テーマ「10年バズーカ」 ツナ京/
ヒバディノロマディノ





ツナ京


 京子が家に来た。といっても、ツナが呼んだわけではなく、いつかのようにリボーンが連れてきたのだ。
 だがそこはツナにとって問題ではない。リボーンに感謝しながら、ツナは母に淹れてもらった紅茶を自分の部屋まで運んでいた。
 そのとき、部屋からドカーン!と聞き慣れた音が聞こえてくる。あれは、ランボの10年バズーカが発射された音だろう。
 京子ちゃんが来てるときに勘弁してくれよ、そう思いながらツナはドアを開けた。
 するとそこにいるのは、リボーンとランボと、バズーカの煙に包まれた人物。10年バズーカにあたってしまったのは、つまり・・・。
「京子ちゃん・・・!?」
 そういうことになるだろう。ランボが怒られるのを察知してか部屋から逃げて行ったが、ツナはそれを追いかけなかった。あとでしっかり叱らなければならないが、今はそれどころではない。
 京子にもしものことがあったら、と思うとこの場を離れられないし、何より。10年後の京子が、ここに現れるのだ。ランボなんて相手してる場合ではない。
「・・・・・・・・・」
 ツナがごくりと唾を飲み込んで待っていると、目の前の煙幕が晴れていき。
「・・・・・・・・・き、京子・・・ちゃん・・・?」
 現れた人物を、ツナは目を丸くして見つめた。そこにいるのは、面影があるから間違いなく、10年後の京子だ。
 背が伸びてちょっとツナより高くなっている。髪も伸びて、でもそのせいだけではなく、とても女らしくなっていた。
 今の京子もツナにとってはこれ以上なく可愛いのだが。この目の前の京子は、迂闊に目を向けられないくらい、ツナにとっては眩し過ぎた。
 京子は部屋を見回して、それから今度はツナに視線を向けてくる。じっと見つめられて、ツナは心臓が沸騰するほどの動悸に襲われた。
 恥ずかしながら顔が真っ赤になっているだろうと思いながらも、京子の大きな澄んだ瞳から、ツナは視線を外せなかった。
 ツナをしげしげ観察するように見ていた京子は、ふっと気をゆるめて、ふわりと笑う。
「ツっく・・・ツナ君、だね」
「・・・・・・う、うん・・・」
 なんだか、ツっ君と京子が言いかけたような気がしたが、それを確かめる余裕もツナにはなかった。相変わらず動悸はとまらず、京子に返事するだけで精一杯なのだ。
「10年バズーカ・・・だっけ、そういえば」
 京子は顎に手を当てて首を傾げ、確認している。この京子にとっては、10年前も体験したことだから、順応し易いのだろう。
 一方ツナは、そんな京子の仕草が、可愛いだけでなく色っぽくも見えて、益々ドキドキしていた。
「じゃあ、10年前のツナ君だね」
 そんなツナに、京子は近寄ってきて、ツナの頭のてっぺんの位置に手をかざす。
「こうやって見ると、ツナ君、大きくなったね」
「・・・・・・・・・そ、そう・・・なの・・・?」
 近くなった距離に心臓をバクバク言わせつつ、ツナはなんとか答えた。それから、せっかくの機会なのだからと、言葉を絞り出す。
「・・・き、京子ちゃんよりも・・・?」
「うん、そうだよ」
 京子は頷いてから、ツナに笑い掛けた。
「ツナ君、とっても頼もしいんだよ!」
 ツナが好きな、ぱっと花が咲いたような京子の笑顔。10年後も変わっていない。こんな京子の、取り敢えず近くにはいられているようで、ツナは感謝した。
「そ、そうなんだ、よかった・・・」
 とはいえ、やはり具体的な自分と京子の関係も気になる。聞きたいような、でも知るのが怖いような、ツナは葛藤した。
