テーマ「酔」 ツナ京/ヒバディノ1ヒバディノ2





ツナ→京


 いつものように、ハルやランボやイーピンや、大勢で遊園地。ちょっと気が重たいツナは、それでも京子も一緒だから、自然と気分も浮き立った。
 京子ちゃんは今日も可愛いなぁと思いながら、いつか二人で遊園地デート・・・とついつい妄想してしまう。
「あ、次、あれ乗ろう!」
 ニヤニヤして気持ち悪ぃーぞとリボーンに飛び蹴り食らっていると、ふと京子が声を上げた。ツナがつい視線を向けると、京子が嬉しそうに、ジェットコースターを指している。
「京子ちゃんが絶叫系好きだなんて、意外です!」
 そう言うハルも結構好きなようで、集団の歩みはそのジェットコースターへと向かっていった。
 だからツナは、どうしようかと迷う。京子が絶叫系アトラクションが好きだというのは、知っていた。対するツナは、正直、大の苦手だ。
 出来るなら回避したいが、京子の手前、嫌だと言いづらい。とはいえ、格好悪いところを見せたくないから、やっぱり乗らないほうがいい気もする。
「ツナ君も、行こ!」
 しかし、ツナがグルグル悩んでいるとも知らない京子は、ニッコリ笑ってそう言ってきた。京子にそんなふうに言われれば、勿論ツナは、うん!!と即答してしまう。
 そして、考え直すことにした。いつか京子と二人で遊園地に行くとき、京子の好きな絶叫系アトラクションに付き合えるように、苦手を克服しておこう、と。
 相当な覚悟をして、ジェットコースターに乗り込んだツナは、しかし機体が昇り始めて即座に、激しく後悔をした。


「情けねーぞ、ダメツナ」
「・・・・・・・・・」
 罵ってくるリボーンに言い返す気力もなく、ツナはフラフラとベンチに腰を下ろした。
「大丈夫、ツナ君?」
「・・・う、うん・・・・・・」
 心配そうな京子の声が聞こえるが、平気な振りを装う気力も、残念ながらない。格好悪いと思っても、今のツナは座っているだけでやっとだったのだ。
 いっそもう、みんなで次のアトラクションに行ってくれないかな。などと思っているツナに、呆れたようなリボーンの声が届いた。
「仕方ねーな・・・こいつをジェットコースターに誘ったのは京子だからな、責任持って看病してやれ」
「うん。みんなは先に行っててね」
 と、話が纏まって、ゾロゾロと遠ざかっていく大勢の気配と、隣に腰を下ろしてくる一人分の気配。ツナがソロリと視線を向ければ、心配そうな京子の顔が思ったよりも近くに見えた。
「・・・っ!」
 リボーンに感謝する余裕もなく、ツナの心臓が跳ね上がる。
「ごめんね、私が誘っちゃったから・・・」
「そ、そんなこと・・・!!」
 ツナは慌ててブンブンと頭を横に振った。と、グラリと頭が揺れて、ツナはフラッと倒れ込んでしまう。見事にちょうど、京子の膝の上へと。
「・・・・・・っ!?」
 いわゆる膝枕の体勢だと、気付いたツナは慌てて起き上がるより先に、カチンと固まってしまった。それから、ハッと体を起こそうと、する前に。京子の手が、ツナの頭を優しく撫でてきた。
「しばらく、じっとしておいたほうがいいよ」
「・・・・・・・・・・・・」
 つまり、しばらくこのままでいいということだろうか、ツナは益々ドキドキしてしまう。膝枕、なんてまるで恋人同士のようだし、ゆっくりと髪を撫でてくれている手もすごく気持ちいい。
 ウットリしそうになったツナは、しかしハッと、この状況を招いた自分の失態を思い出した。
 ジェットコースターに乗って倒れるなんて、京子はどんなふうに思っているだろう。ツナは顔を上げて京子の表情を確かめるのも怖くなった。
「・・・あの・・・な、情けないとこ見せちゃったね・・・」
 それでも黙ってはいられずに、ツナは乾いた笑い声を上げる。
「そんなことないよ」
 返ってきたのは、優しい京子らしい、否定の言葉。
 気を遣ってくれているのかと思えばやっぱり情けないし、カッコ悪い姿なんて見慣れているから今さら、なんて思われているのも悲しい。
 落ち込みそうになるツナに、京子の言葉が降ってきた。それは、思いもしなかったもので。
「それに・・・ツナ君にはツナ君の強さが、あると思うから」
「京子ちゃん・・・」
 ツナが思わず視線を向ければ、京子は優しく微笑み掛けてくれていた。また、京子の手がゆっくりと、頭を撫でてくる。
「ツナ君・・・まだ、気分悪い?」
「・・・う、うん、まだちょっと」
 本当は、もう多分、平気で。でもツナは、もうちょっとこうしていたい、そう思ってつい嘘をついてしまった。
 京子はそれを真に受けたのか、それとも。
「そう・・・じゃ、もうちょっと・・・ね」
 そう言って、また優しく、ツナの頭を撫でてくれた。



