テーマ「続・10年バズーカ」 ツナ京/ヒバディノロマディノ




ツナ京


 リボーンに連れられて、ツナの家を訪れていた京子は。
 突然自分の周りが煙のようなものに包まれたかと思うと、次の瞬間には目の前に見知らぬ男の人がいて、ビックリしてしまった。
 いや、全く知らない人、というわけではない気がした。その男の人は、京子のよく知っている少年、沢田綱吉に似ていたのだ。
「あ、やっぱり今日だったんだ・・・」
 そのツナ似の青年は、そう呟いてから、京子を安心させるように笑い掛けつつ、説明をしてくれた。
「初めまして・・・かな。オレは、京子ちゃんの知ってるツナの、10年後の姿なんだ」
「10年後・・・?」
「つまりここは、10年後の世界ってわけ。ランボの10年バズーカっていう・・・まあ、その辺はいいかな。京子ちゃんは10年後の京子ちゃんと入れ替わっちゃったんだ。・・・とにかく、深いことは考えないで、夢でも見てると思って。5分で戻っちゃうからね」
「・・・そう・・・なんだ」
 にわかには信じられないこと。それでも京子は、それを信じることが出来たし、そして不安に思うこともなかった。
 目の前のツナの言葉が、その笑顔が、京子を安心させてくれたのだ。
 それに、京子は別のことに気を取られていた、というのもあった。それは、目の前のツナのことだ。
 10年後ということは、24歳くらいだろうか。背も伸びて、顔つきも大人びて。
 京子の知っているツナは、普段はちょっと情けなく思えることもあって、でもいざというときは頼れて、たまにドキリとするような顔をする男の子で。
 だが目の前の青年は、常にその凛々しいと言えるような顔つきをしていて、京子はなんだかドキドキしてしまう。
 ツナを見ているのがなんだか恥ずかしくて、視線を泳がせた京子は、二人の間にあるテーブルの上に目をとめた。
「うわあ、美味しそう・・・!」
 思わずそう言ってしまう。テーブルの上にはティーカップと共に、瑞々しい果物がふんだんに乗った見栄えも見事なケーキがあったのだ。
「あ、それ、並盛堂の新作ケーキなんだよ。ちょっと食べる?」
「え、でも・・・いいの?」
 ツナの前と自分の前に、用意されているケーキ。これはつまり、ツナが誰かと食べようとしていたケーキではないのかと京子は思ったのだが。
「うん、いいんじゃないかな、一口くらい。京子ちゃんにはオレから言っとくよ」
「・・・・・・」
 つまり、ここにいたのは10年後の自分で、このケーキは10年後の自分が食べるもので。だったら、ちょっとくらいいいかな、と京子は思ってしまう。
「じゃあ・・・」
 フォークを手にとって、ケーキに伸ばしながら。
 そういえば、自分もツナと一緒にケーキを食べようとしていたところだったと思い出す。10年後も全く同じシチュエーションのようで、京子は変わっていないことがなんだかとても嬉しかった。
「あの、いただきます・・・」
 京子はケーキを削り取って、口に運ぶ。
「・・・・・・ん、美味しい!!」
 じっくり味わった京子は、10年後の自分に悪いかなと思いながらも、もう少しだけとフォークを動かし。そこで、ツナがそんな自分をじっと見ていることに気付いた。
「・・・ツナ君、どうしたの?」
「あ、うん・・・昔は髪が短かったなって、思って」
 京子は、ツナが変わらず視線を逸らさずに真っ直ぐ見つめてくるから、自分から逸らしてしまいながら。
「・・・そ、そうなんだ。また伸ばしてるんだ」
「うん。長い髪も似合ってるけど・・・その髪型の京子ちゃんも、やっぱり可愛い」
「・・・・・・!!」
 さらりと、ニッコリ笑っていったツナに、京子は一気に顔が赤くなるのを感じた。だが、変に思われたくないから、慌てて気を逸らそうと、紅茶を飲む。
 そんな京子を、やっぱりツナはじっと見つめて。
「・・・あー、やっぱり、我慢出来ないや・・・!」
 何やらそう呟いてから、どうしたのかと視線を向けた京子に、身を乗り出してきて。ツナは、京子の頬に、チュッとキスをしてきた。
「・・・・・・・・・・・・えっ・・・!?」
 ハッと京子が頬を押さえると、ツナは自然な笑顔で。
「あ、ごめんね。周りにイタリア人が多いから、変な癖付いちゃって」
「・・・・・・そ、そうなんだ・・・」
 ツナがあまりにも普通にしているから、京子も動揺するのはおかしいのかと思えて。赤くなっているだろう顔を、どうにか元に戻そうと頑張っているうちに、タイムリミットの5分が来てしまった。


