10年前の君へ(前)



 10年バズーカの存在を、ディーノは確かに知ってはいた。
 だが、眼前でそれを見るのは初めてで。目の前の光景に、呆然とするよりなかった。
 そこにさっきまでいたのは、ディーノが弟のように可愛がっているフゥ太。そして今目の前にいるのは、そのフゥ太の面影を残した、青年。
 10年バズーカのせいで10年後のフゥ太が呼ばれたのだと、理屈ではわかっていてもディーノはなかなか理解することが出来ない。
「・・・フゥ太・・・だよな・・・?」
 ディーノは取り敢えず、目の前の青年にそう問い掛けてみた。すると青年は、大人びた微笑みを作る。
「そう、10年後のフゥ太だよ。ディーノ兄は、23歳だよね!!」
「そ、そうだけど・・・」
 つまり、今子供のフゥ太は10年後に行っていて、だからその記憶があるはずのこのフゥ太はすぐに状況を飲み込めるのだろう。だがディーノはやはり、なかなか順応出来なかった。
「でも、悔しいな」
「え?」
「やっぱり、ディーノ兄のほうが、僕より大きいや・・・」
 悔しそうなその表情は、ディーノが知っているフゥ太のものとあんまり変わらなくて。
 でも、目線の位置はあまり変わらないくらい、フゥ太は大きくなっている。声も低くなり、表情も大人びて。
「でも、随分でっかくなったじゃねーか。見違えたぜ!」
 ディーノはフゥ太の成長を、素直に褒めた。こんな形で目にすることになって、不思議な気分だが、なんだか嬉しい。
「ディーノ兄・・・」
 するとフゥ太は、ディーノをじっと見つめてくる。その瞳が妙に熱っぽい気がして、ディーノはドキリとした。
 フゥ太は何やら気を逸らすように、首を振って。
「そういえば、あの10年バズーカ、ジャンニーニがチューンしたおかげで、ちょっと壊れちゃってるみたいなんだよ」
「え、それって大丈夫なのか!?」
 そんなこと言われると心配になるディーノだが、フゥ太は落ち着いたものだ。
「うん、心配はいらない。ただちょっと、滞在期間がね、5分じゃなくて、2日くらいになってるらしいんだ」
「そっか・・・」
 未来のフゥ太がそう言うのだから、そうなのだろうとディーノはホッとしておくことにした。何より、本人がこんなに落ち着いているのだから、ディーノが慌てても仕方ない。
「だからね、ディーノ兄。その間、ディーノ兄に面倒見てもらってもいい? ほら、さすがにママンには事情言えないし」
「・・・それも、そうだな」
 フゥ太の言うことも尤もで。それに、可愛い弟分に頼まれれば、嫌とは言えない。
「わかった、いいぜ」
「ありがとうディーノ兄! じゃ、早速連れてってよ!」
 そうと決まれば、とすぐさま沢田家をあとにしようとするフゥ太を、取り敢えず追いながら。
「え、ツナに会ってったりとか、しないのか?」
「うん」
 何か逸っているようなフゥ太に疑問を抱きつつも、ディーノは滞在中のホテルにフゥ太を連れて行った。


 あとから思えば、いろいろとおかしかった、気もする。
 たとえば、物めずらしそうな視線が気になるから僕がいる間は絶対に部下が入って来ないようにして、とか。
 おかしいと言えばおかしいような、しかし納得出来る理由でもあるから、ディーノは何も疑問に思わずその通りにした。
「なんか飲むか?」
 取り敢えず客をもてなそうとしたディーノだが、フゥ太は室内をキョロキョロ見回してから。
「いいよ。それより、ディーノ兄」
 ソファではなくベッドに腰掛けて、ディーノを手招きしてきた。言われるままにその隣に座ると、フゥ太は手の平をディーノに向けてくる。
「ディーノ兄と比べてもいい?」
「ああ」
 ディーノはフゥ太の手の平に自分の手の平をくっつけた。意外にも、サイズはほとんど変わらない。
