元旦、奈々がランボやイーピンを連れて出掛けたので、ツナはうるさい奴がいなくなったことだし、自宅でくつろいでいた。
そんなときチャイムが鳴って、しぶしぶ玄関に出たツナの前に現れたのは、獄寺と山本。
「明けましておめでとうございます、10代目っ!!」
「よお、ツナ。今年もヨロシクな!」
「うん、よろしく」
挨拶を返しながら、ツナは相変わらずこの二人は仲がいいのか悪いのかわからないなぁと思った。
「獄寺がどうしてもツナに挨拶したいって言うからさ」
「当ったり前だろう! 10代目に挨拶しねえとオレの年は明けねえんだよ!」
などと言い合いを始めるが、こんな朝早くに揃って現れる時点で、やっぱり仲いい気がするとツナは思う。
「てことで10代目! これから初詣に行って、ボンゴレの益々の発展を祈りましょう!!」
「え、いや、それは・・・」
絶対に御免だ、と首を振るツナを、獄寺は強引に門外へと引っ張っていった。するとそこに、今度は明るい声が近付いてくる。
「ツナさーん! 見て下さい、ハルの晴れ姿でーす!!」
相変わらずのテンションで、ハルが振り袖姿なのを気にせず駆け寄ってきた。
「あっ、明けましておめでとうございます!!」
「・・・うん、おめでとう」
ハルもハルで、年を越してもやっぱり変わらないなぁと、ツナはつい苦笑いしたくなる。
しかし、ここまでいつものメンバーが揃ってくると、ツナは期待したくなる。去年と同じように、了平に連れられて、京子が来てくれるのではないだろうかと。
「さあツナさん、初詣行きましょうー!」
「え、いや、ちょっと待って!」
引き摺って行こうとするハルに抵抗して、ツナは家の中に逃げ込もうとした。もしかしたら京子が来てくれるかもしれないのに、出掛けるなんてこと出来ない。
「初詣はもうちょっとあとで・・・」
「ツナ君!」
「!!」
ツナは聞こえた声に、反射的に振り返った。
「京子ちゃん!!」
聞き間違えるはずもないその声の持ち主は、ツナがずっと片思いしている京子だ。
「明けましておめでとう。ツナ君、今年もよろしくね!」
「・・・うん、よ、よろしく・・・」
ツナは半ばポーっとしながら、京子の新年の挨拶に答える。
去年と同じくピンクの振袖姿の京子は、髪を結い上げいつもと雰囲気が少し違って、でもいつものようにとても可愛い。
くー、着物姿の京子ちゃんも可愛いなぁ!!! ツナは心の中でそう叫んだ。
しかし、本当に期待通り来てくれるなんて、もしかしてわざわざ自分に会いに来てくれたんだろうか、ツナは思わずそう考えてしまったのだが。
「沢田! 今年も極限によろしくな!!!」
その直後に、今年も無駄に暑苦しい声が聞こえてきて、ツナはがっくりする。そういえば去年もそうで、やっぱり京子は兄の了平についてきただけのようだ。
と、思ったのだが。
「しかし水臭いぞ、京子! 沢田のところに来るつもりなら、何故オレも誘わん!?」
「・・・えっ?」
了平の言葉にツナは耳を疑った。てっきり兄に無理やり連れてこられたんだと思っていたのに。
「お兄さんに引っ張られて来たんじゃないの?」
そうじゃないなら、つまり京子は一人でわざわざツナの家まで来たということで。
もしかして、オレにわざわざ会いに!? とツナはつい期待をしたが。
「あ、あの、ここに来たらハルちゃんたちにも会えるかなって思って・・・!」
京子はちょっと慌てたようにツナに、違うんだよわざわざツナ君に会いに来たわけじゃないから!!と言いたげに訴える。
「あ、う、うん・・・」
そうだよねー、とツナはやっぱりと思いつつもがっくりした。
こうやって新年早々振り袖姿の京子が理由はともあれ来てくれたのだから、それでも充分に嬉しいことなはずなのだが。
ちょっとだけ、それでは物足りなくなっているツナだった。
ともあれいつものメンバーが揃ったのだから、みんなで初詣に行こうという話になった。
並盛神社は人でごったがえし、特に賽銭箱の前には長蛇の列が出来ている。それでも初詣に来たのだから、並ばないわけにはいかない。
並んで順番を待ちながら、なんとなく視線を巡らせたツナは、絵馬がたくさん掛けられているコーナーを見つけた。今日も多くの人が、絵馬に今年一年の願いを書きつけている。
絵馬や七夕の短冊など、願い事をする機会に、ツナが願うことはいつも決まっていた。京子ちゃんと結婚出来ますように、だ。
ツナもさすがに学習して、迂闊に何かに書いたりはしなくなったが。それでもいつも、心の中ではそう願っている。
やっと参拝の順番が来て、ツナは賽銭を投げ入れ、手を合わせて祈った。
京子ちゃんと結婚出来ますように! 取り敢えず付き合えますように! あと、3年も一緒のクラスになれますように!!
