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リング争奪戦が終わって、その後始末やらでバジルの所属する門外顧問チームは多忙を極めていた。ディーノのほうも同じような状況らしく、なかなか会えない日が続き。ようやく都合が合って会おうと約束出来たのは、新しい年を迎えてからだった。
電話で連絡を取り合ってはいたものの、直接会うのは2ヵ月半ほど振り。迎えの車の中ですでにバジルは緊張してしまっていた。
ディーノに会えるということに対してもだが、キャバッローネファミリーのいわば本拠地にこれから行くわけで、別世界に旅立つような心許なさ気後れする感情もあったのだ。そこでボスとしてのディーノの姿を見せ付けられて、身の程知らずだと思い知らされ自分が臆さずにいられるだろうか、バジルは不安だった。
とはいえ、久しぶりにディーノと会えるそのことは、勿論とても嬉しくて。複雑な思いで心臓を鳴らしながら、バジルは車の停止と共に、キャバッローネのエリアへと足を踏み入れた。
屋敷の入り口まで出迎えに来てくれたのは、気を遣ってくれたのかバジルも見知ったロマーリオで。大きな屋敷や黒服たちについ肩身を狭くしてしまうバジルに、ロマーリオは笑い掛けてきた。
「よく来たな、坊主。ボスがお待ち兼ねだ」
歓迎している、と言葉と身振りで教えてくれるロマーリオに、少しホッとしながらバジルはそのあとに続く。
「あ、ロマーリオ殿」
「なんだ?」
気さくそうな空気を纏っているロマーリオに、バジルはふと大事なことを思い出して話し掛けた。
「日本では、怪我の手当てなど、お世話になりました。改めてお礼を言わなければと思っていたのに、機を逃してこんなに遅くなってしまって、申し訳ありません」
感謝と謝罪の気持ちを込めて、バジルは頭を下げる。そんなバジルの頭に、ハハハとロマーリオの笑い声が降ってきた。
「やめてくれ、たいしたことはしちゃいない」
「いえ、しかし・・・」
こういうことはキッチリしておかないと、というのがバジルの信条だ。だがロマーリオは、合わせてとめていた足を動かし始めるから、バジルもそれを追った。
「ったく、律儀なやつだな。確かに、ボスの周りには、いなかったタイプかもしれねーな」
ロマーリオが何やら呟くが、自分に対して言ったという確証のないバジルは、聞こえなかったからもう一度などとは言えない。あとは互いに無言でしばらく歩いて、ようやく辿りついた扉の前でロマーリオが立ち止まった。
「ボス、入るぜ」
数度ノックしてから言ったロマーリオに続いて、扉の向こうから僅かにディーノの声が聞こえる。バジルはそれだけで、早くもドキドキしてしまった。
扉が開いて、バジルは下げていた視線を、おそるおそる上げる。
「バジル! 久しぶりだな!」
弾んだ声で言って、バジルの正面に立って、微笑み掛けてきている、ディーノ。
数ヶ月も会えなかったのだから、その間に勝手に自分の中で美化してしまっていてもおかしくないのに。それなのに、バジルは思った。ディーノは、こんなにも綺麗だったろうか、魅力的だったろうか。
とても視線を合わせられず、とても歩み寄ることも出来ず、バジルは視線を俯けてただ立ち尽くした。久しぶりのディーノは眩し過ぎて、そんなディーノがすぐ側にいるという現実は嬉し過ぎて、どうしていいかわからないくらい。
言葉も出てこないバジルに、ディーノのほうから近付いてきた。軽い足取りで目の前に来ると、そのまま大きく広げた腕でバジルをギュッと抱きしめてくる。
その感触、ふわりと漂ってくる何かいい匂いに、バジルの心臓はとまりそうになってしまった。
「よく来たな! 会いたかったぜ!」
そんなバジルの状態になんてちっとも気付いていないディーノは、ギュッギュと抱きしめてきたかと思うと、今度は両頬にチュッチュとキスしてくる。