「改めて、ごめんね、さっき・・・あのときは」
 戻ってきた京子に、ツナは今さらかなと思いながらも、一応謝ってみた。
 何もするつもりはなかったのに、10年前の京子があまりにも可愛いから、ついついキスをしてしまったのだ。ツナとしては、我慢して頬にした点については、褒めて欲しいくらいだったが。
「あのときは、すっごく驚いたなぁ・・・」
 くすりと笑いながら、京子は懐かしむように言う。どうやら今となっては、京子にとってはいい思い出になっているようで、ツナはホッとした。
「ごめん、ごめん。つい、我慢出来なくてさ。10年前の京子ちゃんが、とっても可愛かったから」
「・・・ツっ君」
 すると京子は、そんなツナを見つめてきて。
「今の私は?」
 にこりと笑って問い掛けてくるから、ツナは当然答えた。
「勿論、とってもとっても、可愛いよ。頬にキス、だけじゃ足りないくらい」
 そしてツナは、その答えに満足そうな京子の、微笑む唇にキスをした。
 その瞬間、キスには慣れたはずなのに、未だに高鳴る胸。
 ツナは10年前の自分に伝えたくなった。
 10年後も相変わらず、京子ちゃんにドキドキされっぱなしなんだよ、と。



10年経って男前になっても、ツナには変わらずに京子ちゃんにドキドキしてて欲しいです。












ヒバディノ


 気付いたらディーノは、見知らぬ和室らしき部屋にいた。
 ディーノはその内装を見渡して、つい呟く。
「・・・ジャパニーズマフィア・・・?」
 映画で見たことのある日本のヤクザとやらが、こんな部屋に住んでいなかっただろうか。畳に障子に何か由緒ありそうな掛け軸や壷。
 思い返すと、ツナを訪ねていった先で、多分自分はボヴィーノの10年バズーカに当たって。ということは、ここは10年後の自分がいたところなわけで。
「もしかして・・・ここって、ツナの・・・?」
 ボンゴレの日本支部、とかその辺りなのだろうか。
 誰かいないか、取り敢えず他の部屋に行ってみようと立ち上がったディーノは、しかし次の瞬間、畳でツルッと滑って転んだ。
「・・・何やってるの」
 そんなディーノに、背後から降ってくる、聞き覚えのある声。
「・・・・・・恭弥か・・・?」
 ディーノは体を起こしながら見上げた。そこにいるのは、ディーノの知る雲雀恭弥の面影を残しながらも、立派に成長している青年。
「おまえ、成長したなぁ・・・」
 思わず感心するように言いながら、ディーノは雲雀をジロジロと見回した。見慣れない雲雀の着物姿は、この部屋にはピッタリで、もしかしてここは雲雀の家なのかもしれないと思える。
 そんなディーノの視線を気にした様子もなく、雲雀は流れるような動きで座布団に正座をした。それから、ようやくディーノを見つめてきて。
「こうして見ると、あなたも幼かったんだね」
「・・・それって、つまりあの頃のおまえには、オレは立派な大人に見えてたわけか?」
 ディーノもつられて雲雀の向かいの座布団に座りながら。それはよかった、と思ったが、雲雀は答えない。だからディーノは、勝手に都合よく解釈しておくことにした。
「ところで・・・」
 ここはどこか、確認しようとしたディーノは、しかしあるものに気付いて、一瞬言葉を失った。
 雲雀の、左手の薬指に、さりげなくはめられている指輪。
「・・・・・・恭弥、結婚・・・してんのか・・・?」
 まさか、と思いながら問えば、雲雀は淡々と返答する。
「・・・だったら? おめでとう、とでも言ってくれるの?」
「あ、うん・・・」
 おめでとう、と取り敢えず言おうとしたが、ディーノは何故か言葉に詰まった。
「・・・で、でも、驚いたな。おまえと結婚しようなんて子が現れるなんて・・・」
 結局おめでとうという言葉は出てこず、ディーノは変わってそう呟いた。ただ、ディーノが驚いたのは、少し違う理由だったように思う。
 雲雀が、誰かを選んだ、その事実にディーノはきっと驚いたのだ。
 驚いた、ともちょっと違うかもしれない。娘を嫁がせることになった父の感傷めいた心境、とも似ていて、でもやっぱり違う気がする。
 なんだかハッキリしなくて落ち着かないディーノに対し、雲雀は静かな視線を指輪に向け。
「確かに、僕も奇特な人だと思うよ。こんな僕に、夢中なんだからね」
 そう言って小さく笑う雲雀こそ、その奇特な誰かへの愛情を覗かせていて。
 ディーノはなんだかドキリとした。10年後の雲雀に、まさかそんな人がいるなんて。
 違和感のような、言いようのない感覚がディーノに広がる。なんだか居心地が悪かった。
「えっと・・・そ、そろそろ向こうに帰る時間かな・・・」
 確か、5分で元に戻る、んだったと思う。それが何か救いのように思えて、ディーノは必要ないのに立ち上がろうとした。
「・・・ねえ」
 そんなディーノに、雲雀は薄く笑いながら言葉を掛けてくる。
「僕の相手、誰か知りたい?」
「・・・え、いや・・・・・・」
 知りたい、ようなでも知りたくなんてないような。迷うディーノへ、雲雀は畳に手をついて、身を乗り出してきた。
 そして、ディーノが自分に向けられる雲雀の、10年で随分と艶めいた切れ長の瞳につい見入っている間に。
 ふわりと、優しい感触がディーノの唇に。
「・・・・・・・・・っ!?」
 それが雲雀からの口付けだと気付いたディーノは、ビックリして慌ててあとずさった。
 それと同時に、歪む視界。元の世界に戻ろうとしているディーノが最後に見たのは、大人びた雲雀の微笑みだった。


