ツナ×京



 その日は一気に冬が来たような、寒い日だった。
 帰り道、京子と並んで帰りながら、ツナはこの寒さを口実に手を繋げないだろうかと考える。付き合い始めてまだ日が短く、こうして一緒に帰るのが関の山、手を繋いだことなんてなかった。
 そろそろ、手くらい繋いでみたい。でもなかなかきっかけを見付けられなかったツナは、これならいけるかもしれないと思いながら京子を窺った。
「・・・今日、寒いね」
「うん」
 京子が手を擦り合わせたから、ちょうどいいとツナは話題を振っていく。
「手、冷たくない?」
「うん、ツナ君は?」
「うん、オレも・・・」
 ここだ、今だ、と思いながらもツナはなかなか切り出せなかった。
 だったら、手、繋がない?
 たったそれだけのセリフが、出てこない。
「あ、でもツナ君、手袋持ってるんだよね?」
「えっ?」
 頭の中でどうしようかとめまぐるしく考えながらも、ツナは京子に応えた。いくら悩んでいようと、上の空なんてそんな失礼で勿体ないことは出来ない。
 しかし、京子の問いはちょっとまずい流れになりそうな気がした。そしてやっぱり京子の口から、今は思い出して欲しくなかったことが出てくる。
「ほら、グローブになる毛糸の手袋。リボーン君にいつも持ってるように言われてるんだったよね?」
「あっ、うん、そうなんだ・・・」
 嘘はつけないし、ツナは仕方なくカバンから手袋を取り出した。そんなものを持っていて、寒いから手を繋ごう、なんて意味がわからない。
「こういうとき便利だよね」
「うん・・・夏は困るんだけど」
「そうだね」
 楽しそうに笑いながらも、まだ手をさすっている京子へ、ツナは手袋を差し出した。
「これ、よかったら使ってよ」
「・・・えっ、でも、ツナ君は?」
「オレは、そんなに寒くないから」
「・・・・・・・・・」
 京子は手を伸ばしてくると、手袋ではなく、ツナの手を触ってくる。何事かとツナはドキッとしたが、京子は眉を下げた。
「やっぱり、ツナ君も手、冷たいよ?」
「あ、そ、それは・・・」
 こんなときでもやっぱりスムーズに持っていけない自分にガッカリしながら、ツナはまた頭を悩ませる。
「そうだ!」
 しかしツナが答えを搾り出す前に、京子が弾んだ声を上げた。そして手袋の左手のほうだけを取る。
「ツナ君は、右手につけてね」
「えっ?」
 京子は自分は左手に手袋をはめながら、ツナを促してきた。
「ほら、ツナ君も!」
「うっ、うん」
 よくわからないが言われた通りにすれば、京子は笑顔で何もつけていない右手をツナに差し出してくる。
「それで、手袋してないほうを繋げば、両方寒くないよ」
「・・・・・・!」
 つまり手を繋げる、ツナはドキドキしながら京子の右手に自分の左手を近付けていった。触れると、京子がギュッと握ってきて、ツナも反射的に握り返す。
 京子の手は冷たくて、やわらかくて、ドキドキがとまらないツナは確かに一気に寒くなくなってしまった。
 でも結果的に願いが叶ったとはいえ、自分から言い出せないなんて情けないなとちょっと思う。しかも緊張してどうしても言い出せなかった、手を繋ごうという言葉を、京子は全然意識せずに口にしたように見えた。
 今だって、ドキドキしているのは自分だけなのかもしれない、ツナはそう思ってしまう。
「ふふっ」
 そのとき、隣で京子が笑った。弾かれたように視線を向ければ、京子もツナを見つめている。その頬が赤いのは、もしかして寒さのせいだけではなくて。
「こういうのって、すごく恋人同士ってかんじ・・・なんだか、嬉しい」
「・・・うん、オレも嬉しい!」
 ツナが答えながらついまたギュッと力を込めれば、京子も応えるようにギュッギュと握り返してきた。
 繋いだ京子の手は、いつのまにか熱を持っている。その自分と同じ温度に背を押されるように、ツナは口を開いた。
「手袋は・・・夏は困るんだけど・・・京子ちゃんとは、夏になってもこうやって繋いでたい、な」
「ツナ君・・・」
 京子の返事は、言葉ではなく微笑み。
 そしてまたギュッギュッと、手を握り合えば冬の寒さも、きっと夏の暑さも気にならないだろうとツナは思った。