そのやわらかい感触に、挨拶でキスを交わすなんて慣れているはずのバジルは、益々頭に血が上るのを感じた。前回別れ際に、ディーノにされた唇へのキスまで、思い出してしまう。
引き続き動けず何も言えないバジルを、もう一度抱き寄せ頭を撫でてきたディーノは、ふと気付いたようにバジルの体を少し離した。
「バジル、背ぇ伸びた?」
首を傾げて尋ねてくるディーノに、少し、と短く答えることも出来ず、バジルはどうにかコクコクと頷いて返す。するとディーノは、自分のことのように嬉しそうに、笑った。
「そっか。その調子で、早く大きくなれよー!」
そして、今度はバジルの額にキスしてくる。チュッという音がやけに大きく聞こえた気がして、バジルは眩暈を起こしてしまいそうだった。
なんとかギリギリで立っていられているバジルから、ディーノはようやく離れていく。
「そうだ、バジル。ちょっと庭行こうぜ。上着取ってくるな」
マイペースに言って奥の部屋に引っ込んでいくディーノを、見送ってバジルはハァと溜め息をついた。相変わらずスマートで大人でカッコいいディーノに比べて、ずっと固まっていた自分が情けない。
まだ赤い、ディーノの唇が触れた両頬をつい押さえるバジルに、ロマーリオが近付いてきた。その存在をすっかり忘れてしまっていたバジルは、途端にギクリとする。
ディーノがバジルが付き合っていると、ロマーリオが知っているかどうかわからないが、今のやり取りでバレてしまったかもしれない。ディーノの相手がよりによって自分なんかで、バジルは申し訳ないような気分になってしまう。ロマーリオに苦言を呈されても仕方ないだろうとも思った。
だが、すぐ側まで来たロマーリオの、口から出てきたのはバジルが思いもしなかった言葉で。
「坊主、ボスを頼むぞ」
「・・・・・・え?」
意表を突かれて思わず目を丸くするバジルに、ロマーリオは僅かに苦笑しながら言ってきた。
「行きゃわかる。あれは病気っつーか・・・ボスの、体質みてーなもんなんだ」
そしてロマーリオはハテナマークを飛ばすバジルを置いて部屋を出て行ってしまう。わざわざ追いかけて聞くわけにもいかず首を傾げていると、すぐにコートを引っ掛けながらディーノが戻ってきた。
「行こうぜ」
「あ、はい!」
疑問は残るが、ロマーリオは行けばわかると言っていたし。おかげで少し緊張が解けたところもあるバジルは、考えを引き摺るのはやめて、ディーノについていった。
屋敷を裏口から出たディーノは、そのまま庭のほうへと歩いていく。屋敷の大きさに見合った立派な庭は、手入れが行き届いて、そんなところにもキャバッローネの豊かさが滲んでいる。
そんな庭をディーノは迷いのない足取りで、どんどんと歩いていった。そりゃあディーノの庭なのだから、当然・・・のはずなのだが。
バジルは思わず首を傾げた。目的地があるのなら、真っ直ぐそこに向かえばいいのに、明らかにディーノの足取りは蛇行している。散歩が目的ならそれもわかるが、しかしディーノはどこかを目指している様子だ。
ディーノには何か考えがあるのかもしれないと思っていたバジルも、庭に入ってそろそろ30分は経とうという頃になって、我慢出来ずに声を掛けてみた。
「あの・・・ディーノ殿?」
「・・・ん、どうした?」
クルリとバジルを振り返ったディーノが、おかげで次の瞬間、前を向いていれば避けれただろう木の幹に後頭部を思いっ切りぶつけてしまう。ガンっと痛そうな音が響いたかと思ったら、その衝撃のせいでかディーノはさらに足を滑らせて、その場にズデンと転んでしまった。
「ディーノ殿! 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ったバジルに、ディーノはうしろ頭を押さえながらも、立ち上がって笑顔を見せる。
「痛てて・・・あぁ、平気だ。ちょっと打っただけだから」
「・・・済みません、拙者が声を掛けたばかりに」