パンパンと手を鳴らしてから、ツナは死ぬ気で祈願した。
それから、人波に押されるように賽銭箱の前から離れ、少し歩いてやっと人いきれから解放されて人心地つく。
「みんな、どこ行ったんだろ・・・」
この人込みの中で、みんなとすっかりはぐれてしまっていた。辺りをきょろきょろ見回すツナの目に、すぐに京子の姿が映る。
「京子ちゃん!」
ツナが思わず駆け寄ると、同じようにはぐれてしまってぽつんと立っていた京子が嬉しそうに笑った。
「ツナ君! よかった、みんなどこに行っちゃったのかと思った」
「うん、よかった・・・」
ツナは、こうやって京子と二人きりになれたので、はぐれてしまったことに感謝してしまう。
「そういえば、ツナ君は何お祈りしたの?」
「・・・えっ!?」
不意に聞かれ、まさに京子のことを祈っていたツナは動揺した。
「あ、えっと・・・き、京子ちゃんは?」
とても答えられなくて、ツナは聞き返してみる。すると京子は、ツナが思ってもみなかったお願い事を口にした。
「私は、受験のこと」
「・・・・・・!」
ツナはあっ!と思った。ツナももうすぐ中学三年生、受験シーズンが始まるのだ。確かにこれ以上ない相応しい願い事だが、勉強関係のことなんて全く頭になかったツナには思い付けるはずもなかった。
「・・・京子ちゃんは、並盛高校に行くつもりなの?」
「うん、そのつもり」
「そう・・・」
ツナはほっとする。京子の学力では、もっと上の高校にだって行けるはずだ。もし京子が手の届かない高校に行ってしまったら、ツナにはもうどうしようもない。
といっても、ツナの今の成績では、並盛高校に無事行けるかどうかも微妙なのだが。少なくとも、可能性はある。
ツナは、勉強頑張らないと!と固く決意した。
「・・・でも・・・・・・」
「え?」
ツナがぐっとこぶしを握り締めたところに、京子の小さな呟が聞こえる。ツナが耳を傾けると、何か思うところがありそうな京子は、しかしツナににっこりと笑い掛けた。
「一緒の高校に、行けたらいいね!」
「・・・うんっ!!」
勿論、それはツナにとって願ってもないことで。
京子ちゃんと一緒の高校に行けますように!!と、ツナは今さらお願い事を追加しておいた。
「あ、ツナ君、お守り売ってるよ!」
京子が指さすほうへ、二人は自然と歩きだす。ツナはじゃまが入らないように、そっと辺りを見渡してみた。幸い、この人込みですっかりはぐれてしまったようで、誰の姿も見えない。
「いろいろ売ってるねー!」
「うん!」
ツナは、心おきなく京子との時間を楽しむことにした。
いろんな種類の色とりどりのお守りが、ずらりと並んでいる。ツナの目は当然、恋愛成就のお守りに向かってしまった。
だが、隣に京子がいるのにそんなものを買うわけにいかない。それに、買ったところで持ち歩くのも無理だ。
「オレは・・・学業成就かな、やっぱり・・・」
京子と同じ高校に行く為に勉強を頑張らなければならないツナは、他に選択の余地はなく、青色をした学業成就のお守りを手に取った。
「私も・・・」
すると、ピンク色のイメージのある京子は、何故かツナと同じ青色のお守りに手を伸ばした。
少し不思議に思いながらも、ツナが会計を済ませると、財布を取り出していた京子が不意に後方を指す。
「あ、ハルちゃんたち!」
ツナも視線を向ければ、向こうもこっちに気付いたようで、手を振っている。
二人っきりの時間が終わってしまい、ツナはちょっと残念に思った。だが、大声で自分を呼んでいるハルや獄寺を無視するわけにもいかない。
「ツナ君、先に行ってて」
これから会計をする京子に言われて、ツナは仕方なく山本たちのほうへ向かいながら、今年はもっと京子ちゃんと二人っきりになれますように!と願った。
京子もお守りを買い終えてみんなで揃い、次はハルの提案でおみくじを引くことになった。
「10代目! オレ、大吉っすよ! 今年も10代目の右腕としてお役に立てそうです!!」
「ツナさん! ハルは大吉です! 恋愛は成就する、ですってどうしましょうー!!」
などと獄寺とハルがはしゃいでいるが、山本も大吉、了平は中吉と、次々にいい結果を引き当てていく。どうやら、最初から大吉や中吉などが出易くなっているようだ。
これなら自分も大吉を引けるはずと、ツナは気合を入れておみくじを引いた。
「・・・・・・吉・・・」
なのに出たのは吉で、ツナはがっくりしてしまう。大吉を引いて、恋愛や学業は成就すると、言われたかった。
ついてないなー、とツナが思ったのも束の間。
「あ、吉だ・・・」
「え、京子ちゃんも!?」
ちょっと残念そうな京子の声が聞こえて、ツナはぱっと振り返った。
「ツナ君も?」
京子は少し目を丸くして、ツナの吉と書かれたおみくじを見る。それから、自分のおみくじを掲げて楽しそうに笑った。
「お揃いだね!」
その瞬間、ビミョーな吉という結果だったことが、ツナにとってこれ以上ない幸運に変わってしまう。
京子ちゃんはすごいなぁ、とツナは改めて思った。笑顔一つで、ツナをこんなにも満たされた思いにしてくれるのだ。
こんなふうに、京子の笑顔をずっと近くで見ていられますように。
ツナは、懲りずに願い事を追加した。
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