 そんなツナを、京子は腰をかがめてひょいっと覗き込んでくる。
「ツナ君、さっきからずっと、真っ赤だね」
「え、あ、あの・・・っ!」
 京子の上目遣いとセリフに、ツナは今まで以上に真っ赤になってしまった。
 10年後の自分がまだ告白もしていないのなら、こんな態度をとっていてはまずい。そう思っても、なんとかしようと思ってもなんとかなるものでもなく。
 せめて京子が離れてくれたら少しはマシになるのに、京子はツナの顔を覗き込んだままで。その上、にこりと笑って、一言。
「ツナ君、可愛い!」
「・・・・・・・・・・・・!!」
 ツナは遂に耐えきれず、ズサササッと後退って京子と距離をとった。もうツナの頭も心臓も、爆発寸前だ。
 そんなツナの反応に気を悪くした様子もなく、京子はむしろ楽しそうに笑っている。
 やっぱり京子の笑顔は可愛いなぁと、懲りずに思いながら、ツナはどうにか動悸を抑えようとした。
 さっきからドキドキされっぱなしで、こんな京子の側にいて平気な10年後の自分はすごいなぁと思う。それとも、10年後も自分は京子にドキドキさせられ続けているのだろうか。
 少なくとも、今のツナではちっとも太刀打ちできないことは確かだった。こんな京子とずっと一緒にいたら、死んでしまう、そんなふうにすら思える。
「・・・あ、もう5分経っちゃうかな?」
 しかし、京子がそう言うと途端に、これでお別れなのが惜しくなった。
「もう、行っちゃうの!?」
 思わず口にしてから、ツナはハッと口を押さえる。行って欲しくない思いが露骨に現れた気がした。
「ごめんね、でも・・・」
 そんなツナに、京子は戸惑った様子もなく、ただ笑顔で応える。
「ツナ君が待ってるから、帰るね」
「・・・え・・・っ?」
 それはどういう意味なのか、しかし尋ねる暇はなく、京子が煙に包まれた。
「京子ちゃん!」
 ツナが心配そうに見守る中、薄れていく煙の中から、ツナのよく知る京子が現れる。
「・・・・・・あ、あれ・・・?」
 京子は目を丸くして、目の前のツナを見つめた。
「ツナ君・・・ち、小さくなった・・・?」
 呆然としたように京子は呟く。どうやら、10年後に行った京子は、10年後のツナに会ったようだ。10年後で一緒にいたから、京子はツナが待ってる、と言ったのだろうか。
「京子ちゃん、おかえり」
「あ、ただいま・・・。帰ってこれたんだね」
 京子はホッとしたように笑う。10年後も今も、やっぱり京子の笑顔は可愛い。ツナはこんなときだが改めてそう思った。
「ごめんね、巻き込んじゃって。ランボの10年バズーカっていうのが原因なんだ」
「ランボ君の・・・そういえば、そんなこと言ってたような。へえ、不思議だね」
 目をパチパチさせる京子に、ちょっと気になるツナは聞いてみた。
「あの、10年後のオレに会ったの・・・?」
「えっ! あ、あの・・・」
 すると何故か、京子は動揺し、その顔が途端に真っ赤になった。
「う、うん、10年後のツナ君に・・・」
 語尾に向かうにつれ小声になりながら、京子は視線をツナから背けてしまう。
 まるで10年後の京子を目にしたときの自分の反応のようで、ツナはどうしてなんだろうと思いつつドキドキする。
 何故真っ赤になっているのか、10年後の自分のせいなのか、10年後の自分が京子に何かしたのか。ツナは気になって堪らない。
「京子ちゃん、どうしたの? 何か、あったの・・・?」
「・・・・・・・・・べ、別に何も!」
