LOVE HOWL
「できたら、おまえらであいつの魂を救ってやってくれ」
と、謎の捨て台詞を残してアルベルトは退場しようとした。ターゲットレディが手をかざし、アルベルトの足元が金色に光る。
次の瞬間にはアルベルトの姿が消えていたというギリギリのとき。
「ま、待てよ、アルベルト!!」
ダルそうな普段の姿からは想像出来ない素早さで、シーザーはアルベルトに駆け寄った。そして行かせないつもりかガシッとしがみ付いたシーザーは、そのまま転移魔法に巻き込まれてアルベルトと共に消えてしまう。
「・・・・・・・・・」
最終戦の最終局面を前にして、全てを投げ出して消えてしまった軍師を、ヒューゴたちは声もなく見送った。
「・・・うぇ、気持ち悪・・・」
シーザーは思わず地面に手と膝をついた。転移魔法を体験するのは初めてで、慣れない感覚に船酔いに似た気分を覚える。
そんなシーザーに、頭上から呆れを隠さない声が降ってきた。
「・・・軍師たるものが、将を置いてくるとは、何事だシーザー」
その声に、シーザーはハッとすぐ側にアルベルトがいるという状況を思い出す。今さらだがシーザーはすくっと立って平静を装った。
「へっ、おまえがそれ使っておれを返してくれればいいだけだろ?」
「・・・そうか」
シーザーが指差したターゲットレディにアルベルトも目を遣る。そして命令代わりか手を上げようとするので、シーザーは焦る。
「あ、ちょっと待て! その前に話があるんだってば!!」
「こちらにはないが」
「いいから聞けよ!!」
早くも平静を保てなくなっているシーザーを、アルベルトは無表情で見返し、それから上げかけた手を下ろす。
ホッとして、シーザーは改めてなんて言ってやろうかと考えた。
今さらアルベルトがやったことを非難しても意味はない。そもそも一番シーザーが言いたいのは、そんなことではないのだ。
だが、その一番言いたいことを面と向かって言う度胸が、シーザーにはいまいちなかった。
「・・・・・・ないなら帰れ」
「だ、だからあるって!!」
溜め息まじりに言うアルベルトを、シーザーは見上げた。
アルベルトは、その同じ緑色をした瞳で、シーザーを見下ろしている。その視線を受けてシーザーは、どうしても早くなる鼓動を抑えられない。
「・・・お、おれは・・・」
シーザーの手は自然とアルベルトに向かって伸びた。あと少しで、アルベルトに届く。
「おれは・・・おまえ・・・が」
そのとき、不意にアルベルトのすぐ隣が光った。シーザーは思わず数歩後退る。
「負けたよ。人間というのは、なかなか面白い」
現れた男は、帽子をかぶり直しながら言い、それから自分を見上げて目を見開くシーザーに気付く。
「・・・なんだ、こいつは。見覚えがある気もするが」
「気のせいだろう」
少し首を傾げた男に、アルベルトはサクッと答える。
「おいっ!!」
思わずつっこんでから、シーザーは改めて目の前の男、ユーバーを睨むように見上げた。
「ていうか、おまえこそなんだよ! なんでまたこんなやつとつるんでるんだよ!!」
後半はアルベルトに向けて言ったシーザーを、ユーバーは見下ろしてニヤリと笑う。
「お前には、関係ないだろう?」
ユーバーは、アルベルトの肩に馴れ馴れしく腕を回した。
「なっ・・・!!」
自分にはとても出来なさそうなことをアッサリと目の前でされて、シーザーは思わず本音を口にしてしまう。
「こ、こんなやつと一緒にいるくらいなら、おれを連れてけよ!!」
アルベルトが僅かに目を見開いた。が、シーザーはユーバーに気を取られてそれには気付かない。
「頭だけのお前がいて、どうなる? なんの役に立つ?」
「そ、それは・・・っ」
「今だって、俺がこいつを連れ去ろうと思えば容易い。お前にはそれはとめられないだろう? 非力な人間は、黙って見ているしか出来ない」
「そ、それでも・・・!」
畳み掛けるように言うユーバーに、シーザーはよりによって言い合いで負けてたまるかと言い返す。
「だ、だいたい、おまえにアルベルトの何がわかってるっていうんだ!!」
「・・・お前こそ」
するとユーバーは心外そうに肩をすくめる。
「何を知っている? この数年、近くにいたのは俺のほうだ。・・・そうだな」
ユーバーはアルベルトの肩に回していた手を、今度は腰に添え、軽く引き寄せる。
「俺は、こいつが悦ぶところも、知っている」
「・・・・・・!?」
シーザーはその言葉の意味するところを察して目を見開いた。
「・・・ユーバー」
アルベルトが咎めるように溜め息まじりに名を呼ぶ。だが、訂正はしないその態度が、ユーバーの言ったことは事実なのだと知らせていた。
