Web拍手01 テーマ「髪」
シザアル (シーザー10歳くらいの頃)
「・・・いいよなぁ」
じっと見つめてきたと思えば、溜め息まじりにそう言う。
アルベルトは、そんな弟に反応を返さず読書を続行した。
しかしシーザーはそれを許さない。
「こういうときは、何が、て聞き返すもんだろ?」
不満顔で口を突き出しながら、シーザーはアルベルトの膝によじ登り、本を押しのけてしまう。
「・・・・・・」
邪魔だとか重いとか、そんなことを言ってものけてくれない弟だということを、アルベルトは残念ながら知っていた。
「・・・何がだ?」
だからアルベルトは、読書に戻るには話に付き合ってさっさと終わらせるのが一番だと、気が進まないながらも問い返す。
するとシーザーはそんなアルベルトの髪の毛を無造作に掴んだ。
「この髪の色さぁ」
思い切り引っ張られアルベルトが思わず顔をしかめると、シーザーは慌てて手を離し、それから今度は優しく撫でる。
「いいよな。なんか、落ち着いてて、ダークなかんじ・・・で?」
言いながら首を捻るシーザーだが、その表情は、とにかくその色が羨ましいのだと伝えていた。
だが自分の髪の色など気にしたことがないアルベルトは、そんなことを言い出すシーザーの気持ちがさっぱりわからない。
「・・・そうか?」
「うん。なんか、かっこいいじゃん!」
眉を寄せるアルベルトに、シーザーはパッと顔を明るくして答えた。
その表情に、アルベルトは思わず目を眇める。
「・・・お前には、似合わないよ」
無意識に、アルベルトはそう口にしていた。
「なんだよそれ」
シーザーがまた口を尖らせて不満そうに見上げてくる。
しかしアルベルトはそれを無視して、シーザーの髪の毛にそっと手を触れさせた。
自分よりもずっと明るく鮮やかな赤髪。
シーザーに、暗い色は似合わない。
「・・・どしたんだ?」
シーザーは自分の頭を撫でながら黙り込んでしまったアルベルトを不思議そうに見た。
しばらくの間そうやって首を傾げていたシーザーは、ふと目を丸くする。
「あ」
みるみる表情を明るくし、嬉しそうにシーザーは笑った。
「ほら、兄貴、目の色! おれのほうが濃い色してる!」
シーザーは大発見でもしたかのように声を上げる。何が嬉しいのかアルベルトにはさっぱり理解出来なかったが、ともかく話を終わらせる方向に持っていけそうだとホッとした。
「そうか、よかったな」
「うん、これでおれと兄貴、おあいこだな!」
それがそんなに嬉しいのか、シーザーは歯茎が見えそうなくらいの笑顔を浮かべる。
そして、もうすっかり満足したようで、アルベルトの膝から降りると軽い足取りで駆けていった。
そのうしろ姿を見送って、アルベルトは読書を再開しようと本を開く。
しかしその指がページをめくることはなかった。
「・・・おあいこ、か」
アルベルトは思わず呟く。
シーザーは気付いていないようだが、アルベルトはよく知っていた。
アルベルトがシーザーに勝てたことなど、一度だってない。
「いつも、お前のほうが・・・」
アルベルトは言いかけて、しかし言葉にしても詮ないと、苦笑に変える。
そして、もう内容をすっかり忘れてしまった本を溜め息と共に閉じた。
幼いシーザー、かわいいです。
とか思いながら書いてると、
うっかりアルがシーザーに甘くなりそうで大変です(笑)
ヒュゲド (バカップルに注意!)