幸い怪我はしなかったようだが、自分がディーノを呼んだせいだと思うと、バジルは軽く自己嫌悪に陥りそうになった。だがディーノは、全くこだわった様子のない笑顔をバジルに向ける。
「いいって、それより、何?」
「あ、はい・・・」
本人が気にしてないと言っているのだから、謝罪の言葉を重ねるのは逆に失礼かと思い、バジルはさっき疑問に思ったことを改めて口にした。
「あの・・・さっきから、どこかに向かっているのですか? 随分と・・・歩き回っているような気がしますが」
「・・・・・・・・・」
するとディーノは、目をパチパチとさせてから、へにゃりと眉を下げて笑う。
「・・・バレたか?」
「え?」
何がだろうと首を捻るバジルは、また歩き出すディーノに取り敢えずついていきながら、返ってきた答えに耳を疑った。
「実はさ、ちょっと迷ってさ。どっちから来たかもわかんなくなるし・・・いや、多分、もうすぐ着くと思うんだけど・・・」
「・・・・・・え?」
バジルはついポカーンとしてしまう。
迷う、なんてことがあるのだろうか、広いとはいえ自分の家の庭で。しかも、跳ね馬なんて呼ばれて、その名に負けずマフィアのボスを立派に務めている人が。
「ま、迷われたんですか?」
「うん、まあ・・・」
思わず確認してしまうバジルに、肯定して返しながらも、相変わらずディーノの足取には迷いがない。仕方なくついていきながらも、この先一体どうなるのだろうとバジルが不安を抱き始めた頃、ようやく。
「おっ、あったあった!」
目的地を見付けたようで、ディーノが弾んだ足取りで少し駆けてから、バジルを振り返った。
「着いたぜ! 悪ぃな、すげー歩かせて」
「いえ・・・」
バジルはプルプルと首を振る。無事辿りつけた喜びで輝くディーノの笑顔を見てしまえば、バジルにはそうすることしか出来なかった。たとえ、木々の間から僅かに、30分以上前に出たはずの屋敷が、そう遠くない距離見えていたとしても。
呆れたり責める気になどは当然ならないとしても、やはりバジルは不思議に思った。そして、さっきロマーリオに言われたことを、ふと思い出す。
つまりもしかして、ディーノは極度の方向音痴なのだろうか。そうだとしたら、ディーノの行動とロマーリオの言葉が、違和感なく繋がる。
なるほど、と思いながらバジルはディーノの目指していた場所へとやっと足を踏み入れた。そこは、どうやらハーブ農園のようだ。どうしてこんなところに自分を連れてきたのだろうとバジルは首を傾げそうになるが、ディーノは真っ直ぐ様々なハーブたちの間を抜けていって、あるところでピタリと立ち止まる。
「バジル、こっち」
そしてディーノにしゃがみ込みながら呼ばれて、バジルは招かれるままに隣にしゃがんだ。自然と、立っているときよりもディーノの顔がわりあい近くに見えて、それだけで心拍数が上がってしまいそうになる。バジルは慌てて視線を逸らして、ディーノが指差すほうへと目を向けた。
「これ、何かわかるか?」
「これは・・・」
目の前の鉢に植えられている、芽が出始めたばかりのそれ。ハーブにそこまで詳しくないバジルにも、それが何かはさすがにわかった。
「・・・バジリコ・・・ですよね?」
バジリコとはイタリア料理でもたびたび用いられるメジャーなハーブ、その別名をバジルと言う。自分と同じ名を持つハーブを見せて、ディーノが一体何をしたいのかバジルにはわからなかった。
どうしてだろうと青い葉っぱを見つめるバジルに、ディーノが笑い掛けてくる。相変わらずバジルは、ディーノの顔を真っ直ぐになんて見れてはいなかったが。
「こっちに戻ってきたときに、植えたんだよ。おまえと付き合うことになった記念に、てかんじでな」
「き、記念・・・ですか?」
ディーノがどんな表情でそんなこと言ったのか、気になったバジルはそろりとディーノの顔に視線を向けてみた。ディーノは、どことなく楽しげな曇りのない笑顔で、バジルを見つめている。すぐ近くのその笑顔は、さっきまではとても見ることが出来なかったのに、一旦視線を合わせてしまうと逆にもう逸らせなくなってしまった。