「あれで付き合ってないなんて、信じられないです!」とハルすらつっこんでしまいそうなかんじで(笑)
あ、ジェットコースターに酔いました、ツナが。














ヒバ→ディノ


「せっかくだから、親睦深めようぜ!!」
 なんて言いながら、修行中用意してくれた雲雀の宿泊部屋へと、ディーノが押しかけてきた。
 親睦を、深めたい方向性には、おそらくズレがあるだろう。能天気そうでいながら兄貴風を吹かせてくるディーノを、雲雀は当然追い返そうとした。
 しかしこれも当然というか、引いてくれるディーノではなく、勝手にソファの隣に座ってきて。恭弥に合わせて日本酒、などと言いながら未成年にも遠慮なく酒を注いできたディーノは、10分も経たないうちに。
 デロンデロンの酔っ払いと、化してしまった。
「恭弥ぁ〜、日本酒って美味いなぁ〜〜」
「・・・・・・・・・・・・」
 日本酒を飲むのは初めてで加減がわからなかったのか、それにしてもと雲雀は呆れてしまう。
 何が楽しいのかフワフワ笑っているディーノに、しかし雲雀は同時に、興味を引かれていた。頬を赤くし、とろりと溶けたようなその表情は、初めて見るもので。
「なぁ、恭弥ぁ」
 少し呂律の怪しい口調で、いつもよりも甘い気がする声で、名前を呼んでくるディーノの。ゆっくりと近付いてくるその瞳も、酔っているからか随分と甘い色合いに見えた。
 なんとなく眺めている雲雀へと、ディーノは手を伸ばしてくる。
「恭弥ぁ、可愛い」
 そして、遠慮なく頭を撫でまわしてきたかと思うと、そう何度も繰り返しながら。雲雀の顔中に、チュッチュとキスをし始めた。
 それは、やはり幼子に対するようなものに思えて、雲雀は酔っ払いには付き合っていられないと、いい加減振り払おうとする。
「ちょっと、やめて・・・・・・・・・」
 しかし、雲雀の言葉も、押し退けようとディーノに伸ばした手も、ピタリととまってしまった。手当たり次第キスしてくるディーノの唇が、雲雀の唇にまで触れてきたのだ。
 つい見開いた雲雀の視界に、やっぱり妙に甘い色合いの、ディーノの瞳が映る。蕩けたようなその瞳が閉じ、同時に合わさった唇の間から、スルリと舌が入り込んできた。
「・・・っ・・・!」
 その瞬間、ドクリと雲雀の体が脈打つ。熱い舌が這いまわってくるのと共に、唾液と酒が口内でまじり合っていき、雲雀は軽い酩酊感を覚えた。
 気持ちいいのも熱く感じるのも、流れ込んできたアルコールのせいだけではないだろうと、わかっている。
 ハァと息を吐きながら離れていったディーノを、雲雀は逆に追い掛けた。やられっぱなしは性に合わない、なんて半分は後付けの理由だとも、わかっている。
 今度は雲雀から、ディーノへと口付けていった。ディーノがしてきたように、次第に酒の味がしなくなっていく口内を舐めまわし、舌を絡め取っていく。
 逃げないように頭を掴んだのに、もう大して意味はなさそうで、意外に柔らかい髪が指に心地よかった。ディーノは抵抗なんてする様子もなく、雲雀にされるがまま、受け入れて。
「・・・ん、・・・っふ」
 と、鼻に抜けるような声をもらしていくから、自然と雲雀も煽られ執拗に行為を続けていった。
 一頻り味わって、少し息苦しいから一先ず唇を離せば、ディーノからはさっきよりもずっと熱い吐息まじりの声がもれる。
「・・・気持ちいぃ」
 そして、相変わらずとろんとした瞳のディーノは、ウットリしたような表情でふわりと微笑んだ。もっと、と続けて聞こえて、雲雀はねだられるままに再び唇を重ねていく。同時にそれは、雲雀自身の欲求でもあった。
 何度もキスを繰り返し、一向に嫌がる様子など見せず気持ちよさそうにしているディーノを、このまま押し倒してしまおうかとチラリと考える。
 しかし雲雀は、すぐに考え直した。相手が誰かもわかっていないような、こんな状態のディーノに何かをしても、意味はないだろう。
 とはいえ、全く食指が動かないというわけでは勿論ないから、雲雀は最後にやわらかい唇を食んでディーノから体を離した。
 そして、軽く肩を押せばフラリとソファに倒れ込んでいったディーノは、少し放っておけば、すぐにスヤスヤと気持ちよさそうに眠り始める。
 仕方なくシーツを掛けてやってから、このツケは明日返してもらうことにして、雲雀は熱を逃がすよう大きく息を吐いた。


