ヒバ→ディノ (修行中)
「あ、ちょっと待った」
互いに武器を構え距離をはかり緊迫した空気の中ではあったが、ふと気付いたら我慢出来なくなって、ディーノはそう声を上げた。
「何」
雲雀は不機嫌そうに睨んでくるが、ディーノは鞭を地面に垂らしながら身を捩る。
「いや、背中に髪の毛が入ったみたいでさ・・・モゾモゾして気持ち悪ぃ」
一度気になりだすと無視することは難しく、戦闘に集中する妨げになりそうだった。そんなことでと益々不機嫌になりそうだが、ディーノが正直に言うと意外な言葉が返ってくる。
「・・・取ってあげようか」
「えっ?」
そんな親切なこと、雲雀がしてくれるとはとても思えずディーノは目を丸くした。しかし雲雀は一旦トンファーをしまって、ディーノに歩み寄ってくる。
この前も背中の傷を確認してくれたし、髪の毛を触ってきたこともあるし、最近は雲雀のほうから近寄ってきてくれるようになってディーノはちょっと嬉しかった。なんとなく、獣をちょっと手懐けれた気分だ。
「じゃ、頼むな」
これも教え子とのいいコミュニケーションになるかもしれないなと思いながらディーノが背中を向けると、雲雀はトレーナーの裾から手を入れてきた。
そして意外に優しい手つきで、探るように背中を撫でてくる。髪の毛を取ってもらうとはいえ、なんだか変なかんじだと今さらディーノは思った。
「・・・あったか?」
「ないね」
雲雀の手がモゾモゾと一通り探ったのを見計らって問い掛けたが、雲雀は簡潔に返して。トレーナーから手を抜いたと思うと、今度はズボンの中に突っ込んできた。
「うおっ!?」
ビックリしてディーノは身を捩ろうとしたが、雲雀がビシッと言ってくる。
「動かないでよ」
「え、いや・・・」
普通動くだろと思いながらも、雲雀は親切心で髪の毛を探してくれようとしているのだから、異議を唱えるのは申し訳ない気もした。
ディーノがつい言われた通りジッとしていると、雲雀はズボンの中で背中と同じようにモゾモゾ手を動かす。
ディーノはさっき以上に何か変なかんじだと、居心地の悪さを覚えた。目的は別にあるとはいえ、やられているのは尻を撫でまわすに近い行為だ。
いやいやそれは雲雀に失礼だ、とディーノは思い直そうとする。しかし逆に、昨日雲雀に下の毛を見せろと言われたことを思い出したりしてしまい、余計微妙な気分になった。
というか、よく考えたらズボンの中に入っていたとしても、別に取ってもらうほど支障はないような。
「・・・きょ・・・っ!?」
もういい、と言おうとしたディーノだが、その前に跳び上がるように雲雀から逃げ出した。雲雀の手が、下着の中にまで入ってこようとしたのだ。
「なっ、なんだ!?」
「探してあげようとしたんじゃない」
距離を取りつつ動揺しながら問い掛けるディーノに、雲雀はいつもの無表情でシレッと答えてくる。その気持ちは、嬉しいが。
「・・・や、そんなとこには入らねーだろ!」
「わからないよ」
「・・・・・・・・・」
そんなわけないだろう、そう言う雲雀のほうがディーノはわからなかった。
「とにかく、もういーぜ。サンキュ」
なんだか雲雀に探してもらうほうがムズムズした気がする。ディーノはもうどこに行ったかわからない髪の毛のことは忘れることにした。
「修行、再開しよーぜ」
気を取り直して雲雀との間合いを計ろうと後退しようとしたディーノは、しかしズルッと足を滑らせる。
「うおっ!」
思いっきり前方に倒れ込んだディーノは、なんだか踏んだり蹴ったりだなと思った。
ハァと溜め息をつきながら起き上がろうとすると、目の前で雲雀が自分に向かって手を差し出してる。
「・・・なんだ?」
首を傾げてから、もしかして手を貸してくれるつもりなんだろうかと、手を伸ばしてみた。掴まると、グイッと力強く引かれる。
そのせいかそれとも体重の掛け方が悪かったのか、立ち上がるはずだったのにディーノは勢い余って、雲雀を巻き込んで逆に倒れてしまった。
「悪ぃ!」
「・・・・・・・・・」
さすがに雲雀は今度はムスッと不機嫌そうに、一人で立って離れていってしまう。
だったらそもそもさっきも放っておけばよかったに、とディーノは自力で立ち上がりながら思った。
だって雲雀は、人に手を貸すような性格ではないし、人に興味を持つようなタイプでもないはずだ。
なのにちょっと前から、自分から近付いてきたり尋ねてきたり触れてきたり、振り返って合わせて考えてみればちょっと妙な気がする。
もしかして本当に懐かれたのだろうか、そうなんだったら嫌なわけではなく、むしろ嬉しかった。だからこそ、雲雀の真意が気になる。
「・・・なあ」
一体どう確かめればいいのかわからないが、ディーノは雲雀に問い掛けようとした。
しかしそこで、ポツリと空から落ちてくる雫に気付く。朝から雲行きは悪かったが、どうやら降り出してしまったようだ。
「ボス、どうする?」
そういえばいつのまにかいなくなっていたロマーリオが、いつのまにか戻ってきて、ディーノに聞いてくる。
雲雀に視線をやれば、向こうもこっちを見ていた。その瞳はただ、まだまだ戦いたいと言っている。
「雨が降ってようと、関係ねーだろ?」
「勿論」
問い掛ければやはり、ハッキリした答えが返ってきた。戦闘に関しては、雲雀は本当にわかり易い。そして今は、戦って戦ってとにかく戦わなければならないとき。余計なことを考えている場合ではないのだ。
「よし、やろうぜ」
ディーノはついさっきまでの思考を振り切って鞭を構えると、次第に強まる雨の中雲雀を見据えた。