congratularsi !



 明日は、ベルの誕生日。
 スクアーロは、やっぱり一応付き合っている恋人同士だし、ちゃんと祝ってやらなくてはと思っていた。苦手だがプレゼントも考えに考えて、入りにくい店にも入って似合いそうな王冠を買ってきている。なんとか休みも確保した。
 当然ベルも自分と過ごしてくれるのだろうが、一応確認しようと思う。ベルの部屋に行けば、ベルはベッドに寝そべって雑誌をめくっていた。
「う゛お゛ぉい、ベル、明日の予定は空いてんだろうなぁ?」
「・・・・・・なんで?」
 スクアーロが率直に問い掛ければ、ベルは見上げてきて。頬杖ついたまま、コクリと首を傾げて答えるから、スクアーロは内心ちょっと焦った。
「な、なんでって・・・」
「確かに、任務は入ってねーけど」
 そしてその言葉にホッとしかけたスクアーロに、ベルは雑誌に視線を戻しながらアッサリと言い放つ。
「だから、明日はマーモンと出掛けるんだよね」
「・・・マーモンと・・・だとぉ?」
 スクアーロは顔が引き攣りそうになった。誕生日という恋人同士にとっては結構重要なはずの日に、何故自分ではなくマーモンと過ごすのか。
「な、なんでだぁ・・・?」
「なんでって・・・前から約束してたし」
「・・・・・・・・・」
 確かにスクアーロは約束を取り付けていなかったが、だからといって普通他の奴との予定を入れるだろうか。信じられない思いで見つめるスクアーロの視線にも気付かず、ベルは雑誌をパラリパラリとめくり続けていく。
「・・・・・・・・・か、勝手にしろぉ!!!」
 我慢出来ず、怒鳴りつけるように言って、スクアーロは部屋を出た。