「フゥ太、今いくつだっけ?」
「20歳だよ」
「そっか、じゃあまだ背も伸びるかもな。もしかしたら、抜かれるかもしれねー」
 そうなったら、悔しいような、嬉しいような。きっと複雑な気分になるのだろうと思うディーノに、フゥ太はハァと溜め息をつきながら。
「うん、だといいな。僕としては、今日の時点で抜いておきたかったんだけどね・・・」
「なんでだ?」
「どうしてだと思う?」
 問いに問いで返しながら、フゥ太は手の平を合わせたまま、その指をディーノの指へと絡めてきた。
「・・・・・・」
「ねえ、ディーノ兄」
 なんで、と思ったところで声を掛けられるから、ディーノはついそっちに気を取られてしまう。
「なんだ?」
 問いながら視線を向けると、フゥ太もディーノに視線を合わせてきた。その、自分を見つめる瞳が、また妙に熱っぽく見えて。
「あの・・・フゥ太?」
「何、ディーノ」
「いや、何って・・・」
 呼び掛けてきたのはフゥ太のほうだったはずだと思い、それから自分が呼び捨てにされたことに気付いて、まだ絡められたままの指と共にディーノを戸惑わせる。
 この状況は何か、そして自分はどうするべきなのか、悩むディーノに、フゥ太はニコリと笑い掛け。
「ねえ、ディーノ。10年後の僕たちの関係、どうなってると思う?」
「・・・・・・・・・」
 やはり呼び捨て。その問い掛けも、絡んでくるフゥ太の指も、ディーノに途方もない居心地の悪さのようなものを感じさせて。
 ディーノは視線を逸らしながら、そっとフゥ太の手から自分の手を逃がした。
 次の瞬間、ディーノの視界がぐるりと回る。
 天井、それから次いでフゥ太の顔が、ディーノの真上に映った。そしてようやく、ディーノは自分がフゥ太にベッドへ押し倒された形になっていると気付く。
「フゥ・・・!?」
 なんのつもりなのかと、問おうと開いたディーノの口を、フゥ太が塞いできた。口封じ、というよりそれは、ただの口付けで。
 驚いてディーノが動きをとめてしまったのをいいことに、フゥ太はそのままディーノの唇を食んだ。さらに舌を差し込んでこようとするから、さすがにディーノも我に返り。
「・・・ふ、フゥ太!」
 フゥ太を引き剥がし、なんの悪戯かと怒ろうとして、しかしディーノはつい言葉を忘れた。
 自分を見下ろすフゥ太が、とても真剣な顔をしていたのだ。同時に、その顔が大人びたもの、男のものだということにも、気付いてしまう。
「・・・・・・フゥ太・・・?」
「・・・ディーノ、僕が今日この日をどれだけ楽しみにしていたか、わかる?」
「・・・・・・・・・」
 言いながら嬉しそうに笑うフゥ太の、その笑顔はしかし子供じみたものでは決してなくて。
 そんなフゥ太にどう対処していいか、わからなくなるディーノに、フゥ太は再びキスをしてきた。ともかくそれをやめさせなければ、とディーノは思ったのだが。
 撥ね除けようとしても、部下が近くにいないディーノには、同じ体格のフゥ太を引き剥がすことが出来ない。それでももがくディーノの、こめかみ辺りに鼻先を擦り付けてきながら、フゥ太はディーノのシャツの裾から手を差し込んでこようとした。
「フゥ太、やめろって!」
 キスなら、友人同士のスキンシップの一種だと、許容は出来る。だがこれ以上は、冗談では済まない。フゥ太がどういうつもりかはわからないが、ディーノが抵抗しないわけはないのだが。
「ディーノ兄、嫌・・・?」
 そんなディーノに、フゥ太は見慣れた子供らしい拗ねたような表情をしてみせる。ディーノはフゥ太のこの表情に弱かった。だが、この場でそれに負けるのはどうかと思う。
「・・・い、嫌とか、それ以前の問題で・・・」
「でも、ディーノ兄」