 しかし京子は、なんでもないというふうに頭をプルプル振った。
「あ、そうだケーキ! 早くケーキ食べよ?」
「え、あ・・・う、うん・・・」
 そう言われてしまうと、ツナはさらに追及することが出来なくなってしまう。
 だが、さっきまでの出来事を忘れたように、ケーキの箱を開けて瞳を輝かせている京子を見ると、まぁいっかという気分になってしまうツナだ。
 どうせ、答えは10年後にわかるのだし。
「じゃあ、紅茶淹れ直してもらってくるね」
 ツナはそう言って部屋を出ながら、今回ばかりはランボを叱るのはやめておこうかと思った。



何気にずっといて全てを見ていたリボーンは、「青春だな・・・」と呟いた。
とかそんなかんじで。













ヒバディノ 
(雲雀不在の上ツナ視点でリボ→ディノぽいです)


 かわいい弟分の顔でも見ようと思ってな!といつものように現れたディーノさんは、来て早々に哀れランボの10年バズーカの餌食になってしまった。
「ディーノさん、大丈夫ですか!?」
 と言いつつも、オレは10年後のディーノさんを見れると思うとちょっとワクワクしてしまう。モクモク煙の向こう側に、次第に人の姿が見え始めた。
「・・・これはもしかして、ボヴィーノの・・・」
「・・・・・ディーノ・・・さん?」
 ディーノさんはすぐに自分の身に何が起こったか把握したらしく、ゆったりと辺りを見回している。そんなディーノさんを、オレはついじっと見つめてしまった。
 ディーノさんはオレから見たら、へなちょこなところもあるけど気にならないくらいカッコよくて、いつも笑顔でさっぱりしてて頼りがいあるお兄さんで。
 でも、今オレの目の前にいるディーノさんは、大人びて・・・いやそれは前からだけど、なんて言うか・・・
「色気ムンムンだな」
「うわ、リボーン!」
 何言ってんだよ!てつっこみそうになって、でも確かにその通りかもしれないと思った。男の人に使う言葉じゃないかもしれないけど、はらりと流れるような髪の毛のせいか伏せ気味の目つきのせいか漂う落ち着いた雰囲気のせいか、色っぽい・・・ような。
 そんなディーノさんが、オレに視線を向けてきたから、オレはついドキッとしてしまった。
「ツナにリボーン・・・そうか、10年前はこれくらいだったな」
 オレたちを見て、ディーノさんは懐かしそうに微笑んだ。オレの知ってる、ぱっと明るい笑顔とは違ってて、益々オレはドキドキしてしまった。
 そんなディーノさんに、特に動じたふうでもないリボーンは、よくやるようにその肩に飛び乗る。そして、ディーノさんの髪をかき上げて右のこめかみ辺りを触った。
「リ、リボーン!?」
 突然何やってんだよ! オレはちょっとギョッとしてしまったんだけど。
「相変わらず、へなちょこみてーだな」
「え?」
 リボーンが見てるところをオレも見てみると、確かにそこには綺麗な顔に似合わない新しい擦り傷があった。これってつまり、やっぱり10年後のディーノさんも、部下がいないと運動音痴っていう・・・。
「う、うるせーな」
 対するディーノさんは、多少気まり悪そうにそっぽを向いた。
 その仕草も表情も、オレがよく知ってるディーノさんのもので、オレはなんだかホッとした。やっと目の前にいるのがディーノさんなんだって、実感出来たかんじ。
 うん、こうやって見ると、やっぱり今のディーノさんの面影あるよなぁ・・・って当たり前だけど。
 そこでふと、オレはあるものに気付いた。ディーノさんは左手の薬指に、指輪を嵌めている。それっていわゆる・・・結婚指輪?
