compiacimento



 10月9日、ザンザスの誕生日を明日に控えて、ディーノはどうにか都合を合わせてザンザスと会った。夕食を終えて部屋に戻り、ディーノはワインをザンザスはウィスキーをしばらく楽しんで。
 当然そのうちに、ベッドへとなだれ込んでいった。
 ザンザスに圧し掛かられながらも、ディーノはそっと視線をベッドサイドの時計に向ける。23時過ぎ、あと1時間もせずに日付けが変わる。
 10日になった瞬間に、ザンザスに誕生日おめでとうと言おう。そう心に決めながらも、ここ数年のディーノはことごとくそれを逃してきた。
 何故なら、この時間帯は毎年今と同じシチュエーションに陥っているからだ。つまり、日付けが変わる頃には、ディーノもそれどころではなく何も考えられなくなっていて。時間を気にする余裕も、そもそもザンザスの誕生日だということも忘れて、行為に没頭してしまうのだった。
 しかし今年こそは、とディーノは固く決意をする。
「どこ見てんだ?」
 ザンザスはそんなディーノの髪を引っ張って、強引に視線を自分へと向かせた。そして続けざまに仕掛けてくるキスは、最初から遠慮も何もないもので。
 早くもディーノは、やっぱり今年も無理かもしれないと思ってしまった。
「ふっ、ぁ・・・ん」
 正に貪ると表現すべき貪欲さで口付けながらも、ザンザスの手はディーノの服を手際よく剥ぎ肌に触れてくる。躊躇のないその手つきは、早急にディーノの熱を煽っていった。
 いつものように簡単に翻弄されてしまうディーノは、それでもなんとかザンザスに呼び掛ける。
「っん、ザンザス」
 せっかく誕生日なのだから、ディーノだって尽くすセックスをしてもいいかなぁと思っていた。そのほうが、理性が残っている期間が長びく気がする、というのもある。
 なのにザンザスは、こんなときでもいつも通りのやり方を変えようとしなかった。
 つまり、攻めて攻めて、とにかく攻めるのだ。
「なあ、ザンザス・・・っ!」
 もう一度名を呼んでも、ザンザスはちっとも聞く耳を持ってくれなかった。ニヤリと笑う、まるで獣のように獰猛なその表情に、ディーノはゾクリと背筋が震えるのを感じる。
「うるせえ、てめーはおとなしく鳴いてりゃいい」
「あっ! んっ・・・」
 ディーノの抗議は、ザンザスの言葉通り、続かなかった。ズボンと下着もいつのまにかさっさと抜き取られ、中心をギュッと握りこまれれば、ディーノにもうなす術はない。ザンザスに与えられるまま、その感覚を享受するしかなくなった。
「は、あ、あぁ・・・」
 触れられたところも、そうでないところも、熱くて堪らない。そしてディーノは、気持ちいいしザンザスが楽しそうだからいいかと、すぐに思い直してしまった。
「・・・それでいい」
 満足そうに唇を歪めたザンザスは、益々遠慮なくその手をディーノに伸ばしていく。そんなザンザスに慣れたディーノの体は、多少の乱暴さも、心地よい刺激へと変換していった。
「っは、く・・・っ」
 さすがに、指に続きザンザス自身を受け入れるときは、苦しさについ顔をしかめてしまう。だが、そういうときザンザスはいつも、粗野な性格に似合わない優しい手つきであやしてくれるから、ディーノはこの瞬間が好きだった。
「ザンザス・・・っん」
 伸ばした腕でザンザスの背に縋り付けば、口付けがおりてくる。夢中で唇を合わせ舌を絡ませ合っていけば、やがてディーノを内側からの熱が溶かし始めた。
「・・・ふ、・・・あ、ぁ・・・っ!」
「・・・おい、ディーノ」
 とめどない快楽に溺れていくディーノへ、腰の動きはゆるめないまま、ザンザスが問い掛けてくる。
「なんか俺に、言うことあるんじゃねーのか?」
「あ・・・ん、ぇ・・・?」
 せっかくザンザスが聞いてくれたのに、このときのディーノはすでに、完全に忘れてしまっていた。もうすっかり、時計の針は0時を通り過ぎてしまっているのに。
 なんのことか、考えるのも覚束ないディーノは、ただ素直に今の自分の思いを口にした。
「ザンザス・・・っ、ん・・・愛してる」
「・・・くくっ」
 その結果がわかっていたのだろう、愉快そうに喉を鳴らしたザンザスは、そのままディーノの口を塞いでくる。ディーノは何も考えず、その背へとさらにしっかり腕を絡ませていった。