優しく撫でられる感触に、ゲドの意識はゆっくりと覚醒した。
「・・・あ、起こしちゃいました?」
目を開けたゲドに、気付いたヒューゴは済まなそうに言う。
が、その手は髪を撫でるのをとめようとしなかった。
「おはようございます。体、平気ですか?」
「・・・ああ」
気遣っているようなそうでないような顔をゆるませながらのヒューゴの問いに、しかしゲドは手の動きのほうに気をとられておざなりに返した。
するとヒューゴは自らの腕の先に目を移し、梳いては落ちた髪の毛を掬い直す仕草を繰り返す。
「・・・この髪、伸ばしてるんですか?」
「・・・いや・・・ただの不精だ」
どうやらヒューゴはゲドの髪の毛に興味を引かれているようだ。何故なのか、寝起きのゲドはそれを考えるのは面倒で、ただ聞かれるままに返事をした。
「じゃあ、短くする予定もないんですね?」
「・・・今のところは」
ゲドがそう返すと、ヒューゴはホッとしたように笑う。
「そっか、よかった」
「?」
嬉しそうなヒューゴに、ゲドは思わず首を傾げた。
するとヒューゴは笑顔のまま、ゲドの髪の毛にこだわる理由を教える。
「オレ、ゲドさんの髪、好きなんです」
言葉だけでなくそれを証明するかのように、ヒューゴの指はゲドの髪に愛でるように触れる。
「だから、切っちゃうのは勿体ないなって思って」
「・・・・・・そうか」
そんなふうに言われて、しかしどう返していいかわからないゲドは、適当な相槌しか打てなかった。だがヒューゴは気にせず続ける。
「オレ、黒髪ってあんまり見たことなくって。カラヤの人に黒髪っていないし」
ヒューゴの言葉に、確かにそうだった気がするなと、ゲドはまだハッキリしない頭で思った。
「でも、オレ今は」
未だゆっくりと梳いている髪を見ながら、ヒューゴは笑む。
「黒髪が、一番きれいだと思います。・・・ただ単に、ゲドさんが黒髪だからそう思えちゃうだけな気もするんだけどね」
へへっと笑って言ったヒューゴの言葉は、まだぼんやりしているゲドにもハッキリ届く。
このようなヒューゴの開けっ広げな愛情に、ゲドはいつまでたっても慣れなかった。嫌なわけではもちろんなく、それ自体に躊躇を感じるわけでもない。
ただ、向けられる愛情を受け取って嬉しいと思ってしまう自分がいて、それがどうにも気恥ずかしいのだ。
「・・・・・・」
ゲドはそんな自分から逃げるように体の向きを変えた。当然ヒューゴは不思議に思って、うしろから覗き込む。
「あれ、ゲドさんどうしたんですか?」
肩を揺すってみても何も返さないゲドに、ヒューゴは疑問顔を、しかしすぐに笑顔に戻した。
「わかった、ゲドさん、照れてるんでしょ」
「・・・・・・違う」
ずばり言い当てられたゲドは、だがそれを隠しておきたくて否定してみる。が、ヒューゴに通用するはずもなかった。
「だったら、もっと言っても、平気ですよね」
ヒューゴはそう言うと、またゲドの髪を梳き始める。大切なものに触れるように、慈しむように。
「やっぱり、色がきれいですよね。真っ黒で、艶があって。触り心地も、サラサラなんだけどこしもあって、指を抜けてくときなんてすごく気持ちいいし。戦ってるとき・・・特に紋章使うとき、ふわって浮かび上がるのもきれい。それから、お風呂に入ったときなんか、濡れてしっとりした髪が肌に張り付いてるのなんて、もう、すごくいいし。それに、なんといっても」
「・・・・・・やめろ」
うっとりして髪をいじりつつ流れるように語り始めたヒューゴに、ベッドに穴を掘って入りたい気分になりながらゲドは、しかしどうにか気力を振り絞って声を上げた。
そんなゲドに、ヒューゴは勝ち誇ったように笑い掛ける。
「ほら、照れてるんじゃないですか」
「・・・違」