 ハッキリした答えを返せないディーノに、対してフゥ太は、ハッキリと宣言した。
「僕は、ディーノ兄を、抱くよ?」
「!!」
 フゥ太の明確な目的を晒した言葉に、反射的にディーノは逃げようと体を捩る。だがそれを上手く利用され、ディーノはクルリとうつ伏せに、ベッドに押し付けられてしまった。
「大丈夫、ディーノ兄。僕に任せて」
 体重をかけてディーノの動きを封じてしまいながら、フゥ太はどこか楽しそうな響きを持たせて言う。
「ディーノ兄のいいところは、僕がよく知ってるからね」
「なっ!?」
 それは一体どういうことなのか、しかしディーノは言葉で確かめる前に、体で実証されてしまった。
 ディーノの首筋へ舌を這わせてきながら、フゥ太は同時に服の下へと手を侵入させてくる。
「っ!」
 指で直接肌を撫でられ、途端にディーノの体をゾクリとしたものが奔った。
「ね、ディーノ兄はここが弱いんだよ。それから、こことか、ここ・・・」
「・・・・・・ん、・・・」
 フゥ太の舌が手が、ディーノの体を這っていく。その何故か的確過ぎる愛撫に、ディーノの体は確実に反応していった。
「刺青をなぞられるのも、好きだよね」
「・・・フゥ・・・太」
 確かに、フゥ太の言うことは正しいと、ディーノは嫌でも実感する。
 そんなことを知っているなんて。ディーノはフゥ太の言った、10年後の僕たちの関係、その言葉を思い出す。つまり、そういうことなのだろうか。だが、例えそうだったとしても、今のこの状況を受け入れるわけにはいかなかった。
「フゥ太、やめろ・・・!」
「どうして? 気持ちいいでしょ?」
 そう言いながら、フゥ太の手はとまらない。
「・・・お、おまえたちがそっちでどんな関係かは知らねーけど・・・少なくとも今のオレは、おまえのことを・・・」
 なんとも思っていない、だからやめろ。そう言おうとしたディーノは、しかしつい躊躇ってしまう。悲しそうなフゥ太の顔を、思い浮かべてしまったからだ。
「僕のことを・・・なんとも思っていない?」
「・・・・・・・・・」
「でもね、ディーノ兄」
 晒したディーノの肩の刺青に口付けながら、フゥ太は淡々としているようでその実熱の篭った、言葉を継いでいく。
「だから、するんだよ」
「っ!?」
 フゥ太の手が、ディーノのズボンの中にまで入ってきた。下着の上からぐっと掴まれれば、体が否応なく跳ねる。
「ディーノ兄は僕のこと、弟みたいにしか思ってないよね。でも、僕は、男なんだよ。それを、ディーノ兄に知って欲しいんだ」
 フゥ太の声が、真摯で切実なものに、ディーノには聞こえた。だからといって、フゥ太の行為を許すことは出来ない、はずなのに。ディーノの体は、心を裏切ってさっさと陥落しかかっていて。
「ねえ、ディーノ兄、ちゃんと僕のこと、見て。男として、意識して」
「・・・・・・そ、その為に、こんなこと・・・?」
 負けてはならないと自分に言い聞かせながら、ディーノは問い掛けた。どうにかして、やめさせなければ、まずい。
「半分はね」
「・・・半分?」
「半分は・・・だって、ディーノがあんまりにも魅力的だから。我慢出来ないんだよ。僕が、ディーノを抱きたいだけ」
「・・・・・・・・・」
 欲求をストレートに言葉にされ、だったらどうすればフゥ太をとめられるのか、ディーノはわからなくなる。
「そろそろ、お喋りはやめようか」
 そんなディーノに、そう言ってから、フゥ太は本格的にディーノの体を陥落させに掛かってくる。
 そしてそれは、容易かった。ディーノの体を知り尽くしているように見えるフゥ太は、簡単にディーノの体を開いていく。
 下着の中に手を差し込み、直接指で刺激を加えていく、その手つきは慣れたものだ。ディーノはすぐに、何も考えられなくなるような快感に襲われていった。
