テーマ「髪の毛」 ツナ京/ヒバディノ1/ヒバディノ2/正スパ
ツナ→京(ツナ×京)
偶然、下駄箱のところで会って。「よ、よかったら一緒に帰らない?」とツナが勇気を振り絞って、二人で一緒に帰ることになった。
京子と並んで歩いて、ツナはそれだけで緊張してしまう。会話を切らしてつまらないやつだと思われないように、必死で話題を探していて、ふと思い出した。
「そういえば、京子ちゃん、昔はロングヘアーだったって聞いたけど」
「うん、小学校に入るまでは伸ばしてたよ」
「そっか・・・」
幼稚園の頃のロングヘアーの京子ちゃん・・・と妄想しそうになるのを抑えて、ツナは問い掛ける。
「もう、伸ばさないの?」
「・・・うん」
京子は考えるように、外向きに跳ねている毛先を指でいじった。それを横目に眺めながら、ツナは自分もその髪に触りたいなとつい思う。
すると京子がチラリと視線を向けてきたから、ツナはドキッとした。見透かされたらどうしようと、ごまかすように口を開く。
「あ、あの・・・今の髪形もすごく似合ってるけど・・・その、伸ばしてもすごく、に、似合うと思うっていうか・・・み、見てみたいなって・・・」
何度も詰まらせながらも、とても京子のほうを見られないながらも、ツナは本心からの言葉を紡ぎ出した。それからそーっと視線を向ければ、京子が自分をジッと見ていて、ツナの心臓がまた跳ね上がる。
「・・・ほんと?」
「う、うん・・・」
どの部分についての確認かよくわからないが、ツナは頷きながら再びどうにか言葉を搾り出した。
「か・・・か、可愛いと思う」
「・・・そっか」
すると京子は、また毛先に指を絡める。
「じゃ、伸ばしてみようかな・・・」
そして、呟くように言ってから、ツナにふわりと笑い掛けた。
それから二年、京子の髪はすっかり伸びて。二人の関係も、ただのクラスメイトから恋人へと変化した。
「そういえば、髪、すごく伸びたよね」
並んで下校中に、ふと昔のやり取りを思い出して、ツナは思わずそう口にする。隣で京子が、クスリと笑った。
「今さら?」
「あ、ずっと、思ってたんだけど・・・」
なかなか言う機会がなくて、とツナが頭を掻けば、京子はまた微笑んで切り出す。
「・・・あのね、私が髪を伸ばしたのはね」
「うん」
何か理由があるのだろうかと思うツナに、京子は予想外の答えを教えてくれた。
「ツナ君が、見たいって言ってくれたからなんだよ」
「・・・えっ!?」
確かに、あのやり取りがあって以降、京子は髪を伸ばし始めたが。それは単なるキッカケに過ぎなくて、ツナは自分の言葉の影響がそんなにあるとは思っていなかった。
「・・・ホント?」
「ほんとだよ」
ついまさかと思ってしまうツナに、京子はやわらかく肯定して返す。そして、あの頃より少し離れた身長分、ツナを見上げてきた。
「ツナ君は知らないだろうけど・・・ツナ君が何気なく言った言葉が、私にとってはすごく大きな意味を持ってたの」
あの頃から、と京子は言って微笑み掛けてくる。
ツナは、今頃になって気付いた。京子が自分だけに向けてくれる特別な笑顔は、もうあのときにはそこにあったのだ。
だって、あのときの京子の微笑みと、同じものがすぐ目の前にある。ツナはとても嬉しかった。
本当は、何気なく言った言葉、なんかじゃとてもないのだけど。どうにかどうにか搾り出した言葉なんだけれど。
ちょっと情けないし、京子がせっかく笑ってくれているから、ツナは黙っておくことにした。
ヒバ×ディノ 10年(未満)後。
風呂上りで湿った髪に指を通し、雲雀は思わず呟いた。
「・・・髪、伸びたね」
「そうか?」
とっさにそう返してきたディーノは、すぐに「そうだな」と言い直す。出会った頃よりは確実に、うしろ髪が長くなっているディーノのブロンドを、代わりにタオルで拭ってやりながら雲雀はつい考えた。