 翌朝、やはりというか、ディーノは何も覚えていないようだった。
「・・・せっかくだから、恭弥とお酒飲もうと思って・・・あれ?」
 フラリと体を起こしたディーノは、ボンヤリと中身の減っている日本酒の瓶を見つめながら呟く。
「なあ、恭弥」
「何、酔っ払い」
 その返しだけで、大体見当は付いたのだろう、ディーノはさらに問い掛けてはこなかった。勿論、自分があんなことをしたとは、思ってもいないだろうが。
「日本酒に慣れてねーからかな。記憶なくすなんて、初めてだぜ」
「・・・・・・・・・」
 つまり、あんな真似をしたのも、初めてなのだろう。雲雀は一応、釘を刺しておくことにした。
「あなた、相当みっともなかったよ」
「えっ、そうなのか!?」
 慌てたように視線を向けてくるディーノは、しかし聞かされるのも怖いのか、具体的なことは尋ねてはこない。聞かれたところで、答える気もないが。
「だから、もう二度と、日本酒は飲まないことだね」
「・・・うん」
 ディーノが頷くのを確認しながら、雲雀はつい、その瞳をそっと見つめた。
 同じ色合いのはずなのに、昨日ほどの甘さが、そこにはないように見える。やはりあれは、アルコールの仕業だったのだろう。
 日本酒の力を使わずとも、ディーノが自分にあの瞳を向ける為に何をすればいいか、など雲雀にはサッパリわからなかった。
 それよりも、今の雲雀にとっては、まだしつこく燻っている熱を解消するほうが先決で。
「それより・・・早く、準備してくれない?」
 まだソファに座り込んでいるディーノへと、もうとっくに用意の出来ている雲雀は声を掛けていく。
「今日こそ、咬み殺す」
「ハハハ、わーったよ、ちょっと待ってろって」
 ディーノは明るく笑ってから、まだ少し億劫そうに腰を上げて、フラフラ部屋を出ていった。
 それを見送った雲雀は、ハァと息を吐いて。ともすればよみがえってこようとする、甘くやわらかい余韻を、トンファーで空気を裂いて振り払った。



デロンデロンに酔っ払っても、ディーノは何故か日本語を喋っている…そこは、考えてはいけません(笑)