「ディーノさん、もしかして結婚してるんですか!?」
 さすが大人だー!なんて思いながら聞いたオレに、ディーノさんはその左手を掲げながら答える。
「あぁ、結婚はしてないけど、似たようなもんだな」
 そしてそっと指輪にキスするディーノさんの表情は、幸せそうでいて愛情にも満ちていて。あの恋愛っ気の全くなかったディーノさんが、とオレはちょっと驚くと同時になんとなく嬉しくなる。
 それにしても、こうなると気になるのは、一体誰がディーノさんの心を射止めたのかということ。
「相手は誰なんですか?」
 興味津々で聞いたオレに、ディーノさんは意味深な言い方をする。
「おまえたちもよく知ってるやつだ」
「えっ!?」
 オレもよく知ってる女の人・・・一番に思い浮かぶのは、やっぱり京子ちゃんで。まさか、そんなことはないと思うけど・・・。心配になるオレを、ディーノさんは笑って突いてきた。
「かわいい弟分の好きな子を、オレが取るわけないだろう?」
「あ、そ、そうですか・・・」
 オレはほっとした。ディーノさんの相手は、京子ちゃんじゃないならもう別にいいかなって気になってくる。ていうか、むしろ10年後オレと京子ちゃんがどうなってるのかが気になるというか・・・。
 でもなかなか聞く勇気が出ないオレより先に、リボーンがディーノさんに問う。
「それで相手は、ツナの守護者か? それともヴァリアーか?」
 なんでその2択なんだよ・・・ってオレは思ったんだけど、どうやらさすがリボーンは的を射ていたようだ。
「守護者のほうだな」
 ディーノさんはあっさり答えたけど、それってもう答えは出ちゃうような。だって、守護者に女は一人だし、そういえばそもそもヴァリアーは男ばっかりだよ!
「クロームかー。意外ですね」
 オレは当然のようにそう思ったんだけど。ディーノさんはまたあっさりと首を振った。
「さすがにオレも、六道骸のものに手を出す度胸はないな」
 あ、それもそっか。・・・・・・・・・って、いうことは・・・?
 残りの守護者は男ばっかり。結婚はしていないって言ったのは、つまりそういうことなのかな・・・。つい頭に浮かぶ顔ぶれを振り払いつつ、この話題にはあんまりつっこまないほうがいい気がしてきた。
 っていうのに、リボーンはそうは思わなかったみたいで。
「で、誰なんだ?」
 答えろと有無を言わせぬ視線をリボーンはディーノさんに向ける。リボーンはそういうことには興味なさそうなのに。
「リボーン、それ聞いてどうするんだ?」
「決まってるだろう」
 不思議に思って聞いたオレに、リボーンはきっぱりと答える。
「芽は小さなうちに摘んでおくのが定石だ。お前も覚えておけ」
「・・・・・・」
 んなこと、覚えとくわけないだろ! ていうか、芽、ってなんの・・・?
「おいおい、そんなことをしたらツナのファミリーが減るだろう?」
 いや、オレは別にマフィアのボスになんてならないから、その心配には及ばないけど。ていうか、もしかして10年後も守護者とか普通に存在してるわけ・・・? あぁぁ、嫌な予感。
 一方ディーノさんは、リボーンの問い詰めるような視線も軽く受け流した。
「10年前のオレの未来の為に、何も言わないでおくことにしよう。おまえたちも、戻ってきたオレに余計なこと言わないでくれよ?」
 立てた人差し指を唇にあてて微笑むディーノさんに、オレはまたなんとなくドキッとしてしまった。
 それと同時に、バフン!とディーノさんが煙みたいなのに包まれる。どうやら、10年バズーカの効果が切れたみたいだ。
「・・・・・・あ、あれ、も、戻ってこれたのか?」
 現れたオレの見慣れたディーノさんは、きょろきょろと周りを見回してから、ホッとしたように胸を撫で下ろす。ディーノさんらしい反応に、オレもなんだかホッとした。
「おかえりなさい、ディーノさん」