「・・・・・・ん」
 ゆっくりと意識が浮上してきたディーノは、そのまましばらくはまどろんでいようと思った。すぐ隣の体温に無意識に擦り寄っていこうとして、しかしディーノはハッと気付く。
 確かめるまでもなく、もうすっかり朝、もうすっかり10日。
 結局今年も、日付けが変わると同時におめでとうと、言えなかった。ディーノがガックリとしてハァと溜め息をつくと、目の前の口がニヤリと笑う。
「そんな余裕なくしちまって、悪いな」
「・・・・・・・・・」
 ちっとも悪びれない口調で言われて、ディーノはついちょっと眉をしかめた。おめでとう、と言い出す余裕を奪っているのは、もしかしてわざとなのだろうかと思えてくる。ディーノの表情を見ただけで、その原因までわかってしまったのだから。
 もしそうなのだとしたら、随分と意地の悪いことだ。とはいえ、別に昨夜のセックスがいつものセックスと違った、というわけでもない。いつも大体、あんなかんじだった。
 それでもちょっと文句を言いたい気もするが、しかし今日はザンザスの誕生日。こんな日に、とディーノはその文句を飲み込んだ。
「なんだ、そのシケた面は」
「・・・別に」
 どうやら、我慢したつもりでも結構顔に出ていたらしい。ディーノは改めて、ハァと息を吐いてから、笑顔を作った。
「なんでもない。それより、誕生日おめでとう、ザンザス」
「・・・・・・ふん、言葉だけか?」
 そんなんじゃ足りない、と言いたげなザンザスに、ディーノは体を少し起こして、キスを贈る。頬に目元に鼻に、唇に。チュッチュと口付けていけば、ザンザスの腕がにゅっと伸びてくるから、捕らわれる前にディーノはスッと離れた。
「散々やったろ。もー、ダメ」
 隙あらば行為に持ち込もうとする男に、先手を取って釘を刺せば、ザンザスは口を少し曲げる。そのちょっと拗ねたような表情が可愛くて、もう一度キスしたくなったディーノだが、その先の展開が読めるのでやめておいた。
「でもさ、そもそも誕生日になった瞬間に、言いたかったのにな」
 また横になりながら、ディーノはついしつこくボヤいてしまう。
「こだわるな」
「だって・・・。おまえが、誕生日プレゼントなんてクソ寒いもんいらねー、なんて言うから。だから、せめて言葉できっちり祝ってやろう、とか思ってんじゃねーか」
 ディーノは、途中ザンザスの真似をしつつ、結局文句付けてるみたいになっていると思いながらも言った。
 物がいらないと言われたら、もう言葉くらいしか思い付かない。なのにそれを、わざとかわざとじゃないのかわからないが、毎年阻止されているのだから、ディーノも文句のひとつも言いたくなるというものだ。
 まあ勿論、ついつい夢中になっていろいろ忘れてしまう自分が一番悪いと、わかっているのだが。
「ふん、プレゼントね・・・」
 そんなディーノに、やっぱりプレゼントなんて下らない、なんて言うかと思えば。ザンザスは、ゆっくりと腕を伸ばしてきて、ディーノの髪ひと撫でする。
「それなら、貰ったようなもんだしな」
「・・・・・・オレの体、とか? ザンザス、親父くせーぞ」
「それもあるがな」
 ちょっと呆れるディーノに、ザンザスはニヤリと笑って返した。それから、もう一度ディーノの髪を、くしゃりと撫でてくる。
「俺と過ごす、お前の時間、だ」
「・・・・・・・・・」
 サラリと言われて、ディーノはつい言葉を詰まらせてしまった。誕生日に共に過ごす、そのことがプレゼントのようなものだ、なんて。
 そんなふうに言ってくれるのはとても嬉しいし、それに。ボスを張っているディーノもだが、ザンザスだって充分忙しい身だ。それなのに、しかも誕生日という特別な日に、こうして会って一緒にいさせてくれる。
 それを嬉しく思う気持ちが大きいのは、むしろ自分のほうだとディーノは思った。
「・・・なあ、ザンザス」
 ディーノは未だ髪に触れているザンザスの手を取り、その甲へとキスをする。そして笑い掛ければ、ザンザスも笑い返してきた。
「次こそはちゃんと、日付けが変わった瞬間に祝ってやるからな」
「どうだか」
 期待していないと言いたげな口調で、ザンザスは次の誕生日もこんなふうに共に過ごしてくれると、約束してくれる。
 ディーノはもう一度、体を起こした。この先の展開が読めるが、かといって我慢も出来るものでもない。
 感謝と愛情を込めて、ディーノは最愛の恋人へとキスをした。




 END
数年後設定なので、二人の外見は三十路との中間辺りを適当に想像して下さい。(と、あとがきで書いても…)
エロも脳内補完お願いします…半端ですみません(笑)

「compiacimento」は「喜び、感激、満足、祝辞、祝福」て意味です。