかったし、そしてそれはどうでもいいことだった。
 こうやって、クリスマスに京子と一緒に歩けるのだ。それだけで、他のことなんてどうでもよくなる。
 歩いているせいかそれとも京子と一緒にいるおかげか、ツナの体はいつのまにかもう温まってしまっていたが、勿論そんなこと京子に内緒にしておいたツナだった。



 END

京子ちゃんもツナを好きになってるかなー?というかんじの時期です。(いつ?)(…中3?中2?)

(08.01.08up)