「お、ツナか! いやー、まいったな。噂に聞いてたが、あれがボヴィーノの10年バズーカってやつか・・・」
 ディーノさんはなんだか疲れ切った様子で、溜め息をついている。
「・・・ディーノさん、10年後で何かあったんですか?」
「・・・!!」
 オレはなんの気なしに聞いてみたんだけど。ディーノさんが、びくりと反応した。
「・・・それが、き、恭弥が・・・い、いや、なんでもない・・・」
 もごもご言って口を閉じてしまったディーノさんは、何故か顔を赤くしている。
 あ、なんか、ディーノさんの相手がわかっちゃったような・・・? いや、考えるのはよそう。
 プルプル首を振ったオレは、隣でリボーンが何やら物騒なオーラを出していることにも、気付かない振りをしておいた。












ロマディノ


 それは、ロマーリオがディーノと部屋で打ち合わせをしていたときだった。
 前触れなく、ボフン!とディーノが煙に包まれたのだ。
 ロマーリオはまさか敵襲かと、懐の銃に手を伸ばし掛けて、しかしふと思い当る。もしかしてこれは、ボヴィーノファミリーに伝わる10年バズーカではないだろうか。そういえばディーノに、10年後のおまえに会った、とか言われたのはちょうど10年前頃ではなかったか。
 なるほどそういうことか納得しているロマーリオの、正面のソファで、すっかり若くなったディーノが目を丸くしていた。
「・・・・・・あれ、なんで・・・?」
 10年前と明らかに状況が異なっているから、戸惑っているのだろう。きょろきょろと周りを見回してから、ロマーリオを困惑顔で見つめてきた。
 内心、10年前のボスは可愛かったなぁ今はどっちかいうと美人だし今にはない初々しさのようなものが・・・などと思いながらロマーリオは、ちょっと不安そうなディーノに教えてあげる。
「ボス、ボヴィーノの10年バズーカに当たったんだろう」
「あぁ、ボヴィーノの子供がいたな・・・。そういえばなんか、爆発に巻き込まれたような・・・」
 ディーノは思い出したらしく、頷きながら確認している。
 どうやら、そのときディーノの側にはロマーリオはいなかったのだろう。部下がいれば、ディーノがそんなことに巻き込まれるはずないし、巻き込ませない。それに、ロマーリオは当時、10年後のディーノの姿を見ていなかった。
「てことは、ここは10年後か・・・」
 そんなに変化のない屋敷の室内に、あまり実感がわかないのだろう。ディーノは違いを探すように、部屋の中を見回した。それから、ホッとしたように笑う。
「どうやら、ファミリーには変わりないようだな」
「・・・あぁ、何も変わっちゃいない。ボス、あんたのおかげでな」
 そう言いながら、ロマーリオの頭の中は違うことを考えていた。
 ロマーリオがディーノにとって単なる部下ではなく恋人へと変わったのは、10年ほど前。つまり、この目の前にいるディーノにとって、果たして自分がどんな存在なのか、微妙なのだ。
 もしもう恋人同士になっているのなら、遠慮せずに10年前のディーノを可愛がれる。こんなチャンス、めったに・・・というか普通は絶対にない。だが、まだボスと部下という関係でしかないのなら、手を出すことは出来ないから眺めているしかない。
 部屋にある当時のスケジュール帳兼日記を見れば、どちらかはハッキリするのだが。確かタイムリミットは5分だったから、部屋に戻る時間が勿体ない。
 ロマーリオが悶々とそんなことを考えてるとは知らず、ディーノはふと思い立ったように立ち上がった。
「てことは、ロマーリオはもう50近いんだよな?」
 ディーノはロマーリオの前に立ち、顔を覗き込んでくる。しげしげ見てくる無邪気なディーノに対し、ロマーリオは間近のディーノにいろいろしたいという欲求をどうにか抑えていた。
 そんなロマーリオの気も知らず、ディーノはさらに、ロマーリオの顔に手を添えてくる。
