ヒバ×ディノ 
5年後くらい。



 ディーノは先に寝入ったようだ。布団を肩まで掛けてやろうとして、雲雀はふと思い付いた。
 シーツの上に投げ出されているディーノの手、その甲にそっと自分の手を重ねてみる。サイズを比べると、どうもディーノのほうが大きいようだ。
 身長も依然ディーノのほうが高いし、そろそろ雲雀も成長がとまる頃だし、思わず溜め息がもれた。
 すると触れている手越しに、ディーノがプルプル震えるのが伝わってくる。視線を向ければ、笑いを噛み殺しながらディーノが雲雀を見上げていた。
「・・・寝たふりなんて、趣味が悪いね」
 パッと手を離しながら、雲雀は見られていたばつの悪さを、文句を付けることでごまかす。
「ふりじゃなくて、目が覚めただけだって」
 ディーノはまだ笑いながら、上体を起こした。そして雲雀の手をとり、自らの手と合わせてくる。
 何度比べようが、ディーノのほうが大きいのに。
「なかなか抜いてくれねーな」
「・・・嫌味だね」
「本心だぜ?」
 雲雀が少なからずコンプレックスを持っていることを知っているくせに、ディーノはわざとらしく笑顔で言ってくる。
「背も、早くオレより大きく育って欲しいのになあ」
「・・・・・・・・・」
 ムッとした雲雀は、手を外そうとして、しかしふと気付いた。ディーノの手の平に、指で触れていく。
「めずらしく、戦ったんだ」
「ん、ああ・・・なんでわかるんだ?」
 肯定してから不思議そうに首を傾げるディーノに、雲雀はそのまま指の腹で撫でながら答えた。
「触り心地でわかるよ」
 ディーノの得物、鞭を握る部分の皮膚は、元々長年の積み重ねで厚く硬い。それでも僅かな変化を、雲雀は見逃さなかった。
「よくわかるな・・・」
 ディーノは自分の手の平をジッと見つめてから、苦笑する。
「最近はそう鞭を使う機会もないからな・・・なまっちまって困るぜ」
「・・・いいじゃない、なまらせれば」
 雲雀は思わず正直な思いを口にした。昔は顔を合わせるたびに相手しろと言っていた自分が、そんなこと言うのもおかしな話かもしれないが。それでも今の雲雀には、出来るならディーノに武器を手に戦って欲しくないという思いもあった。
 自分の知らないところでディーノの命が危険に晒されるのが、怖い。雲雀はそんな自分の感情を認めつつあった。
「血気盛んな頃ならともかく、いつまでもボスが前線に出ることもないでしょ。もう若くないんだから」
 その思いを雲雀が可愛げない言葉に代えて言えば、ディーノは面白くなさそうに睨んでくる。
「失礼だな、まだピチピチだぜ」
「もう30が来るのに?」
「まだあと2年と8ヶ月もあるっての!」
 そろそろ気になる年頃らしくディーノは細かく訂正してから、ハァと息を吐いた。それから、唐突にポツリと呟く。
「オレ、昔はマフィアのボスになりたくないって、ごねてたんだよな」
「・・・・・・」
 その話なら雲雀も聞いたことがあった。もう20年ほど前の、ディーノがまだ十を過ぎた頃のことだったはずだ。
「・・・突然、何?」
 でもその話題をディーノがどうして今持ち出してきたのだろうと雲雀は首を傾げた。ディーノはすぐには答えず、自分の右と左の、手の平を雲雀に向けてくる。
「左手が、マフィアにならなかったときのオレの手。右手が、マフィアになったオレの手」
「・・・・・・・・・」
 確かに、ディーノの武器を握らない左手は、右手に比べて皮膚がやわらかく綺麗なままだ。
 そんな対照的な手の平を雲雀に向けたまま、ディーノは問い掛けてくる。
「どっちの手が好き?」
「・・・・・・・・・」
 そう問われれば、雲雀の答えは決まっていた。ディーノの手を取り、その硬い皮膚に口付ける。
 やわらかく穏やかなだけのディーノより、同時にしたたかで抜け目ないところを併せ持つこのディーノのほうが、魅力的に決まっていた。
 きっとこれからもディーノは部下の為に命を張るだろう。迷わずそうするディーノこそ、自分の愛する人なのだ、ということも雲雀はもう認め始めていた。
 やっぱりな、と言いたげに微笑み掛けてくるディーノへと手を伸ばす。髪を撫でそのまま引き寄せキスすれば、応えてくるディーノはしかしすぐに離れ、笑顔で言った。
「じゃ、おやすみ」
「・・・・・・・・・」
 そして布団の中に戻っていくディーノを、雲雀は当然追い駆ける。覆いかぶさってキスしていけば、ディーノは目を閉じたまま振り払おうとしてきた。
「やだ、もう眠い」
「ピチピチなんだからいいじゃない、付き合ってよ」
「いや四捨五入すれば30だって」
 アッサリ前言を翻す子供じみたところも、それはそれで魅力的だ。雲雀に引く理由があるはずなく、なおも往生際悪く続けようとするディーノの唇を塞いでいった。