しつこく否定しようとしたゲドの、髪をかき上げこめかみ辺りにヒューゴはキスを落とした。
思わず言葉をとめヒューゴに視線を移したゲドの今度は頬、そして唇のすぐ横に口付ける。
「せっかくだから、最後まで言わせて下さいよ」
ヒューゴは、軽く唇を合わせてから、目を細めて笑った。
「何よりも、黒髪って、白いシーツに映えるんですよね」
真上から見下ろすヒューゴの瞳には、昨夜と同じ熱が見え隠れしている。
「ほら、こんなふうに」
シーツの上に広がった黒髪を、馴染ませるように撫で付けてヒューゴは満足そうに笑った。
いや、満足とはちょっと違う。まだ足りない、もっと満足したい、その顔には正直にそう書いてあった。
「・・・ゲドさん」
ヒューゴは明らかな色を込めて、ゲドの耳元に声を聞かせる。
「その気になっちゃったって言ったら、怒ります?」
「・・・」
怒る、と言おうとしたのかどうなのか、取り敢えず開いたゲドの口を、ヒューゴは素早く塞いだ。
そしてどんどん口付けを深めていくヒューゴに、ゲドは困りきってしまう。
何が困るかというと、本当のところたいして嫌だとも思っていない自分が、である。
ゲドは右腕を持ち上げヒューゴの上にかざし、
この手でヒューゴを引き離そうかそれとも引き寄せようか、真剣に悩んでしまった。
せっかくなので最後までいってるヒゲを書いてみたら、
目も当てられない代物になりましたとさ・・・・・・。
ボルパー (バカップルに注意!)
寝顔を見れるのが恋人の特権なら、寝起きの姿を見れるのも、恋人の特権だろう。
「ふっ」
隣から聞こえてきた堪えきれない笑い声に、朝っぱらから元気なボルスはすぐさま噛み付く。
「また笑ったな、パーシヴァル! しつこいぞ!」
「悪い、つい、な」
悪いと言いつつ、パーシヴァルは笑いが収まらないらしい。
ムッとしながらボルスは、そっぽを向いて整髪にいそしみだした。
普段は緩やかなカーブを描いているボルスの金の巻き毛だが、しかし寝起きはこれでもかというほど複雑に絡み合ってしまうのだ。
「人のコンプレックスを笑うなんて、最低だぞパーシヴァル!」
鏡を見ながら格闘しつつ文句を言ってくるボルスに、逆にパーシヴァルは更なる笑いを誘われる。
「何も、馬鹿にしているわけじゃないさ」
「じゃあ、何故笑う!?」
「それは、お前がかわいいからだよ」
「・・・やっぱりバカにしてるんじゃないか!!」
正に烈火のごとく顔を赤くして憤慨するボルスを、そういう反応を返すところが益々かわいいんだと思いながら、しかしさすがにこれ以上怒らせると面倒なのでパーシヴァルは口を噤んだ。
「でも、お前の髪の毛、俺は好きだよ」
パーシヴァルはゆっくり手を伸ばし、指をボルスの髪に差し込む。くるりと指に巻き付くその髪の毛が、パーシヴァルは本当に好きだった。
思わず振り返ったボルスは、パーシヴァルが穏やかに微笑んでいるのを見て、また顔を背けてしまう。
「な、何言ってるんだ! それより、お前も早くセットしたらどうだ!」
照れているのをごまかすように、ボルスはがしがしと櫛で髪を宥めだす。
いつも真っ直ぐなくせに変なところで突っ張る彼の、まるでその部分を象徴するかのような髪型。だからその髪が愛しいのだと言えば、きっとボルスは益々臍を曲げてしまうだろう。
「・・・そんなに、急ぐ必要もないだろう。今日は久しぶりの休日なんだし。それに・・・」
パーシヴァルはボルスの背後から櫛を持つ手を掴み、首だけで振り返ったその瞳を覗き込んだ。
「まだ、動きたくないんだ。誰かさんのおかげで、体がだるくてね」
ボルスにもわかるように皮肉たっぷりに言ってやると、想像通りに顔を赤くして反論が返ってくる。
「そ、それはっ、お前が煽るから!」
「それじゃあ、お前にその気はなかったんだな?」
