「オレはずっと、京子ちゃんのことが・・・」
家に辿りついて、傘をしまいながらも、京子の頭をずっとツナのセリフがまわっていた。
真剣な顔で見つめながら、ツナが自分に何を言おうとしたのか。想像なら、簡単に付いた。
告白、しようとしたのだろうか。
花やクラスメイトに、ツナは京子のことが好きだと、何度か言われたことはあった。そのたびに京子は、まさか、冗談だ、と本気にしていなかった。
それでも。
「オレはずっと、京子ちゃんのことが」
その言葉の続きが、他にあるだろうか。ツナがくしゃみをする直前、「好き」と聞こえたのは空耳だったのだろうか。
勝手な思い込みではなく、もしかしたら・・・。どちらにしても、明日ツナに会えばわかるだろうと、京子は思った。
しかし翌日、ツナは学校に来なかった。やっぱり昨日自分をかばってびしょぬれになったからだろうかと、京子は申し訳なく思う。
「・・・あの、獄寺君」
京子は傘を握りながら、獄寺に話し掛けた。
「これ、獄寺君のだよね。ありがとう」
「あ、いや、別に」
獄寺は少しぎこちない動作で、傘を受け取る。基本的に誰にでも素っ気ない獄寺だが、ツナの想い人である京子にはあんまりぶっきらぼうな態度を取れないと、柄にもなく気を遣って接しているのだ。勿論、京子はそんなことを知らないが。
それでも充分しかめっ面の獄寺に声を掛けられるのは、京子の持ち前の天真爛漫さのおかげと。そして今は、ただツナのことが心配だったからだった。
「あの・・・ツナ君、どうしてお休みか知ってる?」
「え、えっと・・・」
何故か言い澱む獄寺の、隣から山本がひょいっと顔を覗かせて答えてくれる。
「風邪だって」
「野球バカ! おめーなあ!!」
獄寺が即座に山本の頭をはたいた。昨日ツナと京子が一つの傘で一緒に帰ったと知っている獄寺は、ツナが風邪を引いたと知れば京子が責任を感じると、簡単に予測出来る。京子が責任を感じれば、ツナも心苦しくなるのだろうことも。いきさつを知らない山本がそれを察せないのは、仕方ないとはいえ。
そして京子は、やっぱり自分をかばって水を浴びてしまったせいだろうと、自然と表情を曇らせた。ツナはぬれなくてよかったと言ってくれたが、やはりツナが風邪を引くよりは自分が水をかぶってしまったほうがよかったと、京子は思ってしまう。
「・・・ごめんね」
「・・・いや、10代目は・・・なんか、湯冷めされたとかで、別におまえとは関係ないみたいだぜ!」
つい謝ってしまう京子に、フォローするように言ってくるということは、獄寺はやっぱりツナが風邪を引いた理由を知っているのだろう。やはり、あのとき水にぬれたせいなのだろう。
ツナに改めて謝りたい。お礼を言いたい。京子は、思う。それより何より、ただ会いたい。昨日の言葉の続きを知りたい。
お見舞い、と称して会いに行ってもいいだろうか。京子がそう考えていると、タイミングよく山本が、提案してきた。
「そうだ、みんなでお見舞い行くか?」
ハッと顔を上げて、京子はつい行くと答えようとした。しかし、それより早く、獄寺が山本に言い返す。
「ばっか! 風邪引いてるところに押しかけてったら、迷惑に決まってんだろうが!!」
それは獄寺が、ツナは風邪で臥せっているところを好きな子に見られたくないだろう、と気を回してとっさに言った理由で。
だがその言い分は、確かに正しかった。そう言われたら、京子も諦めるしかない。
もう一度傘のお礼を言ってから、京子は自分の席に戻った。どうしても、その頭はツナのことばっかり考えてしまう。
昨日の、途切れてしまった言葉の続き。昨日から何回も、何十回も、その続きを京子は予想した。期待した。
早くツナの口から、聞きたい。勝手な都合のいい想像なのか、それとも本当に。
しかし同時に、京子の中で強くなっていく思いがあった。
ツナの言葉をただ待っている、それでいいのだろうか、と。ツナは告白してきてくれるかもしれない、してこないかもしれない。どちらかなんて、わからない。
でも京子の気持ちは、ツナの気持ちがどうであれ、変わらないのだ。
好き。
その思いを、自分から、伝えようか。
一旦そう思うと、京子はなんだか居ても立っても居られない気分になっていった。
びしょぬれになるのも構わずかばってくれた、そんな強くて優しいツナのことが、好き。大好き。
そんな思いを、早く、伝えたい、知ってもらいたくなる。
京子は思い立って、メモを取り出すと、文字を書き付けていった。ついドキドキして、少し震えそうになる手を抑えて、一文字ずつ大切に。
書き終えたメモを4つ折りにして、一つ深呼吸。さっきはあんなことを言ったが、獄寺はきっと一人でツナの様子を見にいくのだろう。
だからこれを、獄寺に託して、ツナに渡してもらうのだ。やっぱり今から心臓がギュッとなるのを感じながら、メモを手に京子は席を立った。
「ツナ君へ
昨日はごめんなさい。ありがとう。
早く風邪を治して、学校に来てね。
ツナ君に、伝えたいことがあります。
京子」
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