「・・・おかえり」
 それから少しの間も置かず、雲雀の前に今の雲雀にとっては見慣れた姿のディーノが戻ってきた。
「ただいま」
 そう返してからディーノは、くすりと雲雀に笑い掛ける。
「それで恭弥、10年前のオレは、思わず手を出したくなるくらい、可愛かったか?」
 見透かすようなディーノの瞳を、しかし雲雀はもう動じず受け止められるようになっていた。
「そうだね、今のあなたに比べれば、ずっとね」
「・・・・・・」
 ディーノは肩を竦めてから、うしろに手をついてふぅと溜め息をつく。
「あぁ、オレも昔の可愛かった恭弥に会いたかったな・・・」
 わざとらしく、懐かしむように惜しむように言った。
 そんなディーノと、そういえば10年前に雲雀は会っていない。10年前は、まだ家庭教師と教え子、しかも元と付くような関係だった。今みたいに一緒にいる時間は少なかったから、当時のディーノと雲雀が一緒にいなかったのも仕方はないが。
「あなたは何をしていたの?」
「オレは・・・」
 するとディーノは、左手の指輪をかざして見せながら、笑って言う。
「ツナとリボーンに、のろけてきた」
「・・・何やってるの」
 呆れたように溜め息をもらす雲雀、それを真似するように溜め息をつき返すディーノ。
「おまえこそ。オレは相手は伏せといたんだけど、おまえが10年前のオレに変なことするから、バレちまったみたいだし」
「・・・変なこと?」
 問い掛けて、雲雀はさっきのように、畳に手をついて、ディーノのほうに身を乗り出した。
「そう、変なこと」
 するとディーノも、体を前に倒してきて、その変なことを実践してくる。ふわりとした口付けを、雲雀へ。
「・・・変? いつものことでしょ?」
「違いない。今のオレたちにとっては、な」
 微笑み掛ける雲雀に、ディーノも笑い掛け。至近距離で合わせた瞳で愛情を語り合い、二人は再び口付け合った。



10年後ヒバディノは、二人ともすっかり悟っちゃっててなんの疑問もなく一緒にいて(遠距離ですが)、甘々じゃねーのおめーら!!ってくらいの希望・・・(笑)