「そっ、そういう・・・わけでも・・・」
次第にもごもごと小声になりながら、ボルスは一向に赤みの消えない顔を気まずそうに逸らす。
パーシヴァルはその様子に自然と微笑を誘われながら、体がだるいのは本当なのでベッドに背を預けた。
「だいたい、お前といるときくらい、気を抜いたっていいだろう?」
「そうか?」
ボルスはやっと髪のセットが終わったようで、パーシヴァルを体ごと振り返る。
「す、好きなやつにこそ、普通いいとこしか見せたくないだろう?」
少しの照れを含ませながら、ボルスは訝しげに首を捻った。深く考えないボルスだから、失言してしまったと、指摘されなければ気付かなかっただろう。
が、パーシヴァルがそこを見逃すはずもなかった。
「なるほど、それでいつもうしろを向いて髪を整えているわけか?」
「ち、違っ・・・」
慌てて否定しようとするその様子こそが肯定していると、ボルスは気付いていないのだろう。
「それは、とても光栄だな」
「だから、そうだと言ってないだろう!」
益々顔を赤くして声を荒らげるボルスを、パーシヴァルは笑顔で手招く。
「?」
疑問顔でそれでも素直に近付けたボルスの顔を、パーシヴァルは両手でそっと包んだ。
「まあ、いいじゃないか。お前はいいとこしか見せたくない。俺は、お前にだから、こんなところを見せられる。結局は、同じことだろう?」
緩やかなカーブを描いた唇で笑んだパーシヴァルは、こんなと言う通り、普段のクールに決めて澄ました姿ではない。いつも隙なく立っている髪は、今は重力に従って垂れ下がっていて、ボルスは確かにこんなパーシヴァルをこういった関係になるまでは見たことがなかった。
「ま、まあ、そうだな・・・」
そう思うとなんだか嬉しくなって、しかしそれを知られるのはばつが悪い気がして、ボルスはごまかすように顔を背けようとした。
が、パーシヴァルがそれを見透かせないはずがない。
「納得したようだな。というわけで・・・」
「えっ、ちょっと、おいっ!」
ボルスは慌ててパーシヴァルの手から逃れたが、ときすでに遅く。
せっかく整えたボルスの巻き毛は、見事に鳥の巣に戻ってしまった。
「何するんだ、パーシヴァル!」
情けない声を上げて、ボルスは髪を押さえながら恨みがましくパーシヴァルを見る。
そんなボルスに、上半身を起こしたパーシヴァルは手を伸ばして、また指に金糸を巻きつけた。
「言っただろう? その髪の毛、気に入っているんだ」
「・・・っそ、そんなこと言って、ごまかそうとしてるんだろう!」
もう半分以上怯んでしまいながら、それでもボルスはここで負けてたまるかと突っぱねる。
「まさか、本心だ」
パーシヴァルは心外だと肩をすくめ、それから至近距離で囁くように言った。
「好きだよ、すごく」
「・・・っ」
そして赤くなりながら何事か喚こうとするボルスの口を、パーシヴァルは先手を取って塞いでしまう。
軽く触れるだけですぐ離すと、してやったりと笑ってパーシヴァルはまた上半身を倒した。
つい呆けてしまったボルスは、一瞬遅れでハッと我に返る。
「・・・お、っ前、たち悪いぞっ!!」
「お前にだけ、な」
口を押さえて何度目か顔を赤くするボルスに、パーシヴァルはサラッと返してやった。
するとボルスは、予想通りもっと顔を赤くして、二の句を続けられなくなってしまう。
この男はどこまで顔が赤くなるだろうか気になったパーシヴァルは、言ってやろうかと思った。
そういう反応をするところも好きなんだ、と。
せっかくデキてる二人なんで、パーシヴァルをタメ語にしてみたら、
なんだか微妙な人になってしまいました。
しかし途中の会話がなかったら、パーボルと見紛うかんじですね・・・
ユバアル (シザアル的要素皆無の、ただのユバアルです)