昔のディーノの髪も、ぬれているときは同じ質感だった。でも、乾けばピョンと、跳ねて。快活なディーノに似合うくせっ毛は、しかし髪が伸びるうちにいつのまにか昔ほどは跳ねなくなっていた。
年を重ねるにつれ随分と落ち着いていった雰囲気と合わせて、はらりと流れるような髪は色気を醸し出している。自分が見て触れる分には好きだが、他の人の目にもそう映っていると思うと雲雀は面白くなかった。
「・・・もう少し、短いほうがいいんじゃない」
「そうか?」
またとっさに返してくるディーノは、長さを確かめるように髪をかき上げて指に通していく。その仕草も、風呂上りだから余計にか、やたら色っぽかった。
慣れているはずの雲雀でも思わずドキリとしてしまうのだから、他から見たらどうなのか、考えるとやっぱり腹立たしい。
そんな雲雀の事情なんて知らないディーノは、毛先を摘んで呑気に笑った。
「じゃ、そろそろ切ってもらおうかな」
「・・・・・・」
でも短ければそれはそれで別の魅力が出る気もするが、とついキリのないことを考えた雲雀は、しかしふと引っ掛かる。
「・・・誰に任せてるの?」
「大体、ロマーリオ。あいつ、ああ見えて手先器用なんだぜ」
「ふぅん・・・」
あの男はそこまでディーノの世話を焼いているのかと思えば、しつこくともやっぱり面白くなかった。自分のディーノに関する心の狭さ、嫉妬深さをもうすっかり自覚している雲雀は、同時にそれをあからさまに表に出さない程度にも成長している。
「明日、切ってあげるよ」
だから代わりにそう言って、誰にだって触らせるのは惜しい金糸へと指を滑らせた。
「恭弥が?」
「そうだよ」
少し目を丸くするディーノに、雲雀が小さく笑って返すと、ディーノも笑う。
「じゃ、頼もうかな。カッコよくやってくれよ?」
「任せてよ。あなたの魅力を一番わかっているのは、僕だよ?」
ディーノの髪に口付けながら、それじゃやっぱり長くても短くても結局変わらないのだと、雲雀は気付いた。とはいえ、ディーノの髪を切るのはそれ自体楽しみなので気は変わらない。
雲雀がそのまま指通りのいい髪を梳き続けると、気持ちよさそうにしていたディーノが、ふと口を開いた。
「そうだ、オレも」
「いらない」
ディーノが言い切る前に、雲雀はキッパリと断る。どうせ、お返しに髪を切ってやる、という提案なのだろう。
「・・・なんで?」
「まだ僕も、死にたくないからね」
刃物を持ったディーノに頭を差し出すなんて、自殺行為だ。不思議そうなディーノにそう答えれば、今度はムッと眉が寄った。
「どういうことだよ」
「・・・・・・・・・」
ここまで自分の厄介な体質に気付かずにきた彼には、もう一生理解することは不可能だろう。
「・・・第一、僕は今切る必要がないしね」
「まあ・・・そーだな」
雲雀が矛先をずらせば、ディーノはアッサリそれに乗って、黒髪を撫でてきた。そのまま優しく髪を梳かれ、さっきおとなしく身を任せてくれたディーノの気持ちが雲雀にもわかる。この心地よさは、他では味わえないものだ。
この髪に触れるのはディーノだけ、ディーノの髪に触れるのも、自分だけでいい。雲雀も手を伸ばし、やわらかい金糸へと指を差し込めば、ディーノも気持ちよさそうに微笑んだ。
ヒバ→ディノ 「髪の毛」というか「毛」。
「ハァ・・・そろそろ休憩しようぜ、恭弥」
修行、というよりただ戦うだけの日々はもう5日目になる。そう声を掛ければ、雲雀は渋々ではあるがトンファーを一旦収めてくれるようになっていた。
疲れた体を休めようと、ディーノは本日の修行場、林の倒木を椅子代わりにして腰を下ろす。すると雲雀は、ディーノから2メートルほど離れたところに同じように腰を落ち着けた。
休むときの距離が、段々近くなっている気がする。始めの頃よりも気を許してくれているのだろうかと、そう思うとディーノは嬉しかった。
つい様子を見守るようにディーノが視線を向けていると、雲雀もふと見返してくる。それからジーッと見つめてくるから、ディーノはなんだろうと首を傾げた。