「っん、・・・ぁ、あ」
 ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が耳に届き、逃げなければと冷静に考えようとするディーノの頭を痺れさせる。いいところはよく知っている、その言葉を証明するように、フゥ太の指はひたすらに快感を与えてきた。
 抵抗しやめさせなければならないはずのディーノの手は、ただシーツを掴んで。駄目だとやめろと訴えなければならないはずの口は、ただ掠れた声を漏らすばかりで。
「ひっ、ん・・・っあ!?」
 つい流されそうになっていたディーノは、しかしビクリと体を揺らした。フゥ太の手が性器から外れ、ゆっくりと進むその指が、後孔に触れてきたのだ。入り口をギュッと指の腹で押されて、抱く、と言ったフゥ太の言葉が改めて現実味を帯びる。
 このままでは不味い、これまで以上に差し迫ってそう思ったディーノは、とっさに声を張り上げた。
「っ、フゥ太、マジで・・・やめろって!」
「・・・残念だけどね、ディーノ兄」
 身を起こして抵抗しようとしたディーノに、フゥ太は圧し掛かるように体を押し付けてきながら、告げる。
「ディーノ兄は、今ここで僕に抱かれる。もう、そう決まっちゃってるんだよ」
「っ!!」
 未来から来たフゥ太は、確信を持ってそう言うと、ディーノの先走りでぬめった指を、無慈悲に侵入させてきた。言葉による衝撃に、追い討ちをかけるように。
「・・・っ・・・う、ん・・・!」
 喉を体を引き攣らせるディーノに構わず、フゥ太の指はやはり確信を持って、ディーノの体内で蠢いていった。腹の下のほうからからせり上がってくるような違和感と苦痛にとらわれそうになれば、左手で性器を刺激されて否応なく快感を与えられる。
 拘束されていないのに、ディーノの両手はただシーツをギュッと握り締めて、耐える以外出来なかった。苦痛、それから次第に湧き上がってくる、別の感覚に。
「ん、ん・・・っ」
 痛くて苦しいだけだったはずなのに、粘膜を擦られる音に合わせて、やがて痺れるような感覚がディーノを襲い始めた。もどかしいような、腰の辺りがムズムズするような、それはいっそ苦痛よりも耐え難いもので。
「ひっ、あ、や・・・」
「ディーノ兄・・・わかってくれる? ディーノ兄のこと、どうやったら気持ちよくしてあげられるか、僕は全部知ってるんだよ」
「っあ!!」
 断言したフゥ太の、指がグッと内側を刺激してきて、ディーノに目も眩むような感覚が奔った。今まで味わったこともない、強烈な快感に、ディーノの瞳から知らず涙がこぼれる。
「んっ、あ、あっ・・・!!」
 繰り返しそこを強く押されて、その断続的で遠慮のない刺激に、わけもわからずディーノの体がビクビクと震えた。気持ちいい、なんて言葉では生易しく、強制的に吐精を煽られ下肢が痺れる。
 そんなディーノに、口調だけは優しくフゥ太が問い掛けてきた。
「・・・ねえ、ディーノ兄、ここで・・・いきたい?」
「・・・・・・ん
・・・!」
 早く楽になりたい、と思ってもそんなふうに聞かれたら、ディーノはとても肯定は出来ない。言葉には出来ず、頭を横にぶんぶん振るディーノに、フゥ太が続けて問い掛けた。
「・・・じゃあ、もう僕が欲しい?」
 益々、肯定など出来ない。また頭を横に振ると、フゥ太は背後でわざとらしく溜め息をついた。
「わがままだね、ディーノ兄」
「・・・・・・あの・・・なぁ・・・!」
 勝手なことを言うフゥ太に、怒鳴りつけてやりたい気分になっても、マトモに声が出ない。体も言うことを聞かず、情けなくて唇を噛み締めるディーノに、語り掛けてくるフゥ太の声は冷静なようでいて、充分熱を孕み上擦っていた。