一息ついたアルベルトは、ふと気になって目の前のユーバーを見上げた。ゆっくり上半身を起こしながらユーバーは、さほど気に掛かる様子でもなくその長い髪をかきあげている。
「・・・邪魔ではないのですか?」
「あぁ?」
ユーバーにすれば全く脈絡のない言葉で、一体なんのことなのかわからず首を捻った。そんなユーバーの無造作に垂れ下がった金の毛を一房、アルベルトは手に取り目の前にかざす。
「まさかあなたがわざわざ伸ばしているわけではないのでしょう?」
「別に、切る必要もない」
アルベルトの言葉を肯定しつつ、ユーバーは心底どうでもよさそうに答えた。
だがアルベルトは変わらず、手の内の残虐な悪鬼には似合わない繊細な毛髪を眺める。
「戦うとき、巻き込まれたりはしないのですか?」
「だからいいんだ。適当な長さになるからな・・・」
非戦闘員らしい疑問を口にするアルベルトに律儀に答えてから、ユーバーはもういいだろうと自らの髪の毛を捕らえる手を振り払う。
「だいたい、お前には関係ないだろう」
疎ましそうに言って背を向けるユーバーに、アルベルトはあからさまな溜め息を聞かせた。
「そうであれば、指摘などしません」
そしてアルベルトは懲りずに、すぐ側まで這うように広がるユーバーの髪をまた掴む。
「私が、邪魔なんです。絡み付いてきて、鬱陶しい」
その腹いせのように強く引かれた髪につられてユーバーが振り返った。
「お前の都合なんざ、俺が知るか」
それだけ言うとまたそっぽを向いてしまったユーバーは、しかし少ししてまたうしろに目を遣る。
「・・・何をしている?」
「私のことはどうぞお構いなく」
「・・・・・・」
言われなくてもアルベルトに構うつもりのないユーバーは、だがここでその言い分は間違っているだろうと眉をしかめる。
ユーバーは何か言ってやろうと思ったが、しかしアルベルトの巧みな手つきに思わず口を開くのを忘れて見つめた。
好きな方向に広がっていたユーバーの髪の毛が、アルベルトの手によって一つの房にきれいに纏まっていく。
「ふん、器用なことだな。どこぞの女にでも教えられたか?」
「これくらい、仕方さえ知っていれば誰でも出来ます」
揶揄おうとしたユーバーを軽くかわしながら、アルベルトは最後の仕上げにベッド脇の書卓から書類用の紐を取り巻き付けた。
そしてアルベルトは一度尾の部分を持って目の前にかざしてから、満足したように放り投げる。
「これで、少しは障りなくなるでしょう」
好きなことを言うアルベルトに、しかし自分のほうがもっと勝手だと自覚のあるユーバーはそこを突っ込むことはしなかった。代わりに、仕上がったなんだか自分の髪の毛とは思えないそれを摘みながら、言葉を返す。
「だが、俺はしないからな」
お前がしたいなら好きにすればいいと、どうやら意外にもこの髪型が気に入ったらしいユーバーは、言外にそう滲ませた。
それ受けて、アルベルトは溜め息を返す。
「私はあなたの世話人になった覚えはないのですがね」
嫌味を隠さず含めたアルベルトは、つまりそれが本心ではないのだろう。だから、お前が勝手に世話を焼いているんだろうと返そうとしたユーバーは、セリフを変えた。
「だったら、何になった覚えならある?」
目を細め、口を歪めてユーバーは愉快そうに問う。
アルベルトはそのオッドアイを臆することなく見返して、同じように唇の端を上げた。
「聞きたいですか?」
「はっ、いいさ。そんなのはどうでもいいことだ」
自分で振った話題なのに、それよりもとユーバーはあっさり話を転換する。
「お前こそ、邪魔じゃないのか?」
ユーバーは、アルベルトの前髪を無造作にかきあげた。そして普段は隠れ気味の左目に笑い掛ける。
「俺が切ってやろうか? 手元が狂っても文句は言わせんがな」