「そう、記念。まあ、育ててんのは部下だけど、オレもちょくちょく様子見に来てんだぜ」
そしてディーノは、バジリコの鉢植えを手に取ると、そっと顔を寄せる。バジルの見つめる先で、ディーノはまだ僅かに芽生えたばかりのバジリコの葉へと、チュッとキスをした。
「早く大きくなれよー」
さっきバジルに言ったのと同じ言葉、おかげでその横顔に見える慈しむような愛情が、自分に向けられているような気になる。同時にディーノのキスの感触を思い出して、バジルは頬が上気していくのを感じた。
どうしてこの人は、ただそこに立っているだけでも充分なのに、それ以上にこんなにも自分をドキドキさせることをしてくれるんだろう。バジルはキュッとなる胸を服の上から押さえた。心臓がいくつあっても足りない気がする。こうやって、すぐ側にいるだけで、こんなふうになってしまうのだから。
鉢植えを元の場所に戻したディーノは、立ち上がってからブルリと体を震わせた。
「じゃ、戻るか。体も冷えたし、熱いコーヒー飲もうな」
「はい・・・」
バジルとしては、冬の冷たい空気も気にならないくらい、むしろあったかいくらいだったが。
それにしても、ディーノはバジルにバジリコを見せる為だけにわざわざここまでつれてきたようだ。とはいえ、屋敷からこのハーブ園までの距離は、普通に真っ直ぐ来れば軽い散歩ほどの距離しかない。
ちゃんと屋敷の位置を確かめてから歩きだしたディーノは、しかしすぐにあらぬ方向へと進み始めた。この段階では自覚はないらしく、やはりその足取りには迷いがない。
少し行くと木々に阻まれ屋敷は見えなくなるが、方向はバジルも覚えている。正しい方向を教えるべきだろうかと、少し悩んだ。
だがバジルは結局、黙ってディーノのうしろを歩いた。このままだと、ディーノはまた迷ってしまうだろう。それでもいいと、バジルは思った。
屋敷に戻ってしまえば、ディーノはまた部下たちに囲まれてしまうのだろう。二人っきりの時間を、少しでも長く持ちたかったのだ。
「そういやさ、バジル」
ディーノはバジルを振り返りながら、あれこれと話し掛けてくる。ディーノの声を聞いて笑顔を見て、しかもそれが自分だけに向けられているという幸せを、バジルは噛み締めていた。
だが、会話を楽しみながらも、バジルに段々と気に掛かってくることがあった。ディーノがどうやらまた迷っているのは、いいとして。
バジルに話し掛けちょくちょく顔を向けてくるせいか、ディーノはたびたび木や枝に頭をぶつけていた。木の幹に足をとられたり、グレイの上等そうなコートはよく見ると傷がたくさん入っている。
どうしてそうなるのだろうと、バジルは首を傾げた。確かに細い道だし、歩き易いとは言えないが、しかし現にバジルは無傷だ。
行きも確かにこけたりしていたが、バジルもまだ緊張していたのと、迷っているのだろうかと疑っていたからあまり気になってはいなかった。バジルにとってディーノは隙のない大人に見えていたから、そんなディーノの姿に不思議な気分になる。
もしかしたら、方向音痴ではなくこれこそが、ロマーリオが言っていたことなのだろうかとバジルは思った。頼れるボスのはずのディーノが、なんだか危なっかしくて見えて、目を離せなくなる。
ディーノはそんな視線を送られているとは知らず、笑いながらバジルに話し掛けつつ、また右腕を枝に引っ掛けた。それを振り払おうと腕を動かしたせいでバランスを崩したのか、しかし平坦ではないとはいえ別につまずくようなものは何もないようにバジルには思えたのだが。
「うわっ・・・!?」
と、ディーノは見事に、顔面から地面につっこんだのだ。思わず呆然とするバジルだが、ディーノがすぐに起き上がらないから、ハッとして慌てて傍らに膝をつく。
「ディーノ殿!? どうされたんですか!?」
頭を打っているから下手に揺すれず、バジルがただ声を掛けていると、しばらくしてようやくディーノはむくりと体を起こした。