「あんまり変わんない気がするな。さすがに老けてっけど」
 興味深そうにロマーリオの顔を撫で回したディーノは、不意に少し表情を改めた。
「・・・なあ、ロマーリオ」
「・・・・・・なんだ、ボス」
 そろそろ我慢も限界のロマーリオは、しかしもう二度とお目にかかれないだろう10年前のディーノを引き剥がすのもそれはそれで勿体ないし、と葛藤しつつもどうにか視線を合わせる。
 ディーノも真っ直ぐロマーリオを見つめて、問い掛けてきた。
「今でも・・・オレのこと、好きか?」
「・・・・・・」
 部下として恋人として、ディーノが一体どっちの意味で聞いているのかはわからないが。どちらにしても、ロマーリオの返事は決まっている。
「ボス、当たり前のことを聞くんじゃねえ。10年前も今も、10年後も、オレはあんたが好きだ」
「・・・そうか、よかった」
 ロマーリオのハッキリした返事に、ディーノはホッとしたように笑った。
 そんなディーノを思いっ切り抱きしめてキスしたくなったロマーリオは、この場で抱擁するくらいは自然じゃないかと自分を唆す。
 そして遂にロマーリオは腕を上げようとしたが、それより早くディーノが体を少し起こして、距離がちょっと開いてしまった。
「そういえば、5分で元に戻るんだっけ。そろそろだよな」
「・・・・・・・・・」
 わざとなのかボス、と上手く逃げられた気分になるロマーリオだが、ディーノはもう一度腰をかがめた。今度はロマーリオの肩に手を掛け、顔を覗き込む。
「じゃあロマーリオ、また10年後、ってとこだな」
 微笑んだディーノは、ゆっくりとロマーリオに口付けてきた。
「オレも、今もそれから10年後もきっと、愛してるぜ、ロマーリオ」
 唇が触れ合う距離で言って、もう一度キス。
 ロマーリオがやっと躊躇わず腕を伸ばすのを、しかし10年前のディーノは待ってくれなかった。
 ボフン!と5分前と同じ煙のようなものに包まれたディーノは、すぐに今のロマーリオにとって見慣れた姿に戻る。
 自分に伸ばされかけたロマーリオの腕を見て、ディーノは笑った。さっきまでの素直で無邪気な笑顔ではなく、どことなく意地の悪い笑顔。
「ロマーリオ、どうやらお楽しみの途中だったみたいだな」
「・・・・・・ボス」
 ロマーリオはつい、溜め息をついてしまった。
「これから、いいところだったんだ」
 どうやら、10年前の時点でもう恋人同士だったようで。こんなことならさっさと手を出していればよかった、ロマーリオは激しく後悔する。
「ふぅん、昔のオレのほうがよかったって?」
 何やら悲壮な顔をするロマーリオを、ディーノは見下ろして問い掛けてきた。
「いや・・・そういうわけじゃねーが・・・」
 聞いてくるわりに、余裕の笑みを浮かべているディーノを、ロマーリオはつい溜め息つきながら見返す。
「ただ、10年前のあんたには、可愛げがあったなと思ってな・・・」
 自分のことをまだ好きかと確認して、安堵して笑ったディーノの、なんと愛らしかったことか。今のディーノにはもう出来ない表情だろう。
 なかなか溜め息がとまらないロマーリオに、ディーノはやはり嫣然と微笑み掛ける。
「でも、10年前より今のほうが、オレのこと好きだろう?」
「・・・・・・・・・」
 問い掛けているようでいて答えなど待っていないディーノに、ロマーリオは最後の溜め息をついた。どうしてそんなに自信たっぷりのなのか、しかしその通りなのだから仕方ない。
 ロマーリオは諦めて、さっき途中でとまってしまった腕を、今度こそディーノに回した。
「それはボスも同じだと思うが?」
 ロマーリオが問えば、ディーノは微笑む。その笑い方は昔とは違えど、そこにあるロマーリオへの愛情は変わっていない。
 ディーノは10年前と同じ仕草で、ロマーリオに口付けてきた。