くくっと喉を鳴らすユーバーの手を、アルベルトは掴んで髪から離した。
「それこそ、余計なお世話ですよ」
「それじゃあ、お互い様ってところか」
おとなしく腕をとられたままユーバーが言うので、アルベルトは思わず呆れる。
「どこがですか・・・」
人外の考えることはわからないとアルベルトが目を伏せるのを見計らって、ユーバーは右腕の自由を取り戻した。
そして、その手でアルベルトの喉元を掴んでそのまま遠慮なくうしろに倒す。
「もう、気掛かりはないんだろう?」
圧し掛かりながらユーバーは、一本の束になった自らの髪をちらりと見た。視界を覆わんばかりだった金糸は、今は僅かにだけその存在を主張しながらユーバーの背を這い垂れ下がっている。
「そうですね、悪くないですよ」
アルベルトはいつもと違って難なく背中に手を回しながら、笑んでユーバーを見上げた。
そういうわけでユーバーはIIIでだけ髪を束ねているのです、という話。
そして、ユバアルでも充分バカップルに出来る、という話・・・。
愛はなさそうだけどね。
ヒュ→ゲド (自覚してるけど告白はまだ、なかんじのヒューゴ)
見られている、気がする。
それに気付いたヒューゴは、ちょっとうろたえた。
別にその辺の人に視線を送られたって、なんでもない。ただ、その相手が自分の想い人なら、話は別だろう。
ヒューゴはこそっとその視線の主を窺った。
テーブルの斜め前に座っているゲドは、本日のオススメ料理「ビックリ煮」をゆっくり口に運んでいる。隣で頻りに話し掛けているエースにちゃんと耳を傾けているのかどうなのか、その視線はやはりしばしばヒューゴに向けられていた。
好きな人に気にしてもらえるのは嬉しいが、それはいい意味とは限らないと、カラヤ風焼き鳥にかぶり付いたヒューゴは気付く。
「あ、あの、なんか付いてますか?」
口周りを手のひらで拭いながら、ヒューゴはゲドに聞いてみた。
「・・・いや」
思わぬ質問だったのか、ゲドは少し面食らったように、それでも見たままを答える。
「ほんとですか? ・・・でも、さっきから、オレの顔見てません?」
「ああ・・・いや別に」
今度はゲドは思い当たったのか、しかし答えを濁して口を閉ざした。当然ヒューゴはなんなのか気になる。
「別にって?」
「別にいいだろが、そんなこと」
更に聞いたヒューゴに、しかし横から自分の話を中断されたエースが割って入った。
「だいたい、オレと大将がせっかく一緒に昼食してたってのに、ひょっこりやってきて図々しく居座りやがって。その上、自分のこと見てたんじゃないかって、自意識過剰じゃないか?」
「うっ」
ヒューゴの気持ちを知っているエースがライバル心剥き出しで大人気なく牽制してくる。確かにゲドの姿を見付けたヒューゴはいいと言われるのを待たずこの席に座ってしまったので、反論しようにもなんと言っていいかわからなかった。
「・・・エース」
しかし、ちょっと俯いてしまったヒューゴを気の毒に思ったのか、ゲドが咎めるようにエースの名を呼ぶ。
「・・・・・・」
「・・・た、大将、本気で言ってるわけじゃないですって!」
ゲドは具体的に責めはしなかったが、無言の視線だけでエースには充分効いたようだ。エースは焦って手を振りながら、ヒューゴにもへらっと笑ってみせたりした。
「・・・ただ」
そんなエースから視線を外したゲドは、代わって埋め合わせをするつもりなのか、今度はヒューゴのほうを見て口を開く。
「・・・変わった髪だと思ってな」
「え、オレの髪がですか?」
そんな理由で見つめられていたのかと、ヒューゴは思わず髪を摘んで首を傾げる。もう十五年も付き合ってきた髪の毛を見たところで、一体どこがどう変わってるかなどヒューゴにはわからなかった。