「・・・恭弥、どうした?」
「・・・・・・」
雲雀は答えず、黙って立ち上がるとディーノの正面にやってくる。そして頭部に向かって手を伸ばしてくるから、ディーノはとっさに避けた。
「・・・何?」
「いや・・・恭弥こそ、どうしたんだ?」
どうしてよけるの、と不満げに眉をしかめられても何がなんだかわからず、ディーノが問い掛ければ雲雀は今度は答えてくれる。
「髪、触るだけだけど」
「・・・・・・・・・」
やっぱりどうしてだかわからないが、それだったら別にそんなに拒むこともないかもしれないとディーノは思ってしまった。
もう一度伸びてきた雲雀の手が、今度はディーノの髪に触れてくる。一房掴んで質感を確かめるように手を動かしながら、ジッと見つめてきた。
日本人には金髪はめずらしいんだろうか、などと思いながらディーノは視線を彷徨わせた。雲雀からのこんな穏やかな接触は、そういえば初めてで、なんとなくちょっと落ち着かない思いになる。
チラリと視線を送れば、雲雀はいつもの無愛想な顔で、やっぱりどうしてこんなことしてるんだろうと不思議になった。
すると、ふと雲雀が視線を滑らせ、ディーノの顔を覗き込んでくる。
「・・・・・・恭弥?」
「・・・睫毛も、同じなんだ」
顔をジッと見つめられる理由なんてもっとわからなくて、ディーノが思わず声を上げれば、雲雀も口を開いた。しかしそれは、ディーノに対してというよりは、ただの独り言のような呟きで。
首を捻りたくなりながらも、聞いたって答えてもらえそうにないので、ディーノは予想した。ディーノの髪と睫毛の共通点は、色。やっぱり金髪をめずらしがっているのだろうか。
ディーノがそう思えば、それを裏付けるように雲雀が問い掛けてきた。
「全部、この色なの?」
「・・・ああ、そうだけど・・・?」
そんなことどうして気になるのか知らないが、ディーノは正直に答えた。髪から睫毛から、ディーノの体毛は全部ブロンドだ。
雲雀は視線をディーノの顔から、下方へと下げながらさらに問うてきた。
「・・・そこも?」
「・・・・・・まあ・・・そうだけど・・・?」
そんな遠慮なく股間を見つめないでくれ、というかそんなこと聞いて益々どうするのだろう、と思うディーノに、雲雀は平坦な口調で言ってくる。
「じゃ、見せて」
「・・・・・・や、なんでだ・・・!?」
「見たいから」
「・・・・・・・・・・・・」
当然のように言う雲雀を、ディーノは目を丸くして見上げた。さっきから全く、雲雀が何を考えているのかわからない。
「・・・別に、見たって楽しくねーだろ?」
「それは僕が決める」
「・・・・・・・・・」
雲雀が鋭い視線で見下ろしてくるから、ディーノは困ってしまった。別にそこまで嫌がるようなことではないから、最初に言われたときに、ほら、と何気なく見せていればよかった気がしてくる。今となってはなんとなく、じゃ・・・なんて見せづらい空気のように思えた。
ともかく、このわけのわからない状況をどうにかしようと、ディーノは雲雀を押しのけるようにして立ち上がる。
「き、恭弥、それより修行再開しようぜ・・・!」
「・・・それって、僕が勝ったら見せてくれるってこと?」
「違ぇーよ!」
なんでそうなるんだと、呆れながらディーノは首を傾げた。
「ていうか、そんなの景品になんかなんねーだろ」
「それも、僕が決める」
「・・・・・・」
よくわからないやつだと改めて思いながらディーノはハァと息を吐く。どうせ修行はいつも、ディーノが勝つか決着がつかないまま終わるのだ。
「・・・ま、それでもいーぜ」
何が楽しいのか全くわからないが、よくわからないこととはいえ雲雀に興味を持ってもらえるのは、嬉しい気もする。勿論、単純に戦うこと自体が雲雀にとっては一番の目的なのだろうが。
「そう・・・楽しみだね」