 ベルとマーモンが仲良しなのは知っていた。だが、ベルが誕生日に一緒に過ごす相手に、マーモンを選んだことは面白くない。何度思い出しても、不愉快だ。
 スクアーロの怒りはおさまらず、それから数日、任務のせいもあってベルとはすれ違いの日が続いた。
 そしてある日、スクアーロが任務から帰ってくると、ベルが部屋に勝手に入り込んでいた。ベルがこんなふうに我が物顔でベッドにゴロリと横たわっているのはよくあることだが、こっちの怒りを全くわかっていないような態度にスクアーロは少し苛立つ。
「・・・何しに来たぁ?」
 問い掛ければ、ようやくベルがスクアーロを見上げてきた。そして、この前のことを申し訳ないと謝る素振りもなく、口を開く。
「なあ、明日・・・」
「任務だぁ」
 だからさっさと帰れ、という意味を込めて言うと、ベルが顔をしかめた。
「何それ、信じらんねー」
「・・・・・・・・・」
 ムッとしたようなベルに、スクアーロの神経も荒立つ。
「ふん、テメェに言われたくねぇぜ」
「・・・何、やんの?」
 上半身を起こしてベルが、途端に物騒な気配を纏った。口元は笑っているが、次の瞬間にもナイフが飛んできそうな緊張感がある。
「・・・・・・・・・」
 だが、ここでベルとやり合っても虚しいだけのような気がして、スクアーロは背を向けた。このままベルがこの部屋に居座るつもりなら、自分が出ていこうと思う。
 ドアノブに掛けようとした手を、しかしスクアーロはピタリととめた。
「なんだよ・・・せっかく王子の誕生日、祝わせてやろうと思ったのに」
「・・・・・・・・・あ゛ぁ!?」
 なんだか信じられない言葉が届いたような気がして、スクアーロは思わず目を見開いて振り返る。
「な、なんだよ・・・?」
 その勢いにベルはちょっとビックリしたようだが、スクアーロは構わず詰め寄った。ベルの誕生日は、もうとっくに通り過ぎたはずではないのか。
「う゛お゛ぉい、どういうことだぁ!?」
「はあ? 何が?」
 全く何を言っているかわからない、と言いたげなベルの様子こそ、スクアーロには全くどういうことかわからなかった。首を傾げるベルの肩を掴んで、つい揺すりながら確認する。
「テメェの誕生日は、14日にすんだんじゃねぇのかぁ!?」
「・・・・・・なんで?」
 ベルはまた首をコトリと傾げながら、スクアーロにとっては衝撃の事実を、軽い口調で教えてきた。
「オレの誕生日、明日だし」
「・・・・・・・・・・・・はぁ!?」
 またつい目を見開くスクアーロから、声でかいうるさい、と手を振り解いてベルはベッドの端まで移動していく。そして、口を尖らせて不機嫌面になった。
「ていうか、王子の誕生日知らなかったわけ? それこそサイテー」
「なぁ!?」
 咎めるような視線を向けられて、つい言い返しそうになったスクアーロは、しかし、いやちょっと落ち着いて考えてみようと思い直す。半端に乗り上げていたベッドに改めて腰を下ろし、それから出来るだけ冷静にベルに問い掛けた。
「・・・14日が誕生日だと・・・言ってなかったかぁ?」
「そんなん、言ってねーし。脳みそ腐ってんじゃね?」
「・・・・・・・・・・・・」
 この際ベルの暴言は聞き流すにして。確かに、本人が自分の誕生日を間違えるなんて考えにくい。
 だが、スクアーロは確かにベルの誕生日が14日だと聞いたのだ。いや、正確には、そうベルが言っていたわけではなかったような。スクアーロはおよそ一ヶ月の前の記憶を掘り起こした。
 あれは、11月の半ばを過ぎた頃。ベルとマーモンとルッスーリアが談話室でしていた会話を、スクアーロは通りがかりに聞いたのだ。
「そういえばあなたたち、レヴィの誕生日、誰も祝ってあげなかったらしいわね」
「ムッツリの誕生日なんて、知らねーし興味ねーし」
「同感だね。そんな、一文の得にもならないこと」
「もう、仲間でしょ。この前の14日がそうだったのよ。おめでとう、くらい言ってあげなさい」
「14日・・・ふーん、同じなんだ」
「あいつ、僕の誕生日にだって一銭もくれなかったじゃないか。言葉を掛ける義理もないよ」
「そういえば、ベルちゃんの誕生日は来月だったわよね」
「そーだよ。マーモン、なんかくれる?」
「・・・次の僕の誕生日、倍返ししてくれるなら、あげてもいいよ」
 その辺りで、任務の時間が迫っていたスクアーロは立ち去った。だが、相変わらず強欲なマーモンは置いておくにして、ベルとルッスーリアの会話からスクアーロは単純にそうだと思い込んだのだ。つまり、ベルの誕生日は来月・・・12月の14日だ、と。
 スクアーロがその話をすれば、ベルはそのときの会話を思い出したようで、頷いて返した。
「あ、言った言った。14日って、スクアーロの誕生日と同じだな、って思ったわけ」
「・・・・・・・・・」
 確かにベルはあのとき、14日が何と一緒なのかは言っていない。なるほど、オレの誕生日のことだったのか・・・と、スクアーロが納得出来るはずなかった。
「・・・オレの誕生日は・・・13日だぁ!!!」
「・・・・・・・・・あれ?」
 キョトンとした表情をしたベルは、本当にそう思い込んでいたらしい。誕生日を知らないなんて最低、などと言った本人が正しく覚えていなかったのだ。しかし、スクアーロだってベルの誕生日をこうして間違えていたわけだから、そこについては触れないことにした。
「・・・とにかく」
 スクアーロはハァと溜め息をつく。
「テメェの誕生日は、明日、12月22日なんだな?」
「うん」
 コクリと頷いて肯定され、スクアーロはもう一度溜め息をついた。するとベルが、ベッドの上を這うようにして、スクアーロに近付いてくる。
 そして、ベルにしては殊勝な口調で言った。
「・・・王子も、半分悪かったのは、認める」
「ベル・・・」
 半分とはいえ、ベルが自分の非を認めるなど、今までになかったことでスクアーロは驚いてしまう。ベルはさらに、スクアーロを見上げてきて、なんだか元気がない気がする声で確認してきた。
「明日、任務って言ったっけ」
「・・・あぁ」
 14日に休みを取る為に、今月はみっちりと他の日に任務が入っているのだ。14日に休みを取りづらかったのは、ベルとマーモンがすでに揃って休みだったからだろうが、今さらそれを言う気にはならなかった。
「そっか・・・」
 呟いて膝を抱えていくベルが、寂しそうに見えるのは、おそらくスクアーロの気のせいではないだろう。誕生日を一緒に過ごせないと、知ったときどんな気持ちになるか、スクアーロ数日前にすでに味わった。苛立ったのは、落胆の裏返しだ。
 ベルも誕生日をスクアーロと過ごしたくて、この部屋で待っていたのだろう。
「・・・1日、早ぇけどなぁ」
「・・・・・・ん?」
 スクアーロは一旦立ち上がると、また戻ってきてベルの向かいに腰を下ろした。そして、それを、突きつけるように差し出す。
「・・・要は、こういうのは、気の持ちようだろうがぁ」
「・・・・・・・・・」
 スクアーロの手から、苦心の末手に入れた誕生日プレゼントが、ベルへと移動した。ベルは包みを開けて、取り出した王冠を見て笑う。
「相変わらず、センス微妙」
「悪かったなぁ・・・」
 馬鹿にするように言ったベルは、しかし頭を飾っている王冠をアッサリ落とすと、代わりにスクアーロがプレゼントした王冠をちょこんと乗せた。
「似合う?」
「・・・あぁ」
 スクアーロが悩みに悩んで選び出した一品なのだ、似合わなければ困る。肯定すれば、ベルはしししと笑って、勢いをつけてスクアーロに抱き付いてきた。
 飛び掛かると言ったほうが適切かもしれず、受け止めきれなかったスクアーロはベルごと背後へ倒れ込んだ。それを気にした様子もなくギュッと抱き付いてくるのが、喜び任せなのなら、悪い気がするわけもない。スクアーロもベルの背に腕をまわし、細い体を抱きしめた。
「スクアーロの誕生日はさ、3月13日ってことだよな?」
「そうだぁ」
 顔を上げて覗き込むようにして確認してきたベルは、ニッと笑って言う。
「覚えてたら、祝ってやんよ、ちゃんとな」
「・・・二言余計だぁ」
 今回ちゃんと祝ってやれなかったのは自分のせいだけではないし、3月までしっかり忘れず覚えておけ、と。言いたいところだが、そろそろせっかくのベルの誕生日だから、我慢して。
 スクアーロはまず自分がちゃんと祝ってやろうと、よく見ればいつもよりも数割増し嬉しそうに笑っているベルへと、誕生日おめでとうの言葉とキスを贈った。




 END
互いの誕生日いつまで知らなかったの?とか揺りかご後謹慎中は任務なかったよね?とか、いろいろ不都合があるのでいつ頃の話かは考えない方向で。
「congratularsi」=「祝う、祝意を述べる、おめでとうと言う」