「でも、僕も若いからね」
「・・・っふ、あ」
 フゥ太の指がズルリと抜けていって、それだけでディーノの体をゾクリとしたものが奔る。ピクリと体を震わせるそんな些細な動きにも、フゥ太がどれだけ煽られているか、ディーノが知るはずもなかった。
「実は、もう・・・我慢の限界なんだ」
 正直に言ったフゥ太は、ディーノの脚から下着ごとズボンを抜き取ると、その体をゴロリと仰向けにする。そして、眼前で見せ付けるように自らのズボンに手を掛けていくから、今のうちに逃げなければと思いながらもディーノはついそれを見守ってしまった。
 現れたのは、すっかり成長しきっている、紛れもないディーノへの欲望。
「・・・っ!」
 ディーノの知るフゥ太には、全く似つかわしくないそれに、ディーノは思わず息を呑んだ。ゆっくりと近付いてくるフゥ太は、熱っぽい瞳でディーノを見つめる。
「・・・ディーノ」
 ディーノの知らない声で、ディーノの知らない、男の顔で。
「早く僕のこと・・・」
 好きになって、とでも言いたかったのだろうか。言葉を続けるより、フゥ太は口付けることを選んだ。重なってきた唇から、すぐに遠慮なく舌が入り込んでくる。
「っふ、ん・・・」
 熱い舌に口内をくすぐられる、それだけのことなのに、ディーノはゾクゾクとした感覚を覚えた。穏やかな愛撫に、心地よささえ感じてしまって、目の前のフゥ太の体を押し返そう、と考えることも出来ない。
 そんなディーノの脚にそっと手を滑らせたフゥ太は、ひょいっとその脚を抱え上げると素早く入り口に押し当ててきた。
「っあ、フゥ太、待っ・・・!」
 慌てて阻止しようとしても、今さらフゥ太がとまるわけはなく。ニコリと微笑んだフゥ太は、その笑顔からは想像も付かない凶悪さで、ディーノを犯し始めた。
「っや、・・・・・・っひ・・・あぁ!!」
 ミシミシと音を立てるようにフゥ太が入り込んできて、ディーノは引き裂かれるような痛みに襲われる。今さら体を逃がそうにも、両脚を抱え上げられている体勢では碌な抵抗も出来なかった。
「や、やめっ・・・っ!!」
 それでも無駄な足掻きをするディーノの体を、フゥ太は押さえつけ、ゆっくりとしかし確実に腰を進めてくる。おかげで体を宥め落ち着かせる暇もなく、痛みは引く気配がなかった。
「っひ、・・・ぁ、む、り・・・!!」
 途切れず身を苛まれ、体は悲鳴を上げ涙がボロボロ溢れるが、繕う余裕もない。ディーノの全身は強張り、その締め付けに少し眉をしかめながらも、フゥ太は悠然と言ってのけた。
「大丈夫だよ、ディーノ兄。すぐに・・・気持ちよくなるから」
 そのフゥ太の微笑みも言葉も、少しもディーノの救いにはならない。火傷しそうなほど熱く存在感のあるフゥ太の性器が、やがて信じられないほど奥深くまで入り込んでくるのを、ディーノは否応なしに感じさせられた。
「あ・・・、は、あ・・・ぁ」
「ディーノ兄、全部、入ったよ・・・」
 切れ切れに呼吸を繰り返すディーノに、わざわざ報告してくるフゥ太の、呼吸もいつのまにかディーノと同じくらい乱れている。我慢の限界、と言いながらも自分を抑え、ディーノを気遣ってペースを落としているのだ。
 そんなことにディーノは気付く余裕などないし、知ったところでありがたく思えるわけもないが。なす術もなく体を震わせるディーノの、涙で濡れている目元をフゥ太が指で拭ってきた。
「ごめんね、酷いことして・・・でも」
 熱に浮かされながらも、真摯な眼差しで。続きの言葉を迷うように、フゥ太は少しの間を空けてから、微笑み掛けてきた。
「・・・ちゃんと、よくしてあげるから」