しかし、ディーノの返事に、雲雀の口の端が少し上った。それは最近たまに見せるようになった、好戦的なものとは少し違う気がする、でも何か挑むような笑顔に思えて。
僅かにドキリとしながら、ディーノは鞭を構えた。
上手いことエロに持ち込もうと考えている雲雀ですが、残念ながら勝てません(笑)
正→スパ
スパナが今取り組んでいる研究に役立ちそうな論文を見付けて、それを二人で読んで一頻り論議して。休憩にとスパナの淹れてくれた緑茶を啜っているときだった。
相変わらず緑茶を美味そうに飲む、変わった欧米人だと思った正一は、何気なく問い掛けてみる。
「君のその髪は・・・地毛なのか?」
スパナは綺麗な金髪をしているが、生まれつきそうな人は少ないと聞いたことがあった。染めている人が多いらしく、スパナもそうなのかと単純に疑問に思ったのだ。
しかしどこかズレているスパナは、やっぱりズレた答えを返してきた。
「・・・カツラかどうか疑ってるのか?」
「なわけないだろ・・・」
少しガクリとしながらも、正一は改めて、今度は具体的に問い掛ける。
「その髪の色、染めたりとかしてるのか?」
するとスパナは、プルプルと首を横に振った。
「してない」
「・・・まあ、だろうね」
自分を着飾る、ことをしないスパナだ。確かに、大体いつもツナギ姿のスパナが、わざわざ髪の色を染めているとは考えにくい。
考察すればわかるのだが、スパナとのんびり過ごすとき正一はあんまり頭を使わないことにしていた。研究について議論するときは別にして、わざとではなくスパナといるとなんとなく寛げるというか、気が抜けるのだ。いい意味で。
それはスパナのボンヤリとした空気によるところも大きいのだろう。スパナはやっぱり、呑気にズズッと緑茶を啜って、少し間を空けてから首を傾げた。
「・・・それが、何?」
「いや・・・その・・・き、綺麗な色、してるなって思っただけだよ」
たとえ髪の色のことでも、綺麗だ、なんてなんだか恥ずかしくなりながらも言えば、スパナは湯呑みをちゃぶ台に置いてから正一にスススと寄ってくる。
そしてすぐ隣から正一の頭を見上げてきた。
「・・・正一の、それは?」
おそらくスパナには、日本人イコール黒髪、というイメージがあるのだろう。確かに正一は黒髪が多い日本人にはめずらしく、明るい茶色の髪をしていた。
「・・・地毛だよ」
答えながら、正一はつい苦い過去を思い出す。
「昔は毛色が違うって、よくイジメられたな・・・」
日本を出てみれば、こんな髪の色はいくらでもいて、正一はいかに自分が狭い世界にいたのかと実感したのだった。
思わずボヤくように呟いた正一へと、スパナが手を伸ばしてくる。くせっ毛を指に絡めるようにしながら、ボンヤリした眼差しながらも、正一とキッチリ視線を合わせて言った。
「ウチ・・・正一の髪、好きだけど」
「・・・・・・」
好きだ、なんて躊躇せず言えるスパナはやっぱり欧米人なんだなと思いながら。髪のことだとわかっていても、それでも照れくさいからそれを隠すように、正一は冗談めかして言った。
「ジャッポーネっぽくないのに?」
「・・・そういえば、そうだな」
日本らしいものが大好きなスパナは、しかし正一の髪をくしゃりと撫でながらもう一度繰り返す。
「でも、好きだ」
「・・・・・・・・・」
スパナにきっと他意はない。わかっていてもやっぱり頬が熱を持ちそうになるから、正一はよくやるように眼鏡を上げる仕草でごまかした。
そんな正一には気付く気配もなく、スパナはしばらくクルクルと正一の髪で遊んで、それからまた元の位置に戻るとズズッと緑茶を啜る。
せっかくだから自分もスパナの髪に触らせてもらえばよかったかも、と小さな溜め息まじりに今さら思いながら、正一はちょっぴり苦い緑茶を飲み干した。
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