が、エースもゲドの意見に得心がいくようだ。
「確かにな、それ、どうなってんだ? その毛先」
「毛先?」
ヒューゴは金髪の中でそこだけ黒い毛先を見て、そういえばこんなふうになっている人を他に見たことがないなぁと気付いた。
「髪切っても、すぐに黒くなんのか?」
「ええ、どうだったっけな・・・」
今まで意識したことなかったのでそんなこと聞かれても答えられず、しかしせっかくゲドが興味を持ってくれたようなのでヒューゴはなんとか話題を継ごうとその材料を探す。
「えっと、オレの父さんが黒髪だったらしくて、こうなったみたいだけど・・・」
しかしほとんど覚えていない父親を話題に出したところで会話は広がらず、普段から自分の髪に疑問を持っておくんだったとヒューゴはよくわからない後悔をした。
「・・・でも、やっぱりそんなに変じゃないと思うけど・・・だって・・・」
慣れ親しんだ髪の毛を今更変だとも思えず、ヒューゴはつい口にしようとした。ルルだっててっぺんだけが赤い髪だった、しかしその言葉はヒューゴの口からは出てこない。気軽に口に出来るほど、まだヒューゴは彼の死を吹っ切れてはいなかったのだ。
突然口を閉ざしたヒューゴを、人生経験豊富な二人は何かしらを感じ取って追及しようとはしない。
そして場の空気を変えようとしたのかゲドのとった行動に、しかしヒューゴは逆にどうしていいかわからなくなった。
食事をとる為に素手になっているゲドの指が、ヒューゴの髪に触れたのだ。
ゲドの指はそのまま、色の変わり目の質感を確かめるように動く。
覗き込むようにしてそんなことをされ、ヒューゴは完全に身動きが取れなくなった。驚きなのか緊張なのか嬉しさなのか、むしろその全てなのだろう。
好きな相手とのこのような接触で単純に喜んだりチャンスだと思ったりするにはヒューゴはまだ経験が足りなかった。
しかし、
「た、大将、突然そんなことして、ボウズが驚いて固まってしまってますぜ!」
思わずあんぐり口を開けて見ていたエースが、我に返って冗談めかしつつ真剣に阻止しようとする。
するとゲドはあっさり手を離した。
「・・・そうだな、悪い」
「い、いえ、悪くなんてっ」
どうしていいかわからなかったものの、離れてしまえば惜しいとしか思えず、それでもどうぞ触って下さいとは言えなくてヒューゴは曖昧に首を振るしかなかった。
そして上手くいってしめたとほくそ笑むエースは立ち上がりながらゲドを促す。
「さ、大将、そろそろ時間ですぜ」
「・・・ああ、そうだな」
何か用事があるらしく、ゲドはエースに続いて席を立った。
「あ、あの」
去ろうとするゲドにヒューゴは何か言いたくて、しかし何を言って言いかわからず口をもたつかせる。
そんなヒューゴを、ゲドは見下ろして、声を掛けた。
「・・・付き合ってやれなくて悪い。また、な」
途中退席することを申し訳なく思ってかそう言うゲドに、もちろんヒューゴは嬉しくなる。
「はいっ、またお願いします!」
出来れば今度は二人っきりで、とは言えずにそれでも笑顔で返したヒューゴにゲドは頷いた。
そしてレストランを出ていくうしろ姿を、ヒューゴは思わずじっと見送る。
その手は自然と、ゲドの指が触れた髪の毛に伸びた。
「・・・なんか、変なの」
ここにゲドの指があったと思うだけで、見慣れた何の変哲もないはずの髪の毛がなんだか特別に見えてくる。
この髪の色よりも、こんな接触でひどく落ち着かなくなることのほうがもっと不思議だと、ヒューゴは思った。
相変わらずいい目見れないエース、ごめん。
ところで本当に、ヒューゴの髪色、謎ですよね・・・。
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