 相変わらず口調と表情だけは優しく、言ってからフゥ太は指をディーノの性器に添わせる。苦痛に喘いでいたところに、直接的で的確な刺激を加えられ、久しぶりの苦痛以外の感覚をディーノの体は縋るように追っていった。
「んっ、・・・っふ、あ」
 同時にフゥ太がゆっくりと腰を動かし始めるが、生じる苦痛を上回る快感を与えられ、ごまかされるようにしてフゥ太に慣らされていく。
 自分よりうんと年下のはずの男に、犯されながらも性器を刺激され感じている。そんな自分の状況に気付く余裕もなく、ディーノはただフゥ太の遠慮ない指遣いに声を上げるしか出来なかった。
「っあ、あ、・・・っん・・・!」
 何度も性感を高められながら、まだ一度もいかせてもらえていないディーノは、すぐに限界を迎え今にも達してしまいそうになる。その頃合を上手く見極めて、フゥ太はスッと指を離していった。
「っえ・・・?」
 半端なところで投げ出され、ディーノがつい視線を向けると、フゥ太はニコリとそれでも無邪気ではない顔で笑って。
「あっ! ・・・ん、・・・っふ」
 腰を引きまたグッと進めてくるが、ディーノに激しい痛みはなかった。いつのまにか、ディーノの内部はすっかりフゥ太に馴染まされているようだ。
 痛みも苦しみも残ってはいるが、それは耐えられないものではなく。自分の内部で熱いものが蠢いている、その異様な感覚を妨げるものでも、全くなかった。
「っん、ん・・・ぁ・・・」
 指でゆっくりと快感を引き出されていったように、フゥ太の動きに会わせて、ディーノの腰辺りに痺れが奔り始める。その僅かな感覚は、指で強く押してきた場所を同じ強さで突かれて、そのとき以上の激しい快感に変わった。
「ひゃ、や・・・あ、あ!!」
 体を跳ねさせるディーノの、腰をしっかり掴んで揺すりながら、フゥ太はクスリと笑って確かめてくる。
「ね、よくなってきたでしょ?」
「な・・・な、んで・・・っ」
 ディーノはつい否定出来ずに呟いた。さっき指で散々弄られ、快感を与えられていてなお、ディーノは信じがたかった。そんなところで、こんなふうにされて、紛れもなく感じさせられている、自分の体が。
「言ったでしょ? ディーノ兄のいいところは、全部知ってるって」
「ひっ、ア・・・あ、ンッ!!」
 再度そう告げたフゥ太は、何よりディーノの体に教えてくる。フゥ太がズルリと内側で動くたびに、ディーノにゾクゾクとした感覚が湧き上がってきた。今まで味わったこともない感覚に、ディーノはそれをもたらしている本人に、つい助けを求めるように手を伸ばした。
「っ、フゥ太・・・ッ! ひゃ、あ・・・ア!!」
 そして名を呼んだと同時に、深く強く、奥を突かれる。前触なく遠慮もない激しさで、続けざまに打ち付けられて、とてもついていけずディーノは伸ばした手でフゥ太の体を押し返そうとした。
「フゥ・・・っ!」
 しかしびくともしない体を見上げ、ディーノはつい動きをとめる。さっきまで、ディーノからは随分余裕に見えていたフゥ太は、もしかしたらディーノ以上にとっくに思考など溶けきっていたのかもしれない。
 ギリギリとどめていた理性が崩れ去った、反動なのかフゥ太は気遣いを忘れたように、ディーノの内側を擦り上げていった。ディーノの見たこともない顔で、ディーノ、と上擦った声で何度も名を呼びながら。
 そういえばこの10年後のフゥ太は、とても大人びて見えてそれでも自分より年下なんだ、とディーノはこんなときなのにふと思った。
 勿論、そんなふうに冷静でいられたのは一瞬で、ディーノの意識はすぐにさらわれてしまう。欲に任せて押し入れ揺さぶってくるフゥ太は、それでもディーノの感じるところを的確に突いてきた。内側からもたらされる痺れるようなその感覚に、ディーノはフゥ太を押し返そうと伸ばしたはずの腕を、意識せず目の前の肩に縋り付かせる。