ロマディノ 前話を読まないとわかりにくいかもしれないです・・・


 10年前に体験したことだから、状況はすぐに飲み込めた。
 だからディーノは、すぐにロマーリオのところへ向かう。
 10年前、戻ってきたディーノの前にはロマーリオがいた。だから、今ロマーリオがどこにいるのか知っている。何をしているかも、知っている。
 運よく誰にも会わず、辿りついた部屋の扉の向こうで、ロマーリオはソファに腰掛けて寝息を立てていた。
 ディーノはそんなロマーリオを起こさないように、気配を消して近付いてから、その顔をまじまじと見る。
 あんまり変わっていない気がしていたが、やはりロマーリオも、10年で相応に年を重ねていたようだ。皺の数や深さでもそれが窺い知れる。
 そういえば、10年前は逆のことを思ったとディーノは思い出した。確かあのときは、さすがに老けているけどあんまり変わらない、そう思った気がする。
 ロマーリオの10年どころか初めて会ったときから変わっていない髪型、その毛並をそっと撫でながら。ディーノは、あのときの自分の問いを思い出した。
『今でも・・・オレのこと、好きか?』
 今思えば、随分と幼稚な質問で。
 でもあのときの自分は、不安だったのだ。
 恋人にならず、上司と部下という関係のままでいたほうが、ずっと一緒にいられるだろうか。そう悩んだ末にロマーリオを手に入れた、直後だったから。
 絶対、そう言えることなんてこの世にないと、知っている。
 それでも、今のディーノは昔よりも、過ごした歳月の分だけ、ロマーリオとの絆を信じることが出来た。
 ディーノは悪戯するような気持ちで、10年前のロマーリオにそっとキスをして。それから、そういえば10年前の自分も同じようにロマーリオにキスをしたと思い出す。
 10年前の自分がその直後に戻ってしまった、ということは、今の自分がそのロマーリオの前に現れるわけで。
 ロマーリオが自分見て一体どんな顔をするんだろうと、想像して笑いながら、ディーノはせっかくだからもう一度ロマーリオにキスをした。


 気付いたら、目の前にはやっぱりロマーリオ。
 ただ、そのロマーリオはさっきまでのロマーリオに比べて若いし。それに、さっきまで普通に起きていたはずなのに、スヤスヤと眠っている。
「・・・戻ってきたのか」
 ディーノはやっと、そう確認した。
 いた部屋がさっきまでと変わっているのは、10年後の自分が移動したからなのだろう。10年後の自分が真っ直ぐロマーリオのところに向かったのかと思うと、ディーノはなんだか可笑しかった。
 10年後もきっと、自分はロマーリオのことを変わらず好きなのだろう。そして、ロマーリオもまた、変わらず好きだと、言ってくれた。10年前も今も、10年後もずっと、好きだと。
「ロマーリオ・・・オレも、好きだ」
 ディーノはゆっくりロマーリオに歩み寄りながら呟いた。
 10年後もロマーリオは、自分を好きだと言ってくれている。だったらそれでいいと、ディーノは思った。
 もしかして、もう恋人という関係ではなくなっているかもしれない。ただの上司と部下に戻っているかもしれない。それでも、ロマーリオが変わらず自分の傍らにいてくれるのなら、それでいいと思った。
「ロマーリオ・・・」
「・・・・・・ボ・・・ス・・・?」
 ロマーリオが、ようやく気配に気付いてか目を開ける。
 そして自分に向けられた、ロマーリオの瞳。10年後も少しも変わっていなかった、自分への愛情をたたえた穏やかな、その瞳。
「・・・っ、ロマーリオ!!」
 ディーノは堪らず、飛びつくようにして、ロマーリオに抱き付いた。
「ボス?」
 驚きながらも、ロマーリオはディーノの体をしっかりと受け止めてくれる。
 そんなロマーリオに、ディーノはキスをした。やはりロマーリオは、当然のようにディーノを受け止めてくれる。
 しばらく口付けを続け、それからあやすようにディーノの髪を撫でながら、ロマーリオは問い掛けてきた。
「・・・で、どうしたんだ?」
「ん、それが・・・」
 10年後の世界で、おまえに会って・・・。だが、ディーノが今ロマーリオに伝えたいのは、そんなことではなかった。
「別に・・・急に、おまえを抱きしめてキスしたくなっただけだ」
 ディーノは再びロマーリオにギュウっと抱き付く。やっぱり同じように、ギュッと抱き返してくれるロマーリオ。
「好きだ、ロマーリオ。愛してる・・・」
 そう言いながらディーノは、早いけど前言撤回だ、と思った。
 恋人ではなくなっても、側にいられればそれでいい、なんてさっきは思ったけれど。やっぱり、ただの上司と部下になんて、もう戻れない。こんなふうに、抱きしめ合って、キスし合っていたい、ずっと。
 そんなディーノの思いが伝わってはいないだろうが、それでもロマーリオは、ディーノの頭を背を優しく撫でながら。
「・・・奇遇だな、ボス」
 強く自分に抱きついてくるディーノに、囁きかけてきた。
「オレも今、あんたにキスして、抱きたい気分になった」
「ロマーリオ・・・」
 そして言葉通りに、ロマーリオのほうから、口付けてくる。益々強くロマーリオにしがみ付きながら、ディーノは祈るように思った。
 自分たちは、10年後もきっと、こんなふうに抱き合いキスをしている。



「ロマーリオの愛情をたたえた穏やかな瞳」とか書きつつ・・・ていうかロマーリオの目って、開くんですか!?(そりゃあ開かないわけはないだろうけど・・・!笑)