「・・・やべ、一瞬意識飛んだ」
「えっ、だ、大丈夫ですか?」
心配になりながらも、バジルは同時に、少し噴き出してしまいそうになってしまう。顔面から地面に倒れたせいで、綺麗なその顔や髪に土や落ち葉が張り付いているのだ。
それを払い落としながら、コートが汚れるのも気にせず地面に尻をついて、ディーノは少し気まずそうに笑った。
「なんか、カッコ悪いとこ見せたな」
頭を掻くのに合わせて、ディーノの髪からハラリと落ち葉が舞う。蜂蜜色の髪と、茶色い落ち葉と、恥ずかしいせいか赤く染まっている頬。綺麗だといえばそうだが、少し違うような。
思わず無言でジッと見つめてしまうバジルに、ディーノは苦笑いを向けてきた。
「呆れたか?」
「え・・・いえ、まさか!」
バジルは慌てて否定する。確かに、驚きはした。バジルはディーノのことを、カッコいい大人だと、綺麗で非の打ち所のない人だと思っていたのだから。
だが、木に頭をぶつけ何もないところで転んで、髪や服に落ち葉を纏わりつかせながら照れ笑いを浮かべたディーノは。カッコいいというより綺麗というより・・・そう、可愛いのだ。
呆れるなんてとんでもない。バジルがディーノに惹かれる理由が、また一つ増えてしまった。バジルは正直にその気持ちを口にする。
「拙者はまた一つ、ディーノ殿の魅力を知りました」
「み、魅力って・・・」
恥ずかしそうに困ったように、少し情けなさそうに笑うディーノは、やはりバジルには可愛く見えた。自分よりずっと年上の大人のはずなのに、互いに座っていて目の高さがそう変わらないからか、そんなふうには思えなくて。
いつも感じていた近寄りがたさのようなものが消えてしまっている今、バジルは吸い寄せられるようにディーノに近付いていた。
未だ少し気まずそうに、何か言いたげなディーノの唇へと、ふわりと唇を重ねる。
二度目のキスは、やはりバジルの唇にやわらかい感触を伝えた。触れ合ったところからジワリと、痺れるような心地よい感覚が広がっていく。
だがバジルは、ハッとしてすぐにディーノから離れた。ディーノの許可も得ずに勝手に何をしてしまったのだろうと、嫌われてしまったらどうしようと焦る。
「し、失礼しました・・・!」
勢いで正座をして頭を下げるバジルに、ディーノから届いたのは、笑いを含んだ優しい声。
「なんで謝るんだよ」
今度はディーノのほうから近付いてきて、バジルの頭をポンポンと叩いてきた。その手に引かれるようにバジルが顔を上げれば、目の前にはディーノの笑顔。
「好きなときにしてくれて、いーんだぜ? オレたち付き合ってんだから」
そして、ディーノがさらに顔を寄せてくるから、バジルはついとっさに目を閉じて。
三度目のキスは、触れるだけではなかった。唇を割り開くようにディーノの舌が入り込んできて、バジルの体温が一気に上昇する。その感触も、ディーノとキスしているのだという事実も、バジルを堪らなく舞い上がらせた。
ピチャリと水音をさせて離れていった、ディーノの濡れた唇が、まるで誘うように微笑み掛けてきて。ふらりと引き寄せられるように、四度目のキスはバジルから。
でもやっぱりすぐに離れてしまったバジルに、ディーノは少し揶揄うような笑顔を浮かべて返してきた。
「キスの仕方は、親方様には習わなかったのか?」
「・・・は、はい」
暗に全然なってないと言われているようで、恥ずかしくなって熱を持つバジルの両頬を、ディーノが手の平で包んでくる。
「構わねーよ。オレが、教えてやる」
囁くように言ったディーノの口が、バジルの唇を再び捕らえ、同時に心まで深く絡め取ってくる。
カッコよくて綺麗で、可愛いくて。どうしてこの人はこんなにも魅力的なのだろうと、バジルは痺れそうな頭でボンヤリと思った。
END ちなみに、バジリコの種まき・発芽の時期は、潔く完全に無視しました…。
※バジル君の名前がまさかのコードネームだとわかる前に書いた話ですので…(笑)