「んぁ、あ・・・っふ、ッァ・・・!!」
「は、ディ・・・ノ」
 荒く息を吐き出すフゥ太の口が、ディーノの口を塞いできて舌が口内を這い回っていく、それだけで眩暈がするようだった。
「っん、ふ・・・ン・・・っあ!」
 脚を大きく開いて、奥深くまで男の張り詰めたものを咥え込んで、容赦なく体を揺さぶられて。拒絶することも屈辱を覚えることも忘れ、ディーノはされるがままただ声を上げることしか出来なかった。内壁を擦られるたびに、抗いがたいどこにも逃がせない熱がディーノを苛んでいく。
「あ、や・・・ァ! あッ、ん・・・!!」
 ビクビクと体を痙攣させていくディーノに、フゥ太も限界が近いのか、より激しく腰を打ち付けてきた。内側から吐精を煽られ、しばらく触れてもいないディーノの性器は、今にも弾けそうにビクビクと脈打ち。
「・・・、ディーノ・・・っ!!」
「ひぁ! やっ、ァ、あ・・・ンーーッ!!」
 フゥ太は切羽詰った声に続けて、ディーノの奥に叩き付けるように精を放った。ドクリと熱いものが流れ込んでくるのを感じると同時に、ディーノもまた背をしならせ果てる。
「あ・・・は、はぁ・・・は・・・ぁ」
 一瞬の強張りののち、虚脱感に任せながら呼吸を繰り返していった。そんなディーノよりも早く、余裕を取り戻したらしいフゥ太は、肩で息をしながらも手を伸ばしてくる。
 ディーノの汗で張り付いた髪を梳きながら、涙で濡れた目元や上気した頬やだらしなく開いた口元にチュッチュとキスを落としてきた。さらにこめかみ辺りに鼻先を擦り付けてくる、その仕草はまるで無邪気に甘える犬のようで。つい今しがたまでの行為との酷いギャップに少し戸惑いながらも、ディーノはどうにか口を開いた。
「フゥ・・・太、とにかく・・・」
 ディーノの機嫌を取ろうとしているわけではないだろうが、多少毒気を抜かれたのも確かだ。犬に噛まれたことにして忘れてしまう、のはちょっと無理かもしれないが。どうせ目の前のフゥ太は、そのうちディーノの見慣れた幼いフゥ太と入れ替わりに、消えてしまうのだ。
「もう・・・いーだろ」
 ディーノはフゥ太の体を、力の入りづらい腕で押した。フゥ太の目的がなんであろうと、これ以上のことはもうないだろうと、ディーノは思ったのだが。
 フゥ太はニコリと笑って、仕草だけは可愛らしく首を傾げた。
「何が?」
「な、何がって・・・っ!!」
 すっとぼけたように言ったフゥ太が、ゆるく腰を動かしてくるから、ディーノは途端に言葉を続けられなくなる。達したばかりで敏感なディーノの内側は、フゥ太の動きをまるで歓迎するように収縮した。繋がっている部分からジワリと痺れが広がって、焦りを覚えるディーノに、囁き掛けてくるフゥ太の声は欲望で掠れている。
「まだまだ、だよ? ディーノ兄」
「フゥ、太・・・ァ!」
 抗議しようにも、フゥ太に少し体を揺すられるだけで、声が詰まってしまった。フゥ太は全く勢いを失っていないものをディーノに埋め込んだまま、何よりその瞳に熱を込めて訴え掛けてくる。
「もっと・・・もっともっと、思い知ってくれないと」
 どこか切実な響きを持たせて言ったと思ったら、フゥ太は今度はペロリと舌を出して、悪びれず言ってのけた。
「まあ、半分は、僕がしたいだけなんだけどね」
「・・・あのなぁ・・・」
 フフフと笑うフゥ太に、ディーノはつい脱力してしまい。なんだか、怒る気力も失せてしまった。




 To be continued...
「10年前の君へ」いろいろしちゃった♪という話です。
7、8割は無理やり、って言ってたディーノさん…たいした抵抗してない…ですよね。
後編は、補足的というか…エロはもうないです(笑)