ヒバ×ディノ


 和を愛するからか、和食に合うからか、雲雀は普段日本のお酒しか飲まない。ワインに慣れ親しんでいるディーノは、雲雀に付き合って日本酒や焼酎を飲むこともたびたびあった。なのに、逆はまだない。
「・・・なあ、恭弥。ワイン、嫌いなのか?」
 だからディーノは、ついそう尋ねてみた。
「別に、そういうわけじゃないけど」
「そっか! じゃ、今日はワイン飲もーぜ!」
 嫌いでないのならと、ディーノはワインボトルを取りに立ち上がる。ちなみに雲雀は、まだ日本の飲酒可能年齢には達していないのだが。マフィアのボスであるディーノが法律云々と言うわけにもいかず、そもそも特に注意する気もなかった。
 癖の少ない白ワインを選んで、グラスに注いで雲雀に渡す。
「飲んだことはあるのか?」
「・・・ないかな」
 そう答えた雲雀は、確かにワインを嗜んでいなさそうな飲み方で、グラスを呷っていった。
 それから、30分も経っていない。それでも雲雀の頬は赤く染まり、瞳も少しとろんとしていた。元々お喋りではないが、さっきから全く言葉を発していない。
「・・・恭弥、大丈夫か?」
 ディーノは心配になって、雲雀の顔を覗き込んでいった。日本酒はグビグビ飲んでいるし、アルコールには強いと思っていたが、ワインが体質に合わない可能性もある。
「なあ、恭弥?」
 ディーノが様子を窺うように見つめると、雲雀もまたジッと見返してきた。アルコールのせいだとわかっていても、雲雀に熱っぽい視線を向けられれば、ディーノはドキリとしてしまう。
 しかし雲雀に果たしてその気はあるのか、そーっと雲雀の手からグラスを逃がしながら、ディーノは量るように瞳を合わせ続けた。
 そして、しばらく見つめ合ってから・・・雲雀が、ふと笑う。
「・・・っ!?」
 半分驚きで、ディーノの心臓が高鳴った。
 それは、雲雀の得意な冷笑、皮肉な笑いではなく、かといって興奮しているときのようなものでもない。普通の、笑顔だった。
「・・・・・・・・・」
 その普通を、雲雀がすれば当然、普通には思えなくて。酔っているからか、それにしても、とディーノは戸惑ってしまう。
「・・・あの、恭弥?」
 やっぱりワインなんて飲ませなければよかっただろうかと考えてしまうディーノへと、雲雀が腕を伸ばしてきた。そして、肩に手をまわして、引き寄せるようにしながら自分からも近付いて。
 チュッと、ディーノの頬へキスをしてきた。
「・・・えっ?」
 頬にキスなんて、ディーノからはしょっちゅうするが、雲雀のほうからこんな可愛いキスをしてくるなんて今までにないことで。
 やっぱり相当酔っているのだろうかと思うディーノに、雲雀はさらに畳み掛けてきた。
「可愛い」
「・・・・・・えっ?」
 耳に届いたのは、まさか聞き間違いだとしか思えない言葉。しかし雲雀は、また頬に押し付けてきた唇から、もう一度。
「可愛い」
「・・・・・・ええっ!?」
 その言葉が何に対してか、なんて、雲雀の目は真っ直ぐディーノを捉えているから確認するまでもない。が、雲雀にそんなことを言われたことなんて一度もないディーノは、何事だろうと思った。
「お、おい、恭弥?」
 どうすればいいのかわからなくなるディーノに、雲雀はしっかりと抱き付くように腕をまわしていて。ジッと顔を覗き込んできたり、かと思うと顔中にキスをしてくる。その表情は、常ならずやわらかいもので。
 極めつけが、相変わらずの言葉。
「可愛い」
 そして、
「好き」
 普段雲雀がほとんど見せることのないストレートな好意に、驚きは消えないものの、ディーノにどんどんと嬉しさが込み上げてきた。
 酔っているのだろう、かなり。それでも、きっとこれは雲雀の本心だ。
 キスしたり頬を摺り寄せてきながら、「可愛い」「好き」とただただ繰り返していく雲雀を、ディーノも抱き返していった。驚きも一段落すれば、ディーノに残るのは雲雀への愛しさだけで。常ならないその様子に、頬もどんどんゆるんでいった。
「どうしたんだ、恭弥。甘えてんのか?」
 問い掛ければ、返事のように鼻先を擦り付けられる。いや、ディーノの声は届いていないのかもしれない。雲雀はまた「可愛い」と呟くように口にするから、そんな雲雀こそ可愛いと思うディーノだった。


 翌朝、常になく可愛い雲雀を堪能したことだし、ディーノは最高の目覚めを迎えた。
 対して、ムクリと起き上がった雲雀は・・・愕然としたような、おそろしい顔をしていた。どうやら、全部覚えているらしい。
 ギラリと睨んでくる表情は、昨夜とは全く違う険しいものだ。これはこれで、雲雀らしくて可愛いけど、ディーノは思う。たまには、甘ったるいくらいの可愛さも、悪くない。
「洋酒なんて・・・もう絶対二度と飲まない・・・」
「いいじゃねーか、たまにはさ」
 低く呟いて決意する雲雀に、だからディーノはつい言い返した。
「だって、昨夜の恭弥、すげー可愛かったぜ!」
「・・・・・・・・・」
 視線だけで人を殺せそうな雲雀には、まぁ慣れているしディーノは動じない。あんなに可愛かった雲雀をもう見れないのは勿体ないし、かといって他の人に見せるのはもっと勿体ないとも思った。
「でもさ、オレ以外の前では、ああなって欲しくねーけどな」
「・・・・・・当たり前でしょ」
 雲雀は相変わらず、地を這うような低さの声で、呟く。
「あなた以外だったら、咬み殺してる」
「・・・・・・・・・」
 それが、昨夜と同じくらいの甘さを持つ言葉だと、気付いていないのだろうか。
「恭弥・・・おまえ、ホント可愛いな!!」
 ディーノはつい、雲雀にガバッと抱き付いていった。が、すぐに鬱陶しそうに振り払われてしまう。
 そして腹立たしそうに布団に戻っていってしまう、そんな雲雀の一連の行動も、それはそれでとても可愛らしいとディーノは思った。