「ア、アルベルト、何やってんだよ!? こんなやつに・・・」
シーザーは全身の血が沸騰するような感覚を覚える。今まで口に出来なかった思いが堰を切ったように溢れだした。
「こんなやつにやらせるくらいなら、おれに・・・おれにさしてくれてもいいだろ!!」
「・・・・・・何を」
心底呆れたようにアルベルトはシーザーを見下ろす。だがシーザーは構わず叫ぶように続けた。
「本気だよ! おれはずっと、本気だった! 昔から、好きだって、おまえのことが好きだって言ってきた!!」
子供の他愛ない言葉だとアルベルトは思っていたかもしれない。それでも、シーザーは幼いなりに、本気で言っていたのだ。
「今だって・・・今だってそれは変わってねぇ! おれはおまえが好きなんだよ!! おまえがおれ以外のやつのものになるんて我慢出来ねぇ!! おれのもんになって欲しいんだよ!!」
シーザーはずっと言えずにいた積年の思いを、全て吐き出した。
「・・・・・・」
そのシーザーの思い詰めたような真摯な眼差しに、アルベルトは思わず言葉を失う。
「・・・おい」
そんな二人の一瞬の静寂を破ったのは、ユーバーだった。
「そろそろだ」
「・・・・・・あぁ、そうだな」
アルベルトはハッとしたように、一度目を閉じ、それからまたいつもの無表情でシーザーを見下ろす。
「お前もそろそろ戻れ。望み通り、送ってやる」
アルベルトは顎をしゃくって、いつのまにかいなくなっているターゲットレディではなくユーバーを促す。
足元が光りだして、シーザーは焦った。
「ち、ちょっと待・・・」
「シーザー」
さえぎるように、アルベルトがシーザーの名を呼ぶ。
そして、微笑んだ。
その自分に向けられた笑顔が、あまりにもきれいで、シーザーは思わず動くこと言葉を発すること、呼吸すらも一瞬忘れてしまう。
「さっきの言葉が本当なら、追ってくればいい。どこまでも・・・・・・捕まえられると思うならな」
アルベルトが言い終わると同時に、シーザーの目の前が揺らいだ。そして異空間を通り、どこかへと投げ出される。
「・・・・・・」
しばらくシーザーは手足を床について、ボーっとしていた。
それから、アルベルトの最後の言葉を反芻し終わり、突如として叫びだす。
「・・・くっそー! おれは絶対に諦めねぇからな!! 追いかけ回してやるよ!!」
シーザーはさっきまで目の前にいた二人に向けたつもりで、虚空に向かって宣言する。
「そんで、いつかおまえをおれのもんにしてやる! あんな化け物なんかに負けねぇからな!!」
シーザーの決意表明は、しかしながらそこに居合わせた人々には負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。
ついさっき見事にルックの野望を挫いたヒューゴたちは、突然戻ってきて何事か喚いているシーザーを、どうしようこの軍師・・・と切なくすらなりながら眺める。
そして、「おまえがハルモニアに味方するならおれはグラスランドに味方する!」とアルベルトに言い放ったシーザーを思い出した。
「・・・・・・・・・」
その場にいた人を代表して、ヒューゴがシーザーに近付く。そして、シーザーの肩をポンと叩いた。
今さらヒューゴたちの存在に気付いたシーザーは、自分に向けられる哀れむような視線を感じ取る。
「な、なんだよ」
「いいやぁ・・・ま、お前も頑張れ、・・・な?」
その同情心たっぷりの妙に優しい眼差しに、さすがにシーザーも非常にいたたまれない気分になる。
「う、うるせぇよ! 言われなくても頑張るっての!!」
そんな捨て台詞を残して、シーザーはそろそろ崩れてしまいそうな遺跡を早足で歩き出した。
「・・・・・・出口、逆だし」
一瞬もう放っておこうかと思いながら、ヒューゴは仕方なしにシーザーを引き戻そうと歩き出す。
こうして一行は、せっかくの勝利の余韻は一体どこにいったのか、妙な気怠さを覚えながら儀式の地をあとにした。
END
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あのターゲットレディはユーバーが戻ってくるまでの繋ぎだった、に一票。(どうでもいい…)
問題は、この兄はシーザーに少しでも気があるのか、という。(なかったら相当酷いな…)
でも、シーザーは報われなくてナンボ、キャラですよね!!(さらに酷!!)
捧、あさかわなつ様。
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