LOVE BABY
本拠地の深い森の中。おおっぴらに付き合えない二人のデート場所は、大抵ここに決まっていた。
「・・・クリスさん、オレたちさ、付き合い始めて一週間ちょっとだよね?」
散歩しながら、不意にヒューゴがクリスを見上げて確認した。
「あぁ・・そうだな」
「もう、何度もキスしたよね?」
「・・・あ、あぁ」
突然何を言い出すのだろうと思いながら、クリスは取り敢えず答える。
「そこで聞きたいんだけど・・・」
ヒューゴは、なんてことはない世間話をするように、軽い口調で切り出した。
「クリスさん的にはさ、もうエッチはしてもいいと思う?」
「・・・!!!」
ガンッと、クリスは思い切り頭を木にぶつけた。
「だ、大丈夫?」
「あ、あぁ・・・」
ビックリしてヒューゴが覗き込んできたが、驚いたのはこっちのほうだと、クリスは打った頭を押さえる。
「・・・クリスさんって、意外にそそっかしいよね」
「・・・・・・」
心配半分面白半分、といったかんじでヒューゴが呟く。
確かにそそっかしいことは否定できないが、しかし今のは間違いなくお前のせいだろうと、クリスはヒューゴを軽く睨んだ。
が、ヒューゴはそんなことに気付く様子もなく、話を戻す。
「で、どう? もうしてもいい?」
「・・・・・・お前な」
ヒューゴが開けっぴろげな性格だと知ってはいるが、しかしそれにしてもデリカシーがなさすぎだろう。と言いそうになって、しかしクリスはヒューゴが「デリカシー」という言葉を知っているようにはとても思えなくて、言葉を変えた。
「・・・そんなことを聞くな」
「どうして? 本人に聞くのが一番いいって思ったんだけど」
「・・・・・・。だ、だいたい、お前はまだ十五だろう。子供が、そんな、まだまだ早い」
クリスはどうにかこの話題を終わらせようとするが、しかしヒューゴには全くその気はないようだ。
「まだ15だけど・・・でも、オレだっていつまでも、子供じゃないよ?」
ヒューゴはクリスの正面に立って、手を伸ばした。肩に乗せ首のうしろに回し、クリスを引き寄せ自らも背伸びをし近付く。
「こうしてさ・・・」
ヒューゴは軽くクリスに口付けた。
「キスしたり」
そして今度は、首筋に顔を擦り寄せ、しがみつくように抱きしめる。
「こうしてくっついたりするとさ、いい匂いだなぁとか柔らかいなぁとか思っちゃったりしてさ、なんか堪らない気分になるんだよ? オレだって・・・」
ヒューゴはいつものハキハキした明るい声ではなく、僅かに掠れた低い声を、クリスの耳元に聞かせた。
「男なんだから」
声や接している体が、言葉以上にそれを如実に伝えている。
「・・・ヒューゴ・・・・・・」
クリスは、どうしていいかわからなくなる。今何かを要求されたらあっさり受け入れてしまいそうな、そんな気さえした。
「・・・・・・なんだか」
そんな赤面して硬直してしまったクリスに、ヒューゴは苦笑して、体を離した。
「オレよりずっと、クリスさんのほうが幼く見えるね、こういうとき」
「・・・・・・」
クリスには返す言葉がなかった。ヒューゴが離れて、思わずホッとしてしまったのだから。
が、ヒューゴにはクリスの気持ちをそこまで読み取ることは出来ない。幼く見えることがあっても、やはりヒューゴにとってクリスは、7歳年上の大人なのだ。
「・・・でも・・・やっぱり、今までにも何度かこういうこと、経験してるんだよね?」
その年の差が気にならないことなどなく、ヒューゴはつい尋ねても詮無いことを口にしてしまった。
「そ、それは・・・」
クリスはそのヒューゴの気持ちが、わからなくもない。しかし、大人だというところを見せて少しでも優位に立っていたいと、クリスは思ってしまった。本当のところは、なかったりするのだが。
「・・・まぁ・・・」
だからクリスは、曖昧に肯定した。
するとヒューゴは、心なしか肩を落とす。
「・・・やっぱり・・・だよね」
ガッカリしたように、クリスには見えた。
「・・・・・・嫌なのか?」
嫌だと言われても、実際はなかったわけだが、どうしようもないので困る。
しかし、ヒューゴはクリスが想像したよりもずっとしっかりした声で返した。
「嫌じゃないよ。だって、そういうこととか、いろんなことがあって、今のクリスさんがいるんだから」
わかりきっている、とでも言いたげに、ヒューゴはクリスを見上げる。
「・・・・・・」
まことに勝手だと思いながら、しかし全くに気にならないと言われるのも、それはそれで寂しい気がクリスはした。
「・・・・・・でも」
するとヒューゴは、そんなクリスの感情を読み取ったわけではなく、しかし少し間をおいて拗ねたように視線を彷徨わせる。
「その人がオレの知らないクリスさんを知ってるんだって思うと、やっぱり、・・・嫌だよ」
大人びた物言いから、一転して、子供っぽい口調だった。
なんだかクリスは嬉しくなる。
「・・・なんだよ」
「い、いや」
思わず口の端を緩めたクリスに、子供じみた嫉妬だと笑われたと思ったのか、ヒューゴはしかし益々拗ねるなんてことはなかった。
「・・・いいよ、これからは、見れるのはオレだけだからね」
ヒューゴはもう一度クリスに腕を伸ばした。
そして今度はしっかりと、唇を合わせてくる。
「・・・・・・」
経験があるなんて嘘だ、となんだかもう言いづらくなったクリスは、その代わりといってはなんだが、ヒューゴの背に手を回した。
躊躇いがちではあったが、その動きはヒューゴを確実に景気付かせる。
いつしか、クリスの背は背後の木に触れていた。
「ん・・・ヒュー・・・ゴ」
「・・・クリスさん」
これ以上なく、いい雰囲気だった。
このまま、ヒューゴの手がクリスの服に掛かったとしても、クリスはそれを許してしまったかもしれない。
それほどいい雰囲気・・・だった。
グーと、奇妙な音が密着した二人の間から聞こえるまでは。
「・・・・・・?」
身に覚えのないクリスが首を傾げて見下ろすと、ヒューゴはエヘヘと笑う。
「・・・おなかすいちゃった」
「・・・・・・・・・」
「クリスさん、ごはん食べに行こっか」
余韻も未練もなさそうに、ヒューゴはクリスからパッと離れた。
そして何事もなかったかのように歩き出すヒューゴを、クリスは思わず呆然と見送る。
「・・・・・・・・・」
なんだかんだいって、ヒューゴはまだまだ子供なんだと、クリスは実感した。
「はぁ・・・」
クリスは思わず溜め息を漏らす。
こんな子供に、なんだかいいように振り回されている気がする自分が、少し情けなかった。
「クリスさん、どうしたの?」
「いや・・・」
ヒューゴが振り返って首を傾げ、それから笑顔でクリスを待つ。
だから、クリスもつい笑顔を返して足を動かした。
情けないかもしれないが、それでもそんな自分も悪くないと思っているのだから、ヒューゴよりも自分のほうがよっぽどタチが悪い、クリスはそう思った。
END
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クリス、七つも上なのに、年上の威厳が全くないなぁ…
……ていうか、バカップルめ!(恥)
しかし多分、こういうCPを書くのが一番得意です。…これからも書く!(笑)
捧、みのり様。
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